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第22章 軍神の治める地では
第1011話 謎の寺院跡に秘められたものは
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ひび割れた寺院の壁面に大きく『神なる皇帝』の紋章が刻まれていると言う事は、あれはウルバヌスの寺院の跡か?
紛れもなく廃墟と化しているが、遠目にも規模は結構なものだ。まあ白馬領のケルマル寺院ほどではないが、最盛期にはかなりの信徒がいたのは間違い無い。
しかしそれにも疑問があるな。
この地域ではウルバヌスはいろいろな形でかなり広く信仰されているはず。
従軍したところにあった記念碑程度ならともかく、大規模な寺院が埋もれてしまっているものなのだろうか?
しかも比較的、人通りの少ない閑道を通っているとは言え、首都からもそれほど離れていないのだ。
これは何かありそうな空気がひしひしと感じられる。
「クロンはあそこの廃墟について何か知っているのですか?」
もちろん王子だったら、むしろ廃墟と化した寺院なんて知らなくても不思議では無いのだが、他に頼る相手などいないのだから仕方ない。
「話には聞いた事があるのですが、かつてはこの地域は我が国のヒクソス王国がまだ小国だった頃、非常時に立てこもる準備を整えていたそうなのです」
「そこでどうなったのですか?」
「そして一時期、戦乱で陥落してこの地域も焼き払われたと聞いています」
え? それではヒクソス王国は過去にも滅亡寸前までいったことがあるの?
「もちろんその後、偉大なる皇帝ウルバヌスの救援を得て、我が国は再建されました。だから今でも我が国はウルバヌス神を崇めているのです」
ううむ。理屈としては分かるけど、寺院が再建されていないのはどういうことだろうか?
首都に急ぐべきなのかもしれないけど、ここは少しばかり寄り道を許してもらおう。
「少しばかりあそこを調べさせてもらったいいですか?」
「それは構いませんが……あのようなところに足を踏みいれるのは危険ではないでしょうか、もちろんアルタシャ様が行かれると言うなら、私も従いますよ」
確かにこの世界の寺院跡には、いろいろとロクでもない精霊が巣くっていたり、かつてそこの大司祭だった亡霊が居座っていたりでいい思い出はないのだが、それでも何かが心に引っかかるのだ。
もちろんウルバヌスの寺院跡だからといって、巨大なゴーレムが封印されていて、それがこちらの呼びかけに応じて起動し、一発逆転の超兵器となってくれるような都合のいい展開はあり得ないが、状況を打開するきっかけにはなるかもしれない。
オレの場合、普通の人間であれば何もないところでも、精霊の類いがいれば興味をそそられて寄ってくる事も多い。
もちろんそれが友好的な相手とは限らないが、接触すれば何かの手がかりが得られる事も多いのだ。
そんな一縷の望みを胸に、廃墟となった寺院跡に足を踏みいれることにした。
少なくとも遠目に見た限りでは、魔法を見る『魔法眼』や『霊視』にも反応はない。
まあ目に見える程の力を放っていたら、普通は廃墟になどなっていないからな。
ただ先ほど見た『ウルバヌスの紋章』に近づき、改めて確認すると細かいところはかなり大ざっぱでお世辞にも丁寧な仕事とは言えない気がする。
寺院が破壊された時のダメージだろうか? それとも破壊された後で誰かが改めて粗雑な技術で彫り込んだのか。
いや。別のもっとおぞましい可能性もいろいろあり得る。
ただオレの場合、全く自慢にならないのだが、いろいろ予想しても当たる事は滅多に無いどころか、大外れして振り回される方が多いので、あれこれと考えるのは辞めにしよう。
それに大規模な寺院が廃墟になっていると言う事は、大規模な戦いで破壊され、そこに立てこもっていた住民が皆殺しになり、その怨霊が渦巻いている事は珍しくない。
もっともそんな古い怨霊は殆どの場合、人間を呪い殺すような力などなく、せいぜい近寄った人間に嫌悪感を与えて、祟りを恐れた地元の人間が避けるようになる程度だ。
そんな相手はオレにとっても脅威にはならないが何にでも例外はあって、たまに強大な存在が居座っていたりするので面倒なのだ。
そんなわけで警戒しつつ周囲を見回すと、どうも意図的に建物が破壊され、何かの痕跡を消しさろうとしているような、そんな雰囲気が感じられる。
そうするともともとここはウルバヌスの寺院ではなかったのを、滅びた後で残った神殿の壁にわざわざ紋章だけ大きく刻み込んだのだろうか?
ますますもって不可解だな。これまたいつもの事だがややこしい事情が背後にありそうな気がするぞ。
そう思って先に進むと、崩れた廃墟の中から何かの霊体が立ち上ってくる。
もしかしたらここの守護精霊か何かだろうか?
残念ながらオレの場合、有する霊力が尋常では無いので、霊体の力は殆どが『自分より弱い』としか知覚できない。
このためたわいのない雑魚精霊なのか、町の神のような小神クラスなのかもそうそう判別出来ないのだ。
しかしそこで姿を現した相手を見て、オレは少しばかり驚いた。
それは少し前に接触した『神なる皇帝ウルバヌス』――だと一瞬、見紛うほど似ていたが、よくよく見ると細かいところがいろいろと違っていたからだ。
紛れもなく廃墟と化しているが、遠目にも規模は結構なものだ。まあ白馬領のケルマル寺院ほどではないが、最盛期にはかなりの信徒がいたのは間違い無い。
しかしそれにも疑問があるな。
この地域ではウルバヌスはいろいろな形でかなり広く信仰されているはず。
従軍したところにあった記念碑程度ならともかく、大規模な寺院が埋もれてしまっているものなのだろうか?
しかも比較的、人通りの少ない閑道を通っているとは言え、首都からもそれほど離れていないのだ。
これは何かありそうな空気がひしひしと感じられる。
「クロンはあそこの廃墟について何か知っているのですか?」
もちろん王子だったら、むしろ廃墟と化した寺院なんて知らなくても不思議では無いのだが、他に頼る相手などいないのだから仕方ない。
「話には聞いた事があるのですが、かつてはこの地域は我が国のヒクソス王国がまだ小国だった頃、非常時に立てこもる準備を整えていたそうなのです」
「そこでどうなったのですか?」
「そして一時期、戦乱で陥落してこの地域も焼き払われたと聞いています」
え? それではヒクソス王国は過去にも滅亡寸前までいったことがあるの?
「もちろんその後、偉大なる皇帝ウルバヌスの救援を得て、我が国は再建されました。だから今でも我が国はウルバヌス神を崇めているのです」
ううむ。理屈としては分かるけど、寺院が再建されていないのはどういうことだろうか?
首都に急ぐべきなのかもしれないけど、ここは少しばかり寄り道を許してもらおう。
「少しばかりあそこを調べさせてもらったいいですか?」
「それは構いませんが……あのようなところに足を踏みいれるのは危険ではないでしょうか、もちろんアルタシャ様が行かれると言うなら、私も従いますよ」
確かにこの世界の寺院跡には、いろいろとロクでもない精霊が巣くっていたり、かつてそこの大司祭だった亡霊が居座っていたりでいい思い出はないのだが、それでも何かが心に引っかかるのだ。
もちろんウルバヌスの寺院跡だからといって、巨大なゴーレムが封印されていて、それがこちらの呼びかけに応じて起動し、一発逆転の超兵器となってくれるような都合のいい展開はあり得ないが、状況を打開するきっかけにはなるかもしれない。
オレの場合、普通の人間であれば何もないところでも、精霊の類いがいれば興味をそそられて寄ってくる事も多い。
もちろんそれが友好的な相手とは限らないが、接触すれば何かの手がかりが得られる事も多いのだ。
そんな一縷の望みを胸に、廃墟となった寺院跡に足を踏みいれることにした。
少なくとも遠目に見た限りでは、魔法を見る『魔法眼』や『霊視』にも反応はない。
まあ目に見える程の力を放っていたら、普通は廃墟になどなっていないからな。
ただ先ほど見た『ウルバヌスの紋章』に近づき、改めて確認すると細かいところはかなり大ざっぱでお世辞にも丁寧な仕事とは言えない気がする。
寺院が破壊された時のダメージだろうか? それとも破壊された後で誰かが改めて粗雑な技術で彫り込んだのか。
いや。別のもっとおぞましい可能性もいろいろあり得る。
ただオレの場合、全く自慢にならないのだが、いろいろ予想しても当たる事は滅多に無いどころか、大外れして振り回される方が多いので、あれこれと考えるのは辞めにしよう。
それに大規模な寺院が廃墟になっていると言う事は、大規模な戦いで破壊され、そこに立てこもっていた住民が皆殺しになり、その怨霊が渦巻いている事は珍しくない。
もっともそんな古い怨霊は殆どの場合、人間を呪い殺すような力などなく、せいぜい近寄った人間に嫌悪感を与えて、祟りを恐れた地元の人間が避けるようになる程度だ。
そんな相手はオレにとっても脅威にはならないが何にでも例外はあって、たまに強大な存在が居座っていたりするので面倒なのだ。
そんなわけで警戒しつつ周囲を見回すと、どうも意図的に建物が破壊され、何かの痕跡を消しさろうとしているような、そんな雰囲気が感じられる。
そうするともともとここはウルバヌスの寺院ではなかったのを、滅びた後で残った神殿の壁にわざわざ紋章だけ大きく刻み込んだのだろうか?
ますますもって不可解だな。これまたいつもの事だがややこしい事情が背後にありそうな気がするぞ。
そう思って先に進むと、崩れた廃墟の中から何かの霊体が立ち上ってくる。
もしかしたらここの守護精霊か何かだろうか?
残念ながらオレの場合、有する霊力が尋常では無いので、霊体の力は殆どが『自分より弱い』としか知覚できない。
このためたわいのない雑魚精霊なのか、町の神のような小神クラスなのかもそうそう判別出来ないのだ。
しかしそこで姿を現した相手を見て、オレは少しばかり驚いた。
それは少し前に接触した『神なる皇帝ウルバヌス』――だと一瞬、見紛うほど似ていたが、よくよく見ると細かいところがいろいろと違っていたからだ。
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