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第22章 軍神の治める地では

第1010話 旅の終わりに?

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 ゴーレムが機能停止したところで、動揺して怯んでいる様子のニランザル配下の兵士たちだが、改めて見るとかなり疲労の色が濃いようだ。
 考えてみると彼らは数日旅をして白馬領に来て早々、いろいろあってろくに休む間もなく追い出され、それからオレとクロンを追ってここまで強行軍をしてきたわけだ。
 肉体的には既に疲労の極にあったかもしれない。
 それでも手柄さえ立てれば、という意識でその身を奮い起こしていたのが、目の前で頼りのゴーレムが機能を停止したので一気に戦意を失ったらしい。
 人間は目標が手に届くかと思っていれば、その身に鞭打って頑張る事は出来るが、そこで希望が打ち砕かれたら、大抵はそこで精神が折れてしまう。
 今の連中はその状態に陥ったようだ。
 兵士たちはみるみるうちに数を減らし、そのまま消えていく。オレへの復讐と手柄を煽っていたニランザルもまた形勢不利を察して一緒に逃げたらしい。

「おお! さすがは高名なアルタシャ様です!」
「あの程度の奴らなど敵ではありませんな!」

 こちらの兵士達は喜んでいるが、逃げた連中は間違い無くエシュミール軍の本体に連絡を入れるだろう。
 そうするとこれから先にはもっと強力な相手が襲ってくる可能性がある。
 とても喜んではいられないが、今は負傷した兵士達の治療が優先だ。
 そしてしばしの後、兵士達全員の傷が癒えたところで、クロンがやってくる。

「ありがとうございます。いつもアルタシャ様には助けていただいてばかりです」
「クロン王子も助けてくれましたから、おあいこですよ」
「そう言っていただけると少しは助かります」

 クロンはホッとした様子だが、正直に言って現状は決して安心出来るものではない。
 この先、間違い無くエシュミール軍が待ち受けているだろう。連中には大型のゴーレムはもちろん白馬領でオレを襲ったような、小型の暗殺用ゴーレムもあるだろうし、他にもいろいろな脅威が待っているのは確実だ。
 ここでオレは隊長のアクタスに話しかける。

「ここから首都まではせいぜい二日の道ですよね」
「その通りですが、どうかされましたか?」
「すみませんが、ここから先はわたしとクロン王子の二人で進もうと思います」
「な? なぜですか?」

 アクタスはかなり不満そうだ。もちろんクロンの捜索を命じられている筈だから、当然の反応というべきだ。

「我らは命をかけてでもお二人を守る所存です。それは先ほどの戦いを見て下さればお分かりでしょう」
「待て。そなたの言う事も分かるが、アルタシャ様は人数が多ければ目立ってしまい、かえってエシュミール軍の待ち伏せを受けると心配しておられるのだ」

 ここでクロンが助け船を出してくれた。

「お言葉ではありますが――」
「もちろん国王陛下には、そなたの功績は伝えておく。だから今は引いてくれぬか」
「分かりました」

 アクタスはもちろん兵士達にもここで少しは安堵の空気が流れる。
 つい先ほどゴーレムの襲撃を受けたばかりだからな。彼らも手柄は欲しいだろうけど、命は惜しくて当たり前だ。
 そんなわけで結構、あっさりとアクタスや兵士達は去って行く。

「同行できないのは残念ですが、お二方の邪魔はしませんよ」

 おい。あんたら何か重大な勘違いをしていないか?
 これまたいつもの事だが、これでオレとクロンとの関係について無責任な噂が広まってしまいそうだな。
 まあいい。護衛の兵士が大勢ついていたら、クロンを首都まで送り届けた後、別れるのもいろいろ面倒だから、二人だけならどうにかなるだろう。
 そんなわけでオレとクロンの二人で改めて先に向かう事になるが、ここでクロンは頭を下げてくる。

「すみません。本来ならばアルタシャ様一人で好きに行動すればいいだけなのに、この私との約束のために……」
「そんなことを言っていたら『クロン』らしくないですよ」

 オレはここであえて王子だと分かる前のように呼び捨てにした。

「え? どういう事ですか?」
「前のあなたはもっと向こう見ずで、後先も自分の身の安全も考えずに暴走する人だったでしょう?」
「アルタシャ様はずっと私の事をそんな風に思っていたんですか……いえ。その通りなのですけど……」

 ううむ。クロンにも気安く『アル』と呼んで欲しかった――別に恋愛的な意味は無い――ところだがやっぱり王子だから、そうそう軽くはなれないか。

「とにかく急いで行きましょう。先ほどの話からすれば、首都にはもうエシュミール軍が迫っているのですよね」

 そんなわけでオレとクロンは再び二人の旅となった。
 クロンもオレもいろいろと複雑な感情がこもっていたが、あえて人通りの少ないところを進むのは同じである。
 それからしばらくは何事もなく短い旅は続く。

「この山を越えたら首都の城壁が見えてくる筈です」
「それでは早く――」

 ようやくこの面倒な旅も終わるかと思ったとき、その山の麓に崩れかけた寺院の残骸が目に入った。
 そしてそこにあった紋章は――紛れもなく『神なる皇帝ウルバヌス』のものだったのだ。
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