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姫君のひみつ 五

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 彩姫の魔法修行は、ある時突然、何の前触れもなく終わることとなりました。

 彩姫は十五歳。

 いつもと同じように貧租の国にカラカラに乾いた風の吹く、お昼前のことでした。

「おばあさまが、亡くなった……」

 彩姫の大きな瞳にはみるみるうちに涙が溢れて。
 
 ポロンと大粒の涙がこぼれ落ちました。

 なのに。

 女王は冷たく言い放つのです。

「いいえ、おばあさまは、もともと死んでいらしたのよ」
 
「お母さま……」

 そんなことはありません。
 おばあさまは、キチンとあそこに居らした。
 国を愛していらした。
 お母さまを愛していらした。
 孫である私を愛していらした。
 そして何より、自分自身を愛していらした。

 彩姫はそう言いたかったけれど、言葉に出したかったけれど、それをすることはできませんでした。

「あそこに居たのは亡霊です。亡霊なのです」

「お母さま……」

 母の横顔に深い苛立ちと、深い絶望、深い愛。

 その深すぎるゆえの冷酷を見たからです。

「もう、お忘れなさい。姫よ。魔法を操ることなどお忘れなさい」

「えっ……」

「あの母から……あの亡霊から……学ぶことなど何もありません。何もありはしないのです」

「お母さま……」

「姫よ、最初から居なかったと思いなさい」

「お父さままで」

「それでいいのです。それでいいのです。この国は、それでいいのです」

 女王は、まるで自分に言い聞かせるように呟くのです。

 その姿を見た彩姫は、何も言えなくなってしまったのでした。

 それでも。

 彩姫は、祖母の姿に自分を重ねていらっしゃいました。

 もう、五歳の頃とは違うのです。

 十五歳の彩姫は、思慮深さも兼ね備えた一人の女性でございます。

 恋も知った、十五歳の女性でございます。

 自分を活かすも殺すも動き方ひとつで決まることを、ご存じなのでございます。

 おばあさまのようには、ならない。お母さまのようにも、ならない。

 彩姫は、そう心に誓ったのでありました。
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