そんなに妹がお好きなら結婚したらどうですか? ほか短編・中編ファンタジー系まとめてみたよ短編集

天田れおぽん

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【中編 三万七千文字くらい】お伽噺の薔薇迷宮 愛とはどんなモノかしら?

薔薇のなか

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 ―― 何が起こったのしら ――

 ロザリーは目眩が治まると、恐る恐るそっと目を開けた。すると……。

「お姉さま?」

  ロザリーは目を見張った。目の前にリディアーヌその人が立っていたからだ。

「お姉さま。探していましたのよ」

 一歩前に出て、リディアーヌへと手を伸ばす。しかし、リディアーヌの反応はない。

 駆け寄って彼女の白い手を包み、ロザリーは思わず声を上げる。

「冷たいっ」

 ロザリーは自分も凍えてしまったかのように思わず身を固くした。

「こんなに冷えてしまって……どうしたのです?」

 ロザリーは呼び掛けてみたが、リディアーヌは目を開けて正面を見ているというのに全く反応がない。
 
「お姉さま?…… リディアーヌお姉さま?」

 ロザリーは不安と苛立ちを表情に滲ませながら、リディアーヌの顔を覗き込み問いかける。

 凍ったように表情を変えないまま、彼女の唇か動いた。

「あなたが、来てくれたのですね」

 嬉しそうな声。聞きたくて、聞きたくて、仕方なかったハズの声なのに。

 その声を聞いた途端、なぜか全身が震えた。

 強烈な違和感。なぜなのか。

 ロザリーはアーサーの姿を求めて振り返る。しかし、そこに彼の姿はなかった。

「なぜ?」

 いつの間にか、薔薇は背後に咲き乱れている。

 屋敷が見えない。アーサーの姿どころか屋敷すら見えない。屋敷はどこへ消えたのか。

 いつの間にか消えて、周囲の全ては薔薇の花。ここにはロザリーとリディアーヌしかいない。

 ロザリーはブルリと震えるとリディアーヌに問うた。

「……ここはどこですか?」

 愛しい人の手を握り、呆然としてロザリーは問う。

「さあ? ……私にはわかりませんわ」

 リディアーヌは微笑む。いつもよりも。知っている顔よりも。色香が増した笑顔が目前にある。

 ひどく熟れた女性の妖艶な笑み。

 クラリと眩暈を覚えるような魅惑的な笑みを浮かべた見知った顔が、意外な言葉を紡ぐ。

「あなたの、お名前は?」

 ロザリーは面食らった。

「ロザリーですわ、お姉さま。お姉さまは、私のことをご存じのはずでしょう⁈」

「あら、そうだったかしら?」

 リディアーヌは小首を傾げた。その細く美しい白いうなじには、小さな傷痕があった。

「それよりも。ねぇ、ロザリー。この花の美しさに見惚れてくださらなくては嫌よ。この庭にあるものは全て、私が愛しているものですから」

 可憐でありながら妖艶な笑み。それは、ロザリーが今までに見たことのないリディアーヌの表情だった。

 そして、小さな傷痕からは、小さな小さな芽が出ていた。緑色した、小さな芽が。

「お姉さま……」

 ―― これは、お姉さまでない? いえ、これこそがお姉さま? ――

 ロザリーは混乱した。

 彼女が知るリディアーヌは、純白の乙女であるリディアーヌだ。

 目の前には、恋も愛も知っている妖艶な一人の女性であるリディアーヌがいた。

 どちらもリディアーヌその人であり、とても魅力的であった。

 金の瞳が妖しく光りながらコチラを見ている。

(お姉さま……)

 ロザリーは身を滅ぼしても良いと感じるほどには、惹きつけられた。

 それと同じだけ、恐れる気持ちが湧いた。

 リディアーヌが一歩、こちらに近付く。ロザリーは一歩、後ずさった。

「なぜ逃げるの?」

「……わからない、けど……」

 ロザリーは混乱していた。そして恐怖を覚えていた。

 リディアーヌは、ロザリーの戸惑いと恐怖すら愛しい、とでも言いたげな表情を浮かべてコチラを見ている。

 その瞳が金色から揺らいで緑へ、そして青へと変わっていく。

「ロザリー、思い出したわ。そうよ。あなたは、私の可愛い人。あなたは、私だけのものだわ。誰にも渡さない」

 リディアーヌの顔をした彼女は言うが早いか、ロザリーを引き寄せ抱きしめる。そして、ロザリーの唇を奪ったのだった。

 ―― お姉さま。なんて大胆な。でも、お姉さまらしくない。ああ、でも。なんて魅力的な ――

 冷たく柔らかな感触が唇を通して伝わってくる。

 ロザリーの心が乱れ、足元がグラグラと揺らぐ。

 リディアーヌの目が驚きに見開かれて、金色に変わる。

 怯えるように唇を離すリディアーヌ。

 ロザリーに、その理由を知る術はない。

(ああ、お姉さま。離れたくない。お姉さま――)

 いつの間にか心を満たしていた欲望をリディアーヌへと伝えることも叶わぬままロザリーの意識は遠のき。

 体は全ての力を失っていった。
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