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『パティスリー・セリナ』開店日

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 エマさんが帰った後、改めてケーキの入っているショーケースを見つめるが、残念ながらケーキが減っている様子は無い。どうやら、私が外出していた間にお客さんが来店してケーキを買った痕跡は無いようだ。

 まぁ、前評判の高いチェーン店なら開店前から地域住民の期待が高くて行列ができたりするんだろうけど、何の実績もない人間が新店舗をオープンしたからといって、朝から客が殺到するほど世の中は甘くないのだろう。

 この世界の人たちにだって仕事だったり、家事だったり、やらなければいけない事がたくさんある訳で、そんな中で無名の店まで足を運んでもらう気にさせるというのは、ハードルが高いのかもしれない。そんなことを考えていたら、店の外から中の様子をうかがっていた妙齢の主婦らしき女性が店に入ってきた。

「いらっしゃいませ~」

 にこやかな笑顔の双子と共に、私も来客者に微笑みかける。細身の女性客はショーケースに並ぶケーキと共に置かれている値札を一瞥して顔をしかめた。

「高いわね……」

「えっ」

「こんなに高いんじゃあ、いらないわ」

 そう言い捨てると、冷淡な目をした妙齢の女性は何も買わずに店から出て行った。

「高いかしら……。これでも、せいいっぱい良心的な価格設定にしたつもりなんだけど」

「セリナ様……」


 私だって極力、安価で商品を提供したいという気持ちはある。しかし、この店舗にも家賃がかかっているし、メイド二人に支払う賃金のことも考えれば、簡単に商品を安くできる物では無いのだ。
 
 確かに普通に安いパン一個を買うより、値段が数倍という価格だから、そういう面では高いと言われても仕方ない。しかし、その分、砂糖や旬の果物、クリームをふんだんに使って、一つ一つその日のうちに手作りで丁寧に作っている。

 しかも、この世界では嗜好品として、それなりの値段である砂糖をふんだんに使用している割には庶民にも出せる範囲の価格設定にしたのだが……。肩を落とす私を見た双子は、慌てた様子で顔を横に振る。

「わ、私は高いとは思いません!」

「食べてみれば、納得するはずですよ!」

 必死に私を励ましてくれる双子に力無く笑い返すと、再び店舗のドアが開いた。

「いらっしゃいませ~」

「こんにちは。セリナさん」

「レイチェル!?」

 ふわふわの髪をゆらしながら来店してきたのは、針子の少女レイチェルだった。

「今日が開店日でしょう? 気になって来ちゃいました」

「まぁ、来てくれて嬉しいわ!」

「メイド服も着て下さってるんですね」

 双子が新品のメイド服を着用している姿を見て、レイチェルは嬉しそうに目を細める。

「レイチェルのおかげで、ルルとララもとっても喜んでくれたのよ。ねっ?」
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