乱交パーティー出禁の男

眠りん

文字の大きさ
上 下
55 / 139
二章

二十一話 誤解も解けて

しおりを挟む
 瑞希の問いに、伊吹は迷う事なく頷いた。

「ん。翠が好き」

「伊吹にしてはすぐに認めたね」

「瑞希とのわだかまりがなくなって、自分の気持ちに素直になれるようになった気がする。
 思えば、あの時には翠の事好きだったんだろうな」

「あの時?」

「ほら、初めて三人でやったSMショー。俺らの同級生だとかいう男が俺を刺した時だよ。
 あの時、翠が真っ先に瑞希を守りに行ったんだよ。信じられなくて、お前らをボーッと見てたら刺された」

 あの時は生きた心地がしなかった。今思い返すと分かる。瑞希に嫉妬していた。
 そして、すぐに瑞希を助けに行った翠に怒りを感じていたのだ。
 瑞希をSMショーに誘った事を後悔していた。それが何故なのか、今まで分からなかった。

「あー。あの時ね。恐怖で伊吹が動けなくなったのかと思ってたよ」

「あのなぁ。今更あれくらいの修羅場で怖がるかよ。あんな奴に比べりゃ瑞希の方が怖いし」

「うん。だから変だなぁって思ってたんだ」

「翠が……、俺じゃなくて瑞希に心変わりしたのかなって。瑞希モテるしさ」

「モテるのは一部の変態にだけだけどね。あれはさぁ、誤解があってね。
 ショーの二日前、僕ストーカーに襲われたんだよ」

「えっ!? そんな事、一言も……」

「足捻挫しちゃったし、伊吹ならショーは休めって言うだろ?」

「当たり前だ!」

 経営者として、怪我をしている者を壇上に立たせる訳にはいかない。そうでなくともSMプレイは全身を使う。
 そこで怪我が悪化しても店は責任を取れない。

「その時、翠君が居合わせててね。口止めしたの」

「だからか。確かに初のショーの時、翠がやけに瑞希を気にかけてるなって思ってた」
 
「そっ。翠君が真っ先に僕を守りに来たのは、足の怪我があったからなんだよ。伊吹なら自由に動けるでしょ」

「そうだったんだ……なのに、俺……」

 知らずに瑞希に対して嫉妬していたのだ。思い返すと恥ずかしさが込み上げた。
 瑞希はそんな伊吹の様子を見て、ハッと気付いた。

「あれ? もしかしてあの後ずっと元気なかったのって、翠君が僕を守ったから?」

「悪ぃかよ。瑞希が好きなら二人で付き合えばいいだろって思ってた」

「あはは。あーそういう事ね。納得したよ。
 伊吹の行動が分からな過ぎてさ、乱パもないし、すっごく欲求不満になって、翠君からかって遊んでた。ごめんね?」

「瑞希ぃ?」

 伊吹は不満げな声で瑞希を睨んだ。

「翠君とは何もないから安心して。翠君も少しずつ本性出してくれたお陰で、僕は自分の気持ちに気付けたんだよね」

「瑞希の気持ち?」

「僕は伊吹の事が好きで、本当はラブピーチの外でも昔みたいに仲良くしたいって。本当は今までの事全部許したかったんだよ。
 だからルール犯して伊吹に会いに行ってさ、乱パのルールを僕だけ除外して欲しいって言ったの」

「外でも奴隷にされると思ったよ。多分、俺は逆らえないから。そのルールだけはなぁなぁにしたくなかったんだ」

「さっきの伊吹、必死だったよねぇ。いい加減にしてくれ! ってさぁ」

 瑞希は先程の伊吹の言い方と同じように強めに怒鳴ってみせた後、クスクスと笑った。

「真似すんなよ」

「拒絶されて、もう関係の修復は出来ないんだなって思った。伊吹と夏鈴さんって人みたいに、終わりなんだなって」

「それで泣きだしたのか。さすがにビビった」

「驚かせてごめんね。伊吹が呼び止めてくれて嬉しかったよ」

 胸の内を打ち明け合い、誤解が解けると心に余裕が出来た。
 再度窓の外を眺めると、見覚えのある風景が見えてきた。

「あれ、瑞希。ここって……」

「気付くの遅いよ~。僕達が生まれ育った町だよ。伊吹がついてきてくれた時に決心しだんだ。
 僕が今まで逃げ続けてきた事に目を向けようって」

「家族の事か?」

「そっ。だからさ、伊吹、僕についてきてくれる? 傍で支えて、僕の味方をして欲しいの」

「もちろん。なんたって、俺は瑞希の親友だからな」

「ありがと! 心強いよ」

 瑞希の実家の近くのコインパーキングに車を停めた。瑞希は外に出るとスマホを眺めて、気が重そうに顔を顰めた。

「瑞希、どうしたんだ?」

「凄い不在着信来てる。伊吹の事連れ去ったから……」

 伊吹は思い出して「あっ!」と間抜けな声を出す。

「俺のスマホ、ラブピーチだ。財布とか何も持ってないんだけど。どうしよう」
 
「お金の心配はしなくていいよ。必要なものは僕が買うし」

「じゃあ後で返す」

「いいって、それくらい。それより……どうしよ、ラブピーチの店長と翠君には報告しなきゃ。
 僕の精神上、今それどころじゃないんだよね。凄く緊張してるし……」

「俺が連絡しようか?」

「お願いしてもいい?」

「もちろん」

 伊吹は瑞希のスマホを操作して通話履歴を見た。瑞希の職場、ラブピーチ、登録されていない番号が履歴に残っている。
 電話番号を記憶しているわけではないが、登録されていない番号は見覚えがあった。翠だろうと予想し電話を掛けると、一回のコール音で目当ての人物が出た。

「もっ、もしもし!? 瑞希さん!?」

「おー。翠。俺、伊吹」

「い……伊吹さん……」

 翠は安心したのか、気の抜けた声で伊吹の名を呟いた。

「連絡遅れてごめん。ちょっと野暮用で瑞希と一緒にいる。今日は帰れないと思うけど、心配しないでな」

「野暮用? なんですか? どれくらい瑞希さんといる予定ですか? ていうか、外で一緒にいて大丈夫なんですか?」

「質問多い! 帰ったら説明するし、問題ないから心配すんなって」

「そんなの、無理に決まってるでしょ!」

 伊吹は何故伝わらないのかが分からず、苛立った。瑞希がそんな伊吹に呆れて電話を奪い取った。

「ちょっと貸して!」

「えっ」

「ごめんね、翠君。僕と伊吹ね、仲直りしたんだよ。
 ……あぁ、君が心配するような事は起こらないから、安心して帰りを待ってくれる?
 ……えっとね、一つ片付けなきゃいけない用があってね、胃が痛いの。
 ……大丈夫じゃないよ。とにかく明日には電話出来ると思う。今日は外泊させるから。……うん、そう。ごめんね」

 瑞希はうんうんと頷きながら、翠の言葉を受け答えしている様子だ。電話が終わると、スマホをポケットにしまった。

「どうして瑞希の話だと翠が簡単に納得したんだ?」

「伊吹は自分の短所に少し目を向けた方がいいかもね」

「短所ってどこ?」

 その問いを瑞希は無視して歩き出し、伊吹は瑞希の後を追いかけて走った。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

冒険旅行でハッピーライフ

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:327pt お気に入り:17

婚約破棄されましたが、幼馴染の彼は諦めませんでした。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,968pt お気に入り:281

悪さしたお坊ちゃんが肉便器に更生させられる話

BL / 完結 24h.ポイント:248pt お気に入り:211

【R18】先輩、勉強のお時間です

恋愛 / 完結 24h.ポイント:106pt お気に入り:49

毒花令嬢の逆襲 ~良い子のふりはもうやめました~

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:105,372pt お気に入り:3,120

転生精霊の異世界マイペース道中~もっとマイペースな妹とともに~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:553pt お気に入り:205

俺の幸せの為に

BL / 連載中 24h.ポイント:4,696pt お気に入り:220

ある公爵令嬢の生涯

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:4,306pt お気に入り:16,124

処理中です...