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※子ども扱いしていても、やることはやる
しおりを挟む ウィンストゲンがチェチナのことを子ども扱いするのは、日中だけではなかった。閨房の場でも、彼はチェチナを子どもだと思っていた。
《き、きつい……。動きにくいし、がつがつするのも怖いし……。そもそもこの行為、犯罪じゃないのか? 大丈夫なのか?》
チェチナは自分に覆い被さるウィンストゲンを黙って見上げていた。その目に光は無い。正式な妻を抱いているのに、犯罪行為とはこれ如何に。
ちなみにこの国の貴族令嬢は、成人である十六歳で嫁ぐことも珍しくなく、十代妻も十歳差夫婦もまったく珍しくなかった。それなのに、どうしてウィンストゲンは自分達の性行為にここまで罪悪感を抱くのか、チェチナには理解出来ない。
ウィンストゲンは来年には三十歳になる。出来ればすぐにでも跡継ぎが必要とのことで、二人は結婚初日の夜から身体を重ねていたが、彼は歳若いチェチナを毎晩おっかなびっくり抱いていた。
チェチナは結婚前は当然処女だったので、初夜は緊張していたのだが、それ以上にウィンストゲンの方ががちがちに緊張していた。
(まさかウィンストゲン様も初めてとは思わなかったわ……)
ウィンストゲンは社交界でも評判の美男子で、彼の妻の座を狙う令嬢はそこかしこにいたし、ウィンストゲンとの交際を匂わせている貴婦人も一人や二人では無かった。
それがまさか童貞だったとは。
初夜、己が童貞だと心の中で暴露するウィンストゲンを見て『まさか同性愛者⁉︎』とチェチナは勘繰ったが、彼は色々暴走しつつも彼女の胎に精を吐き出すことが出来たので、一応、異性愛者のようだ。
「チェチナ、両手をベッドに突いて、尻を高くあげられるか?」
「はい」
それに彼は戸惑いつつも、毎晩のようにチェチナを抱いていた。特に気に入っている体位はチェチナの尻に股間を擦り付けながら蜜口へ挿入するもので、この時に聞こえてくる心の声はかなり混濁している。
《後ろからだと挿れやすいな。チェチナは嫌かもしれないが……。ごめん、ごめんよ……》
ウィンストゲンは心の中でチェチナに謝りながら、また自らの剛直を蜜の滴るあわいの奥へとぐっと押し込んでいく。
チェチナは脚の間に滾るものを感じ、シーツを掴む。まだ彼女は夜の行為に慣れていない。ウィンストゲンは彼女よりも頭一つ分背が高く、体格に見合った大きさの性器を持っている。受け入れるのは楽とは言えない。蜜口をぐっと押し広げる存在にチェチナは呻く。
「うぅっ……」
しかし、常日頃心の中で自分のことを子ども扱いするウィンストゲンが興奮し、雄を硬くしているという事実だけでもチェチナは嬉しかった。抱かれていると自尊心が満たされる。
「うっ、あぁっ、」
チェチナは柔らかな膣壁を擦るものの存在に甘い吐息を漏らす。最初は遠慮がちに中をゆっくり這うだけだったそれは、少しずつ動きが大胆になる。
背に重みを感じ、ウィンストゲンの吐息が感じられるようになる頃には、水音がはっきり聞こえるぐらいの激しい抽送になっていた。
「あっ、あっ、あぁっ」
チェチナは奥を穿られるたびに下腹にぎゅっと力を入れた。後ろから貫かれると、淫芽に刺激が響きやすいのか、向かい合ってするよりも気持ちよく感じると彼女は思った。
ウィンストゲンに身体を委ねていると、彼の腕が脚の間へ回された。何をされるのかチェチナはもう分かっていた。
硬くなった紅い淫芽を指先で押しつぶすように転がされる。チェチナはその刺激に耐えられず、悲鳴のような嬌声をあげた。
「ひぃっ……! ひぁっ⁉︎ あぁっ、ああ」
淫芽を指先で摘まれたり弾かれたりしながら、後ろから貫かれると膝がガクガク震える。チェチナは口を閉じることすら忘れて快楽に喘いだ。
太ももにつつっと透明な愛液がいくつも垂れ落ちる。シーツを汚してしまうことなど気にしていられない。手をベッドについていられなくなったチェチナは体勢を崩しかけたが、胸元にもウィンストゲンの手を回されてしまったため、なんとか四つんばいの状態をキープしようとした。
辛そうなチェチナの様子を見兼ねたのか、ウィンストゲンは彼女の上体を腕で支えると、今度は自分の股ぐらへ座らせた。
「あっ、あんっ、あぁっ、あ」
チェチナはウィンストゲンに背を向けて座ると、彼の股間の上で跳ねた。彼女が腰を浮かせて下ろすたび、結合部からぐちゅぐちゅと水音が漏れる。
背後から手を伸ばされて、肌の感触を確かめるように胸をやわやわと揉まれた。大きな掌で乳房を優しく握りこまれると、心臓ごと鷲掴みされているような錯覚を起こす。
夜の行為の最中は、何故か途中からウィンストゲンの心の声が聞こえなくなる。彼も気持ちよくなってくれているといいと、チェチナは願った。
「チェチナ、ベッドへ横になろうか」
チェチナは息をたえだえさせながら、ベッドの上に仰向けになる。二人とももう汗だくだ。彼女は黒髪を汗で濡らしたウィンストゲンを見上げる。彼は匂いたつような色気を放っていた。
「ふうぅっ、うんっ……」
チェチナが脚を横へ広げると、ウィンストゲンはその間に陣取り、自身を挿入すると上体を屈め、彼女の唇を奪った。
彼女はキスをしながら女陰の奥を穿たれるのが好きだった。愛のある行為に思えるからだ。
口内へ舌を入れられたチェチナは必死に自身の舌をウィンストゲンのものに絡め、向かい合う彼の首や肩に腕を伸ばす。無我夢中だった。
「うっっ、……ふぁっ……!」
やがて快楽の高みへ昇ってしまったチェチナは、腰を大きく浮かせた。ゆっくり穿たれながらキスをされると、彼女はいつも目の前に火花を散らしてしまう。
下半身を震わせるチェチナのことを、ウィンストゲンは闇色の瞳でじっと見下ろしている。その顔にいつもの笑顔はない。この時ばかりはチェチナも彼のことを少し恐ろしく思う。心の声は聞こえないし、整い過ぎた容貌からは何も読み取れないからだ。
「あっ……!」
やや乱暴に腰を寄せられたチェチナは焦った声を漏らす。ウィンストゲンは彼女が快楽の階段を降りきるのを待つことなく、抽送を再開させたからだ。
がつがつと音がしそうなほど、激しく媚肉の中を貫かれる。敏感になっている媚肉は細かく快感を拾う。
チェチナは「あっ、あっ」と絶えず短い悲鳴を漏らした。
「うっ……」
やがてウィンストゲンは低い呻き声を漏らすと、身体を前に折り曲げ、チェチナの中へ昂りを吐き出した。
チェチナは自分の中でウィンストゲンの雄が跳ね回り、胎に精を吐きかけられるのを感じながら、どこか苦しそうな彼のことをじっと見上げていた。
◆
「大丈夫か?」
「は、はい……」
身体に重怠さは感じるが、厭な気分ではない。妻のとしての役目を今夜も果たせた。その達成感がチェチナの胸に広がる。
桶の湯で濡らした布で軽く身体を清め、グラスの水を喉へ流しこむと、チェチナはほっと息をついた。
事後のひとときにも、ウィンストゲンの心の声が聞こえてくる。
《またチェチナに無理をさせてしまった……。年甲斐もなく、つい彼女を貪ってしまう。よくないな》
「む、むさ……‼︎」
いつも穏やかなウィンストゲンには似つかわしくない『貪る』という言葉に、チェチナはカッと頬を赤らめる。興奮のあまり少し声が出てしまった。
行為の最中、心の声が聞こえなくなっているのも、もしかしたら自分の身体に夢中になってくれているのかもしれない。そうならば嬉しい。本当は中身も愛して欲しいが、結婚してまだ十日。結婚前の交流もあまり無いまま籍を入れてしまったため、お互いをよく知らぬまま二人は夫婦となっていた。
(もっと、私を知ってもらう努力をしなければ……)
今宵はぜひとも朝まで語らい、愛を交わして夫婦の仲を深めたい。
チェチナは身を乗り出したが、ウィンストゲンは下着を履き、身繕いを始めてしまった。
「あの、旦那様……」
「チェチナ、今夜も疲れただろう? ゆっくり一人で眠るといい」
「はい?」
ウィンストゲンはベッドの脇に入っていたチェチナの夜着を取り出すと、呆然とする彼女に着せていく。
「あ、あの、旦那様、今夜はその、朝まで……」
ウィンストゲンは今朝、明日は休みだと言っていた。チェチナは今夜こそ朝まで睦み合えるのではないかと楽しみにしていたのだ。
日中の彼は仕事に追われていて、朝食の時とその後の散歩ぐらいしか普段は顔を合わせられない。
夕食はウィンストゲンが視察先から早く戻れば一緒に摂るが、領内を駆けずり回っている彼は就寝時間帯までいないこともある。
夫の外出が多いと通常ならば浮気を疑う展開になりそうだが、それはない。チェチナは帰ってきたウィンストゲンをいつも出迎えるが、彼の頭の中は領の運営のことでいつもいっぱいだったからだ。特に今は領内に新しい橋を造っている最中で、彼の考えは工事の進捗に支配されている。
心の声が聞こえるというのは、良い面もあれば悪い面もある。チェチナはウィンストゲンが忙しそうにしていると、つい遠慮してしまうのだ。
「チェチナ、夜ふかしは良くない。私と共に過ごしたいと思って貰えるのは嬉しいが……」
「はい……」
「おやすみ」
ウィンストゲンはチェチナの額に触れるだけのキスを落とすと、そのまま部屋から出て行ってしまった。
ちなみに最後、彼が考えていた事柄はこうだ。
《チェチナと共寝したら、また昂ってしまうかもしれない……。駄目だ。毎晩彼女を抱いているのは、子作りのためだ。自分の欲を満たすために抱くなんて、そんなことをしてはいけない》
隣で眠っているだけで興奮して貰えるなんて。チェチナは両手で口を抑えて悶絶した。彼女的には、好きなだけ襲ってくれていいと思っているが、ウィンストゲンは真面目で優しい男性だ。
(後で脳内反省会をしそうよねぇ……ウィンストゲン様)
ウィンストゲンは何かと心や頭の中で反省会をしている。チェチナのことでもだ。自分のことを考えて貰えるのは嬉しいが、考えすぎて抑うつにでもなったらどうしようかと心配になる。
チェチナはベッドに横になると、布団を抱き寄せ、瞼を閉じる。彼の本音は分かっているが、なかなかそのことを夫婦関係の構築に活かせていないような気がする。
明日は二人で出掛けられる。何か進展があれば良いなとチェチナは思った。
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