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第1部 隠された令嬢
2.序章: 皇女様の女騎士になろう
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「違います、お嬢様! もっと剣先を上げて、腰を落として!」
家族を懐柔して皇女様に近づくことを断念した私は、違う方法に目をつけた。
この世界には”女騎士”なるものがある。
主に身分の高い女性だけに与えられた、専属の女性騎士を侍ることができる権限だ。
なんと侯爵家令嬢であるエミリアにも、女騎士が付いていた。
ある日、いつも部屋の外で護衛している女騎士のイリスを部屋に引き入れて、剣術を教えて欲しいと頼み込んだ。
最初は渋っていたものの、この家で軟禁状態で楽しみも読書くらいしか知らないエミリアを心なしか気の毒に思っていたらしいイリスは、家族の目を盗んで人目につかない中庭で剣術の指導をしてくれることになった。
なぜこんなことを始めたのか、狙いはこうだ。
ずばり、皇女様の女騎士に私がなってしまうのだ!
原作は主に彼女の死後がメインで、彼女の生前に女騎士がいたかどうかはよく分からない。
けれど、侍女やメイド、男性の護衛騎士を差し置いて、片時も離れずに主人を守る特権を持っているのが女騎士だった。
今はこの方法に賭けるしか、他の手段が見つからなかった。
もちろん、今まで剣どころか小刀も触れたことが無さそうなエミリアが、騎士として武芸を極められるとは思っていない。
女騎士は、特権階級の女性しか持てないというように、自分の力を誇示するために持つ、一種のアクセサリーのような感覚がこの世界ではあった。
つまり、別段強くなくても”形”だけ様になっていれば良しなのだ。
とはいっても、最低限の基礎は持ち合わせていないといけない。
その最低限を身につけることと、皇女様に近づく機会を伺うため、私はエスニョーラ家から一歩も出ない生活を約3ヶ月ほど送っていた。
「お嬢様、なかなか筋が良くなってきましたよ。少し休憩にしましょう」
イリスに促されて、木陰でレモネードを飲みながら休憩していると、垣根越しに”エッホ エッホ”という複数の男性の掛け声が聞こえた。
チラリと覗くと、エスニョーラ家が保有する騎士団の男性騎士達が隊列を組んで走っていた。
「お嬢様、あんまり顔を出すと見られてしまいます」
イリスに小声で注意されたように、私の存在というのは邸宅の中でも家族に近い使用人しか知らない。
騎士団員でもおそらく知っているのはイリスと、騎士団長くらいだろう。
「いつも、こんなに屋敷の奥の方まで訓練に来ないのに、今日はどうしたの」
「今度、隣国の王子が皇城に滞在することになったんですよ。その際に、各貴族家の騎士団の合同演習を行うことになって、我が騎士団もいい所見せようと、いつもは別の領地に行っている団員達も呼び寄せて連日修練させられているんです。
いつも練習している敷地だと足りなくて、こちらにも踏み入ってきたみたいですね」
へえ、各貴族の騎士団という帝国の武力が集結するなんて、すごい見応えがありそう。
「そんなに騎士が集まったら何百、何千人にもなりそうだけど、そんなに収容できる所なんてあるの?」
「そうですよね、お嬢様は滅多に外に出られないから。お屋敷からすぐの所に皇室の狩場がありまして、森の手前が広い空き地になっているので訓練はそこで開催されるみたいです。そのあとは、併設されている迎賓館で王子様の歓迎会も開かれるとか」
王子の歓迎会!?
いよいよ来たんじゃない? チャンスが。
皇室のメンバーが王子の歓迎会に出席しない訳がない。
潜り込むには、そのどさくさに紛れてうちの騎士団の団員になりすませばいいんだ。
そのためには騎士の制服が必要だ。
なんとかして手に入らないか……
「まったく、お嬢様がいるのに、この辺りには来てはいけない規則になっているはずなのに! 私あいつら注意してきますから、お嬢様はここで待っていてください」
イリスは、エッホ エッホと声を合わせて走っていった集団を追いかけていった。
よっしゃ、片時も離れないはずの女騎士がいなくなった。
垣根を越えて、騎士団の訓練所の方へ向かった。
訓練所の裏手は騎士達の生活スペースになっていて、共同の洗濯場があった。
訓練中のためか人影は見当たらなかったが、物音がして見ると、上半身裸で下履きしか履いていない、まだ12歳くらいにしか見えない小柄な少年が訓練場の方から現れた。
そして、物干しにかかっていた騎士団の制服である上着にマント、ズボンにブーツ一式へ近づいていくと、
「チェッ まだ乾いてないや」
そういって上着を掴んですぐ離すと、また元きた方に戻っていった。
私と同じくらいの体格だった。
これはいける、そう確信して猛ダッシュすると、まだ半乾きの物干しの制服一式を掴み取って急いで戻った。
「お嬢様、どこですか? お嬢様~」
イリスの呼ぶ声が聞こえてきて、かっぱらってきた衣服をとりあえず垣根の中に押し込んだ。
こうして皇女様の女騎士になろう計画は、進展を迎えたのである。
家族を懐柔して皇女様に近づくことを断念した私は、違う方法に目をつけた。
この世界には”女騎士”なるものがある。
主に身分の高い女性だけに与えられた、専属の女性騎士を侍ることができる権限だ。
なんと侯爵家令嬢であるエミリアにも、女騎士が付いていた。
ある日、いつも部屋の外で護衛している女騎士のイリスを部屋に引き入れて、剣術を教えて欲しいと頼み込んだ。
最初は渋っていたものの、この家で軟禁状態で楽しみも読書くらいしか知らないエミリアを心なしか気の毒に思っていたらしいイリスは、家族の目を盗んで人目につかない中庭で剣術の指導をしてくれることになった。
なぜこんなことを始めたのか、狙いはこうだ。
ずばり、皇女様の女騎士に私がなってしまうのだ!
原作は主に彼女の死後がメインで、彼女の生前に女騎士がいたかどうかはよく分からない。
けれど、侍女やメイド、男性の護衛騎士を差し置いて、片時も離れずに主人を守る特権を持っているのが女騎士だった。
今はこの方法に賭けるしか、他の手段が見つからなかった。
もちろん、今まで剣どころか小刀も触れたことが無さそうなエミリアが、騎士として武芸を極められるとは思っていない。
女騎士は、特権階級の女性しか持てないというように、自分の力を誇示するために持つ、一種のアクセサリーのような感覚がこの世界ではあった。
つまり、別段強くなくても”形”だけ様になっていれば良しなのだ。
とはいっても、最低限の基礎は持ち合わせていないといけない。
その最低限を身につけることと、皇女様に近づく機会を伺うため、私はエスニョーラ家から一歩も出ない生活を約3ヶ月ほど送っていた。
「お嬢様、なかなか筋が良くなってきましたよ。少し休憩にしましょう」
イリスに促されて、木陰でレモネードを飲みながら休憩していると、垣根越しに”エッホ エッホ”という複数の男性の掛け声が聞こえた。
チラリと覗くと、エスニョーラ家が保有する騎士団の男性騎士達が隊列を組んで走っていた。
「お嬢様、あんまり顔を出すと見られてしまいます」
イリスに小声で注意されたように、私の存在というのは邸宅の中でも家族に近い使用人しか知らない。
騎士団員でもおそらく知っているのはイリスと、騎士団長くらいだろう。
「いつも、こんなに屋敷の奥の方まで訓練に来ないのに、今日はどうしたの」
「今度、隣国の王子が皇城に滞在することになったんですよ。その際に、各貴族家の騎士団の合同演習を行うことになって、我が騎士団もいい所見せようと、いつもは別の領地に行っている団員達も呼び寄せて連日修練させられているんです。
いつも練習している敷地だと足りなくて、こちらにも踏み入ってきたみたいですね」
へえ、各貴族の騎士団という帝国の武力が集結するなんて、すごい見応えがありそう。
「そんなに騎士が集まったら何百、何千人にもなりそうだけど、そんなに収容できる所なんてあるの?」
「そうですよね、お嬢様は滅多に外に出られないから。お屋敷からすぐの所に皇室の狩場がありまして、森の手前が広い空き地になっているので訓練はそこで開催されるみたいです。そのあとは、併設されている迎賓館で王子様の歓迎会も開かれるとか」
王子の歓迎会!?
いよいよ来たんじゃない? チャンスが。
皇室のメンバーが王子の歓迎会に出席しない訳がない。
潜り込むには、そのどさくさに紛れてうちの騎士団の団員になりすませばいいんだ。
そのためには騎士の制服が必要だ。
なんとかして手に入らないか……
「まったく、お嬢様がいるのに、この辺りには来てはいけない規則になっているはずなのに! 私あいつら注意してきますから、お嬢様はここで待っていてください」
イリスは、エッホ エッホと声を合わせて走っていった集団を追いかけていった。
よっしゃ、片時も離れないはずの女騎士がいなくなった。
垣根を越えて、騎士団の訓練所の方へ向かった。
訓練所の裏手は騎士達の生活スペースになっていて、共同の洗濯場があった。
訓練中のためか人影は見当たらなかったが、物音がして見ると、上半身裸で下履きしか履いていない、まだ12歳くらいにしか見えない小柄な少年が訓練場の方から現れた。
そして、物干しにかかっていた騎士団の制服である上着にマント、ズボンにブーツ一式へ近づいていくと、
「チェッ まだ乾いてないや」
そういって上着を掴んですぐ離すと、また元きた方に戻っていった。
私と同じくらいの体格だった。
これはいける、そう確信して猛ダッシュすると、まだ半乾きの物干しの制服一式を掴み取って急いで戻った。
「お嬢様、どこですか? お嬢様~」
イリスの呼ぶ声が聞こえてきて、かっぱらってきた衣服をとりあえず垣根の中に押し込んだ。
こうして皇女様の女騎士になろう計画は、進展を迎えたのである。
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