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2-1「なんで? お兄ちゃんはあたしのこと好きじゃないの? あたしは好きだよ、お兄ちゃんのこと」

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「見て見てっ! お兄ちゃんっ!」

 駄菓子屋からの帰り道。元気な声でおれにそう促すのは、妹の久瑠葉くるは。小学校高学年になり、ようやく身長が伸びてきた。

「どうした?」

 言いながら、おれは久瑠葉が指差す方に目をやった。
 そこは小さな公園。
 久瑠葉が指差しているのは、ブランコの囲いに繋がれた、二匹の柴犬だった。

「あのワンちゃんたち、お互いにペロペロし合ってるー!」

 柴犬たちは、互いの赤褐色せきかっしょくの毛並みを、交代でペロペロと舐め合っている。

「おお。仲良いな」
「うんっ! それに気持ちよさそー。いいないいなーっ」

 言いながら、久瑠葉は目を細める。
 幸せそうな表情だ。
 それから、ひとしきり眺めた後。
 久瑠葉は、幼い瞳をキラキラさせながらおれを見上げてこう言った。 

「お兄ちゃん、あたしも、あれしたいっ!」
「えっ?」
「だから……あたしがお兄ちゃんのことペロペロして、お兄ちゃんがあたしのことをペロペロするの」
 
 久瑠葉の言うことを理解しきれなかった俺に対して、久瑠葉は噛んで含めるように説明した。

「えっ、いや……でも」
「なんで? お兄ちゃんはあたしのこと好きじゃないの? あたしは好きだよ、お兄ちゃんのこと」
「おれも、好きだけどさ……」
「なら、いいじゃんっ……ねっ?」

 少しひんやりとした白く小さい久瑠葉の手が、おれの手を取る。
 それに胸がときめき、時が止まったかのようにおれは久瑠葉に見惚れてしまう。
 スローモーションのようにゆっくりと久瑠葉の顔がおれの手に近づいていく。
 そして……。
 ぺろっ。
 手とは対照的に、生温かい、湿った感触がおれの手に触れた。
 そのやけに生々しい感触に、おれは目を覚ます――。

 跳び起きるように、ベッドから上半身を起こした。
 寝起きだけれど、急速に意識がはっきりした。
 そのおかげで、すぐに周囲の状況を認識できた。
 久瑠葉がベッドのわきに膝をついておれの手を取り――舌をわせていた。

「……おい、久瑠葉」
「あ、おにいちゃん。起きたんだ。おはようっ」

 至って平然と、清々すがすがしいほどさっぱりと、朝の挨拶を口にする久瑠葉。
 おれも、つい釣られて普通に挨拶を返す。

「ああ……おはよう、久瑠葉」
「あと十分で朝食できるからねっ、お兄ちゃんっ……ちゅっ」

 久瑠葉はごく自然な、迷いのない、そうするのが当然だと言わんばかりの所作で俺の手の甲にキスをして、部屋を後にした。
 …………。
 何だったんだ……。
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