【完結】指先が触れる距離

山田森湖

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第41話 小さな変化

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第41話 小さな変化

結婚から三か月が経った。

新婚生活にも慣れ、私たちは安定した夫婦の日常を送っていた。でも、最近美咲の様子が少し変わっているのが気になっていた。

「おはようございます」

朝、美咲が起きてきた時、顔色が少し悪いように見えた。

「おはよう。体調は大丈夫?」

「はい、大丈夫です」

でも、朝食を準備している時に、美咲が突然洗面所に駆け込んだ。

「美咲?」

心配になって後を追うと、彼女が吐いているようだった。

「大丈夫?」

「すみません...少し気持ち悪くて」

「風邪かな?今日は休んだ方がいいよ」

「大丈夫です。もう治まりました」

美咲は無理に笑顔を作ったが、明らかに体調が悪そうだった。

---

職場でも、美咲の変化が続いていた。

会議中に突然席を立って外に出て行ったり、昼食もあまり食べなかったり。

「美咲、やっぱり体調が悪いんじゃない?」

昼休み、私は心配して聞いた。

「少し疲れているだけです」

「病院に行った方がいいよ」

「大丈夫です。きっと一時的なものですから」

でも、美咲の表情には何か複雑なものがあった。まるで、何かを隠しているような。

---

その夜、美咲が早く寝てしまった後、私は一人でリビングにいた。

最近の美咲の変化を考えていると、一つの可能性が頭に浮かんだ。

もしかして...

でも、確信は持てなかった。美咲から何も言われていないし、推測で考えるのは良くない。

---

翌日の朝も、美咲は体調が悪そうだった。

「美咲、本当に心配だよ。病院に行こう」

「健太郎さん...」

美咲が何か言いかけた時、インターホンが鳴った。

「誰だろう?」

ドアを開けると、美咲のお母さんが立っていた。

「お母さん?どうして?」

「美咲の様子が気になって...最近、電話で話していても元気がなくて」

「実は、僕も心配していたんです」

お母さんが部屋に入ると、美咲が恥ずかしそうに出てきた。

「お母さん、どうして...」

「あなたの顔、見れば分かるわよ」

お母さんが美咲の顔をじっと見つめた。

「まさか...」

「お母さん...」

美咲が困ったような表情を見せた。

「美咲、もしかして...」

私も察し始めていた。

「実は...」

美咲が小さく口を開いた。

「昨日、検査薬を使ってみたんです」

その瞬間、私の心臓が激しく鼓動した。

「結果は?」

「陽性でした」

---

その言葉を聞いた瞬間、世界が変わったような気がした。

「本当に?」

「はい。でも、まだ病院で確認していないので...」

「美咲...」

私は彼女を優しく抱きしめた。

「ありがとう」

「健太郎さん...」

美咲の目に涙が浮かんでいた。

「嬉しい涙?」

「はい。とても嬉しいです」

お母さんも涙を浮かべながら、私たちを見守っていた。

「おめでとう。二人とも」

「ありがとうございます」

---

その日、私たちは産婦人科を受診した。

「おめでとうございます。妊娠されています」

医師からの正式な診断を受けて、私たちは改めて実感した。

「予定日は来年の冬頃になりますね」

「冬...」

美咲がつぶやいた。

「クリスマス頃の赤ちゃんですね」

「素敵ですね」

診察室を出てから、私たちは手を繋いで歩いた。

「美咲、本当にありがとう」

「私の方こそ。健太郎さんの赤ちゃんを授かることができて」

---

その夜、私たちは将来について話し合った。

「美咲、仕事はどうする?」

「しばらくは続けたいと思います。でも、体調を見ながら」

「無理は禁物だよ」

「はい。健太郎さんも、お父さんになるんですね」

「実感が湧かないけれど、とても嬉しいです」

私たちは手を繋ぎながら、お腹の中にいる小さな命について想像していた。

「どんな子になるでしょうね」

「美咲に似た、優しい子になってほしいです」

「健太郎さんに似た、責任感の強い子がいいです」

そんな会話をしながら、私たちは親になることへの準備を始めた。

---

翌朝、職場で同僚たちに報告した。

「えー!本当ですか?」

山田さんが驚いた。

「はい。まだ初期ですが」

「おめでとうございます!」

皆さんからの祝福を受けて、私たちは改めて幸せを実感した。

「美咲さん、体調は大丈夫ですか?」

「はい。つわりは少しありますが、大丈夫です」

「無理しちゃダメよ」

女性の同僚たちが、美咲を気遣ってくれた。

---

夕方、二人で帰宅する途中、美咲が言った。

「健太郎さん、私たちの子どもは幸せですね」

「どうして?」

「お父さんとお母さんがこんなに愛し合っているから」

美咲の言葉に、私は深く感動した。

「僕たちも幸せです。美咲と、そしてお腹の赤ちゃんと一緒にいられるから」

指先が触れる距離から始まった私たちの関係は、今では三人の家族になろうとしていた。

新しい命を授かったことで、私たちの愛はさらに深く、広がっていくのを感じた。

来年の冬には、小さな手と足を持った赤ちゃんが、私たちのそばにいるのだ。

その日が来るまで、美咲と赤ちゃんを大切に守り抜こう。

そう心に誓いながら、私は妻の手をそっと握った。
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