アルコノエルシンドローム

アルコノエルシンドローム
という病気の患者を診察したことがある。医師たちは、この病気は死に至ることもあると警告したが、彼はその病名さえ知らなかった。
「あなたがたは、わたしのことをご存じないのです」
と、彼はいった。
「しかし、わたしはあなたがたがだれであるかを知っています。あなたがたは、この惑星の住民ではありませんね?」
「そうだ」
と、グライムズ大佐は答えた。
「そうでしょうなあ」
と、相手はいった。
「しかし、われわれも、あなたがたについて何も知りませんよ。わたしには、何が何やらさっぱりわかりません。わたしは、あなたのおっしゃることにうなずきますよ。ただ、わたしはあなたがたがだれで、どこからやってきたかを知っているだけです……」
5 第一歩 その朝早く……いやもうほとんど昼前だった……〈エクスペンダブルズ〉の一人は目をさまし──もう一人は眠りこんだままだ──朝食をとった(食事中ずっとソファによりかかって眠っていたあの男はいなかった)。そして昼食が終わると、彼らは出発の準備をはじめた。グラジオラスとマーシャルは、それぞれ荷物を持ちあげた……といって別に珍しいことでもないのだ! ただそれがちょっと多すぎただけなのだ。グラジオラスは大股で部屋の中を行ったり来たりしたあげく、「よし!」といった。
それから三人は外に出て──例の男がドアのすぐそばにいたのだが──車に向かった。
グラジオラスが運転席についたとたん車が動きはじめた。運転手は、また眠りこんでいた……が三分の一マイルほど行くうちやっと眼が覚めたらしくて、あたりを見まわして驚きの声をあげた。グラジオのほうを振り向いてみると、まだ彼がハンドルを握っているではないか! そこであわてて車を停めてしまった。グラジオラスはニヤリとした。
「どうしたんです、少佐? はやく行かなきゃなりませんぜ」
運転手はいささかどぎまぎしながらいった。
「おい、今すぐに車をスタートさせろってのか? よし。ところでお前さん誰なんだ?」
彼女はシートにもたれかかりながら肩越しにふりかえって彼を見たが、その時はじめて気がついたように自分の顔の傷あとに手をあてると、
「あら、失礼。わたくしめの名はミス・グレイブルグというのです」
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