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第二章

新たな手紙 ルイス視点

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 おぉう………、俺の手紙、ラインハルトが拾っていたのか…………。
 ラインハルトからの手紙を手に、羞恥心で死にかける俺であった。
 
 あの後、街に入った辺りで手は離した俺達は、横に並んで歩いていた。
「「………………。」」
 やはり、お互いに無言。
 でも、それは来たときのように少し気まずいものではなく、どこか気恥ずかしい感じだった。
 逸る鼓動に合わせてか、いつもより速い速度で足が動き、あっという間に屋敷についてしまった。
「…………っ、ルイス…!」
 屋敷の門を潜ろうかと言うとき、ラインハルトから声を掛けられた。
 大分熱の落ち着いた顔を後ろへ向ければ、おろおろと何か言いたそうなラインハルト。
「…………?どうかいたしましたか?」
「…え、と……その、だな……。」
 要領を得ない言葉を発しつつ、何やら懐から出したラインハルトは、それを俺に差し出した。
 ……手紙……か?……なんだか、俺がラインハルトに出した手紙に似ているような……。
「こ、この間、その、と、鳥か?まあ、鳥、のようなものから、この手紙を受け取ってな……、」
 ……鳥、のようなもの………も、もしかして…!!
「こ、これは、ルイスから、の、俺への、手紙と思って、いいだろうか…?」 
 ラインハルトが俺の手紙拾ってたのかぁ!!!??
「…………はぃ……。」
 心の中では大声を上げながらも、口から出たのは消え入りそうな肯定だけだった。
 け、結局は書き直したけど、どちらも本心だし、否定できる要素が無いんだ。俺の羞恥心は別として。
 恥ずかしくて仕方がなくて、顔を両手で覆った。
「そ、そうか……。な、なら、これを、も、貰ってくれないか……!」
 上ずった声でそう言ったラインハルトに、そろそろと手を下ろしながら目線を上げる。
 上げた先には、差し出された手紙。
 さっき見せてくれた俺が出した手紙ではなく、全く別のものだ。
「……へ、返事を書いた、んだが、い、要らなかったら捨ててくれ。」
「……い、要ります…!!」
 要るに決まってるだろうそんなもん!!
 少々食い気味に言ってしまった。
 ……好きな人からの手紙なんて要るに決まっているだろうが。
「そ、そうか。じゃ、じゃあ、貰ってくれ…。」
 おずおずと手紙を差し出すラインハルトから手紙を貰った。
 それはいいのだが、二人して無言になってしまった。
「「……………。」」
「き、今日はありがとうございました……!し、失礼します……!!」
 無言に耐えられず、そう言って逃げるようにそこをあとにした。
 
 部屋に戻り、バタンと扉を閉めた。
 閉めた扉に背中を預けずるずるとへたり込む。
 ………手紙、貰えたな。
 そ、そう思うと、間違えて入れてしまった手紙も良かったかもしれない…。
 現金なもので、やってしまったと思っていた事もラインハルトから手紙が貰えたから結局よかったと思ってしまう。
 全く調子のいい奴だと思いながら、さっそく手紙を開ける。
『ルイスさんへ
 先日の手紙のお返事、とても嬉しく思います。
 今回は急いで書いているので、少し文章におかしい所などもあると思いますが、ご容赦願います。』
 ……もしかして、さっき俺に渡すために急いで仕上げてくれたりしたんだろうか。
『恐らくルイスさんは、間違えてあの二枚目の手紙を入れてしまったのでしょうが、私はあの手紙が無ければこのお手紙を書いていないと思います。』
 ……あの時のうっかりした俺、良くやった。
『ひとえに、私の意気地なしのせいなので、ルイスさんが悪い訳ではないですから、そこはご理解願います。』
 て、手紙に念押しされた……。
『そして、こんなことを言ったらルイスさんは困ってしまうかもしれませんが、またお手紙をください。私も、貴方からお手紙を貰えるなら、どんな手紙でも嬉しく思います。』
 ………………、お、俺も似たような事書いたけど、い、今読み返すと結構な口説き文句じゃないか…?大丈夫かこれ…?
『最後に、お願いしたいことがあります。あまり面白い話は多分出来ないと思うんですが、私と文通してくれませんか?』
 …ぶ、文通か……。
『お返事、お待ちしております。』
 …………便箋、買いに行くか。
 この間はエミリーさんに貰ってしまったから、俺は便箋を持っていない。
 ……文通するなら、結構便箋が必要、になると思う…………。
 いやもう、文通はする気満々なんだが………。
 俺も何書いたらいいんだ?
 ………それはその時考えよう……。

 後日
「いや~~、街なんて久しぶりねぇ~~。」
 俺はアイちゃんと一緒に街に来ていた。
 というのも、あの後エミリーさんに便箋の売っている店を聞いてみたんだ。そして、店の名前と、軽い地図まで描いてもらったはいいのだが…………。
 物凄く道のりが難しくて、一人で行ける気がしなかったのである。
 そこで、タイミングよく出張に来ていたアイちゃんに相談すれば、なんと案内を申し出てくれた。
 無事、便箋はアイちゃんのお陰で買うことができた。
「今日はありがとな、アイちゃん。」
 アイちゃんも仕事が終わりらしく、帰るついでに案内してくれたらしい。感謝しかない。
「いいわよぉ~!ルーちゃんの頼みだもの!」
 白い長髪の三つ編みをさらりと流しながら、ハツラツとした笑みで答えるアイちゃん。相変わらずイケメンだな。
「それで?お手紙は神父様達に出すのかしら?それならついでに持って行くわよ?」
 あ、そうだな、神父様達にも書こう。字は読めるはずだ。俺はシスターに字を教えてもらったし。
 アイちゃんに聞かれ、それも選択肢に入れる。
「今回は神父様達に出すんじゃないから大丈夫だ。」
 ま、今回はラインハルトに出すからアイちゃんには頼めないな。
「……ルーちゃんは誰に出す気なのかしらねぇ。」
 質問しているようだが、答えなくても問題ないこの感じ。
 ここで、誰に出すの?と聞いてこないのがアイちゃんらしい。
「………好きな人、かしら?」
「……………秘密、だ。」
 鋭いぞ、アイちゃん。というか、ほぼ昔からの知り合いにはバレている気がするんだが、何故だ?
「……あら、妬けちゃうじゃない。」
「友達を取られて妬ける様な性格じゃないだろアイちゃんは……。」
 結構ガチトーンの声だったけど、そういうタイプだったか?
「お友達なら、そうねぇ。」
 どこか含みがありそうに言うアイちゃん。
「俺は友達じゃないって?」
 どこかおどけるようにそう返す。まあ、こんな冗談が言えるのも、アイちゃんが好きでもない相手とつるまないのを知っているからなんだが。
「お友達ではあるけどね。」
 ……なんだか煮えきらないな。アイちゃんにしては珍しい。
「……ふふ、気になるって顔ね。」
「まあ……。」
 気にはなる。
「そうねぇ…………、ルーちゃんが気になるって言うなら、言っちゃおうかしら。」
 帰り道、アイちゃんが屋敷まで送ろうと行ってくれたため、一緒に歩いていた道。
 まだまだ人がいっぱいいる大通りで、意味ありげにアイちゃんは笑った。
 __________「好きよ。ルーちゃん。」
 

「……え?」
「あら、思ったより良い反応。」
 思わず、歩いていた足を止めれば、少し進んだところで振り向いたアイちゃんも止まった。
「言っておくけど、恋愛感情の好きよ。」
 くすくすと機嫌良さげに笑うアイちゃんは、更に言葉を乗せる。
「付き合いたいし、キスだってしたい。答えをYESにするなら結婚までする気で頼むわ。
 _____ね、ルーちゃん。アタシと付き合ってちょうだい。」
 ……物凄い告白だな。最早プロポーズだ。
 なんかびっくりし過ぎで一周回って落ち着いてきた。そのお陰で、しっかりと考えることができる。
「……ごめんなさい。」
 俺は、頭を下げてアイちゃんの告白を断った。
「………理由は、聞かせてもらえるわよね?」
「………俺は、好きな人が居る。」
「ええ。さっきの反応でわかったわ。それがアタシでは無いってことも、なんとなくね。」
 凄いな、アイちゃんは。そこまでわかるなんて。
 アイちゃんのどこか辛そうな諦めを含んだ笑顔に、逃げるようにとんちんかんな事を考えた。
「……ねぇ、ルーちゃん。」
 アイちゃんに、名前を呼ばれる。
「貴方はもし好きな人に振られたら、アタシと付き合ってくれる?」
 ……………。
「………多分、付き合わないよ。アイちゃんへの好きはあくまで友情だから。」
 それに、好きな人の代わりのようにアイちゃんと付き合うなんて、失礼じゃないか。
「…………そう。」
 短くそう返事したアイちゃん。
 周りには人がいっぱい居て、がやがやと騒がしい筈なのに、妙に静かだった。
「……ここまで送ってくれてありがとな、アイちゃん。ここからは一人で帰るよ。」
「………ごめんなさいね。」
 …どっちも悪いわけじゃないのに、気まずくなる時ってあるんだな。
 気まずさを振り払うように、屋敷の方向へ歩き出し始める。
「…じゃあ、気をつけて帰ってね。」
「……ルーちゃんこそね。」
 手を振ってから、少し早足でその場を去った。
 なんというか、罪悪感や、気まずさ、驚きが強い。 
 なんとなしに下を向きながら、早足で歩いた。
 胸元にはさっき買った者たちを抱え込んで、ただただ歩く。
 心は面白いほど無だった。
 一番近いのは、困惑、だろうか。
「…あ………。」
 何も考えずに走っていたからか、迷ってしまったようだ。
 何故か、人通りの少ない通りに出てしまった。
 ………仕方ない、少し道を戻ろう。
 そう思った俺は、振り返ったところで気を失った。



 目が覚めたところは、よくわからない部屋の中だった。 
 何故かガタガタと揺れていて、俺以外にも複数の人が居る。中には檻に入れられた動物も居た。
 じゃり……。
 少し体を動かせば、俺の体に繋げられているらしい枷に繋がる鎖がなる。両足両手ともに、頑丈そうなものがつけられていた。
 ………どういうことなんだ?



 アイザック視点
「………ルーちゃんが帰ってきてない……?」
 何故か、便箋を買いに行った日から帰ってきてないらしい。
「なんだよ、お前一緒に行ったんじゃねぇのか?」
 グレイにそう言われるけど、途中で別れちゃったから知らないのよ。
「……途中で別れたから知らないわ。」
 知らないものは知らないので、そう答えた。
「だ、大丈夫なのかな……?」
 グレイの背に隠れるように居るエミリーちゃんも心配らしい。
 ………そうよね。あれから3日は経つもの。
 どこに行っちゃったのかしら、ルーちゃん。
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