文字の大きさ
大
中
小
1 / 1
ポリコレなんてクソくらえ
「すいません、先生の過去作で『ポリコレ準拠』の作品が発見されましたので、この作品についてSNS上で絶版宣言をしてもらわないと、今後、先生の作品を当社から出版する訳にはいきません」
WEB会議アプリでの担当編集者と打ち合わせで、向こうは、いきなりとんでもない事を言ってきた。
「えっ? ちょっと待って、どう云う事?」
いつの間にか、ポリコレ準拠の過去作が有る、と云うレッテルを貼られたが最後、SNS上で「表現の自由の敵」と見做された挙句、本の売上は1桁落ちた上に、出版社は焼き討ちに遭いかねない、と云う時代になっていた。
しかし、俺は昔から「ポリコレ」ってヤツには批判的だったので覚えが全くない。
「先生が二〇一五年に書かれた『××××』と云う作品ですよ」
「えっ? それに何か……?」
「だって、この中に出て来るアメリカの大統領が黒人ですよね。ポリコレじゃなくて何ですか?」
「いや、それは、当時のアメリカ大統領がモデルだから……」
「バラク・フセイン・オバマですか?」
そうだ……。あの日から、アメリカの第四十四代大統領に言及する時は、ミドルネーム込みで、かつ、ミドルネームを強調して呼ぶのが「ポリコレ準拠でない」つまり「表現の自由を護る為」の呼び方とされるようになった。
既に、サダム・フセインの事など、大概の日本人にとっては記憶の彼方になったにも関わらず、だ。
「そうだよ」
「あのぉ……正統なアメリカ政府の見解では、バラク・フセイン・オバマは『生まれた時からのアメリカ国籍保持者』ではなく、アメリカ大統領への立候補資格は無かった筈ですが……?」
「いや、ちょっと待ってよ。当時は、みんな、オバマさんをアメリカ大統領だと思ってた訳……」
「思ってませんでしたよ。心有るアメリカ人はバラク・フセイン・オバマにアメリカ大統領の資格が無い事を指摘していました。バラク・フセイン・オバマがアメリカ大統領である、と云うデマを信じたのは先生の自己責任です。あ、もちろん、先生が自分の責任と判断により重大な誤認をした以上、『今の規準で過去を裁くな』と云う言い訳は通じませんよ」
「そ……そんな……」
「どうせ一〇年以上前の作品でしょ? 先生の未来の為に、絶版にしましょう。あ、国会図書館に収蔵されてる分の破棄願いは、何なら我が社の方でやっておきますが……」
「嫌だと言っても俺に絶版宣言をさせる気でしょ?」
「私や、ウチの会社の上層部が問題無いと思っても、ネット世論は認めてくれませんよ」
「判りました。好きにして」
「念の為、確認しますが、『判りました』と云うのは、先生は、今、的確な判断が出来る冷静な状態にあり、その上で、先生の責任において『納得出来た』と云う意味ですよね?」
「はい、その通りです」
「では、早速ですが、新作の第一稿の件です。ラストは書き直して下さい」
「何で?」
「恋人同士が『虹』を眺めるシーンでハッピーエンドって、ポリコレ準拠の表現でなくて何ですか?」
……アメリカ史上初の「弾劾で辞めさせられた大統領」、あの「ポリコレなんて、もう、みんなうんざりしてるだろ」が口癖の人物が日本に亡命し、そして日本政府が日本に有る「亡命政府」の方を「正統なアメリカ連邦政府」と認定してから、約1年後の事だった。
そのたった1年で、日本社会は……特に日本における「表現の自由」と云う言葉が意味するモノは、大きく変ってしまったが……。
WEB会議アプリでの担当編集者と打ち合わせで、向こうは、いきなりとんでもない事を言ってきた。
「えっ? ちょっと待って、どう云う事?」
いつの間にか、ポリコレ準拠の過去作が有る、と云うレッテルを貼られたが最後、SNS上で「表現の自由の敵」と見做された挙句、本の売上は1桁落ちた上に、出版社は焼き討ちに遭いかねない、と云う時代になっていた。
しかし、俺は昔から「ポリコレ」ってヤツには批判的だったので覚えが全くない。
「先生が二〇一五年に書かれた『××××』と云う作品ですよ」
「えっ? それに何か……?」
「だって、この中に出て来るアメリカの大統領が黒人ですよね。ポリコレじゃなくて何ですか?」
「いや、それは、当時のアメリカ大統領がモデルだから……」
「バラク・フセイン・オバマですか?」
そうだ……。あの日から、アメリカの第四十四代大統領に言及する時は、ミドルネーム込みで、かつ、ミドルネームを強調して呼ぶのが「ポリコレ準拠でない」つまり「表現の自由を護る為」の呼び方とされるようになった。
既に、サダム・フセインの事など、大概の日本人にとっては記憶の彼方になったにも関わらず、だ。
「そうだよ」
「あのぉ……正統なアメリカ政府の見解では、バラク・フセイン・オバマは『生まれた時からのアメリカ国籍保持者』ではなく、アメリカ大統領への立候補資格は無かった筈ですが……?」
「いや、ちょっと待ってよ。当時は、みんな、オバマさんをアメリカ大統領だと思ってた訳……」
「思ってませんでしたよ。心有るアメリカ人はバラク・フセイン・オバマにアメリカ大統領の資格が無い事を指摘していました。バラク・フセイン・オバマがアメリカ大統領である、と云うデマを信じたのは先生の自己責任です。あ、もちろん、先生が自分の責任と判断により重大な誤認をした以上、『今の規準で過去を裁くな』と云う言い訳は通じませんよ」
「そ……そんな……」
「どうせ一〇年以上前の作品でしょ? 先生の未来の為に、絶版にしましょう。あ、国会図書館に収蔵されてる分の破棄願いは、何なら我が社の方でやっておきますが……」
「嫌だと言っても俺に絶版宣言をさせる気でしょ?」
「私や、ウチの会社の上層部が問題無いと思っても、ネット世論は認めてくれませんよ」
「判りました。好きにして」
「念の為、確認しますが、『判りました』と云うのは、先生は、今、的確な判断が出来る冷静な状態にあり、その上で、先生の責任において『納得出来た』と云う意味ですよね?」
「はい、その通りです」
「では、早速ですが、新作の第一稿の件です。ラストは書き直して下さい」
「何で?」
「恋人同士が『虹』を眺めるシーンでハッピーエンドって、ポリコレ準拠の表現でなくて何ですか?」
……アメリカ史上初の「弾劾で辞めさせられた大統領」、あの「ポリコレなんて、もう、みんなうんざりしてるだろ」が口癖の人物が日本に亡命し、そして日本政府が日本に有る「亡命政府」の方を「正統なアメリカ連邦政府」と認定してから、約1年後の事だった。
そのたった1年で、日本社会は……特に日本における「表現の自由」と云う言葉が意味するモノは、大きく変ってしまったが……。
感想 0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
サイレント・サブマリン ―虚構の海―
来栖とむ 彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。
科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。
電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。
小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。
「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」
しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。
謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か——
そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。
記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える——
これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。
【全17話完結】
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零世間に秘された名門男子校・平坂学園体育科
空手の名選手であった高尾雄一は、新任教師として赴任する
高潔な人格と鋼のように鍛えられた肉体
それは、学園にとって最高の生贄の候補に他ならなかった
至高の筋肉を持つ、精神を削られ意志をなくした青年を太古の神に捧げるため、“水”、“風”、“土”の信奉者達が暗躍する
意志をなくし筋肉の操り人形と化した“デク”
消える教師
山奥の男子校で繰り広げられるダークファンタジー
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。