魔王を倒した勇者(幼なじみ)が、原作知識持ちの激重オタクになって帰ってきました

織り子

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第二話ー5年ぶりに帰って来た幼なじみ(勇者)の様子がおかしい②

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ーー男の人が、自分のお腹に抱きついている。寝ている? 

「な、ななな」
まさか。
(嘘でしょう?夢じゃない?)
目に映る藍色の髪は、どう見てもジークハルトだった。

ジークハルトは頭をエディットに押し付けながら呟いた。その言葉にエディットは更に言葉を失う。

「僕の最推し···」

更にぐりぐりと頭を押し付けてくるので、エディットは思わず蹴飛ばした。
「ぅぐ」
加減をせずに蹴飛ばしたので、ジークハルトは壁に叩きつけられる。更に頭上の棚から小瓶が落ち、頭に直撃した。
さすがにエディットも慌てて駆け寄る。
「ご、ごめんジークハルト!大丈夫?」
差し出したエディットの手を、ジークハルトはするりと自分の手に絡めた。そして自分の頬に当ててうっとりと言った。
「あー。生エディット。夢みたい」
ぞわりと背筋に悪寒が走り、手を奪い取り壁際まで逃げる。エディットは目の前のジークハルト?を睨みつけた。

「あ、貴方ジークハルトなの?言ってることがおかしいわよ」

ジークハルトは涼やかな金の眼でエディットを見据える。エディットがびくりとすると、すぐに笑顔を作って言った。

「僕はジークハルトだよ。エディットの知るジークハルトとはちょっと違うかもしれないけど」
ジークハルトが立ち上がると、ガシャガシャと割れた小瓶が床に落ちる。

エディットは逃げたい衝動に駆られたが、ドアはジークハルトの後ろだ。
「そんなに怖がらないで。それにしてもエディット。やっぱり君も前世の記憶持ちなんだね」

「何ですって?」
ジークハルトの口から信じられない言葉が出て来た。
(君?)

ゆっくりとジークハルトが近付いて来る。
「僕もね、思い出したんだよ。この村から旅立ったあの日に」
エディットの背後の壁に、ジークハルトの手が伸びる。気付けば両腕に閉じ込められていた。5年前までなかった体格差にエディットは驚いた。

(ち、近い)
手で押しても動かない。
「ちょ、ちょっと離れて」
半泣きになりながらエディットは言った。
「はぁ。ちょっと待って。ごめん怖がらせるつもりはないんだけど」

動かないジークハルトに、エディットは限界だ。怖いとかはないけど、とにかく恥ずかしい。

「あぁ。5年も耐えたから、もう少し。もう少しだけ」
スン。と鼻息がかすかに肩にかかった。
(な、嗅いでる?!)
限界を迎えたエディットは、足の間を思いっきり蹴り上げた。エディットは腕の力は普通の女性並みだが、足の力はハンター並みの力を持つ。――その事はジークハルトも知っていたので、ジークハルトは光の早さで身体をずらした。

「ごめん。もうしない」
ジークハルトは顔を真っ青にして謝った。 



 ❉❉❉❉❉❉

「旅立ちの日、エディット来てくれなかっただろう?アレンに手紙だけ預けて」
「そうだったわね」

エディットとジークハルトは邸の応接室に場所を移した。エディットは村長の娘である。その為、邸もまあまあ大きい。ジークハルトが戻った事を知られるのは良くないと思い、こっそり移動して扉に鍵もかけた。ジークハルトが鍵はかけないでくれと言ったが、誰かが入って来たら困るではないか。

(旅立ちの日は行けなかったのよ。朝まで泣いて目がパンパンで。だから手紙を友達のアレンに託したのよね)

「道中読みながら歩いてたんだ。そしたら木の根っこに足が引っ掛かって見事にすっ転んでさ」
「えっ!危ないじゃない!止まって読みなさいよ」
「いや、普段ならそれでも転ける事なんてないんだけど、なんでだろう」

普段も何も、ながら歩きは危ないに決まってるじゃないか。じとりと呆れた視線を送る。

「まあとにかく、その時に運悪く···いや、僕にとっては良かったけど、岩で頭を強く打ってね。その時に前世とか、この世界の事を思い出したんだよ」

「えぇ···」
(そんなことあるものなの?俄には信じられないけど、私も前世の記憶持ちだし···)

前世の記憶を持った自分が渡した物が、こんな自体を引き起こしたのならバツが悪い。

「な、なんだかごめんなさい。私の手紙のせいで」
「いや、僕にとっては喜ばしいことだった」
ジークハルトは謝罪を強く否定した。金の眼が輝き始める。

「僕ね、【聖剣の勇者と空色の聖女】、めっちゃ好きだったんだよ。世界観も、ゲームのシステムも、魔術の使い方とかシナリオも」
輝く眼を見てエディットは悟った。

(――オタクだわ)
自身もそうなのだ。同類はすぐに分かる。エディットは喜びを抑えきれない。

「わ、私も!私も好きだったの!聖剣の勇者!」
前のめりになりながら言うと、ジークハルトの眼が真ん丸になった。

ハッと気付き慌てて言い直す。
「あっ!勇者も好きだけど、ゲーム自体がね!聖女も好きだし、魔法使いリリーシャも好きだし···」

ふいにジークハルトを見ると、ふわりと優しく微笑いこちらを見ている。



     
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