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第三話ー5年ぶりに帰って来た幼なじみ(勇者)の様子がおかしい③
しおりを挟む「僕はね、中でも一番エディットが好きだったんだ」
「えっ!エディット?でも少ししか出てなかったのに···」
確かにモブキャラの中でもエディットは人気がある方だ。
(おかしくはないけど···)
「オープニングのエディットを見過ぎてディスクがすり減ってさ。買い換えたよね。チュートリアルのエディットの言葉は一言一句記憶しているし、エディットが出てる同人誌も網羅したな。クリア後のサブイベントでまたエディットが登場するって聞いて何徹したことか···」
(···本物だわ)
ピタリと言葉が止み、ジークハルトの表情がみるみる曇る。
「どうしたの?」
ジークハルトが低い声で思い詰めた様に口を開く。
「そう···サブイベントで村に戻った時、エディットは結婚してて···しばらく立ち直れなかった···。し、してないよな?まだ」
恐ろしい物でも見たかのように顔が青い。
(そういえばそうだったわ)
「してないけど」
「あぁー!良かった!良かった!気が気じゃなかったんだ」
ジークハルトは顔に手を置き天を仰いだ。 大きな安堵を見てエディットは思わず微笑った。
「大げさね」
エディットとしては、ジークハルトの事でいっぱいいっぱいで、自身が結婚するとされていた男の子の名前すらうろ覚えだ。
ガバッと身体を起こしてジークハルトは言った。
「大げさじゃないさ。記憶が戻ってすぐにずいぶん悩んだんだ。すぐに村に戻ろうかって。····でも魔王は倒しておかないとエディットも危険になるし、早く討伐して戻ろうと思ってたのに、5年もかかるとは思わなかった」
(そ、そうなのね)
確かに魔王討伐の時期が早いかもしれない。ゲームの中では時間軸が分かりにくくて気付かなかった。
「何をせよ間に合って良かった。討伐してすぐに戻って正解だったな」
にやりと満足そうに言うジークハルトに、エディットは違和感を感じた。
「でも、昨日はたしかお城で魔王討伐の記念パーティーだったはずよね?倒したのも数日前だっただろうし···どうやって戻って来たの?」
もしやパーティーにも出ず、1人で戻って来たのだろうか?他の仲間は?
「ああ。すぐ戻れるように瞬間移動の魔法をリリーシャに習ってたんだ。だから魔王城から直帰したよ」
「え、えぇ?他のメンバーは?」
「あいつらにもちゃんと言ってる。皆強いから俺が居なくても大丈夫だよ」
(いや、だめでしょう。討伐の凱旋に勇者がいないなんて)
開いた口が塞がらないエディットに、ジークハルトは溶ける様な視線を送る。
「な、なに?」
エディットはジークハルトを胡乱げに睨んだ。
「はぁ。本当に可愛い。その目もたまんない」
ジークハルトはうっとりと言う。エディットは顔から火が出そうだ。
(お、落ち着いて。ジークハルトが言ってるのは原作のエディットよ。私じゃない)
「ご、ごめんなさいね!大好きなエディットがこんな態度で」
ツンとして言っても、ジークハルトは表情を変えなかった。
「僕は原作のエディットも好きだったけど、今のエディットが一番好きだ。最推しの中に好きな子がいるなんて、すごく興奮···いや、なんて気分が高まるんだろう」
言ってる事がちょっと怖い。エディットの赤くなっていた顔はすぐに冷めた。
「ふう、エディットやっぱり外に出よう」
ジークハルトは立ち上がると扉に向かった。
「え?ちょっと待って。他の人に見つかったら···」
まだ他の人にジークハルトの事をどう説明したらいいのか考えていない。
「他の人には普通に里帰りでいいよ。それよりこれ以上エディットと密室に居続ける方がまずい」
そう言われてはこれ以上引き留められない。エディットは何と言ったらいいか分からず、無言でジークハルトを追いかけた。
「どこに行くの?ジークハルトの家?」
ジークハルトは邸を出て目的があるようにまっすぐ進む。
「んー、たしかに僕の家も気になるけど···」
ジークハルトの両親は早くに亡くなっていて、今は無人だ。
「それより、ラスボスを倒しにかな」
ぎょっとしてエディットはジークの腕を掴んだ。
「ラスボス?魔王の他にも居たの?」
(私は知らない。ジークハルトの方が明らかに原作をやり込んでそうだし···)
ジークハルトがまた危険に身を投じるのは看過できない。
心配と不安が混じり、手が震える。ジークハルトは微笑んだ。
「いや、ごめん。言い方が悪かったな。魔王の様に、世界を滅ぼす訳じゃない。俺にとっての、ラスボスなだけ」
「···?」
どういう意味だろう?勇者にとっての敵なんて、人類にとっての敵同然だ。
「エディット。僕がラスボスに勝てたら、僕と結婚してくれる?」
「えっ?何を···」
「前世の記憶が戻っても、産まれてからの記憶をなくした訳じゃない。思い返しても、エディットも僕の事、少しは好きそうだったし···」
エディットは慌てて手を離して距離を取る。こういう駆け引きに全く慣れていないのだ。すぐに顔が熱くなってしまう。
「だ、誰が···ジークみたいな博愛主義者なんて···」
「博愛?」
ジークハルトが首をかしげた時、高い声が響いた。
「きゃあ!ジークハルト!帰って来てたの?」
「きゃー!本当!いつ戻ったの」
村の女子達がジークハルトに気付き集まって来た。
エディットが顔を手でパタパタと仰ぎ、赤面を抑えようとしている間に、十数人の村人に囲まれていた。
「魔王を倒したんでしょう?」
「すごく背が伸びたのね!」
「前もカッコ良かったけど、今はもう···」
群がる女子を見て、エディットは顔を逸らした。
「な、なんだか雰囲気が変わったわね?」
恐る恐るという様な言い方に、エディットが目を向けると、そこには無表情なジークハルトが立っていた。なんなら不機嫌にすら見える。
「ああ。さっき帰って来たんだ。もういい?どいてくれる?」
ジークハルトの明らかな拒絶の言葉に、女の子達は道を開けた。
冷ややかな金の眼は少し怖く見え、それ以上話しかける女の子はいない。
エディットはぽかんと見ていた。
(博愛どこ行った?)
「エディット!」
ジークハルトが呼ぶので、エディットは小走りで追いかけた。
「な、なんか冷たくない?」
「そりゃ、怒ってるからね」
「え?何に?」
「エディットに大事な話してる所を邪魔されたからだけど?」
「···じゃ」
(邪魔って!さっきのけ、結婚とかの話はどこまで真面目に言ったの)
赤くなりながら、ぱくぱくと講義するように口を開くと、ジークハルトはにやりと微笑った。
「返事は後で聞くよ」
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