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第12章 二つ目の地域制覇へ
第22話 メインは遊覧?
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マーメイドクィーンのロザリーさんに船の場所を聞いた俺達は、ノワールに乗り船の場所までやって来た。
教えてくれたロザリーさんは一族が無事か心配なので、仲間の向かった沖へと向かって行った。
「凄ーい! 雰囲気あるー!」
ユーは大はしゃぎだけど、俺はこういうとこは好きじゃない。
切り立った断崖絶壁にある亀裂の中にある空間に船はあった。
空間と言うけど空は見えない。ここは洞窟の中だしね。
入口は大して大きく無かったけど、中はかなり広い空間になっていたので空間と表現したんだ。
天井も高い空間に浮かぶ船は一艘。しかも、何年前に作られたのかも分からないぐらい朽ちている。
帆なんていい感じにボロボロになっていて、色も緑なのか黒なのか分からなくなってるから、あれって触っただけで粉々になるんじゃないかな。
本体もヤバい。
ボロボロの帆と船体の色に気を取られてたけど、全体的に腐ってて、あちこちに穴が開いてる。
これを船と呼んでもいいものだろうか・・・・・・
「ユー? これじゃ無理だね。どこをどう見ても使えそうにないよ」
「う~ん、これって直せないかなぁ」
「いやいやいやいや無理でしょ! それにもし直ったとしても、こんなに大きな船じゃ二人で動かせないって」
「それは大丈夫。私、【念動】ってスキルも覚えたから、船さえあれば動かせるよ。【オーラ】も覚えたから自分の身体を纏うように船全体にも纏わせれば・・・・・・これだけ大きくちゃ無理か」
【念動】? 【オーラ】? そんなの覚えちゃったの?
さすが勇者だと思うけど、ユーはどこまで強くなるんだよ。俺なんてクラマとマイアに一度レベルアップしてもらっただけで、それから一個も強くなってないのに。
「ねぇエイジ。あなたなら直せるんじゃない?」
「ど、ど、どうだろうねぇ」
何を根拠に直せると思ったかは知らないけど、たぶん衛星なら直せるんだろうなぁ。そんな考えが出てしまって、つい目が泳いでしまう。
俺としては直したくないんだけど。
だって、船が直ったらリヴァイアサン退治に行くんだろ? だったら直せない方がいいに決まってるじゃないか!
「じゃあ、直して」
「え? いや、だから」
「直せるんでしょ?」
「いや、直せるというか、直せないというか・・・・・・」
「直せるのよね?」
「・・・・・・はい」
ユーもいつの間にか強くなってたんだね。もう太刀打ちできる気がしないよ。
たしかユーって俺が名付けて従者になってたんじゃなかったっけ? うん、やっぱり【星見衛児の従者】ってなってるよ。
主人に強気な従者っていたんだね。え? クラマとマイアはって? あの二人は別枠だよ。
「あっ! ちょっと待って! 直せるんなら、この雰囲気はそのままに出来ないかな」
「え? でも穴とか開いてるけど」
「だからいいんじゃない! ボロボロの帆に汚れて穴だらけの船体。正に幽霊船じゃない!」
「は、はぁ・・・・・・」
どこにテンションが上がるとこがあったのか分からないけど、ユーは興奮しながら説明してくれた。
確かに幽霊船って見れるのは遊園地ぐらいだったけど、特にテンションが上がる事は無かったと思う。
じゃあ、リクエストに答えまして、衛星に頼んでみるかな。
『タマちゃん、この船の見た目はそのままで、航行できるように修理できる? できれば一人でも操縦できるようになれば尚いいんだけど。』
『Sir, yes, sir』
やっぱりか、やっぱりできるのか。テンション下がるわー。
衛星達がボロ船の周りを高速で回り始める。
「エイジ、分かってると思うけど、中は豪華で綺麗じゃなくちゃイヤよ?」
「え?」
マジか! 中もボロでいいじゃん! なんて我が侭に育ったんだ。何ヶ月も離れてなかったのに。
『タマちゃん、船内は豪華で綺麗にしてほしいんだって。できる?』
『Sir, yes, sir』
ゴメンね、色々と我が侭言っちゃって。
んん? 今、少し船が浮き上がったよね? 直ったの? でも、見た目は穴だらけのまんまだよ?
まだ一分ぐらいじゃない? もう船としては直ってる? いやいやいやいや、この穴だらけの船を見て、直ってると思う人なんて絶対いないから。
「すごーい! もう乗れるんじゃない? 何をしてるのか全然分かんないけど、エイジの力は特別よねー」
いた、ここにいました。このボロ船が直ってるって思った人が。
ユーの場合はバーガーセットを何度も食べてるから、俺が不思議な力を持ってるのは知ってるんだけど、それでも、コレを見てよく乗りたいって気になるよね。
普通に走れたとしても(走れるんだろうけど)幽霊船にしか見えないんだよ? そんな船によく乗りたいって思えるよね。
「私、先に乗るわね」
思い立ったら即行動。ホント逞しくなったんだね。
初めて会った時は、こーんな小さかったのに。って、あれは魔族の呪いの封印で小さくされてただけだったね。
「ノワール、俺達も行こうか」
『御意!』
ユーの後を追いかけるようにノワールに乗り甲板に降りた。
一応タラップと言うか階段と言うか、そういうのはあったけど、衛星が用意してくれる前に乗り込んじゃったよ。
「すごーい! まるでお城の中みたーい!」
既に船内を探検中のユーの感動する声が響いて来る。
ここは洞窟の中だし他に誰もいない。普通に話すだけでも声が響くのに、今のユーは興奮して声が大きくなってるから洞窟内をユーの声が木霊する。
その声を聞きながら甲板を探検した。
甲板は船の大きさ通り、広かった。でも、所々穴が開いてて、普通なら前から後ろにも行けないほどだった。
でもそこは衛星。注文通りに『見た目はボロボロ、でも航行できる』を実践していてくれて、下が丸見えの穴なのに歩いて通れた。
ガラスじゃないのは分かったけど、踏み心地は固かったから膜というわけでも無いんだろう。恐らく外部も同様な感じに仕上げてくれてるんだろうな。
さて、船は出来上がった。マーメイドはまだ戻って来ていない。というか、戻って来るの? 別に戻って来なくても約束さえ守ってくれればいいんだけどね。
「エイジー!」
ユーも戻って来たか。沖へ行くって言い出すんだろうな。
「今日はテリヤキバーガーセットね! コーラにポテトはLで!」
違った! まずは腹ごしらえだった。
まぁ、リバイアサンの下へ向かうと言っても、どうせ衛星が倒してくれるから見なくて済むんだけどね。
三セット食べ終えたユーが号令を出す。
「よーそろー! 碇をあげー! ホフク前進ー! 右後方ヨシ! はっしーん!」
全然デタラメじゃん! ホフク前進ってなんなんだよ! 思いついたそれらしい単語を並べただけじゃねーか!
右後方ヨシ! って車じゃねーんだからな!
それでも船は走り出した。ユーが念動で動かしてるのだから当たり前なんだけどね。幽霊船ゴッコ、楽しそうだね。
ザザー! ザザー! と音を立てて快調に走る幽霊船。
一時間ほど、楽しげな号令をあげて楽しんでるユーが聞いてきた。
「エイジー! どっちに行けばいいのー?」
知らねーよ! ユーは今まで何処に向かってたんだよ!
船速も超早いし陸なんてとっくの昔に見えなくなっている。偶に曲がったり蛇行したりして遊んでるから、もうどっちに陸があるかなんて俺には分からない。
しかも目的地はリヴァイアサンのいるところのはず。リヴァイアサンが何処にいるかなんて俺は知らないっつーの!
「ねぇねぇエイジー!」
「分からないよ。でも、マーメイドが恐れていたって事は、陸からそんなに遠くないんじゃない?」
「そっかー! 陸はどっちー?」
知らねーって! 俺に聞くんじゃない!
「俺にも分かんないよ、ユーが操縦してるんだからユーが知らなきゃ俺にも分からないって!」
「そっかー、エイジが迷子になったんだね」
俺じゃねーし!
その後、衛星に出発した洞窟の方向を教えてもらい、何とか帰って来れた。
「あー楽しかった! 今度は夜に行こうね!」
「う、うん」
もうリヴァイアサンの事なんて忘れてそうだね。
俺としても忘れてくれてる方がいいんだけどさ。
でも、やっぱり幽霊船ゴッコは続くんだ。夜ね・・・・・・この国ではまだ夜に出る様な船はいないんだよ? ユーさん。
洞窟まで戻って来ると、マーメイドが複数人いた。派手なマーメイドもいるのは見てすぐに分かった。
派手だからね。
「お帰りだっちゃ」
「「「お帰りなさいませ!!」」」
ロザリーさんが挨拶をしてくれると、続けて周りのマーメイド達も挨拶をしてくれた。
「えーと・・・・・・ただいま?」
何故、挨拶をされたのかよく分からなかったので疑問系になってしまう。
ユーを見ると、俺に任せたとばかり甲板の後部に行って海を見ている。一時間以上の遊覧で操作にも慣れたのか、船の移動はどの位置からでも出来るみたいだ。
こういう時こそ手伝ってほしいんだけど。
「そして、ありがとうっちゃ!」
「「「ありがとうございました!!」」」
何故かお礼を言われる始末。
「えーと・・・・・・何のお礼かな? 元々話をしたかったんで集まってもらってたけど(強制拘束だったけどね)、もう解放したんだから、後は漁をしてる船を襲わないって約束があるだけだと思うんだけど」
「いえっ! そうじゃないっちゃ! 仲間の仇を取ってくれてありがとうっちゃ!」
「「「ありがとうございました!」」」
「仇?」
仇なんていつ取ったっけ?
「あの憎っくきリヴァイアサンには同胞が沢山食われたっちゃ。折角、マーメイドの数も多くなって来て、ようやく二千に届こうかと喜んでたっちゃ。なのに、あのリヴァイアサンのせいで、今は百ほどになってしまったっちゃ。そのリヴァイアサンを倒してくれた貴方様に、一族を代表してお礼を言いに来たっちゃ!」
あー、なんか分かった。衛星がやっちゃったんだね。今日の航路近くにいたんだ、そのリヴァイアサンが。
で、俺もユーも知らない内に倒しちゃったんだね。うんうん、いつも通りだ。
俺としては出会わなくて良かったとしか言いようが無いんだけど、でもちょっとは見てみたかったような・・・・・・
『タマちゃん、リヴァイアサンって殺っちゃった?』
『はい』
軽~く返事してくれちゃってるけど、相当な魔物・・・というか龍なんだろ? そうだ!
『まだ解体して無いんだったら出してよ。俺も見てみたいし、ロザリーさん達も本当に死んだか見てみたいと思うんだ』
『Sir, yes, sir』
おっ、あるの? いつも素材になった魔物しか見せてくれないけど今日は見せてくれるの?
デデーンと出ましたリヴァイアサン。
洞窟の奥側にある土の上にデッカイというか、でっかくて長い龍のような魔物が出た。長すぎて半分近く海に入っちゃってるよ。
「デカッ!」
「こここここいつだっちゃ!」
「「「ひぃ!」」」
俺はまだ船の甲板上だから距離があるけど、マーメイド達はすぐ傍に出たリヴァイアサンの死骸に慄いている。
そんな中でもロザリーさんだけは恐怖より敵意の方が勝ってるみたいだ。若干、怪しいけど。
「あー! エイジー!」
一人蚊帳の外・・・・・・自分で放棄してただけなんだけど、ユーが怒った感じで乱入して来た。
「ユー? なんか怒ってる?」
「当たり前よ! 私が討伐するって言ってたのに!」
「あー・・・・・・ごめん」
「酷いよエイジ」
酷いって言われても、いつも通り衛星が自動迎撃システムでやっちゃったんだから仕方が無い。
いつやっちゃったのかも知らないのに。まだ、素材になってないから普段よりマシな方なんだけど。
「俺もいつ出会ったかすら知らなかったから・・・・・・ごめん」
「うぅぅ・・・せっかく張り切ってたのに・・・・・・」
ユーの頭を撫でて慰めるけど、許してくれそうに無い。
さっきまで、というか、海に出た瞬間に忘れてたよね? などとは言わない。火に油を注ぎそうだから。
それぐらいは俺にも分かるようになって来た。
「ビッグテリヤキチーズ月見エビバーガー三段盛りで許す」
「・・・・・・わかった」
そんなの無いから。あっても誰も注文しないから。
「今日は海の上で寝る」
「わかった」
「そこでダブルチーズタツタステーキフィッシュバーガー五段盛りも食べる」
「・・・・・・わかった」
それも人気無さそう。
「飲み物はコーラL、ポテトはギガギガ」
「・・・・・・わかった」
「じゃ、許す」
「ありがとう・・・・・・」
やっと許しを得られた。
ギューっとされて頭を俺の胸にグリグリしてくる。
ぐあっ! ギブギブ! いつもこれだけは衛星も対処してくれないんだよ! 締まってる締まってるってー!
そんなコントなやり取りをしてる間に、やっと落ち着きを取り戻して来たマーメイド達が声を掛けて来た。
「ありがとうございました!」
「これで逝った仲間も報われました!」
「約束は守らせます!」
「感謝しかありません!」
「この想いを忠誠に変え、貴方様に捧げます!」
「はい、貴方様に忠誠を!」
「「「はい、忠誠を!」」」
全員が船上の俺を見上げ感謝とお礼の言葉を投げて来る。
最後には『忠誠を』なんて言ってるけど、そうそう海には来ないと思うから聞き流しておこう。
あ、全員じゃなかった。派手人魚のロザリーさんだけリヴァイアサンとポコポコ殴りつけてたよ。足があったらゲシゲシやってたんだろうな。
ノワールに乗り、下まで降りるとマーメイド達も寄ってきた。ロザリーさんはまだポコポコやっていた。
これどうする? 置いて行った方がいいのかな。
そう思ってロザリーさんを見ていたら、マーメイド達が全員でロザリーさんを迎えに行き、俺の前まで連れて来た。全員と言っても五人ほどだけどね。ロザリーさんは女王だから、その側近みたいな人達なのかな?
連れて来られたロザリーさんは徐に頭を下げ、感謝の言葉を述べた。
「我が一族の仇を討ってくれた事、感謝するっちゃ。色々と無礼な物言いをした事も謝罪するっちゃ。人間・・・・・・貴殿の名前を教えてもらいたいっちゃ」
そう言えば鑑定で見たからロザリーさんの名前は知ってるけど、俺の名前は教えてなかったね。
あの時に名乗ったとしても、聞いてくれなかったとは思うけど。
「ゴメン、名乗ってなかったね。俺はエイジ、こっちはユー。こちらから敵対する気が無いのは分かってくれた?」
「当然っちゃ! もう感謝しかないっちゃ! それに、リヴァイアサンを倒せる者に逆らうほどバカでもないっちゃ。我らマーメイド一族を代表して、感謝と謝罪を込め、うちが全身全霊の忠誠を捧げるっちゃ!」
別に忠誠なんていらないんだけど。まぁ、敵対するより味方でいてくれるのは有り難いけど、友達とか協力関係って感じでいいんだけどな。
「そこまで恩に感じなくてもいいけど、船を襲わないって約束してくれればいいよ」
「御意! 漁も手伝うっちゃ! 船も皆で押してやるっちゃ! うちはエイジ様のものっちゃ!」
「私もエイジ様のものです!」
「ロザリー様! 抜け駆けはいけません!」
「そうです! 私もエイジ様のものです!」
「お礼に私の血を飲んでください!」
「ダメよ! 私の血を飲むんだから!」
「いえいえ私の・・・・・・」
なんかいい感じで収まりそうだったのに、最後はグダグダだよ。
「ダメ! エイジは私のものなんだから!」
更にギューッと締め付けてくるユー。
ゴポッ ぐるじい・・・・・・
「わかったっちゃ、うちはその次っちゃ!」
「では私がその次で」
「次は私よー!」
「私私私なんだから!」
まだまだ言い合いが続きそうだから、もう行ってもいいよね。その前に、このベアバックルを何とかしないと。
マーメイド達の言い合いが激化するごとにユーの締め付けが強くなる。
もう・・・意識が・・・・・・
ガクッ
「あれ? エイジ? どうしたの!」
ユーの言葉は聞き取れませんでした。
教えてくれたロザリーさんは一族が無事か心配なので、仲間の向かった沖へと向かって行った。
「凄ーい! 雰囲気あるー!」
ユーは大はしゃぎだけど、俺はこういうとこは好きじゃない。
切り立った断崖絶壁にある亀裂の中にある空間に船はあった。
空間と言うけど空は見えない。ここは洞窟の中だしね。
入口は大して大きく無かったけど、中はかなり広い空間になっていたので空間と表現したんだ。
天井も高い空間に浮かぶ船は一艘。しかも、何年前に作られたのかも分からないぐらい朽ちている。
帆なんていい感じにボロボロになっていて、色も緑なのか黒なのか分からなくなってるから、あれって触っただけで粉々になるんじゃないかな。
本体もヤバい。
ボロボロの帆と船体の色に気を取られてたけど、全体的に腐ってて、あちこちに穴が開いてる。
これを船と呼んでもいいものだろうか・・・・・・
「ユー? これじゃ無理だね。どこをどう見ても使えそうにないよ」
「う~ん、これって直せないかなぁ」
「いやいやいやいや無理でしょ! それにもし直ったとしても、こんなに大きな船じゃ二人で動かせないって」
「それは大丈夫。私、【念動】ってスキルも覚えたから、船さえあれば動かせるよ。【オーラ】も覚えたから自分の身体を纏うように船全体にも纏わせれば・・・・・・これだけ大きくちゃ無理か」
【念動】? 【オーラ】? そんなの覚えちゃったの?
さすが勇者だと思うけど、ユーはどこまで強くなるんだよ。俺なんてクラマとマイアに一度レベルアップしてもらっただけで、それから一個も強くなってないのに。
「ねぇエイジ。あなたなら直せるんじゃない?」
「ど、ど、どうだろうねぇ」
何を根拠に直せると思ったかは知らないけど、たぶん衛星なら直せるんだろうなぁ。そんな考えが出てしまって、つい目が泳いでしまう。
俺としては直したくないんだけど。
だって、船が直ったらリヴァイアサン退治に行くんだろ? だったら直せない方がいいに決まってるじゃないか!
「じゃあ、直して」
「え? いや、だから」
「直せるんでしょ?」
「いや、直せるというか、直せないというか・・・・・・」
「直せるのよね?」
「・・・・・・はい」
ユーもいつの間にか強くなってたんだね。もう太刀打ちできる気がしないよ。
たしかユーって俺が名付けて従者になってたんじゃなかったっけ? うん、やっぱり【星見衛児の従者】ってなってるよ。
主人に強気な従者っていたんだね。え? クラマとマイアはって? あの二人は別枠だよ。
「あっ! ちょっと待って! 直せるんなら、この雰囲気はそのままに出来ないかな」
「え? でも穴とか開いてるけど」
「だからいいんじゃない! ボロボロの帆に汚れて穴だらけの船体。正に幽霊船じゃない!」
「は、はぁ・・・・・・」
どこにテンションが上がるとこがあったのか分からないけど、ユーは興奮しながら説明してくれた。
確かに幽霊船って見れるのは遊園地ぐらいだったけど、特にテンションが上がる事は無かったと思う。
じゃあ、リクエストに答えまして、衛星に頼んでみるかな。
『タマちゃん、この船の見た目はそのままで、航行できるように修理できる? できれば一人でも操縦できるようになれば尚いいんだけど。』
『Sir, yes, sir』
やっぱりか、やっぱりできるのか。テンション下がるわー。
衛星達がボロ船の周りを高速で回り始める。
「エイジ、分かってると思うけど、中は豪華で綺麗じゃなくちゃイヤよ?」
「え?」
マジか! 中もボロでいいじゃん! なんて我が侭に育ったんだ。何ヶ月も離れてなかったのに。
『タマちゃん、船内は豪華で綺麗にしてほしいんだって。できる?』
『Sir, yes, sir』
ゴメンね、色々と我が侭言っちゃって。
んん? 今、少し船が浮き上がったよね? 直ったの? でも、見た目は穴だらけのまんまだよ?
まだ一分ぐらいじゃない? もう船としては直ってる? いやいやいやいや、この穴だらけの船を見て、直ってると思う人なんて絶対いないから。
「すごーい! もう乗れるんじゃない? 何をしてるのか全然分かんないけど、エイジの力は特別よねー」
いた、ここにいました。このボロ船が直ってるって思った人が。
ユーの場合はバーガーセットを何度も食べてるから、俺が不思議な力を持ってるのは知ってるんだけど、それでも、コレを見てよく乗りたいって気になるよね。
普通に走れたとしても(走れるんだろうけど)幽霊船にしか見えないんだよ? そんな船によく乗りたいって思えるよね。
「私、先に乗るわね」
思い立ったら即行動。ホント逞しくなったんだね。
初めて会った時は、こーんな小さかったのに。って、あれは魔族の呪いの封印で小さくされてただけだったね。
「ノワール、俺達も行こうか」
『御意!』
ユーの後を追いかけるようにノワールに乗り甲板に降りた。
一応タラップと言うか階段と言うか、そういうのはあったけど、衛星が用意してくれる前に乗り込んじゃったよ。
「すごーい! まるでお城の中みたーい!」
既に船内を探検中のユーの感動する声が響いて来る。
ここは洞窟の中だし他に誰もいない。普通に話すだけでも声が響くのに、今のユーは興奮して声が大きくなってるから洞窟内をユーの声が木霊する。
その声を聞きながら甲板を探検した。
甲板は船の大きさ通り、広かった。でも、所々穴が開いてて、普通なら前から後ろにも行けないほどだった。
でもそこは衛星。注文通りに『見た目はボロボロ、でも航行できる』を実践していてくれて、下が丸見えの穴なのに歩いて通れた。
ガラスじゃないのは分かったけど、踏み心地は固かったから膜というわけでも無いんだろう。恐らく外部も同様な感じに仕上げてくれてるんだろうな。
さて、船は出来上がった。マーメイドはまだ戻って来ていない。というか、戻って来るの? 別に戻って来なくても約束さえ守ってくれればいいんだけどね。
「エイジー!」
ユーも戻って来たか。沖へ行くって言い出すんだろうな。
「今日はテリヤキバーガーセットね! コーラにポテトはLで!」
違った! まずは腹ごしらえだった。
まぁ、リバイアサンの下へ向かうと言っても、どうせ衛星が倒してくれるから見なくて済むんだけどね。
三セット食べ終えたユーが号令を出す。
「よーそろー! 碇をあげー! ホフク前進ー! 右後方ヨシ! はっしーん!」
全然デタラメじゃん! ホフク前進ってなんなんだよ! 思いついたそれらしい単語を並べただけじゃねーか!
右後方ヨシ! って車じゃねーんだからな!
それでも船は走り出した。ユーが念動で動かしてるのだから当たり前なんだけどね。幽霊船ゴッコ、楽しそうだね。
ザザー! ザザー! と音を立てて快調に走る幽霊船。
一時間ほど、楽しげな号令をあげて楽しんでるユーが聞いてきた。
「エイジー! どっちに行けばいいのー?」
知らねーよ! ユーは今まで何処に向かってたんだよ!
船速も超早いし陸なんてとっくの昔に見えなくなっている。偶に曲がったり蛇行したりして遊んでるから、もうどっちに陸があるかなんて俺には分からない。
しかも目的地はリヴァイアサンのいるところのはず。リヴァイアサンが何処にいるかなんて俺は知らないっつーの!
「ねぇねぇエイジー!」
「分からないよ。でも、マーメイドが恐れていたって事は、陸からそんなに遠くないんじゃない?」
「そっかー! 陸はどっちー?」
知らねーって! 俺に聞くんじゃない!
「俺にも分かんないよ、ユーが操縦してるんだからユーが知らなきゃ俺にも分からないって!」
「そっかー、エイジが迷子になったんだね」
俺じゃねーし!
その後、衛星に出発した洞窟の方向を教えてもらい、何とか帰って来れた。
「あー楽しかった! 今度は夜に行こうね!」
「う、うん」
もうリヴァイアサンの事なんて忘れてそうだね。
俺としても忘れてくれてる方がいいんだけどさ。
でも、やっぱり幽霊船ゴッコは続くんだ。夜ね・・・・・・この国ではまだ夜に出る様な船はいないんだよ? ユーさん。
洞窟まで戻って来ると、マーメイドが複数人いた。派手なマーメイドもいるのは見てすぐに分かった。
派手だからね。
「お帰りだっちゃ」
「「「お帰りなさいませ!!」」」
ロザリーさんが挨拶をしてくれると、続けて周りのマーメイド達も挨拶をしてくれた。
「えーと・・・・・・ただいま?」
何故、挨拶をされたのかよく分からなかったので疑問系になってしまう。
ユーを見ると、俺に任せたとばかり甲板の後部に行って海を見ている。一時間以上の遊覧で操作にも慣れたのか、船の移動はどの位置からでも出来るみたいだ。
こういう時こそ手伝ってほしいんだけど。
「そして、ありがとうっちゃ!」
「「「ありがとうございました!!」」」
何故かお礼を言われる始末。
「えーと・・・・・・何のお礼かな? 元々話をしたかったんで集まってもらってたけど(強制拘束だったけどね)、もう解放したんだから、後は漁をしてる船を襲わないって約束があるだけだと思うんだけど」
「いえっ! そうじゃないっちゃ! 仲間の仇を取ってくれてありがとうっちゃ!」
「「「ありがとうございました!」」」
「仇?」
仇なんていつ取ったっけ?
「あの憎っくきリヴァイアサンには同胞が沢山食われたっちゃ。折角、マーメイドの数も多くなって来て、ようやく二千に届こうかと喜んでたっちゃ。なのに、あのリヴァイアサンのせいで、今は百ほどになってしまったっちゃ。そのリヴァイアサンを倒してくれた貴方様に、一族を代表してお礼を言いに来たっちゃ!」
あー、なんか分かった。衛星がやっちゃったんだね。今日の航路近くにいたんだ、そのリヴァイアサンが。
で、俺もユーも知らない内に倒しちゃったんだね。うんうん、いつも通りだ。
俺としては出会わなくて良かったとしか言いようが無いんだけど、でもちょっとは見てみたかったような・・・・・・
『タマちゃん、リヴァイアサンって殺っちゃった?』
『はい』
軽~く返事してくれちゃってるけど、相当な魔物・・・というか龍なんだろ? そうだ!
『まだ解体して無いんだったら出してよ。俺も見てみたいし、ロザリーさん達も本当に死んだか見てみたいと思うんだ』
『Sir, yes, sir』
おっ、あるの? いつも素材になった魔物しか見せてくれないけど今日は見せてくれるの?
デデーンと出ましたリヴァイアサン。
洞窟の奥側にある土の上にデッカイというか、でっかくて長い龍のような魔物が出た。長すぎて半分近く海に入っちゃってるよ。
「デカッ!」
「こここここいつだっちゃ!」
「「「ひぃ!」」」
俺はまだ船の甲板上だから距離があるけど、マーメイド達はすぐ傍に出たリヴァイアサンの死骸に慄いている。
そんな中でもロザリーさんだけは恐怖より敵意の方が勝ってるみたいだ。若干、怪しいけど。
「あー! エイジー!」
一人蚊帳の外・・・・・・自分で放棄してただけなんだけど、ユーが怒った感じで乱入して来た。
「ユー? なんか怒ってる?」
「当たり前よ! 私が討伐するって言ってたのに!」
「あー・・・・・・ごめん」
「酷いよエイジ」
酷いって言われても、いつも通り衛星が自動迎撃システムでやっちゃったんだから仕方が無い。
いつやっちゃったのかも知らないのに。まだ、素材になってないから普段よりマシな方なんだけど。
「俺もいつ出会ったかすら知らなかったから・・・・・・ごめん」
「うぅぅ・・・せっかく張り切ってたのに・・・・・・」
ユーの頭を撫でて慰めるけど、許してくれそうに無い。
さっきまで、というか、海に出た瞬間に忘れてたよね? などとは言わない。火に油を注ぎそうだから。
それぐらいは俺にも分かるようになって来た。
「ビッグテリヤキチーズ月見エビバーガー三段盛りで許す」
「・・・・・・わかった」
そんなの無いから。あっても誰も注文しないから。
「今日は海の上で寝る」
「わかった」
「そこでダブルチーズタツタステーキフィッシュバーガー五段盛りも食べる」
「・・・・・・わかった」
それも人気無さそう。
「飲み物はコーラL、ポテトはギガギガ」
「・・・・・・わかった」
「じゃ、許す」
「ありがとう・・・・・・」
やっと許しを得られた。
ギューっとされて頭を俺の胸にグリグリしてくる。
ぐあっ! ギブギブ! いつもこれだけは衛星も対処してくれないんだよ! 締まってる締まってるってー!
そんなコントなやり取りをしてる間に、やっと落ち着きを取り戻して来たマーメイド達が声を掛けて来た。
「ありがとうございました!」
「これで逝った仲間も報われました!」
「約束は守らせます!」
「感謝しかありません!」
「この想いを忠誠に変え、貴方様に捧げます!」
「はい、貴方様に忠誠を!」
「「「はい、忠誠を!」」」
全員が船上の俺を見上げ感謝とお礼の言葉を投げて来る。
最後には『忠誠を』なんて言ってるけど、そうそう海には来ないと思うから聞き流しておこう。
あ、全員じゃなかった。派手人魚のロザリーさんだけリヴァイアサンとポコポコ殴りつけてたよ。足があったらゲシゲシやってたんだろうな。
ノワールに乗り、下まで降りるとマーメイド達も寄ってきた。ロザリーさんはまだポコポコやっていた。
これどうする? 置いて行った方がいいのかな。
そう思ってロザリーさんを見ていたら、マーメイド達が全員でロザリーさんを迎えに行き、俺の前まで連れて来た。全員と言っても五人ほどだけどね。ロザリーさんは女王だから、その側近みたいな人達なのかな?
連れて来られたロザリーさんは徐に頭を下げ、感謝の言葉を述べた。
「我が一族の仇を討ってくれた事、感謝するっちゃ。色々と無礼な物言いをした事も謝罪するっちゃ。人間・・・・・・貴殿の名前を教えてもらいたいっちゃ」
そう言えば鑑定で見たからロザリーさんの名前は知ってるけど、俺の名前は教えてなかったね。
あの時に名乗ったとしても、聞いてくれなかったとは思うけど。
「ゴメン、名乗ってなかったね。俺はエイジ、こっちはユー。こちらから敵対する気が無いのは分かってくれた?」
「当然っちゃ! もう感謝しかないっちゃ! それに、リヴァイアサンを倒せる者に逆らうほどバカでもないっちゃ。我らマーメイド一族を代表して、感謝と謝罪を込め、うちが全身全霊の忠誠を捧げるっちゃ!」
別に忠誠なんていらないんだけど。まぁ、敵対するより味方でいてくれるのは有り難いけど、友達とか協力関係って感じでいいんだけどな。
「そこまで恩に感じなくてもいいけど、船を襲わないって約束してくれればいいよ」
「御意! 漁も手伝うっちゃ! 船も皆で押してやるっちゃ! うちはエイジ様のものっちゃ!」
「私もエイジ様のものです!」
「ロザリー様! 抜け駆けはいけません!」
「そうです! 私もエイジ様のものです!」
「お礼に私の血を飲んでください!」
「ダメよ! 私の血を飲むんだから!」
「いえいえ私の・・・・・・」
なんかいい感じで収まりそうだったのに、最後はグダグダだよ。
「ダメ! エイジは私のものなんだから!」
更にギューッと締め付けてくるユー。
ゴポッ ぐるじい・・・・・・
「わかったっちゃ、うちはその次っちゃ!」
「では私がその次で」
「次は私よー!」
「私私私なんだから!」
まだまだ言い合いが続きそうだから、もう行ってもいいよね。その前に、このベアバックルを何とかしないと。
マーメイド達の言い合いが激化するごとにユーの締め付けが強くなる。
もう・・・意識が・・・・・・
ガクッ
「あれ? エイジ? どうしたの!」
ユーの言葉は聞き取れませんでした。
応援ありがとうございます!
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