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第06章 伝説の剣
第02話 報酬と情報
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「まよねーず? 聞いた事が無い名前ですね。エイジ殿、彼女達が言ってるまよねーずとは何でしょうか」
もう白状するしかないか。ここで隠すのもおかしいしね。
今、衛星に作ってもらった装備類は、バーンズさんの指図でメイドが持って立っている。後で愛でるのか、それとも研究して同じような装備も模して作るのか。それはあげたんだからそれでいいんだけど、マヨネーズ……出さなきゃダメ? バーンズさん、怒らない?
「…その…言いにくいんですが、マヨネーズというのは調味料なんです」
「調味料? その調味料をどうするのですか?」
「……すみません。ホントに失礼で言いにくいんですが、料理にかけて食べるんです」
言った、言ったぞ。言ってやったー。よくやった俺!
「料理にかけて……それはどういうものですか?」
「エイジ、見せてやった方が早いであろう。妾が見せてやるゆえ、さっさと出すのじゃ」
もう待ちきれぬとばかりにクラマが割って入る。
はぁ、仕方が無い。バーンズさんも見たいみたいだし、出してあげよう。
リクエスト通り、クラマとマイアにはマヨネーズを、ユーにはオーロラソースを小鉢に入れて出してあげた。
クラマはスプーンを使って全て肉にかけ、マイアは切り取った肉をマヨネーズに付けて食べている。ユーは少しずつ肉にかけて、足らなくなったらまたかけるようにしていた。
興味津々なバーンズさんにもマヨネーズとオーロラソースに加えて、ステーキソースとわさび醤油とからしを出してあげた。
一つだけだと口に合わなかった時に怒られそうな気がしたから、色々試して自分の口に合うものを探してもらおうと思ってね。
結果は全部大絶賛! 特にわさび醤油がお気に入りだったみたい。クラマにもマイアにもこのわさび醬油はあげた事が無かったから、なぜそのようなものを隠しておるのじゃ、さっさと妾にも寄こすのじゃ! と言って怒られたけど、別に隠してたんじゃなくて、忘れてただけなんだけどな。
調味料を試食したバーンズさんは商売魂が燃え上がったのか、レシピを売ってほしいと言い出した。
レシピって言われてもなぁ。あ、でも今なら衛星に言えば日本語で書いてくれるかも。
「私、マヨネーズとタルタルソースなら作った事があるわよ」
「おー! あなたも作れるのですね。まよねーずというのは、この黄色の調味料ですね。あなたでも結構です、いや、そういう訳には行きませんね。エイジ殿との交渉が空振りに終わった場合、あなたと交渉する事にしましょう」
ユーが作れるんならユーに任せてもいいかな。
「私には無理かな」
「おや、それは何故ですか?」
ホントなんで?
「この世界って酢が無いもの。マヨネーズには酢が必要なのよね」
え? 酢が無いの? だったら作ってる俺ってヤバくない?
「卵と塩に胡椒に酢にサラダ油。材料はこれだけなんだけど、酢が無いと美味しくないのよねぇ」
へぇ、ユーは料理のできる女の子だったんだね。好感度アップだよ。
「ふむふむ、卵と塩に胡椒に酢にサラダ油ですか……」
早速メモを取ってるバーンズさん。上昇志向だね、恐れ入ります。
「後で実演をして頂けますか?」
「別にいいけど、酢が無いのよ?」
「いえ、完成品がここにあるという事は、エイジ殿が持っておられるのでしょう」
ユーに実演交渉をしていたバーンズさんは俺に向き直り、頭を下げて来た。
「改めてお願いします。エイジ殿、まよねーずのレシピを買い取らせて頂きたい」
「は、はい。わかりました。でも、酢の製造方法まではわかりませんよ」
「そこは秘密ですか……いいでしょう、まずは材料と作り方を見せて頂き、こちらで判断しましょう」
別に秘密じゃないんだけどな。本当に知らないだけなんだよ。酒造りが関係してるはずなんだけど、酒の作り方すら知らないからね。発酵とか麹とか素人に分かるかってんだ。
食事や贈り物の事なんか吹っ飛んでしまって、ユーを連れて厨房にお邪魔する事になってしまった。他のメンバー、特にロンド姉弟はまだまだ食べる気だ。クラマとマイアは途中から酒に切り替えていた。
君達、自分の家みたいに寛いでない? 初めてお邪魔するお宅なんだよ? もうちょっと遠慮っていうものを覚えようね。
厨房に行くと、大勢いる料理スタッフを代表して、料理長と副料理長が立ち会う事になった。
俺は材料を出すだけ。ユーも自分の記憶を頼りに、量を見て確認している。
分量は衛星に言ってあるから、出した物全部を使えば丁度いいはず。
出してる材料を料理長と副料理長が少しずつ摘まんで味見をしている。塩、胡椒、卵。ここまでは彼らも知ってるものだった。サラダ油、これはこの世界には無いものみたいだ。
これは料理長の提案で植物系の油で代用できそうなことが分かった。
酢についても、柑橘系の搾り汁で出来そうじゃないかと副料理長が進言した。
後はユーが実演したが、これはただひたすらに混ぜるだけ。
ユーの場合は卵黄だけ器に入れて、塩、胡椒、酢を入れ、ある程度掻き混ぜる。これは卵黄だけにしなくても別に構わないと補足していた。その後、サラダ油を少しずつ入れながらある程度の固さになるまで掻き混ぜ続ける。
さらに完成後、さっきのカラシを入れても美味しくなるよって付け加えていた。
カラシマヨネーズね、確かに美味しいよね、好きな味です。
出来上がったマヨネーズを試食すると、それはマヨネーズだった。
当たり前なんだけど、作ったとこなんか初めて見たし、出来上がったばかりのマヨネーズなんか口にした事無いから俺は感動したよ。
それはバーンズさんも同じで、ユーの事を絶賛していた。
もっと煩かったのは料理長。「なんだこの味は! 革命だ! 料理の革命だ!」と騒ぎまくっていた。
確かにそうなのかもしれないな。
これから毎日、このバーンズ家の食卓にマヨネーズが並ぶとか、それによってバーンズさんが更に太ったとかの話は俺には関係ない話だ。それはマヨラーの乗り越えなければならない試練なのだから。
晩餐会のテーブルに戻ったら、プリとシェルはギブアップ宣言をしていた。どんだけ食ったんだろうね。ちょっとぐらい遠慮してくれよ。
クラマとマイアにはすぐに酒のお替わり強請られた。
元通りの席に着くと、さっきより窮屈な気がする。両サイドの二人が寄って来てるんだ。
もう食事は俺も終わってるし、いいんだけどね。
バーンズさんも席に戻ると、早速報酬を提示してくれた。
「エイジ殿、まよねーずの件、ありがとうございます。これは間違いなく大ヒット商品になるでしょう。そこでお礼の件ですが、エイジ殿とユー殿に白金貨で五〇枚ずつ用意しましょう」
「「えっ⁉」」と驚く俺とユー。だってマヨネーズの作り方だけで白金貨一〇〇枚ってありえない。レシピだって、自分達で考えたものではなく、元々自分達の世界にあったものだ。俺に至っては衛星にお願いしただけ。
それで白金貨一〇〇枚は貰い過ぎだ。
「いえいえ、勘違いしないでください。まだこれだけではありませんから」
いえ、不足だと思って驚いたのではなく、貰い過ぎだと思ってるんですけど。
「残りの謝礼は、情報です。あなた達は冒険者ですから、情報を差し上げましょう。『伝説の剣』の情報など如何ですか? この情報を知る者は極少数ですが、実在したという事は誰もが知っています。ただ、その所在が分からないだけなのです。その情報を差し上げましょう」
『伝説の剣』の情報。確かに凄そうだ。でも、その情報って俺にいる? 剣なんて使えないし、使う機会も無い。逆にそんなのを持ってたら狙われそうじゃないか。
お断りしよう。
「有り難いお話ですが……」
「『伝説の剣』! ありがとうございます! 是非教えてください!」
おい、ユー! 勝手に引き受けるんじゃないって。
「『伝説の剣』と言えば、オリハルコンの剣ですわね」
さすがにプリは知ってるんだ。
「あたしは拳だし、プリは斧だか槍だか分からない武器だから、あたし達には必要無いんだけど、ユー様にはお似合いよね~。これは是非協力させてもらうわ~」
確かに勇者に剣、必須かもしれない。しかし、この二人は勇者には甘いよな。
「この情報はお高いですよ。さすがに見返り無しとは行きません。こちらから提案した件ですが、一つだけ条件を付けさせて頂きます」
もう、話が進んでるのね。こういう時って、いつも話し合いに入れてもらえないよね。
「『伝説の剣』【七月剣】は子供の頃から聞かされる御伽噺に出て来る勇者の剣として有名ですが、オリハルコン製というだけではなく、付加効果や発動技も凄いという話です。詳しくは調べきれませんでしたが、この国の北隣のベルガンド王国の山中に隠されているという有力情報がありました。実際、私も見た事はありませんので、皆様が【七月剣】を手に入れた暁には、是非とも私に見せて頂きたいのです。それが唯一の条件です」
そんな事でいいんだ。でも、そのベンガルド王国って、もしかして魔族のパシャックが仕官した国じゃない? パシャックもその『伝説の剣』が目当てだった? それともただの偶然?
「ベンガルド王国のどこかの山中にエルダードワーフの里があり、そこにあるのではないかという情報が現在の最有力なのです。情報としては拙い情報ですが、この情報を得るだけでもかなりの資金を費やしました。今までエルダードワーフの里がどこにあるかも分からなかったのですから」
今もはっきりとは分かって無いが、ある程度まで情報が絞れたという点では凄い事なんだろう。これだけ情報通のバーンズさんが言うぐらいだからね、普通なら分からない情報なんだろうな。
「わかりました! 必ず【七月剣】を見つけて持ち帰ってみせます!」
右手でガッツポーズを決めて宣言するユー。
だから、なぜユーが決めるんだ! 俺にはやらなきゃならない事がいっぱいあるんだよ。
「ええ、私も微力ながらお手伝いさせて頂きます」
「もちろんあたしもよ~」
うん、三人共、頑張ってね。俺は別行動をさせてもらおう。だって、【星の家】や【星菓子】も気になるし、『封魔の剣』の事も頼まれてるしね。まだ地図の攻略も残ってるし、そんなのに付き合ってる暇は無いから。
三人いれば何とかなるでしょ。
「じゃあ、早速、明日出発でいいわね、エイジ」
「俺は辞めとく、三人で頑張って」
「え? エイジは一緒に行ってくれないの?」
ぐはっ! なに、その上目使い攻撃! 可愛いじゃないか。
「イージ? 私からもお願い。是非ユー様に力を貸してあげて」
ゴパッ! プリのその顔でお願いされて断れる奴がいたら呼んで来い! 俺がぶん殴ってやる!
「そうよ~、ユー様の為に一緒に頑張るのよ~。そして紆余曲折あって、あたし達の恋は燃え上がるのよ~」
……やっぱ辞めとこ。
「……あのさ、俺にはやらなきゃならない事があって、そんな剣にかまってる暇は無いんだ。ついでの用事があれば行かない事も無いけど、今は他の事が忙しいんだよ」
「用事ってなによ、私の剣より大事な事なの?」
おいおい、もう私の剣になってるよ。実はユーって剣フェチだった? いや、勇者フェチか? 勇者には剣、みたいなとこから来てんじゃない?
「私の剣って…だいたい剣はもう持ってるじゃないか。その剣じゃダメなの? 何か不都合でもあった?」
「……ない」
そんなに口を尖がらせて拗ねなくてもいいじゃん。不覚にもちょっと可愛いって思ってしまったけど。
「まずはフィッツバーグの町に戻って、何も問題無ければ行ってもいいけど、マイアだって一度戻りたいよね?」
マイア専用の畑も任せているとはいえ気になるだろ? これでマイアも味方にできるだろうから、それでも行きたいって言うんなら三人で行ってもらおう。
「そうですね、マンドラゴラとアルラウネの事は気になりますから、一度戻って様子は見たいですね」
「ね、マイアも俺と戻りたいって言ってるし、クラマも戻るよね?」
「妾はエイジの行く所であれば、どこでも構わないのじゃ」
へぇ、以外。レッテ山とか気になると思ってたけど、別にいいんだ。
「マンドラゴラ⁉」
あっ! しまった! ここにはバーンズさん達もいたんだ。
「マンドラゴラとは、伝説の薬の素材となる魔物ですか!」
「……」
どうしよう、言っていいのかなぁ。
「そうです。私でも生涯三度しか見ていないものを、エイジは軽々と見つけ出しました。本当に凄い主様です」
あ―! 言っちゃった。マイアが普通に言っちゃったよ。
「おおお! それは素晴らしい! 是非! 是非とも私にもお分け頂けませんか」
やっぱりそうなるよねぇ。沢山あるからいいとは思うんだけど、マンドラゴラとアルラウネはマイアに一任してるからね。俺には世話もできないし、薬にも出来ないんだから。
「愚かな。人間風情の手に負えるものだと思っているのですか? 傲慢にもほどがあります、あなたは人間が滅びてもいいと思っているのですか?」
え! そんなに危険なものだったの? そんな事言って無かったじゃない!
「い、いや、そんな事は思っておりませんが、伝承では取り扱いを誤ると麻痺や身体異常の攻撃を加えられる事があるとしか……」
「それは間違ってはいません。しかし、その効果範囲はご存知ですか?」
「い、いえ…」
「一本で半径一キロの効果範囲があります。気絶で済めばいいですが、心の弱い者は衰弱したり死に至る者もいるでしょう。それが一〇本、二〇本とあればどうでしょう。その効果は高まりますし、効果範囲も広がるでしょう。その結果がどうなるかは誰にでも想像できるでしょう? あなたは取り扱い方法をご存じなのですか?」
「い、いえ……」
「自分の欲に駆られるのは人間である以上仕方が無い事かもしれませんが、身の丈に合わぬ事をすれば後悔するだけでは済みませんよ」
「……はい、も、申し訳ございません」
ありゃりゃ、マイアがバーンズさんを言い負かしちゃったよ。
なんか、マイアが森の精霊してる……あ、合ってる。でも、意外だ……。
でも、そんな危険なものだったんだね。帰ったら衛星に厳重に結界を張ってもらわなきゃ。
【七月剣】の件は、宿に戻ってから相談する事になり、バーンズさんの屋敷からお暇する事にした。
またいつでも来てほしいと言われ、笑顔で見送られ、お城のようなバーンズ邸を後にした。
もう白状するしかないか。ここで隠すのもおかしいしね。
今、衛星に作ってもらった装備類は、バーンズさんの指図でメイドが持って立っている。後で愛でるのか、それとも研究して同じような装備も模して作るのか。それはあげたんだからそれでいいんだけど、マヨネーズ……出さなきゃダメ? バーンズさん、怒らない?
「…その…言いにくいんですが、マヨネーズというのは調味料なんです」
「調味料? その調味料をどうするのですか?」
「……すみません。ホントに失礼で言いにくいんですが、料理にかけて食べるんです」
言った、言ったぞ。言ってやったー。よくやった俺!
「料理にかけて……それはどういうものですか?」
「エイジ、見せてやった方が早いであろう。妾が見せてやるゆえ、さっさと出すのじゃ」
もう待ちきれぬとばかりにクラマが割って入る。
はぁ、仕方が無い。バーンズさんも見たいみたいだし、出してあげよう。
リクエスト通り、クラマとマイアにはマヨネーズを、ユーにはオーロラソースを小鉢に入れて出してあげた。
クラマはスプーンを使って全て肉にかけ、マイアは切り取った肉をマヨネーズに付けて食べている。ユーは少しずつ肉にかけて、足らなくなったらまたかけるようにしていた。
興味津々なバーンズさんにもマヨネーズとオーロラソースに加えて、ステーキソースとわさび醤油とからしを出してあげた。
一つだけだと口に合わなかった時に怒られそうな気がしたから、色々試して自分の口に合うものを探してもらおうと思ってね。
結果は全部大絶賛! 特にわさび醤油がお気に入りだったみたい。クラマにもマイアにもこのわさび醬油はあげた事が無かったから、なぜそのようなものを隠しておるのじゃ、さっさと妾にも寄こすのじゃ! と言って怒られたけど、別に隠してたんじゃなくて、忘れてただけなんだけどな。
調味料を試食したバーンズさんは商売魂が燃え上がったのか、レシピを売ってほしいと言い出した。
レシピって言われてもなぁ。あ、でも今なら衛星に言えば日本語で書いてくれるかも。
「私、マヨネーズとタルタルソースなら作った事があるわよ」
「おー! あなたも作れるのですね。まよねーずというのは、この黄色の調味料ですね。あなたでも結構です、いや、そういう訳には行きませんね。エイジ殿との交渉が空振りに終わった場合、あなたと交渉する事にしましょう」
ユーが作れるんならユーに任せてもいいかな。
「私には無理かな」
「おや、それは何故ですか?」
ホントなんで?
「この世界って酢が無いもの。マヨネーズには酢が必要なのよね」
え? 酢が無いの? だったら作ってる俺ってヤバくない?
「卵と塩に胡椒に酢にサラダ油。材料はこれだけなんだけど、酢が無いと美味しくないのよねぇ」
へぇ、ユーは料理のできる女の子だったんだね。好感度アップだよ。
「ふむふむ、卵と塩に胡椒に酢にサラダ油ですか……」
早速メモを取ってるバーンズさん。上昇志向だね、恐れ入ります。
「後で実演をして頂けますか?」
「別にいいけど、酢が無いのよ?」
「いえ、完成品がここにあるという事は、エイジ殿が持っておられるのでしょう」
ユーに実演交渉をしていたバーンズさんは俺に向き直り、頭を下げて来た。
「改めてお願いします。エイジ殿、まよねーずのレシピを買い取らせて頂きたい」
「は、はい。わかりました。でも、酢の製造方法まではわかりませんよ」
「そこは秘密ですか……いいでしょう、まずは材料と作り方を見せて頂き、こちらで判断しましょう」
別に秘密じゃないんだけどな。本当に知らないだけなんだよ。酒造りが関係してるはずなんだけど、酒の作り方すら知らないからね。発酵とか麹とか素人に分かるかってんだ。
食事や贈り物の事なんか吹っ飛んでしまって、ユーを連れて厨房にお邪魔する事になってしまった。他のメンバー、特にロンド姉弟はまだまだ食べる気だ。クラマとマイアは途中から酒に切り替えていた。
君達、自分の家みたいに寛いでない? 初めてお邪魔するお宅なんだよ? もうちょっと遠慮っていうものを覚えようね。
厨房に行くと、大勢いる料理スタッフを代表して、料理長と副料理長が立ち会う事になった。
俺は材料を出すだけ。ユーも自分の記憶を頼りに、量を見て確認している。
分量は衛星に言ってあるから、出した物全部を使えば丁度いいはず。
出してる材料を料理長と副料理長が少しずつ摘まんで味見をしている。塩、胡椒、卵。ここまでは彼らも知ってるものだった。サラダ油、これはこの世界には無いものみたいだ。
これは料理長の提案で植物系の油で代用できそうなことが分かった。
酢についても、柑橘系の搾り汁で出来そうじゃないかと副料理長が進言した。
後はユーが実演したが、これはただひたすらに混ぜるだけ。
ユーの場合は卵黄だけ器に入れて、塩、胡椒、酢を入れ、ある程度掻き混ぜる。これは卵黄だけにしなくても別に構わないと補足していた。その後、サラダ油を少しずつ入れながらある程度の固さになるまで掻き混ぜ続ける。
さらに完成後、さっきのカラシを入れても美味しくなるよって付け加えていた。
カラシマヨネーズね、確かに美味しいよね、好きな味です。
出来上がったマヨネーズを試食すると、それはマヨネーズだった。
当たり前なんだけど、作ったとこなんか初めて見たし、出来上がったばかりのマヨネーズなんか口にした事無いから俺は感動したよ。
それはバーンズさんも同じで、ユーの事を絶賛していた。
もっと煩かったのは料理長。「なんだこの味は! 革命だ! 料理の革命だ!」と騒ぎまくっていた。
確かにそうなのかもしれないな。
これから毎日、このバーンズ家の食卓にマヨネーズが並ぶとか、それによってバーンズさんが更に太ったとかの話は俺には関係ない話だ。それはマヨラーの乗り越えなければならない試練なのだから。
晩餐会のテーブルに戻ったら、プリとシェルはギブアップ宣言をしていた。どんだけ食ったんだろうね。ちょっとぐらい遠慮してくれよ。
クラマとマイアにはすぐに酒のお替わり強請られた。
元通りの席に着くと、さっきより窮屈な気がする。両サイドの二人が寄って来てるんだ。
もう食事は俺も終わってるし、いいんだけどね。
バーンズさんも席に戻ると、早速報酬を提示してくれた。
「エイジ殿、まよねーずの件、ありがとうございます。これは間違いなく大ヒット商品になるでしょう。そこでお礼の件ですが、エイジ殿とユー殿に白金貨で五〇枚ずつ用意しましょう」
「「えっ⁉」」と驚く俺とユー。だってマヨネーズの作り方だけで白金貨一〇〇枚ってありえない。レシピだって、自分達で考えたものではなく、元々自分達の世界にあったものだ。俺に至っては衛星にお願いしただけ。
それで白金貨一〇〇枚は貰い過ぎだ。
「いえいえ、勘違いしないでください。まだこれだけではありませんから」
いえ、不足だと思って驚いたのではなく、貰い過ぎだと思ってるんですけど。
「残りの謝礼は、情報です。あなた達は冒険者ですから、情報を差し上げましょう。『伝説の剣』の情報など如何ですか? この情報を知る者は極少数ですが、実在したという事は誰もが知っています。ただ、その所在が分からないだけなのです。その情報を差し上げましょう」
『伝説の剣』の情報。確かに凄そうだ。でも、その情報って俺にいる? 剣なんて使えないし、使う機会も無い。逆にそんなのを持ってたら狙われそうじゃないか。
お断りしよう。
「有り難いお話ですが……」
「『伝説の剣』! ありがとうございます! 是非教えてください!」
おい、ユー! 勝手に引き受けるんじゃないって。
「『伝説の剣』と言えば、オリハルコンの剣ですわね」
さすがにプリは知ってるんだ。
「あたしは拳だし、プリは斧だか槍だか分からない武器だから、あたし達には必要無いんだけど、ユー様にはお似合いよね~。これは是非協力させてもらうわ~」
確かに勇者に剣、必須かもしれない。しかし、この二人は勇者には甘いよな。
「この情報はお高いですよ。さすがに見返り無しとは行きません。こちらから提案した件ですが、一つだけ条件を付けさせて頂きます」
もう、話が進んでるのね。こういう時って、いつも話し合いに入れてもらえないよね。
「『伝説の剣』【七月剣】は子供の頃から聞かされる御伽噺に出て来る勇者の剣として有名ですが、オリハルコン製というだけではなく、付加効果や発動技も凄いという話です。詳しくは調べきれませんでしたが、この国の北隣のベルガンド王国の山中に隠されているという有力情報がありました。実際、私も見た事はありませんので、皆様が【七月剣】を手に入れた暁には、是非とも私に見せて頂きたいのです。それが唯一の条件です」
そんな事でいいんだ。でも、そのベンガルド王国って、もしかして魔族のパシャックが仕官した国じゃない? パシャックもその『伝説の剣』が目当てだった? それともただの偶然?
「ベンガルド王国のどこかの山中にエルダードワーフの里があり、そこにあるのではないかという情報が現在の最有力なのです。情報としては拙い情報ですが、この情報を得るだけでもかなりの資金を費やしました。今までエルダードワーフの里がどこにあるかも分からなかったのですから」
今もはっきりとは分かって無いが、ある程度まで情報が絞れたという点では凄い事なんだろう。これだけ情報通のバーンズさんが言うぐらいだからね、普通なら分からない情報なんだろうな。
「わかりました! 必ず【七月剣】を見つけて持ち帰ってみせます!」
右手でガッツポーズを決めて宣言するユー。
だから、なぜユーが決めるんだ! 俺にはやらなきゃならない事がいっぱいあるんだよ。
「ええ、私も微力ながらお手伝いさせて頂きます」
「もちろんあたしもよ~」
うん、三人共、頑張ってね。俺は別行動をさせてもらおう。だって、【星の家】や【星菓子】も気になるし、『封魔の剣』の事も頼まれてるしね。まだ地図の攻略も残ってるし、そんなのに付き合ってる暇は無いから。
三人いれば何とかなるでしょ。
「じゃあ、早速、明日出発でいいわね、エイジ」
「俺は辞めとく、三人で頑張って」
「え? エイジは一緒に行ってくれないの?」
ぐはっ! なに、その上目使い攻撃! 可愛いじゃないか。
「イージ? 私からもお願い。是非ユー様に力を貸してあげて」
ゴパッ! プリのその顔でお願いされて断れる奴がいたら呼んで来い! 俺がぶん殴ってやる!
「そうよ~、ユー様の為に一緒に頑張るのよ~。そして紆余曲折あって、あたし達の恋は燃え上がるのよ~」
……やっぱ辞めとこ。
「……あのさ、俺にはやらなきゃならない事があって、そんな剣にかまってる暇は無いんだ。ついでの用事があれば行かない事も無いけど、今は他の事が忙しいんだよ」
「用事ってなによ、私の剣より大事な事なの?」
おいおい、もう私の剣になってるよ。実はユーって剣フェチだった? いや、勇者フェチか? 勇者には剣、みたいなとこから来てんじゃない?
「私の剣って…だいたい剣はもう持ってるじゃないか。その剣じゃダメなの? 何か不都合でもあった?」
「……ない」
そんなに口を尖がらせて拗ねなくてもいいじゃん。不覚にもちょっと可愛いって思ってしまったけど。
「まずはフィッツバーグの町に戻って、何も問題無ければ行ってもいいけど、マイアだって一度戻りたいよね?」
マイア専用の畑も任せているとはいえ気になるだろ? これでマイアも味方にできるだろうから、それでも行きたいって言うんなら三人で行ってもらおう。
「そうですね、マンドラゴラとアルラウネの事は気になりますから、一度戻って様子は見たいですね」
「ね、マイアも俺と戻りたいって言ってるし、クラマも戻るよね?」
「妾はエイジの行く所であれば、どこでも構わないのじゃ」
へぇ、以外。レッテ山とか気になると思ってたけど、別にいいんだ。
「マンドラゴラ⁉」
あっ! しまった! ここにはバーンズさん達もいたんだ。
「マンドラゴラとは、伝説の薬の素材となる魔物ですか!」
「……」
どうしよう、言っていいのかなぁ。
「そうです。私でも生涯三度しか見ていないものを、エイジは軽々と見つけ出しました。本当に凄い主様です」
あ―! 言っちゃった。マイアが普通に言っちゃったよ。
「おおお! それは素晴らしい! 是非! 是非とも私にもお分け頂けませんか」
やっぱりそうなるよねぇ。沢山あるからいいとは思うんだけど、マンドラゴラとアルラウネはマイアに一任してるからね。俺には世話もできないし、薬にも出来ないんだから。
「愚かな。人間風情の手に負えるものだと思っているのですか? 傲慢にもほどがあります、あなたは人間が滅びてもいいと思っているのですか?」
え! そんなに危険なものだったの? そんな事言って無かったじゃない!
「い、いや、そんな事は思っておりませんが、伝承では取り扱いを誤ると麻痺や身体異常の攻撃を加えられる事があるとしか……」
「それは間違ってはいません。しかし、その効果範囲はご存知ですか?」
「い、いえ…」
「一本で半径一キロの効果範囲があります。気絶で済めばいいですが、心の弱い者は衰弱したり死に至る者もいるでしょう。それが一〇本、二〇本とあればどうでしょう。その効果は高まりますし、効果範囲も広がるでしょう。その結果がどうなるかは誰にでも想像できるでしょう? あなたは取り扱い方法をご存じなのですか?」
「い、いえ……」
「自分の欲に駆られるのは人間である以上仕方が無い事かもしれませんが、身の丈に合わぬ事をすれば後悔するだけでは済みませんよ」
「……はい、も、申し訳ございません」
ありゃりゃ、マイアがバーンズさんを言い負かしちゃったよ。
なんか、マイアが森の精霊してる……あ、合ってる。でも、意外だ……。
でも、そんな危険なものだったんだね。帰ったら衛星に厳重に結界を張ってもらわなきゃ。
【七月剣】の件は、宿に戻ってから相談する事になり、バーンズさんの屋敷からお暇する事にした。
またいつでも来てほしいと言われ、笑顔で見送られ、お城のようなバーンズ邸を後にした。
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