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「ここは異世界だよ」編

九話めぇ~ 「私は町です」

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「私のHPって65だった」

 ぷるんのHPが判明した。
 高えよ! 高すぎるよ!
 俺の二十倍以上じゃねえか!! 戦士強ぇよ!

 レベル1で65はおかしいだろう。ライアンだってそんなにないぞ。
 あのビビルンとかいう芋虫も一発だったし、どんだけ強いんだ。

 こいつ、俺の顔の皮を簡単に剥ぐし、素手でもジャイアントクマーに勝てたんじゃないのか?
 じゃあ、俺の死って何だったんだろうな。

「スキルも増えたよ。『野性化』だって。HPと攻撃力が攻撃のたびに増加していくみたい」

 増加!? なにその凶悪なスキル!!
 たしかに攻撃のたびにダメージは増えていた。あれは強かった。

 しかし、世の中甘いものではない。必ず副作用があるものだ。
 近寄ってはいけない。戦闘中はこいつとはなるべく離れよう。

 だが、あまりにもヒツジとの性能差を感じてしまうな。
 俺は増毛で、こいつは戦闘特化スキルか。

「ちゃんと食物連鎖だよね~」

 だよね~~。


 なんて言うと思うかぁああああ!!


 そりゃ俺のスキルは家畜としては上等なスキルだ。
 毛も取り放題だし死んでも復活するから肉も取り放題だ。

 あくまで家畜としてのな!!
 家畜だ。KACHIKU!! FU~!

「あとさ、前回シゲキ君がトゲで死んだじゃん」
「ああ、あれな」

 そうそう、トゲでダメージをくらって、その後に動こうとして死んだんだ。
 ダメージをもらったあとの行動にも気をつけないとな。

「あれさ、関係なかったみたい」

 ゲームとかではHPが1だけ残っても生きている。
 どんなに活発に動いても生きている。
 なるほど、たしかにおかしいよな。

「じゃあ、何が原因だ?」
「私がシゲキ君にトゲ戻したじゃん。あれがダメージ1だったみたい」

 お前かぁあああああああ!!
 お前が殺したのかぁあああ!
 シゲキ二匹目を返せ!!

「いいじゃん、また増えるんだし」
「そりゃそうだが、俺の命ほど安いものはないな」

 ガンダムの主人公が言えばカッコイイけどさ、俺が言うと哀愁漂うよな。
 だんだん命が軽くなっていくな。

「なんだよ、そんなに強いんだったら俺戦わなくてよかったじゃん」

 ぷるんのHPが高すぎる。たぶん攻撃力も素でかなり高いんだろうな。戦士だし。
 しかも今は黒サイを持っている。最低でも攻撃力+1は間違いない。

「黒サイさ、攻撃力+13みたい」

 高い!! サイってやっぱり強いんだな。
 なんだ、楽勝じゃないか。

「でも、呪われるって」

 えぇぇええーーー!

「丸太に近寄っちゃダメってお告げがあった」

 トラウマだよ!!
 リーパのお父さん、死に方に納得してないって!

 そりゃ死んだあとに迎えに来てくれた人に「あなたの死因は、丸太ではっちゃけたことによる圧死です」と言われたら立ち直れないよな…。
 肥溜に落ちて死んだもやりきれん。

「私が強くてもシゲキ君は弱いままだよ。いいの?」
「俺は不死身だからいいんだよ」

 たぶんな。たぶん不死身だと思いたい。
 回数制限とかあったら嫌だけど試す勇気はない。
 やっぱり痛いし。

「でもさ、もし穴とかに落ちて身動き取れなくなったら永遠に死んでは生き返ってを繰り返すんだよ。それかモンスターに囲まれたらどうするの? 死んだとしても巣に持ち帰られたら?」

 たしかに!!
 久々にぷるんの言葉に納得したな。

 まあ、久々ってのがこいつの性根を表しているが、この言葉は妥当だ。
 俺は永遠に食われ続けるかもしれん。それだけは嫌だ!!

「だからね。シゲキ君にも強くなってもらおうとしたんだよ。結果は残念だったけど」

 お前、知ってたなあああああ!!
 自分のHPを知ってやがったなぁあああ!

 そのうえで俺をたきつけたんだ!
 ビビルンのことも知っていたし、計画的犯行か!

「私だって真っ先に殺したいの我慢したんだから、おあいこだよ」

 えぇ~~…殺したかったんですかぁ?
 俺、そんな衝動覚えたことないよぉ。
 こわいよー。

「あっ、町だ!」

 舗装されていない田舎道をずっと歩いていくと、遠くからでも比較的大きいとわかる町が見えてきた。
 レンガ調の洋風建築ってやつか。よく海外に行く旅番組とかで見る景色だな。なんだかちょっと感動だ。

 リーパから聞いた情報では「アイアムタウン」という名らしい。
 中二の俺からすると「私は町です」って名付けたやつの顔が見たくなる。

 まあ、もしかしたらタウン先生が作ったのかもしれんし、そこはツッコまないでおこう。
 関係ないが俺は「街(まち)」と書いた字が好きだ。

 なぜかって? スラム街とか好きだし。町じゃ平和っぽく見えるからな。
 漢と書いて「おとこ」と読むのと同じだ。
 街と書いて「まち」と読む。
 うん、カッコイイ!!

「あっ、モヒカンだ」

 ちょっと平和な「町」に憧れたが、人間いろいろな人がいるもんだ。
 気にするな。

「あっ、火炎放射器持ってる」

 気になる!! すごく気になる!!
 街こわい。やっぱり町がいいな。
 平和が一番だ。汚物は消毒だーとか怖いよな。

「そういうお兄さんは素通りしようぜ」
「あれはおばちゃんだよ」

 バカな!!
 どんだけファッションセンスあるおばちゃんだよ!!

 火炎放射器を持ったモヒカンのおばちゃんは、さすがに世紀末救世主伝説にも出てこなかったな。
 レベル高いぞ、この世界。
 だが、入り口にいる以上は仕方ないので挨拶をしよう。

「こんにちはー」
「ああ、こんにちは」

 ぷるんが挨拶すると普通に返してきた。
 なんだ、いい感じのおばちゃんじゃないか。

 この世界じゃヒツジもしゃべるからな。
 俺も普通に挨拶しよう。

「あっ、ちーす」 
「なんだい、この汚いのは」
「ぎゃあああああ!」

 おばちゃんが火炎放射器で俺を燃やす。
 熱い、熱い!! 羊毛がぁあああ!
 火だるまになった俺はごろごろと道の砂で消火活動を行う。

 ゴロゴロゴロゴローー。
 グチャ。ガス!

 踏まれたーーー!
 ゴロゴロしているときにモヒカンおばちゃんに踏まれたーーー!

「あっ、それゴミじゃないです」
「そうなのかい?」
「見ればわかるだろううう!!」
「シゲキ君、真実は残酷なんだよ。見たらゴミでしかないよ。顔黒いし、誰だって潰したくなるよ」

 そこで差別するなよ!
 俺たち仲間じゃないか!
 そう誓ったよな、あの時!(手を拭いた時)

「え? …うん、そうだね」

 間があった!!!
 間があったよ、今!!!?
 ねえ、あったよね!?
 しかも最初に驚いたし!

 まったく、いきなりおばちゃんの洗礼を受けたな。
 町のイメージが一気に悪くなった。

「シゲキ君から美味しそうな匂いがするよ」

 労る代わりにこんなこと言いやがるやつが隣にいる。
 それにしてもなんで火炎放射器なんて持っているんだ?

「ああ、芋虫が多いからね。駆除だよ」

 おばちゃんことマッド・スズキさんが火炎放射器を持っている理由を説明してくれる。
 ああ、あのビビルンってやつか。

 どうやらあいつは炎が苦手で、軽く放射するだけで逃げていくらしい。
 それは俺も害虫に見えたってか?

 反論してやりたいが相手は凶器を持っている。ここは耐えよう。
 こういうときはさ、下手に出るのがいいんだよな。
 そう、まずは天気とか他愛もない話をしてだな…

「スズキさんのモヒカンは地毛ですか?」

 どんだけストレートに突っ込んだの!?
 ぷるん、どうしてそこに疑問を持っちゃったの?

 入っちゃったよ! ストレートだよ!
 そりゃ女性はウィッグとか使うけどさ。
 いきなり聞くなよな! 刺激するなよ!

「これは一族だよ」

 受け答えおかしい!!
 地毛かどうか聞かれて一族と返すのはおかしい!
 って、一族なの!?

「知らないのかい? あたしたちは【モヒカン族】さ」

 ちょっとーーー!
 白ヒツジ族の次は黒ヒツジ族と来るのがセオリーだろう!?

 ヒツジの次にモヒカン族が来るってどうなの?
 じゃあ、次はいったい何なんだ。予測できねーよ!

「この町の人間はだいたいモヒカン族だよ」

 モヒカン率八十パーセント超えなの!!?
 怖い。モヒカンの町だなんて、ゲームの世界でも怖い。

 やはり指導者は覇王なんだろうな。
 馬がモヒカンたちの頭を潰しながら歩く姿は憧れるけどさ。

「じゃあ、換金しに行こうか」

 ビビルンから剥ぎ取った素材のことだ。
 牧場物語の世界では、こうした素材を換金する場所があるらしい。
 今はその知識に頼るしかないな。


 そして、換金所に着いた。

 ふーん、大きな市場みたいなところだな。
 とりあえずぷるんに従って一つの建物に入っていく。ちょっとテントっぽいな。

 そこにいた若い兄ちゃんに、ぷるんがかけた第一声がこれである。

「おい、お前。買え」

 え?
 今なんて言ったのぷるんさん。
 こういうときはもうちょっと違う言葉があると思うんだよな、良識人の俺としてはさ。
 ねえ、みんなもそう思うよね?

 初対面の人に対する接し方ってあるよね?
 だいたい敬語だよね。

「おい、さっさと買え!」

 そう言ってぷるんはビビルンの触角を机に置く。

「えっ? いやでも…これって…」

 店の兄ちゃんは戸惑う。

「ふざけるな。さっさと金を出せ!! 待たせるんじゃない!」

 黒サイをちらつかせるぷるんの恫喝じみた言葉に、兄ちゃんの顔が真っ青になる。

「は、はい! すみません! 今すぐ持ってきます!」
「待たせるなよ! 余計なことをしたらどうなるかわかってるんだろうな!!?」

「は、はい! めっそうもございません!」
「早くしろ! ぐずぐずするな! 死にたいのか!」
「はい!」

 え? ええ?
 なんか、これでいいのか?
 あまりの出来事に俺は右往左往するしかない。

 二十秒後、慌てて金を持ってくる店員の兄ちゃん。
 かなり慌てているな。お金がぼろぼろ落ちているくらい慌てている。

 見ているこっちが哀れに思えるが…
 これが正しいやり取りなんだろうな。

「おい、これで全部か!!!」
「は、はい! うちにあるのはこれがすべてです!」
「少ないが…まあいいだろう」

 金を確認するぷるん。それからさらに店員をにらみつける。

「いいか、次こんなずさんな対応しやがったら、ただじゃおかないぞ。覚えておけ!! このビチグソが!」

 そう言って黒サイをカウンターに突き刺してみせる。
 ひぃーーー! すげー根本まで刺さった! こいつの腕力つえぇーー!
 女戦士って強いぞ、いやマジでさ。

「は、はい! 申し訳ありません!」

 店員はただただ恐れおののいていた。

「それと、そこの招き猫の中身もよこせ」
「はい!!」

 そう言って招き猫を割って中身も取り出す。


 そして、俺たちは外に出た。
 見事交渉成立だった。

「俺、この世界に馴染めないかもな…」

 さっきの取引の仕方を見ていて思ったよ。
 ちょっと今まで住んでいた世界と慣習が違いすぎるっていうのかな。

 ああいうのって大変だよな。喧嘩ごしだもんな。
 いくらゲームの仕様とはいえ馴染めるかな、俺。
 日本は平和な国だったしな。

「シゲキ君、交渉だって命がけなんだよ。なめられたら終わりだよ」

 それはわかるよ。生きていくためには金が必要だ。
 特に違う世界で生きる以上は、少しでも多く稼がないとな。

 ぷるんが正しいのかもしれん。
 こいつはゲームの知識がある。多少気になっても信頼しなければなるまい。

 頼りにしているぜ、ぷるん!


「あっ」

 ぷるんが何かに気がついて立ち止まる。

「なんだ、どうした?」
「さっきさ、素材換金所だったよね?」

 まあな、お前がそう言っていたしな。
 はっきり言って俺は知らないから、そうなんじゃないかとしか言えないが。

「換金所の受付って、だいたいモヒカンなんだよね。でも、あの人違ったよね」

 そういえばモヒカンではなかったな。
 一般的な男性の髪型というか、長くもなく短くもなく、どちらかというと真面目そうな青年って感じだ。

「う~ん、なるほどね」

 つまりどういうこと?
 え? 何? 何かすごく嫌な予感がする!


「ええとね、簡潔に言うとね」










「お店間違えちゃった」







 だと思ったよぉおおおおお!


 さっきのやり取り、誰が見てもおかしいもーーーーーん!!!



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