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「牧場を拡張しよう」編

四十三話めぇ~ 「悪魔の帰還だね」

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「ようやく着いたか…」

 ここはマイゴールドの町。
 昨日出立したばかりなのでたいした時間は経っていないが、なんとも長く感じたな。
 やっぱり全滅寸前というのがトラウマだ。
 あれは非常に精神的に疲れる。

 そんな俺が真っ先に向かったのは冒険者ギルドである。
 どうしてかって?
 そりゃ今後の危険をより減らすためさ。

 俺は冒険者ギルドに入ると、すぐにカウンターに向かってこの情報を引き出す。

「すんません。このあたりの地図と賞金首情報を知りたいんすけど」

 そう、賞金首だ。
 つまりは賞金がかかっているボスクラスの相手の情報を得るためである。

 サンドシャークもそうだったが、実はボスの居場所はすでにわかっていることが多いようだ。
 それでも手に負えないからボスなのであって、意図的に隠匿されているわけではない。

 なので、まずこの情報を得ておくべきだった。
 もし知っていたらグラップラーブルドーザーに対する警戒もできたはずだ。
 知らないから無茶をしたのだからな。

「おう、ぷるん牧場のシゲキだな。これが新しい地図だ」

 すごい渋い声だ!!
 声優さんでいえば玄田さんのような声をしている。

 玄田さんはシティハンターの海坊主だな。
 あるいは洋画のシュワちゃんでもOKだ。
 かっけーよな。

 その声に惹かれて受付の顔を見ると…

 え? 子供!?
 俺の頭が一瞬混乱に陥ってしまったが、その声の主はなんと子供のような体格のモヒカンであった!

 え? え? どういうこと?
 俺の見間違いか!?

「ん? 俺の顔に何かついてるのか?」

 見間違いじゃねええええええ!!
 やっぱりこの子供が渋い声の主だ!!

 ネリー・モヒといい、冒険者ギルドの受付ってどうなってんだ!?
 というかモヒカン族自体がもうよくわからないよ!!

「い、いえ。なんでもないっす」
「賞金首情報もそれに載っているからな。よく見ておけよ、坊や」

 どう見ても相手のほうが坊やなのだが、その言い草からベテランなのだろう。
 まあ、世の中には老け顔の若者がいたり、逆に若い顔の年寄りがいたりするものだ。
 人生というのは奥深いな…

 この渋いモヒカン、シブ・モヒに驚いたせいで、最初の「ぷるん牧場のシゲキ」という単語が完全に霞んでしまった。
 俺ってもうそういう扱いなんだな。
 そのおかげでギルドに入れるからいいけどさ。

 かといって、シゲキ牧場のシゲキってのもさすがに恥ずかしいな。
 やっぱり俺は荒ぶる牙でありたいと思う。
 牙ないけどな。

「あの、グラップラーブルドーザーって知ってます?」
「ん? 瓦礫センターのやつか。遭遇したのか? 生身で戦うなんて無茶をするな」

 シブ・モヒは「やれやれ、これだから素人は」といった様子で首を振る。
 グラップラーブルドーザーの賞金は800万。
 よほどの戦士でもいない限り到底生身で対抗できるような相手ではないとのこと。

 サンドシャークの賞金が70万だったことを考えれば、たしかに段違いの値段だ。
 それだけ強い相手ってことだろうな。

「お前さんみたいなルーキーは無理をしないほうがいい。敵を知らないと死ぬぜ」
「了解っす。それともう一つ。デンコの情報ってあります? なんか地図に載ってないみたいなんですけど…」

 俺はざっと地図を見てみたが、瓦礫センターのところにはグラップラーブルドーザーの名前しか載っていない。
 たしかデンコも賞金首とか言っていたはずだ。
 それが本当かどうか確かめたかったのもある。

「デンコに会ったのか!!」
「え、ええ」
「ふむ……」

 俺がデンコの名前を出すと、シブ・モヒはさらに渋い声を出して唸る。
 え? どういうこと?
 デンコのことは知っているのか?

「お前さん、よく無事だったな」
「え? まあ、そんなに凶暴でもなかったし」

 デンコは他のモンスターとかと違って、いきなり攻撃してくることもなかった。
 ちょっと、いや、かなり危ない人間ではあるが普通に会話できる相手だと思う。
 その意味ではグラップラーブルドーザーより印象はだいぶ良いな。

 しかも一応女の子属性を持っている。
 女の子というより女性というべきか。
 何はともあれ、ヒツジや芋虫がでしゃばるこの小説では大切にしたい存在だ。

 だが、デンコの名前を聞いたシブ・モヒは態度を一変させた。
 どうしてだ?

「デンコ。本名は灯・電子(とう・でんこ)。あいつはたしかに賞金首さ。だが、このあたりのハンターじゃ対応できないから書いてないのさ」

 シブ・モヒはそう言うと、机の一番下の引き出しから一枚の紙を出してきた。
 それはよく西部劇とかでありそうな指名手配の張り紙のようなものだ。
 そこにはデンコの顔写真と一緒に詳細情報が書かれていた。

「え? 推奨レベル50以上―――!?」

 各賞金首には強さのレベルが設定されているようで、対応ハンターの推奨レベルも設定されている。
 強すぎる相手に挑んでも死ぬだけだしな。
 冒険者ギルドも無駄に死人を増やしたくはないとの配慮だ。

 ちなみにサンドシャークの対応推奨レベルは5以上。
 ぷるん曰く最初のボスらしいので、たしかにそれくらいのレベルが妥当だろう。
 俺たちもレベル3くらいで対応したしな。

 そして、デンコの推奨レベルは、なんと50!

 いやいやいや、それは盛りすぎじゃね?
 だって、普通の女、お姉さんだったよ。
 そんなに腕力だって強そうじゃなかったし…

「だから坊やなのさ。お前さんにわかりやすく言うと、やつの推定HPは4800以上だぞ」

 嘘だろぉおぉおおおおーーーー!?
 HPが五千近くあるっておかしくね!?
 だって、けっこう華奢な女だったぞ!?

 しかも4800という数字がリアルだ。
 本当にそれくらいありそうだぞ。

「そうやって見た目に騙されて殺されたハンターは数知れずだ。今まで三十人あまりが忠告を聞かずに狩りに出たが、焼け焦げた死体になって戻ってきたよ」

 マジかよ…!!
 あいつ、そんなヤバイ相手だったのか!?

 ふと俺が賞金の蘭を見ると…

「賞金が30億円!?」

 おいおいおい、数字がおかしいよ!!
 ちょっと桁が違いすぎて何も言えねえ!!

 この世界で30億あれば、一般人はもうそれだけで生きていけそうな額だ。
 いや、その半額だって十分なレベルだぞ。
 牧場が400万(負債含む)くらいで買えるからな。

「賞金の額が強さと比例するわけじゃない。デンコの場合は、賞金をかけたのは被害者の会だからな」

 賞金には二種類あるという。
 一つは国が安全確保のためにかけたもの。
 これは国が依頼人ということになっている。

 国は一定の基準に沿って値段をつける。
 やっぱり国なので全体的に低めの値段になるそうだ。
 たしかに税金は無駄遣いできないしな。

 もう一つは特定の個人や組織などがかけるもの。
 当然、それなりの理由がなくてはかけられないが、法で裁けないような凶悪犯罪者などにかけられることが多い。
 後者の場合、相手の強さに関係なく高額になることもあるらしい。

 デンコに賞金をかけたのは、あいつに家族を殺された被害者たちみたいだな。
 そりゃ千人も殺せば恨まれるよな。

「ちなみに賞金は被害者の保険金から捻出されているらしいぞ」

 …大丈夫か、それ?
 中には意図的にデンコに送り出したやつもいそうだな。
 怖い。怖い。あまり詮索しないほうがいいな。

「ところで、デンコのそばに大男はいたか?」
「ああ、フランガーとかいうやつだろう?」

 あの頭の悪いフランケンシュタインみたいなやつだな。
 俺の中ではゴミ拾いのイメージしかないが…

「やつにも気をつけろよ。デンコよりもあいつが危険だ。一度暴走すると手がつけられないぞ。あいつも対応レベルは50以上だ」

 あっぶねぇえええええーーーーー!!
 俺、危うくあいつに攻撃仕掛けるところだったよ!!

 ファンタたちがカゴに入れられて連れていかれた時、危うく攻撃しそうになった!
 もし攻撃していたら……
 今頃全滅していたのは間違いないな。

 しかもその場合、ファンタやマダオ、ティコも死んでいただろう。
 そうなれば完全なる全滅。
 レスキューで運ばれるのだろうが、俺以外は死んだままだろう。

 その最悪の未来を思い浮かべて、さすがの俺も顔が引きつる。

「何にせよ、あいつらに喧嘩を売らないことだ。命が惜しければな」
「…了解っす」

 …どうしよう。すごい仲良くしちまった。
 今から他人のふりとかできないし、付き合っていくしかないよな。

 なんか急に気分が悪くなってきたよ。
 この世界、こえーよ。



「おう、早かったな。Cユニットは手に入ったか?」
「それどころじゃないって。全滅寸前だ」

 それから俺はモヒ兄ちゃんのところに帰って現状報告をする。
 そうそう、このモヒ兄ちゃんの名前は鉄五郎っていうらしい。

 さっき冒険者ギルドで聞いたら教えてくれた。
 けっこうこのあたりじゃ有名なメカニックらしいな。
 組合に入っていないメカニックの中じゃ、かなりの腕らしい。

 モヒカン族もいろいろいてな、鉄五郎はかなりまともな部類っぽい。
 俺も異世界に来てからモヒカンばかり見ているが、その中ではかなり真面目な人だな。

 思えばモヒカン族って、実は案外真面目な人が多い気がするな。
 マッド・スズキさんも門番していたし、ネリー・モヒやシブ・モヒも真面目に対応してくれていた。

 多少癖は強いが、本質的には良い人たちなのかもしれん。
 喧嘩っぱやい人たちなのはたしかだが。

「ここいらの敵を甘く見ていたよ」
「そういやお前たちはここに来たばかりだったか。それなら仕方ねぇな」
「それでエンジンのほうは?」
「そっちはもう終わってるぜ。たいした損傷じゃないしな」

 鉄五郎はすでにエンジンの修理を終えていた。
 俺たちが行って数時間後には終わっていたらしい。

 しかも一度分解して掃除までしたらしく、素人の俺が見てもピカピカだ。
 この人すげーな。マジでメカニックだぜ。

「オジキぃ、俺の目はー?」

 …そうだった。
 一応再生カプセルは飲ませたがマダオの目は治らなかった。
 デンコも治らないって言っていたしな。
 そう考えると目ってけっこう大切な器官だよな。

 だが、デンコから一つ情報をもらった。
 どうやら生体改造というものがあるらしい。
 文字通り肉体を改造する技術だ。

 これにも二種類あって、バイオ改造は肉体をそのまま強化するタイプの改造。
 危険な薬物や増強剤を使って強化するもののようだ。
 大リーガーが違法な薬物で筋肉ムキムキになるような感じだろう。

 もう一つが機械化改造。
 体の一部、あるいは大部分を機械化する技術らしい。
 アンドロイドに使われる技術らしく、さすがに全部を入れ替えるってのは難しいらしいが、一部分ならけっこうやっているやつもいるとか。

 デンコは再生カプセルを作れるくらいなので、医者のカテゴリーに入る人間だ。
 もちろん、あいつは電気一直線なのでそんな技術は持っていない。
 あくまで知っていたにすぎない。

 だが、この技術を使えばマダオの視力も回復できる可能性はあるらしい。
 それだけは光明だな。


「あー、自信失っちまったな…」

 俺はぐったりと床に寝転ぶ。
 いつの間にかヒツジとして振る舞うことに慣れちまってるな。
 どこだろうがうずくまるだけで休めるぜ。

 ちくしょう…。
 やっぱり俺だけじゃ駄目なのか。
 ヒツジだもんな、俺。

「おい、何ちんたらしてやがる。Cユニットはどうする?」
「行くけどさ。なんか疲れてな…」

 俺は好きで異世界に来たわけじゃない。
 異世界に来て優越感を感じるとかいう状況でもない。
 むしろヒツジになって劣等感がさらに倍増した感じだ。

 そんな状態でやる気を出せってのは難しいよな。
 しかも死んでばかりだしさ。

 俺の周りってモンスターしかいないし。
 なんていうか華がないんだよな。

「おっと、そうだった。お前さんに伝言だ。どうやらお前を待っているやつがいるみたいだぜ」
「え? 俺を?」
「ああ、女の子だな。戻ったら伝えてくれってさっき来たぜ」

 女の子?
 それってリーパのことか?
 牧場から帰ってきたのか!

 これで少しは楽に……ならないな。
 どうせまた「もっとがんばって稼げ」とか言われるんだろうな。
 幼女は可愛いんだけど、それはそれでつらいぜ。

「表通りの飯屋にいるってよ」
「飯屋ってどこの?」
「表通りに飯屋は一軒しかねえよ。見りゃわかる」
「はいはい、行ってくるよ」

 つーか、俺もう完全に鉄五郎と馴染んでいるな。
 まあ、この兄ちゃん自体が寛容というか、俺がヒツジであることを普通に受け入れているからな。
 そのあたりに助けられているよな。


 俺は外に出て、指定された店に行く。

 ガレージが並ぶ裏側は表通りになっている。
 といっても、このあたりは閑散とした郊外のエリアなので、飯屋が居並ぶ商店街のような場所はもっと中のエリアにある。

 なので、表通りの飯屋はまさに一軒しかない。
 そこは一般的な飯屋のようで、レストランとかいう感じじゃない。
 どちらかというと定食屋、小さな中華料理屋みたいな店だ。

 リーパのやつ、こんなところで待っているのか。
 お腹でも空いたか?

 いいよな、俺は草しか食えないしさ。
 と、やっぱりネガティブモードだぜ。

「おい、リーパ、今戻った…」

「あっ、お帰り」

 俺が店に入った瞬間、なんとも懐かしい台詞を聞いた。
 お帰りか。
 ここが本当に元の世界の自宅だったならばどれだけ素晴らしいか。

 だが、その言葉は俺の心に刻まれた懐かしい感覚を呼び起こす。
 どこか懐かしくて、どこかくすぐったい。
 そんな声だった。

 そして、俺の前にいたのは…



「ぷるん!!!」

「やっ、元気だった?」

 嘘だろ…
 俺の目の前には、あのぷるんがいた。

 そうだ。
 ジープに激突して意識不明になった、あのぷるんだ!
 お、おいおい、どうしてこいつがここに…

 いや、生きていたのか!!

「ぷるん…」
「シゲキ君…」

 俺とぷるんは見つめあう。
 ただただお互いを見つめあう。

 お互いに言葉はいらなかった。
 だって、こいつと俺の関係は言葉なんかで示せるようなものじゃないからだ。

 だが、ここはあえて言葉に出して意思表示をせねばなるまい。
 そう、心のままに言葉を紡ぐんだ。

 その言葉は…


「どうして起きてきたんだよぉおおおおおおおおおおおおおおお! 帰れ! 眠れ! 二度と起きるな!!」

「えーーーー!? なんでーーーー!?」

 悪魔が目覚めちまったよぉおおおおおおおおおおお!

 終わった。俺の人生終わった。
 もう二度と明るい人生なんてないことが確定した。
 最悪の気分がさらに最悪になったよ!

「だって、そうだろう! この悪魔め!」
「シゲキ君、酷いよ」
「酷くない! お前が今までやってきたことを考えれば酷くない!」

 俺が今までどんな目に遭っていたか!
 どれだけ苦しかったか!
 お前にはわかるまい!

「シゲキ君だけじゃ視聴率取れないから戻ってきたのに」

 視聴率とか言うなよぉおおおおおお!!!

 そりゃヒツジだもんな!
 俺だけで引っ張るのって無理があるよな!
 リーパもいない俺に価値なんてねえよ!

「すごくネガティブモードだね」
「そうだ。俺はすごく凹んでいるのだ! だが今もっと凹んだよ!」
「またまた、嬉しいくせに。シゲキ君はやっぱりウンコだなー」

 だから伏字!!
 もう分別ある年齢なんだから伏字!!
 そこは徹底しようぜ!!

「シゲキさん、調子が出てきましたね」
「リーパ、戻っていたのか」
「はい、私が牧場に戻ったら、ぷるんさんが目覚めていました」

 となると、俺が瓦礫センターに旅立った時、昨日の昼頃か。
 もうあの時には目覚めていたのか。

「すぐに教えたかったのですが、シゲキさんは牧場呼び出せないですし」

 え? リーパは知ってたの?
 知っていたなら教えてほしかったよ!!!
 それを知ったときの俺の絶望感半端なかったよ!!

「どうせダンジョンじゃ呼べないじゃん」

 たしかにぷるんの言う通り、瓦礫センターでは牧場は呼べない。
 あそこは一応ダンジョン扱いだからな。
 だが、知らないのは俺だけってのも気分が悪い。

 ちくしょぉおおお!


「それはそうと、呪いにかかっていたんじゃないのか?」

 俺の記憶によれば教会でも治療できなかったはずだ。
 それがどうして治った?

 まさか本当にご都合主義じゃないだろうな。
 もしそうなら仕方ないけどさ。
 たいていの物語ってご都合主義で構成されているけどな。

 そういえばCALⅢではご都合主義について厳しく注意していた気がするな。
 パソコンではアダルトゲームだったようだが、俺がやったのはPCエンジンのほうで普通のノベルだった。

 猫耳の準ヒロインみたいな子の声優さんが平野文さんでな。
 めっちゃラムちゃんなんだ。

 俺は感動したね。
 それだけでもうすべてが許された気がする。
 ただ、CALⅡのPCエンジン版を買ったときは、アダルトゲームを期待していたので、面白かったが多少なりともショックはあった。

 そりゃPCエンジンでアダルトはないわー。
 とはいえ、近所の中古屋ではスーファミのエロゲーが売っていたので、思春期な男子が勘違いするのも仕方がない。
 あれはけっこうな衝撃だったな。

 ただ、値段が六千円くらいした記憶が…
 名前はモロな感じなので伏せておこう。
 「スーファミ エロゲー」で検索すればすぐに出るはずだ。

 画質的には「あゆみちゃん物語」風だった記憶があるが、もはや定かではない。

「うーん、なんて説明すればいいのかな。実はあれ、戦闘でやられた傷が原因じゃなかったんだよね」
「ん? どういうことだ?」

 俺が見た限りでは、ジープに体当たりされて吹っ飛んで意識を失った。
 駆け寄ったら頭から血が出ていたので怪我をしたはずだ。

 俺は見たぞ!!
 ご都合主義は許さん!!

「あはは、あれはちょっといろいろあってね」
「だからそのいろいろってなんだよ!」
「もー、シゲキ君はしつこいなー」


 ぷるんはシゲキを叩(はた)いた

 どっごーん
 シゲキは壁に突っ込んだ

 店の壁が破壊された


「うごおおおおーーーーーー!!」

 ぷるんのビンタが俺に炸裂。
 恐るべき威力で吹っ飛んで壁に穴が空いたーーーー!!

 これギャグ漫画でよく見るやつだよ!!

「違うよ、義風堂々で壁に頭突っ込んで死んだ人だよ」
「あれもギャグじゃねーか!!」

 もはやあそこまでいくとギャグでしかない!
 真面目なのかギャグなのかよくわからないよ!!

 しかし、こいつの暴力は相変わらずだ。
 もっと遠慮しろよな。

「本当に軽く押した感じだったんだけどな」
「それが痛いんだよ! すごく!」

 話すときになぜか人のことを叩くおばちゃんという生き物がいる。
 あれってけっこう痛いんだよ。
 俺が子供の頃なんて、赤い手形ができたくらい強烈だった。

 ぷるんのそれは、おばちゃんの張り手を何十倍にもした威力だ。
 即死しなかったのは俺のレベルが上がっていたからとしか思えない。

「ぷるんさん、シゲキさんには見せたほうが早いですよ」
「そうだね。じゃあ、これ見てよ」

 リーパに促され、ぷるんがこちらに頭を下げる。
 おっ、こいつが頭を下げるなんて初めて見たぞ。
 少しは礼儀ってものを知ったか?

「違うよ、ほらここ」
「…あっ! ツノだ!!」

 ぷるんの頭には、俺が見てもはっきりわかるほどのツノがあった。
 何センチくらいだ?
 もう五センチくらいあるんじゃないのか?

 実はヒツジ戦士にもツノがある。
 というより白ヒツジ族には大なり小なりツノがあるものなんだ。
 リーパの頭にも、今はまだ見えないがツノがある。

 そして、ぷるんにもツノがあったが、リーパ同様まだ見えない程度だったはずだ。
 それが伸びた。めっちゃ伸びた!
 ラムちゃんくらい伸びた!!

 どうなってんだ?

「ぷるんさん、おめでとうございます」
「いやー、そう言われると照れるよ」
「それじゃ、お祝いの料理を出すように頼んできますね」

 リーパはそう言って店の奥に消えていった。
 お祝い? 料理?
 何の話だ?

「シゲキ君、ヒツジ族のツノが伸びるってことは成長した証なんだよ。つまりは大人になったってこと」

 ううん?
 まあ、俺たちはまだ子供だから、成長すれば大人になるのは当然だ。
 白ヒツジ族にとってはその基準がツノの成長ってことなのだろう。

 日本だって元服の時は儀式みたいなことをしていた。
 今だって成人式ってあるしな。
 どこの世界だってそういうことはあるだろう。

「そういやお前、髪の毛伸びたか?」
「うん、ちょっとだけね。これも大人になったからかな? まあ、また切るけどね」

 そう言われるとなんだか少し大人びた気もするが…
 そんなものは言われたからそう思うだけで、やっぱりいつものぷるんだな。

 起きたのはめでたいことだ。
 前よりも元気かもしれないくらいだ。

 だが、俺の中ではまだつながらないことがある。

「それとジープの一件がどうつながるんだ?」
「本当にシゲキ君はにぶいなー。あの血がそうだったんだよ」

 は? 血?
 え? え? 意味がわからない!?
 ちゃんと言葉で言ってくれないとわからないって!?

「だから、あの時に初めてが起こったんだって」

 初めて? 初めてで血を流す?
 いや、俺の中ではもうあのことしか思い浮かばないが、きっとこれは違うはずだ。

 罠。これは罠だ。
 俺は何かの罠にはまろうとしている!!

「それでね、シゲキ君にお願いがあるんだ」
「え? え? な、なんだ?」

 俺の頭はもうパニックだ。
 さっきのエロゲーの話題で頭の中が違うことで一杯だし、ぷるんの状況もいまだに理解していない。

 だから油断していた。

 ぷるんが悪魔だってことを、ついうっかり失念していたんだ。



「シゲキ君、ごめんね」



 ぷるんの攻撃

 ズバーーーーー!
 ニッキーで切り裂いた


 ブシャーーーー




「ひ…、ひでっ…ぶっ」





 シゲキは真っ二つになった










 シゲキは死んだ







 なんでーーーーーーーーーーー!??

 なんで俺、殺されたの!?

 しかも防具もろとも真っ二つにされたよ!!

 あいつにとっちゃ、こんなもの紙切れってか!?



 この悪魔めぇえええええええええええええ!!


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