上 下
44 / 45
「牧場を拡張しよう」編

四十四話めぇ~ 「元の世界に行ったよ」

しおりを挟む

「いやー、久々の更新だね」
「だから更新とか言うなよ!!」
「作者にだってリアルをがんばる権利があるんだよ」

 だから、作者とか言うな!!
 作者ネタは減らすって話じゃないのか!?
 まったく、こいつが戻ってくるとろくなことにならないな。

 そう、一番ろくなことではないのが…

「なんで俺を殺したんだよーーーーーー!!!」

 そうだ。いきなり殺された。
 こいつに殺されたのは初めてではない。
 あの時もこの時も、そんな時だって!!

 え? 俺ってけっこうこいつに殺されてね!?
 ぷるん、お前ぇええええええ!

「あの時はシゲキ君の蹄が汚いから手を拭いただけじゃん。それで死んだの自分だよ」
「そこをクローズアップするなよ!!」

 もうだいぶ前だが、そんなこともあったな。
 トラウマだよ! めっちゃ傷ついたよ!!

 こいつは他人に精神的ダメージを与えることもあるから怖い。

「シゲキ君、ごちそうさま」
「シゲキさん、ごちそうさまです」

 え? 食べたの!?
 俺を食べるために殺したの!?
 しかもリーパまで食べたみたいだし!!

「オヤジ殿、ごちそうさまです」
「オジキぃ、いい味してたぜー」

 お前たちも食うなよぉおおおおおお!!
 俺が死んでいる間に何やってんだよ!!

 冷静に考えると、ガルドッグもビビルンもヒツジを食う。
 俺の仲間ってみんな肉食じゃねえか!!

「だって、ラム肉が必要だったんだもん」
「だってじゃない! 欲しかったら買ってこい!」
「目の前にあるのに買うなんて贅沢じゃん。ちゃんと丸焼きにして食べたから安心してよ」

 全然安心できない!!
 いったい何に対して安心すればいいんだよ!!

「ほら、これが丸焼き」



「ひぃいいいいいいい! 俺がいる!!」

 面影が見える感じのやめろよぉーーーーーーー!
 マジで怖いじゃねえか!
 それが自分だと思うと本当に怖いわ!!

「首を刎ねたから再生もばっちりだったね。ツノに肉片がついていれば、そっちが優先で再生するみたいだよ」

 怖いわ!!
 そんな検証話、聞きたくなかったよ!

 お前ら本当に仲間なのか!?


 その後、俺は詳しい説明を聞いた。

 まず、ぷるんのことだ。

 ぷるんはジープと戦っている時「大人になった」。
 ヒツジ族にとって大人になるとはツノが伸びることを指すらしい。
 ツノが伸びるってことは、それだけ成長したということだ。

 で、俺が驚いて気が動転してしまった血の件。
 あれはジープに吹っ飛ばされて出血したのではなく、ツノが急激に伸びたことによる出血だったらしい。

 よって、立ち向かっていったときに急激に成長したため、そこで意識を失った。
 そのままぶつかったので無抵抗で吹っ飛んだ、というわけだ。
 順序が違うってわけだな。

「ってお前、ダメージなかったのかよ!?」
「うん、特にないみたい」

 俺はそれで死んだのだが…
 こいつの身体の強さどんだけだよ!
 心配して損したぜ!!

「でも、戦闘不能扱いになったから危なかったんだよね」

 そりゃ意識を完全に失っていたからな。
 もしソロでやっていてあのまま放置ってのも危ない状況だよな。

「ツノから血が出たくらいで気絶するものなのか?」

 俺が気になるところはそこだ。
 この強靭なぷるんが、その程度で気絶するものだろうか?

「あれはヒツジ族の女性に起こる現象の一つです。ツノはヒツジの命ですから、それだけ身体に負担がかかるんですよ」

 リーパが俺に補足してくれる。

 このツノが伸びるという現象は、俺たちが思うより大きな出来事らしい。
 ただツノが伸びるだけではなく、それによって身体を構成する要素が大人に作り変えられていくという。
 まさに文字どおり大人になるわけだ。

 ヒツジ族の女性は力が強い反面、ツノの成長維持のために定期的に出血して体調を整えるとか。
 いわゆる女性の生理ってやつと同じらしい。

 男の俺にはわからんが、体調が悪くなったり頭痛がしたり、女の人は大変だと聞くな。
 ぷるんも大変かもしれんな…

「ヒツジ族の女性は月経時に凶暴になりますから注意してください」
「きょ、凶暴ってどれくらい?」
「酷い場合は見境なく周囲の者を殺すくらいです」

 えええええーーーーーーーー!?
 マジですかぁああああああ!?

 つまりは、あの野生化状態になるのか!?
 いや、ただの野生化ではない。
 ただでさえ制御ができないものが暴走したら、そりゃもう大惨事だよ!!

「そんなので社会生活営めるのかよ!?」
「そういうタイプの人は、時期が近づくと山にこもるか独りで暮らしたりしますよ」

 怖い。すごく怖い。
 淡々と当たり前のように言うのが怖い。
 ヒツジ族って怖いわー。

「おい、ぷるんはどうなんだ? どんな感じだ!?」
「んー、生理って初めてだからよくわからないよ」

 生理って言うとなんだか恥ずかしいじゃねえか。
 って、ぷるんは初めてか!?

 俺はよく知らないが、10歳~15歳くらいに初めて月経が起こるらしいな。
 ぷるんは14歳だから特別に遅いってわけじゃないか。

 ただ、初潮があっても完全に大人になったわけではなく、それから二年くらいは準備期間が必要らしい。
 俺もあくまで聞いた話なので伝聞で申し訳ないが。

「最悪のときは被害はシゲキ君だけにとどめるよ」

 悔しいが、たしかにそれが最善かもしれん。
 またファンタとかマダオに死なれたら困るからな。
 最悪俺は自力で復活できるから、俺で済ますのが一番だよな。

「ところで俺が殺された理由ってそれだけなのか?」

 それだけだったらちょっと怒りたい。
 ラム肉が欲しいから殺すなど、まさに人間の悪徳の象徴である。

 許せん。けっして許せん。
 ヒツジ、ニンゲン、ユルサナイ。

「実はですね、ヒツジ族の女性が初めてのときはヒツジの丸焼きでお祝いするんです」

 って、リーパが首切りポーズをしながら説明してるぅうううーーー!!
 やめて! それマジで俺やられたからさ!

 それってあれか?
 初めての生理がきたら赤飯でお祝いする的なものか?

 今じゃあまりやらないところも多いらしいが、現代でも残っている風習らしい。
 たしかに恥ずかしいと思うのも当然だが、身体の自然現象なので仕方ない。

 それに、そういった恥ずかしさを軽減するためにお祝いする、という人もいるそうだ。
 何にせよ、子供を産めるまで成長できたことを喜ぶのは悪いことではないだろう。
 男にはそういったものがないからな…ある意味で羨ましい。

 一応、男にも精通という初潮に該当するものがある。
 そういえば小学生の低学年くらいのころは触っても出た記憶がないような。
 いつからかは思い出せないが10歳くらいから出たような…

 言っておくがエロい話ではなく、ちゃんとした生理現象の話題だからな。勘違いするなよ。
 つまりはそういったものがきっかけで大人としての能力を有していく、という話だ。

 まあ、そのお祝いでエロ本とかもらっても気まずい気分になるだけだが…
 やっぱり男にお祝いはいらないな。


「で、それだけか?」

 俺はもう荒ぶる準備ができている。
 それだけならばもう、シゲキ、ゼッタイ、ユルサナイ。

「落ち着いてください。ただのヒツジじゃ駄目なんです。自分が一番大切なヒツジでないと駄目なんです」
「大切なヒツジ?」
「そうです。自分が大切に育てたヒツジ…、もっとも愛するヒツジを丸焼きにして食べることで大人になるんです」

 するってーと、ぷるんにとって俺が一番大事なヒツジってわけか!?
 なんだか照れる…わけがない!
 結局殺すんじゃないか!!

「殺したいほど愛してるって気持ち、少しわかったよ」

 お前のそれは食欲だろうが!!

 で、リーパの話の続き。

「牧場経験者でなくても、そこで初めての解体を経験することでヒツジ族としてたくましく生きていけるようになるんです。そういう儀式ですから」

 そう言われると反論しづらいけどさ。
 やられる側としてはたまったものではない。

 そういう変な風習ってどこにでもあるよな。
 偏見っつーか、偏狭というか、よく意味がわからない儀式が多すぎる。
 それで犠牲になる俺の…、いや、ヒツジの恨みを思い知れ!!

「つーか、俺はぷるんに育てられてないじゃないか!」
「あれ? シゲキ君、気がつかなかった? ちゃんと育てたじゃん」

 俺がいつぷるんに育てられた?
 そりゃまあ、こいつのほうが強いから面倒をみてもらうことも多かったが…

「ほら、思い出してよ。初めての戦闘の時もそうだったでしょう?」
「初めての戦闘…。ビビルン戦か」

 そういえば、こいつはあえて俺を戦わせて強くしようとしていた気がする。
 自分がやれば秒殺だが、わざわざ待っていてくれた。

 それはすべて俺のためだ。
 俺が強く生きねばならないから、あえてそうしたんだ。

「ぷるん、そういうことなのか?」
「そうだよ。全部予定通りだったんだよ。だって、シゲキ君がいないと困るから」

 ぷるんの瞳が潤む。
 おいおい、そんな顔されたら何も言えないじゃねえか。

 全部俺のためだなんて…俺がいないと困るなんてよ。
 そんな台詞言われたら俺は…

「初めてリーパちゃんに会った時に聞いておいたんだ」

「シゲキさんがいてよかったですね。また新しく育てるの大変ですし」


「ねー。よかったよねー」



 ねー、よかったよねー




 じゃねぇえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!

 なんだそりゃ!?
 するってーとなにか!?
 これまで俺を育ててきたのは、ここで食べるためなのか!?

「そうだよ」
「そうだよ、じゃねーよ! 否定しろよ!」

 そんなあっさり言われたらショックだろうが!

 ジョナサンを解体した日、ぷるんはリーパからいろいろとヒツジ族の慣習を聞いていたようだ。
 その中に成長の儀式の話もあって、ヒツジを育てねばならないことを知った。

 そして、ふと隣を見ると俺がいた。

 俺=ヒツジ

 ぷるんは手を叩いて喜んだ。
 こいつでいいや、と。

 ちょうど俺の不死身を知ったばかりであり、そのつど不死性を確認していたりもしていた。
 すべてはこの日のために。

「やっぱり自分でヒツジを捌くなんて怖いしさ。シゲキ君なら罪悪感ないじゃん」
「少しは抱けよ!!」

 あれだけばっさり殺せるやつが怖いだと!?
 嘘を言いやがって!

 いや、こいつはもともとこういうやつなのだ。
 悪いことするくせに謝りたくないから誤魔化す。

 なんて最低の女だ。


「そうそう、話は変わるけどさ」
「カワルコト、ユルサナイ」
「本当に大切な話なんだって」

 俺の怒りはこんなものじゃ終わらないぞ!
 今度こそ俺のツノでこいつの尻を刺して…

「私ね、意識がないときに向こうの世界に行ったんだよ」
「今度こそ俺のツノでこいつの尻を刺して……え?」

 俺が復讐心に駆られ、ついつい心の声が漏れたとき、ぷるんのその言葉が発せられる。
 最初は意味がわからず、しばらくぽかーんとしてしまった。

 え? なんだって?
 もう一回言ってくれ。

「だからさ。私、向こうの世界に戻ったんだよ」
「嘘だろう?」
「本当だって。こんなこと嘘で言わないよ」

 えええええええええええええええええ!?
 本当かよぉおおおおおおおおおお!?

 ちょっと待て! よくわからないから!
 向こうの世界って元の世界ってことだよな!?

 俺たちが学生で中学校に通っていて、日本文明がある世界のことだよな!?
 本当にそこでいいんだよな!?

「そうだよ。ここより遥かに効率的に動物を屠殺している世界だよ」

 すげー嫌な言い方しやがった!!
 実際にその通りだけど、改めて言われると厳しいな!

 あっちの世界じゃ牛や豚、鳥まで犠牲になっているからな…
 ヒツジどころの騒ぎじゃないぜ。

「家に戻ってジンギスカンを食べたんだけどさ」

 ん? んん? ジンギスカン?
 まあ、食べたっていいけどさ。

 こっちで散々食ってんだ。
 わざわざ食べるか、普通?

 で、何だって?

「そこで改めてシゲキ君の大切さに気がついたんだ」

 ぷるんは元の世界に戻った。
 そこで独り、今までのことを考えてみた。

 ぽっかりとあいた穴。
 何かが足りない感覚。

 そう、大切な何かがいない、哀しくて寂しい感覚。

「ぷるん、お前…」


 そんなに俺のことを…




「シゲキ君のお肉って、やっぱり美味しいんだなって」




 味覚の話じゃねえよ!!!

 素材とか食材の話してんじゃねえから!!
 もっとこう、ぐっとくるもん用意してこいや!!!

「シゲキ君、今日も荒ぶっているね」
「誰のせいだ!!」

 つか、元の世界の情報はとても大切なのでちゃんと話せよ。

「…本当に聞きたい? 良い話じゃないよ」
「ま、マジかよ」

 ぷるんの表情が少し真面目になった。
 そんな顔されたらビビるじゃねえか。
 良い話じゃないってことは悪い話ってことだよな?

 やべえ、怖い!
 心の準備が…

「起きたら家のベッドにいたんだ」

 ぷるんはこちらの世界で意識を失った。
 だが、目覚めてみるとそこは元の世界の自室(二階)のベッドの上。

 まさか全部が夢だったのかと思って一階に下りてみる。
 すると、ぷるんの両親がいて、驚いたようにぷるんを見つめていたという。

「ここに来てから二週間くらいかな。その間、私たちは行方不明になっていたんだって」
「私たちってことは、俺もだよな?」
「うん、そう。おばさんに会って確認したよ」

 それが本当だとすると、俺たちって転移したわけじゃないのか?
 だって、ぷるんの身体はここにあるわけで、元の世界にも身体があるわけだろう?
 もし転移だとしたら、こっちのぷるんはいなくなるわけだしな。

 ちょっと待てよ。
 そうだとすると……

「俺ってヒツジ辞められるってことか!?」

 強制的に職業にされていたが、元の世界に戻れば人間に戻れる!!
 本当に戻れるんだな!!!

 うおおおおおおお!!
 今日ほど嬉しい日はないぞぉおおおおおおおお!!

 けっ、ヒツジなんてやってられるかよ!!
 ヒツジなんて最低だぜ! ぺっ!

「シゲキさん、急に態度が変わりましたね。ヒツジに慣れてきたのかと思っていました」
「そりゃ慣れたが、好きでこうなったわけじゃないしな。当然の反応だ」

 ヒツジ最高! とか言っているが、半分は現実逃避だ。
 そうやって自己肯定をしていないとやっていられないほど精神的に危ないんだ。

 やっぱり人間のほうが良いに決まっているさ!

「うーん、それもちょっと微妙なんだよね」
「なんだよ、水を差すなよ」
「だってさ、経過している日数が同じなんだよ。それだと元の身体がどこにあるかって話じゃん」

 たしかにそうだ。
 時間の流れが違うとかならまだしも、経過している日数は同じくらい。
 となると、元の身体はどこにあって、誰がどう管理しているかって話になる。

 都合よく時間が止まった空間に格納されている、なんてことがあるわけがない。
 まあ、それを言ったらこの世界に来たことがありえないことなのだが。

「可能性としては幽体離脱系もあると思うんだ」
「こっちが本当の身体で、魂だけが向こうに行くって感じか?」
「そうそう。幽体離脱でフライフライフライってやつ」

 古いな、おい!
 俺にとっちゃそんなに昔には思わないが、冷静に考えると相当前だぞ!
 時間の流れって速すぎるぜ!

 で、ぷるんが考えるには、いわゆる幽体(霊体)というやつで向こうに行った説だ。
 その場合はこっちに転移してきた説を支持することになる。

「というか、幽体とかで食事できるのかよ?」
「あっちとの振動数が合えばってことかな。それにいろいろな要素もあると思うし…」

 なんだかアニマルアイランドみたいな話になってきたな。
 詳しい話は作者が別途公開しているあっちの小説を読んでくれ。

「お前の夢って可能性は?」
「あるけど、あまりにリアルだしね。夢を見ている人には、それが現実なんだよ」

 こいつ、いきなり名言吐きやがった!!

 実際のところ、それが夢であるかどうかは醒めてみないとわからない。
 現実の世界だって、それが現実だと思っているにすぎない可能性がある。

 つまり、夢を見ている人はそれが夢だとわからないわけだ。
 だから本気で怯えたり逃げたりもする。

 そう考えると、こっちが夢なのか本来の世界なのか、それを知る術は俺たちにはないわけだ。
 どっちの比重が高いかで判断するしかない。

 俺としては何でもいいから元の世界に戻りたいんだけどな…

「もう一つ重要なことがあるんだ。実はね、行方不明なのって私たちだけじゃないみたい。同じ中学の人も何人かいなくなったらしいよ」

 マジかよっぉぉおおおおおお!!
 なんかすげーフラグ出してきた!!

 それ絶対こっちに来てるフラグじゃねえか!!

「その中の数人は無断でチベットに渡航して捕まってたみたいだけど」

 どういうこと!?
 修行するなら正規の手続きを踏んでから行こうぜ!!

 だが、行方不明なのは事実らしい。
 それってやばくないか?

「テレビでも騒がれているみたいで、私もインタビューを受けたんだ」
「当人が受けていいのかよ!?」
「だって、来たから対応しただけだよ」

 なんだその小慣れている感じの言い方は。
 べつに有名人じゃねえだろう。
 浮かれているんじゃねえぞ。

「シゲキ君、厳しいね」
「お前だけ帰れてずるいからな」
「じゃあ、ああ言っておいてよかったかな?」

 ん? 何かインタビューで言ったのか?
 どうせこいつが何を言っても信じちゃくれないだろうけどな。

 異世界に行ってヒツジ戦士になって戦っていましたなんて、完全に中二病だからな。
 笑われておしまいさ。

「あのね、シゲキ君について聞かれたんだ。家が隣だからさ」




「だからね、ガツンと言っておいたんだ」






「シゲキ君ならやると思っていました…って」






 おおーーーーーーーーーーい!?
 やめろよぉおおおおおおおおおおおおおおおおお!

 なにガツンと言ってんだ!!
 完全に俺を犯人扱いじゃねえか!!

 それってあれだろう?
 何か事件があって関係者に被疑者の話を聞いたとき、「あいつならやると思っていました」とか言うやつだろう!

 やめろよ! 信じるだろうが!
 世間の冷たい視線が俺に集まるじゃねえか!!

「はっ、俺のお袋はどうなったんだ!?」

 そうだ。そんなこと言ったら世間のやつらは親を責めるはずだ!
 さすがに家にまで迷惑かけたくねえぞ!

「それは大丈夫。おばさんも『やると思っていました』って言ってたよ」

 おおおーーーーい、母親!!
 それが本当に母親の発言か!?

 いやいやいやいや、無実!
 俺は無実だぞ、本当に!!

「何の根拠もないだろうが! おかしいよ!」
「でもさ、私ってシゲキ君の部屋に遊びに行っていたときに消えたわけじゃん。怪しいよね」

 ここで一話の話に戻ってきやがった!!
 懐かしすぎてもう半分以上覚えてねーよ!

 そりゃたしかに俺とぷるんは一緒にいた。
 でも、俺も一緒に消えたはずだぞ。
 どうして疑われるんだ。

「うん、私のブラジャーがそこに残っていたからね」

 そうだったーーーーーーーーーー!!
 お医者さんごっこしてたーーーーーー!!

 というか、ここで誤解を解いておかねばなるまい。
 お医者さんごっこなどといっても、俺が勝手にそう言っているだけで、こいつが簡単に触らせてくれるわけがない。

 俺はあれこれと口実をつけてこいつを部屋まで呼び出す。
 下心で、ほんの少しでも胸に触れればよいと思っている。
 だが、こいつは当然そんなことはさせない。

 ではなぜ部屋に来るかといえば、俺が餌として用意しておく茶菓子や漫画などを漁りに来るのだ。
 その隙にあれこれとやってみるのだが、すべて撃退されている。

 こいつは俺の部屋を我が家のように扱うので、たまに服を脱いでリラックスすることがある。
 おそらくブラジャーもこいつが「キツイから」とかいう理由で放り投げたに違いない。

 というか、こいつ今までブラジャーしてなかったのか!?
 だからすげー揺れてるなとか思ったんだよ!!

「最初はしてなかったけど、さすがに今はしているよ」

 …そうか。それはなぜか残念だな。
 スパロボみたいにガンガン揺れているのも不自然だが、揺れないと揺れないで寂しいな。
 複雑な男心だぜ。


 消えた男女。
 しかし、部屋に残っている女の子のブラジャー。

 そりゃ俺が見ても絶対男が怪しいと思うわ。
 欲情して連れ去って、終わったあとでパニックに陥って女性を~とか、マジありえそうで怖い。

 まあ、今回はぷるんが帰ってきたので最悪の状況ではないと理解したはずだ。
 が、ぷるんの一言でさらに最悪のことになっている。

「しかもね、ちょうどシャワー上がりで薄着だったんだ。それにあっちはまだ肌寒いから、震えちゃって。ほんと、ヒツジ戦士と違って普通の身体だったからさ」

 おい、嫌な予感がするぞ。
 それはまさか…

「少し涙目の怯えた震え声で『シゲキ君なら…やると…お、思ってました』って言っちゃった」

 言っちゃったじゃねえからーーーー!!!
 なぁ、完全なるとどめじゃねえか!

 現に一緒にいなくなったお前がそう言ったから信憑性高くなってんじゃねーか!!
 完全な被害者の姿だよ、それ!!

 まだ中学生の女の子(巨乳)が、一緒に消えた幼馴染を告発する図じゃねえか!!
 なんでそこで迫真のコメントしちまうかな!!

「大変だよ。このままじゃシゲキ君が大量女性誘拐犯になっちゃう」
「お前のせいだ!!!!」

 話をややこしくしやがってぇえええええええええええ!
 どんな言い訳も通じない冷たい社会。それが現代日本だ。

 俺、もう元の世界に戻れない気がする。
 戻っても居場所がなさそうだ。こいつのせいで。

「はっ、お前! まさかわざと外堀埋めたわけじゃないよな!」
「そんなことないよ。普段から思っていることが自然に出たんだよ」

 そっちのほうが傷つくわ!!
 意図的にそう言ったほうがまだよかったよ!

 つーか、うちの母親もそうだったのかよ!
 子供を信じろよな!!

「シゲキ君が昔、パンツ盗んだから」
「あれは謝ったじゃねえか!」
「人の心に刻まれたんだよ。村八分だよ」

 恐ろしい世界だ。
 違う意味でここより怖いぜ。
 俺は一生パンツ窃盗の過去に苦しめられるのかよ。

「お前今、大量女性誘拐犯って言ったな。女が多いのか?」
「そうみたい。男の人も何人かいるって聞いたけど、女の人のほうが多いらしいよ」

 うーむ、その理由はわからないが、それによって俺が疑われているのか。
 でも、同じ中学の女ばかりじゃないはずだし、俺だけを疑うのはおかしいと思う。
 何にせよぷるんが言うことだ。話半分に聞いておこう。

 そう信じねば俺は生きていく勇気を失いそうだ。

「どっちにしても簡単に戻れる感じじゃないよね」

 ちくしょう…完全にハメられた。
 こいつに人生狂わされたぜ。

 どのみちすぐには戻れないよ。
 少なくとも人の噂がある75日は戻れない。
 できれば十年以上経過していてほしい気分だ。


「話は終わりましたか?」

 聞き手に徹していたリーパが口を開く。
 この子としては俺たちがこの世界にいたほうがいいんだよな。
 そういう意味もあって静かに様子をうかがっていたのだろう。

「ああ、しばらくはまだこの世界にいるらしい。いなくちゃならん。俺のために」
「それはよかったです。でも、聞いていて恥ずかしいです」

 ちょっと卑猥な話もあったしな。
 そりゃ幼女の前でする話じゃねえか。

「そうではなく、シゲキさん、ぷるんさんのこと好きすぎですよ」
「…え?」
「だってもう、ぷるんさんのことしか見てないですから」

 え? いや、その…え?
 そうか?
 いや、だってさ、話すんだから普通はそうだろう?

 俺は良識人だから、ちゃんと人の目を見て話すことにしているんだ。
 だからじゃないのか?

「まあ、いいですよ。いつものシゲキさんになりましたからね。さすがぷるんさんです」

 勝手に納得されちまったよ!!
 そりゃまあ、俺はぷるんのことが嫌いじゃないぜ。
 嫌いだったら一緒に遊ばないしな。

 その理論でいえば、ぷるんだってそうじゃないのか?
 嫌いな相手と一緒にはいないもんな。

 まさか、ぷるんのやつ。俺のことを…

「ぷるんさん、シゲキさんのこと好きですか?」

 ちょーーーーーー!?
 リーパ、なに言ってんの!?

 この小説ってそういう話って皆無だよね!?
 作者が苦手とするジャンルのはずじゃないのか!?

 だってあいつ、純愛もののアニメ見て悶えるようなやつだよ!
 しまいにゃ泣くようなやつだぞ! 37歳のオッサンがだぞ!?

 無理だって!
 あいつのキャパ超えるって!!


「シゲキ君? 好きだよ」


 ぷるんさーーーーーーーーーーーーん!!

 普通に言っちゃったーーーーーー!!

 マジかーーーーーーーーー!


「シゲキさん、なんで動転しているんですか?」


 いやいやいや、エロいやつほど素直な展開に弱い!

 俺はむっつり妄想タイプ(一部犯罪に手を染めるが)なんだ。



 そういきなり言われるとパニックに…




「シゲキ君? 友達として好きだよ」



 たった一言増えただけで違うーーーーーー!

 全然違う意味の発言になってるぅうううーーー!





「シゲキ君? 友達(家畜)として好きだよ」





 もう人間としてすら扱われてねーよ!!!






しおりを挟む