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第125話 交差する想い

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 マサキとティナはハンガーに来ていた。
 ハンガーに来る途中に併設されている喫煙所で一服して気持ちをリセットしたマサキである。
 そして、目の前には机を挟んで屈強なフランクさんが腕組みをして仁王立ちである。

 「コレはなんだ?」

 物凄い眼力で睨み付けるようにマサキに質問を問い掛けた。

 「これは…えーっと…じ、自分が開発した銃と云うもので……い、一応、個人携行の武器になります。分類は剣や槍とかと同じ感じになりますかね?」
 (ひぃ~!!こえぇ!単に説明してるだけなのにめっちゃこえぇ!!)

 「コレが剣や槍と同類?こんな物でか?一体どうやって攻撃するんだ?というか、これはお前さんが作ったのか?」
 (ですよねぇ~…てか、弾抜いといて良かったわ。普通に銃口覗いてるし…トリガーも引いちゃってるし…)
 
 怪訝そうな表情でフランクはダブルバレルのグロックを持ち、カチカチとトリガーを引いたり、銃口を覗いたりしている。
 ダメ絶対!銃口管理大事!

 「え、ええ…そ、そうですね!こ、こう見えても、俺、手先が器用って言われるので、く、訓練の合間とかにチマチマ作ってました。そ、それで、コレは簡単に言うとモアのストライクパックを小型化した感じです。あ、撃ち出すのは魔法では無いんですけど。」

 たどたどしく説明をするマサキの横には、棒立ちでハラハラしながら見守るしか術の無いティナが居る。
 
 「ふむ。何となくだが、コレがどう言った武器なのかは理解した。だが、魔法を使わんで一体何を撃ち出すんだ?」

 「え~っと…き、基本的には金属の弾です。撃ち出す弾の種類は幾つか有るんですけど…」
 と言って、マサキは取り敢えずポケットからフルメタル・ジャケットの実弾を取り出してフランクに見せたのだった。

 「ほう…コレを撃ち出すのか。魔法とは違う物理攻撃なんじゃな。で、撃ち出す手段は魔力でか?」

 「い、いえ、この武器は魔力や魔法等は一切使いません。火薬を使用します。」
 (最初の説明の時、俺、魔力や魔法は使わんって言ったよな…)

 「火薬?一応コレでも技術屋だからな、火薬がどんな物かは理解出来るが、何でまたあんな使いづらい物をわざわざ利用するんだ?」

 「え?なんでって…そうですね、ま、魔力切れの対応…とか?」

 「だったら剣や槍で十分だろ?」

 (確かに……ご最もなご意見で……てか、この世界での根本的な基本概念が違うから銃の説明するのめんどくせぇ~!どう説明すれば良いんだ?)

 「あ~…早い話、剣や槍って、攻撃範囲がその武器の長さによって限られちゃいますよね?それを補う為の武器です。当然魔力切れを時の攻撃手段を補う物なので、魔力は使わずそれ相応の力がある火薬を使うって事です。」

 「ふむ。まぁ、そういう事なら…で、この銃と云う基本概念は理解出来たが、技術的にワシは火薬は使えんぞ!と云うより、そもそも火薬を扱える人間がここには居らんぞ?」

 (ん?火薬の存在は有るのに使える人間が居ない?まぁ、弾はイマジナリーで作るんだから問題無いけど、どういう事だ?)

 極々当たり前の事だが、この世界では魔法や魔力が存在する世界である為に、火薬の普及率は極僅かであった。
 これは電気と同じである。
 「エネルギー」イコール「魔力」の世界な為、化学は愚か物理の法則等は余り認知されて居なかったのであった。
 当然、マサキが居た前次元の物理的法則、重力やその他諸々に関して等はこの世界でも有効なのだが、当たり前の事は当たり前で、魔法が存在する為に、疑問に思う者は誰も居なかったのである。
 それは、全ての物事が「魔法」や「魔力」の一言で片付けられる世界だからだった。

 「え~っと…そうですね、使う弾は自分が作りますよ。と云うか、技術屋のフランクさんなら御理解頂けると思いますが、自分もそれなりの勉強や経験を積んで築き上げた技術ですのでその辺は……」

 「あ~!皆まで言うな。解っておる。一朝一夕で身に付けれる技術では無いからの。聞かんかった事にするわ。それでワシに何を頼みに来たんだ?」
 (ナイス俺!グッジョブ!難問だったフランクさんに、それらしい事を言って納得させれたぞ!)

 「今日のお願いなんですけど、この銃の複製を作って頂きたいと思い御相談に来たんですが、どうでしょう?」

 マサキはそう言って、机に置いた見本の銃を手に取り、カチャッとフィールドストリップして分解を始めたのだった。
 
 この後、流石技術屋と云うべきなのか、構造や材質等のやり取りで話に華が咲き、トントン拍子で作って貰える事になったのである。
 取り敢えず一挺を試作で作ってくれるとの事であった。
 フランクさん曰く「日数的にも構造も少々複雑だからな、作ってみないと解らんが、結果的にお前さんの望む様な物が出来なくてもガッカリするなよ!」と釘を刺されてしまった。
  
 「どう?大丈夫そう?」

 ハンガーを後にする時、久しぶりに口を開いたティナからそう言われたのだが、余り心配はしていないものの一応保険としてコッチでも作る予定にしたのだった。

 その後、ティナとの話し合いで選出した、式典当日の護衛をシャーロットとアリシアに決定したとエイドリアンさんの業務している所まで伝えに行ったのだが、館内が広過ぎて移動だけでクタクタになったマサキであった。

 
 同日、場所は変わり、第二教導隊の宿舎のとある一室での出来事。

「ちょっ!ねぇ!知ってるっ!?」
 
 バンッと勢い良く扉を開けながら息を切らして入って来たシャーロットの第一声である。

 「何?」
 普段、我関せずの鎧を身にまとったアリスは、ドリンクバーの前で無表情のまま声の元に視線を向けた。
 続けて、他の隊員も一斉に声の主に視線を送ったである。

 「な、なにをですか?」

 本日のアラート勤務は第一教導隊の担当であった為に、第二教導隊のメンバーは全員待機中である。

 「いや、式典の開催は一週間後!それで私とアリシアが式典の時のクラタナさんの直衛って!しかも、それに向けてスキルの集中特訓は副隊長とジェニファーって!」

 「ああ。私は隊長からの辞令で既に知ってるぞ。多分と言うか、ジェニファーも知ってるぞ。というか、お前の情報の出元は何処だ?」

 今はスクランブルのアラート待機中では無いので、隊員それぞれTシャツに制服のズボンといったラフな格好をしており、お菓子を食べたりお茶を飲んだり、会報を読んだりと皆くつろいでいた。

 「あわわわ…ちら~っと隊長様が話してるのを小耳に挟んだもので……えへへへへー………」
 一瞬シャーロットはスチュアートの疑問にギクリとして動きを止め、視線を空に泳がせた。
 そして、反応の良いアリシアはスチュアートに顔を向けて疑問を投げ掛けたのである。

 「そ、それってどういう事なのです?わ、私がクラタナさんの…ち、直衛?何故?」 

 「俺とスミスは何も聞かされてないぞ!」
 アクセルは、見ている雑誌からは眼も離さず、ただの感想を誰にでも無く、ぶっきらぼうに言い放ったのだった。

 「そうですね。」
 スミスは武器の手入れをしていた手を止めてシャーロットの方へに向き直りそれに答えた。

 「私も。何も聞かされていない。」

 「まぁ、私は副隊長と一緒に辞令を聞かされたから知ってたけど…はは…でも、なんでだろうね?」
 ジェニファーは頭の位置で両手を組み、ソファに横になって完全寛ぎモードである。

 「一応、選ぶのは、エイドリアン隊長が決めたと、本人から私は伝えられたが。」

 「副隊長はホントにそう思ってんの?」
 シャーロットは、暫定だが決定事項に対して不満があり、言葉の端に怒気を含んだ言い方でスチュアートに迫ったのだった。

 「いや…ホントも何も………一々出された命令に疑問を持てば、任務が遂行出来なくなるからな。隊長は隊長の考えがあっての決定事項なんだろうと思ってるぞ。」

 「コレだからカタブツは…仮にそうだとしても、なんかおかしくない?普通だったら直衛の私とアリシアが集中特訓受けるべきなんじゃないの?若しくは副隊長とジェニファーが当日の直衛をするとかさ?だったら式典の時副隊長とジェニファーは何をするのよ?」
 どうにも納得のいかないシャーロットは机の上に勢い良く両手を付いて、ニュートラルな二人に更に迫ったのだった。

 「で、ですよね…な、なんで私達が直衛ですかね?ふ、副隊長と、ジ、ジェニファーは当日の配置とか…き、聞いてるですか?」

 殺伐とした雰囲気を打破するかの如く、アリシアのオドオドとした口調がその場の空気を変えたのだった。

 「いや、式典当日の細かい配置はクラタナさんが決めるそうなので、私はまだ何も聞かされてないな。ジェニファーはどうだ?」

 「いやぁ~…私も全く…。単にEXスキルを覚える為にクラタナさんから集中特訓を受けろとしか…はは…まいったね…こりゃ…」

 「でもよぅ、実際、俺には関係ない事だけど、仮でもスキル覚えさせた奴を直衛の護衛に付かせないのって、どんな理由があるんだ?全く意味が解らないぜ。」

 「そう。」
 一言だけ喋ったアリスは、シャーロットの第一声を聞いて、ドリンクバーの前から一歩も動かずに樹木の如く立って居たのだが、フワフワと存在感の無い動きでやっと長机の席についたのだった。

 「アクセルったら、関係無くは無いでしょ?てか、隊長もクラタナさんも別にやましい事がある訳じゃ無いと思うけど、人選を隊長がやって、配置をクラタナさんが決めるのって…何か腑に落ちないのよね…この人選で、後は任せた!とかって、そんな事やる?あの隊長がよ?」

 「確かに…恐らく、隊長とクラタナさんの間で、何かしらの話し合いは行われてこうなったと考えるのが妥当なんじゃないでしょうか?」
 そう言うと、武器の手入れの手を止めて居たスミスはまた黙々と作業をはじめたのだった。

 「で、ですね。」

 「そうだな。基本的に命令にそむくつもりも無いが、今の決定事項で全員に何かしらの不信感が生まれた事は事実なので、任務前に一度、直接クラタナさんに聞いた方が良いかも知れんな。」

 「それが良い。」

 「って言うかぁ、もっと根本的な所で、あのクラタナさんに私達の護衛とか必要なの?コテンパンにされた上に、現在進行形でスキル教わってる人のさぁ…こんな事言うのは悔しいけど、技術が自分よりも格上な人の護衛とか意味解んないじゃん。直衛とか名ばかりでさ、何かあったら確実に私達はクラタナさんの足でまといになっちゃうよ。」
 
 そう言って、未だ納得の行ってないシャーロットは、机の上に置いて有るクッキーをモグモグ食べながら自分専用の猫柄のマグカップを手に持ち、ドリンクバーへと席を立った。

 それは、前々から誰もが感じて居る現実ではあったものの、誰一人として口には出さなかった言葉だったのだが、シャーロットは決定打を口にしてしまったのである。

 暫くの沈黙が続き、各々の思いが錯綜する中、最初に口を開いたのはスチュワートであった。

 「おい、シャーロット。現状だけの情報で悪い方に捉えたら、幾らでも考えれる。それは私にしても同じだ。直衛じゃ無いにしろ技術的に自分より格上の人の護衛だからな。だが、それを言ったら今回集まる来賓を観てみろ!各地のギルマスはどうだ?自分達よりも技術が格下か?違うだろ?シャーロットの価値観で云うなら、自分より格上の護衛は意味が無いって事になってしまうぞ。」

 スチュワートは副隊長らしく、ピシャリとシャーロットの発言に戸を立てたのであった。
 それを聞いたシャーロットは、ハッとなり項垂れてそれに答えたのだった。
 「いや…まぁ…それを言っちゃぁ元も子も無い…それに、そんな事は毛頭思って無いけど……」

 「要はそれと同じ事だ。確かに、クラタナさんは近衛兵隊の所属では無いし、階級だって無い。私等からの基準では一般人だ。だが、スキル技術に関して我々は足元にも及んで無いのが事実だ。普段は一般人を守ってる私達の感覚からすれば、上から目線で一般人のクラタナさんを見てしまうのも仕方が無い事なのかも知れない。が、そろそろ、今までの表面的な感覚であの人を計るのはやめにしないか?」

  「そうじゃなくって!上とか下に見てるとかじゃ無くてよ、実際に私もクラタナさんの実力は認めてるもの…認めてるからこそ、手助けしたくても自分の実力が力不足って解ってて護衛しなきゃいけないってのが納得行かないのよ。多分あの人はどんな状況でも自分の身は守れる。若しかしたら、性格的に決して口には出さないけど、逆に私達を脅威から守るつもりで居る知れない。だから…せめて足でまといにはなりたくないのよ、」

 一気に思いの丈を話したシャーロットは、マグカップを両手で包む様に持ち、苦虫を噛んだ様な表情でそれに視線を落としたのだった。

 「そりゃぁ、ジレンマだよなぁ。」

 茶化す様にアクセルが話すと、他の隊員も続けてそれに同意する言葉をシャーロットに投げ掛けたのである。

 「な、なのです!」

 「ですね。」

 「そう。」

 「だよね~!」

 「正にそれだな。」

  何時も強がっていたシャーロットであったが、隊員の前で思いを暴露した事が急に恥ずかしくなり、話題を逸らそうと頬を染めながらアリシアに話を振ったのだった。

 「み、皆んなは何とも思わないの?ねぇ!アリシア、アンタはどうなのよ?私と同じ直衛に付くのよ?」

 「や、やぁ~…そ、その、わ、私はですね、思ったですよ…?い、今、初めて護衛のそれを聞いて、シ、シャーロットと、お、同じ様に。で、でも、なんですかね…ク、クラタナさんって、じ、次元が違う感じなのです。変な人なのです。わわっ!へ、変と言うのは、け、決して変な意味ではなくです。わ、私達が力不足なのは解ってるです。けど、ち、力不足だからって、手助け出来ないのは違うと思うです。う、上手く言えないですけど、そ、それこそ、ク、クラタナさんを下に見る事になると思うです。て、手助け出来た、出来ないは、わ、私達が決める事では無くて、ク、クラタナさんが決める事だと、わ、私は思うですよ。な、なので、わ、私は、力不足だけど、じ、自分が、で、出来る事を、す、するだけと思ってるです。」

 アリシアは少し照れ臭そうに空を見詰めて、自分の思いを語ったのである。
 言う時は言うである!

 「アリシア…あんた……てか、クラタナさんとなんかあった?」

 「!!!!!」

 アリシアは一瞬眼を大きく見開き、その場に固まってしまった。

 そして、シャーロットは思いの外、変な所で感の鋭いであった。

 「ブッ!ゴホッゴホッ!!!ゲホゲホッ!!」

 スチュワートは以前の勘違いの事を思い出し、思わず吹き出しそうになったのだが、わざとらしく顔を背けて無理やり咳払いで自分の気持ちを落ち着かせたのである。

 「ですね。シャーロット!アリシアに一本取られましたね!」

 「ははは!アリシアに一本取られてやんの!でも、確かにあの人のスキルの実力は確かに異次元レベルだよな。だからって、俺らが手助け出来ないってのは話が違うって訳か!まぁ、一応だけど、俺は納得行ったぜ!」

 「そういう事だよ!シャーロット!だから、もうやるっきゃ無いって!」


 「そう。」

 「うぐぐ……って、アリスっ!さっきっから「そう。」しか言って無いじゃないのよ!他にもっと無いの?」

 「うん。特には…無い…」
 
 先程のアリシアとスチュワートの反応を見逃す訳ないアリスであったが、何事も無かった様に返答をしたのだった。
 アリスは自分の感情を表に出す事が苦手なだけで、周りの空気が読めない訳では無いのである。

 「全く……解ったわよ…アリシアの言わんとする事は理解出来るわよ。あ~あ~…私がアリシアに言いくるめられるなんて…ホント失敗だわ…精々、当日迄に私もスキルを磨いておく事にするわよ!」

 「なのです!」

 「…アリシア、ありがとね…」


    
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