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第3章
108.呪詛と黒き龍
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「おい」
王宮に戻り自室へ向かおうと廊下を歩いていると、いつもは見かけない人がそこに立っていた。
いや、形は人だが本当の姿は人ではない。
龍だ。
この国を200年もの間守り続けている、守り神のような存在。
黒龍様。
しかし、どうしてここに……。
普段は住まいである龍宮から滅多に出てこない黒龍様が、こんな時間にこんなところにいるなんて。
王宮でなにかあったのだろうか。
一瞬父の身に何かあったのかもしれないと危惧したものの、彼が大層気まぐれな性格をしていたことを思い出し、考えを改めた。
だが、僕に声を掛けたということは、何かしらの用があったに違いない。
それはおそらく僕に。
彼は窓を背に寄りかかっていた体を動かし、僕に向き直るとその鋭く光る瞳で僕を睨み付けた。
彼は僕の体をジロリと見やると、フッと鼻を鳴らすと吐き捨てるように言った。
「障りを貰っただろ」
声変わりをしているのかどうかもわからないような高い声を低く唸らせると、よくわからないことを発した。
それがどういう意味なのか分からず、僕は彼を見つめるしかない。
そんな僕の様子を気に留めることもなく、説明もせずに僕に向けてパッと手を出した。
彼のする言動に、何をどう返すのが正解なのかわからずただ彼の手のひらを見つめる。
すると彼はその手をパタパタと上下に揺さぶりながら、心底面倒臭そうに告げた。
「俺が預かってやるから、それを寄越せ」
「えっ? あの……」
「いいからっ」
そういって強引に僕の腕を掴んだ瞬間、そこから眩い光が発せられた。
思わず腕で目を庇う。
バチバチと光が閃光し、何が起きているのかわからないながらも恐怖を感じた。
一体自分の体に、腕に何が起こっているのだろうか。
腕が直視できない僕とは違い、その光が眩しくないのか、彼はフッと笑うとそのまま僕の腕から何かを引き離すように、手で何かを掴んだまま僕の腕から徐々に離れていった。
と、僕の腕から何かが抜け落ちるような、そんな感覚がしたと思うと、そのままよろよろと後ろに足が下がった。
まるで緩く引っ張られていた何かを引きはがされたような感覚だった。
僕の腕から離れたそれは、離れた瞬間今までは形もなにもなかったはずなのに、複雑な模様となって表れていた。
光を纏っているものの、先ほどの眩い光とは異なり朧月のようにぼんやりと薄紫色に光っているだけだった。
彼の手の上に浮かぶようにして静止している。
「フンッ。こんなものを仕込むなんてな。しかし相当魔力が弱ってきてるみたいだ」
嘲笑するように彼は笑った。
それはまるで悪魔の笑みのようで思わず、体が一瞬震えた。
しかし、見たこともないような模様のそれが気になる。
「あの、今のは一体」
「言っただろ、障りだって」
それじゃあ結局なんなのかわからないのですが……。
しかし、彼はそれ以上説明する気はないらしく、言葉を続ける気配はなかった。
その代わり、違うことへと話題はシフトした。
「あの女に会っただろ」
「あの女?」
とは一体?
彼の指している人物がわからず、首を傾げる。
すると、彼は投げやりに答えた。
「あんたの婚約者だよ」
「エスティの事ですか?」
「ふーん、エスティって言うのか……」
そのまま、しばらく彼は宙を見つめた。
どこか思いつめたように何もないところを見つめる彼の瞳は、どこか寂しそうに見えた。
と、そこでいまだ彼の手の上に浮かぶ不気味な模様に目を向けると何かに気づいたような表情をした。
「ああ、これを処理するの、忘れてたな」
自分の持っているものを忘れるなんてことあるのかと思ったが、そこは黙っておいた。
彼は模様を持っている手に力を入れ、模様を握りつぶすようにだんだんと手を握っていく。
模様も彼の手が握られるのと比例して、赤い光を発しながら歪み軋んでいく。
と、彼が「フッ」と力を入れ、一気に拳を握りしめるとそれは弾けるように四散し跡形もなく無くなった。
僕は目の前で何が起こったのか、もはや理解するのも諦めただ茫然と彼のする行動を見つめるだけだった。
軽く一仕事終えたように、短いため息を吐くと僕の方に向き直る。
「あんた、あんまりあれに近づかないほうが良いぞ。今度またこんなものをくっつけてきたくなかったらな」
「あの、先ほどから言っている障り……とは一体なんなのですか?」
「ああ? ああ、障りな。そうだな……」
再度説明を求めると、今度はちゃんと聞いてくれていたようで、う~んと唸りながら考えている。
しかし、あんまり真剣には考えていないような様子だった。
「まぁ、一種の呪いみたいなもんだ。呪詛だよ呪詛」
そう適当な説明で終わらされてしまった。
しかし、その一言の中に不穏過ぎる単語が混じっていることに、気が付かないわけがなかった。
呪い……?
呪詛?
どうしてそんなものが僕に……?
彼の言い方では、まるで僕がエスティからその呪詛をもらってきたみたいな。
もしかして、エスティが……?
一瞬嫌な考えが僕の頭に浮かんだ。
いいや、そんなわけがない。
頭を振り、その嫌な考えを否定するように頭から追い出す。
いくら僕を嫌いでも、そこまでするような女性ではないことは十分知っていた。
王宮に戻り自室へ向かおうと廊下を歩いていると、いつもは見かけない人がそこに立っていた。
いや、形は人だが本当の姿は人ではない。
龍だ。
この国を200年もの間守り続けている、守り神のような存在。
黒龍様。
しかし、どうしてここに……。
普段は住まいである龍宮から滅多に出てこない黒龍様が、こんな時間にこんなところにいるなんて。
王宮でなにかあったのだろうか。
一瞬父の身に何かあったのかもしれないと危惧したものの、彼が大層気まぐれな性格をしていたことを思い出し、考えを改めた。
だが、僕に声を掛けたということは、何かしらの用があったに違いない。
それはおそらく僕に。
彼は窓を背に寄りかかっていた体を動かし、僕に向き直るとその鋭く光る瞳で僕を睨み付けた。
彼は僕の体をジロリと見やると、フッと鼻を鳴らすと吐き捨てるように言った。
「障りを貰っただろ」
声変わりをしているのかどうかもわからないような高い声を低く唸らせると、よくわからないことを発した。
それがどういう意味なのか分からず、僕は彼を見つめるしかない。
そんな僕の様子を気に留めることもなく、説明もせずに僕に向けてパッと手を出した。
彼のする言動に、何をどう返すのが正解なのかわからずただ彼の手のひらを見つめる。
すると彼はその手をパタパタと上下に揺さぶりながら、心底面倒臭そうに告げた。
「俺が預かってやるから、それを寄越せ」
「えっ? あの……」
「いいからっ」
そういって強引に僕の腕を掴んだ瞬間、そこから眩い光が発せられた。
思わず腕で目を庇う。
バチバチと光が閃光し、何が起きているのかわからないながらも恐怖を感じた。
一体自分の体に、腕に何が起こっているのだろうか。
腕が直視できない僕とは違い、その光が眩しくないのか、彼はフッと笑うとそのまま僕の腕から何かを引き離すように、手で何かを掴んだまま僕の腕から徐々に離れていった。
と、僕の腕から何かが抜け落ちるような、そんな感覚がしたと思うと、そのままよろよろと後ろに足が下がった。
まるで緩く引っ張られていた何かを引きはがされたような感覚だった。
僕の腕から離れたそれは、離れた瞬間今までは形もなにもなかったはずなのに、複雑な模様となって表れていた。
光を纏っているものの、先ほどの眩い光とは異なり朧月のようにぼんやりと薄紫色に光っているだけだった。
彼の手の上に浮かぶようにして静止している。
「フンッ。こんなものを仕込むなんてな。しかし相当魔力が弱ってきてるみたいだ」
嘲笑するように彼は笑った。
それはまるで悪魔の笑みのようで思わず、体が一瞬震えた。
しかし、見たこともないような模様のそれが気になる。
「あの、今のは一体」
「言っただろ、障りだって」
それじゃあ結局なんなのかわからないのですが……。
しかし、彼はそれ以上説明する気はないらしく、言葉を続ける気配はなかった。
その代わり、違うことへと話題はシフトした。
「あの女に会っただろ」
「あの女?」
とは一体?
彼の指している人物がわからず、首を傾げる。
すると、彼は投げやりに答えた。
「あんたの婚約者だよ」
「エスティの事ですか?」
「ふーん、エスティって言うのか……」
そのまま、しばらく彼は宙を見つめた。
どこか思いつめたように何もないところを見つめる彼の瞳は、どこか寂しそうに見えた。
と、そこでいまだ彼の手の上に浮かぶ不気味な模様に目を向けると何かに気づいたような表情をした。
「ああ、これを処理するの、忘れてたな」
自分の持っているものを忘れるなんてことあるのかと思ったが、そこは黙っておいた。
彼は模様を持っている手に力を入れ、模様を握りつぶすようにだんだんと手を握っていく。
模様も彼の手が握られるのと比例して、赤い光を発しながら歪み軋んでいく。
と、彼が「フッ」と力を入れ、一気に拳を握りしめるとそれは弾けるように四散し跡形もなく無くなった。
僕は目の前で何が起こったのか、もはや理解するのも諦めただ茫然と彼のする行動を見つめるだけだった。
軽く一仕事終えたように、短いため息を吐くと僕の方に向き直る。
「あんた、あんまりあれに近づかないほうが良いぞ。今度またこんなものをくっつけてきたくなかったらな」
「あの、先ほどから言っている障り……とは一体なんなのですか?」
「ああ? ああ、障りな。そうだな……」
再度説明を求めると、今度はちゃんと聞いてくれていたようで、う~んと唸りながら考えている。
しかし、あんまり真剣には考えていないような様子だった。
「まぁ、一種の呪いみたいなもんだ。呪詛だよ呪詛」
そう適当な説明で終わらされてしまった。
しかし、その一言の中に不穏過ぎる単語が混じっていることに、気が付かないわけがなかった。
呪い……?
呪詛?
どうしてそんなものが僕に……?
彼の言い方では、まるで僕がエスティからその呪詛をもらってきたみたいな。
もしかして、エスティが……?
一瞬嫌な考えが僕の頭に浮かんだ。
いいや、そんなわけがない。
頭を振り、その嫌な考えを否定するように頭から追い出す。
いくら僕を嫌いでも、そこまでするような女性ではないことは十分知っていた。
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