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第4章
164.とまらぬ歪な考え
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「この建物に魔法を掛けたのは僕なんだけど、当時の僕もそこまで魔法がうまく使えた訳じゃなかった。だから、強い魔力を持った人間にはすぐバレてしまっていたんだ」
「そうなの?」
そういえば、昔彼を見かけた後、好奇心から龍についての文献を読み漁っていた。
その中で見た黒龍の特徴の中に、幼獣の頃は魔法が使える人間の大人の平均的な魔力ぐらいしか持っていないという記載があったことを思い出す。
それでも十分なのではないかとも思うが、他の龍の幼獣は生まれたときから人とは比べ物にならないほど高い魔力を有しているという記述を見ると、人間の大人分しか持っていないのは確かに少なすぎるというものか。
だとしたら、彼は魔法をそこまで使えないのに、それでもリヴェリオのためにどうにかしてこの建物に魔法を掛けていたのかもしれない。
そう思うと、彼がどれほどリヴェリオを思っていたのかを痛感した。
さきほどまで、少し彼を疑っていた気持ちがあった分、罪悪感が胸を刺す。
「そこでね、とある魔法を掛けたんだ」
そんな私の思いなど知るはずもない彼は、より一層無邪気な笑い声を発していた。
しかし、声色だけでも楽しそうなのが伝わる半面、表情が見えない分、どこか彼の持つ恐ろしさを感じたような気がした。
「もしかしたら、主様は感じないかもしれないけど、人はあそこに長い時間留まれないようになっているんだ」
「どうして?」
もったいぶるように仕掛けの事を言わない彼との会話は、普通ならうんざりするようなものなのに、なぜか楽しく感じてしまう。
もしかしたら、私は昔、彼とこんな風に話をしていたのかもしれない。
「普通の人はね、ここに長くいると、すっごくイライラするんだよ」
「イライラ……?」
途端に抽象的になった彼の言葉に疑問が浮かぶ。
だって私は建物に案内されてからそんな感情を思い起こすことなどなかったから。
まぁ多少は彼に対して疑念を抱いてしまったけれど。
とはえい、そんな感情など抱くことはなかったし実感が湧かないものだから、それが彼の無邪気な嘘かもしれないなんて思ってしまう。
いや、だが、もしかしてそんな風に感じなかったのは、私の前世がリヴェリオだったということが関係しているのだろうか。
「怒りっぽくなるっていうのかなぁ? とにかくあそこにいると酷く嫌な感情が湧きやすくなるんだよ」
へぇ~。
そんな魔法なんてあるのか。
ん? でもそれって……。
嫌な考えが私の頭を占拠する。
人の心を操る魔法にもつながるような、危険な魔法になってしまうのではないだろうか。
考え出した末に辿りついた答えは、そんな途方もなく恐ろしい事だった。
だが、一度思い付いた仮定に、私の頭は占領されて、次々に嫌なことを思いついてしまう。
その魔法を極めれば人の心を意のままに操る魔法とか、作れてしまう可能性があるのではないだろうか。
そもそも心に意図した感情を生じさせる魔法があること自体、まずい事のような気がするし。
下手したらこの世を掌握してしまうことだって簡単だろう。
魔法には多くの種類があるのは知っていたが、まさかそんな危険な魔法まであるなんて。
しかし、それがもし、彼が独自に編み出した魔法だとしたら……。
少し恐ろしげな考えが浮かび、頭を強く振ってそれを否定した。
馬鹿な。
いくら数多の魔法が存在しているとしても、そんな途方もない魔法など、あってたまるか。
そもそも彼がそれを望んでいるとは限らないし。
「……主様は本当に変わらないね」
途端に黙ってしまった私に、どうしてか寂し気に彼は呟いた。
その言葉が理解できず思わず立ち止まると、じっと彼を見つめた。
私と同じタイミングで立ち止まり、振り向いた彼は寂しそうではあったがどこか嬉しそうな表情を浮かべていた。
「主様は思ったんでしょ? そんな魔法はあるべきじゃないって。そう思ったんでしょ?」
ハッとして目を見開く。
どうしてそんな事、わかったんだろう。
まるで心の中を読まれていたような感じがした。
彼は明後日の方向へ視線を外すと、懐かしいものでも思い出すような表情を浮かべながら呟いた。
「昔同じようなことを言われたから」
「だから、この話をすればきっと主様は同じ反応をしてくれるんじゃないかって思ったんだ」と、
そう、彼は続けた。
そんな彼の行動に違和感を覚えた。
「どうして、同じような話をしたの?」
彼の言った事から察するに、今の話をして、私がそういった感情を持つことを彼は予想できたはずだ。
私に恐怖を植え付けるような話なんて、わざわざする必要など無いように思える。
そして彼はおそらく、私がそんな感情を抱くことを良しとしていない。
それともやはり、今までの彼はただ取り繕っていただけのだろうか。
ただ、私を油断させるためだけに演技していたのだろうか。
何を馬鹿なことを。
そんなのはおかしいことだと、普通に考えればわかるではないか。
もしそれが狙いなら、こんなところでボロを出すはずがない。
おかしい。
なんだか階段を降りはじめてから思考が纏まらないような気がする。
再度首を振って嫌な思考を追い出す。
私のそんな感情に、彼が気づかないわけがなかった。
「そうなの?」
そういえば、昔彼を見かけた後、好奇心から龍についての文献を読み漁っていた。
その中で見た黒龍の特徴の中に、幼獣の頃は魔法が使える人間の大人の平均的な魔力ぐらいしか持っていないという記載があったことを思い出す。
それでも十分なのではないかとも思うが、他の龍の幼獣は生まれたときから人とは比べ物にならないほど高い魔力を有しているという記述を見ると、人間の大人分しか持っていないのは確かに少なすぎるというものか。
だとしたら、彼は魔法をそこまで使えないのに、それでもリヴェリオのためにどうにかしてこの建物に魔法を掛けていたのかもしれない。
そう思うと、彼がどれほどリヴェリオを思っていたのかを痛感した。
さきほどまで、少し彼を疑っていた気持ちがあった分、罪悪感が胸を刺す。
「そこでね、とある魔法を掛けたんだ」
そんな私の思いなど知るはずもない彼は、より一層無邪気な笑い声を発していた。
しかし、声色だけでも楽しそうなのが伝わる半面、表情が見えない分、どこか彼の持つ恐ろしさを感じたような気がした。
「もしかしたら、主様は感じないかもしれないけど、人はあそこに長い時間留まれないようになっているんだ」
「どうして?」
もったいぶるように仕掛けの事を言わない彼との会話は、普通ならうんざりするようなものなのに、なぜか楽しく感じてしまう。
もしかしたら、私は昔、彼とこんな風に話をしていたのかもしれない。
「普通の人はね、ここに長くいると、すっごくイライラするんだよ」
「イライラ……?」
途端に抽象的になった彼の言葉に疑問が浮かぶ。
だって私は建物に案内されてからそんな感情を思い起こすことなどなかったから。
まぁ多少は彼に対して疑念を抱いてしまったけれど。
とはえい、そんな感情など抱くことはなかったし実感が湧かないものだから、それが彼の無邪気な嘘かもしれないなんて思ってしまう。
いや、だが、もしかしてそんな風に感じなかったのは、私の前世がリヴェリオだったということが関係しているのだろうか。
「怒りっぽくなるっていうのかなぁ? とにかくあそこにいると酷く嫌な感情が湧きやすくなるんだよ」
へぇ~。
そんな魔法なんてあるのか。
ん? でもそれって……。
嫌な考えが私の頭を占拠する。
人の心を操る魔法にもつながるような、危険な魔法になってしまうのではないだろうか。
考え出した末に辿りついた答えは、そんな途方もなく恐ろしい事だった。
だが、一度思い付いた仮定に、私の頭は占領されて、次々に嫌なことを思いついてしまう。
その魔法を極めれば人の心を意のままに操る魔法とか、作れてしまう可能性があるのではないだろうか。
そもそも心に意図した感情を生じさせる魔法があること自体、まずい事のような気がするし。
下手したらこの世を掌握してしまうことだって簡単だろう。
魔法には多くの種類があるのは知っていたが、まさかそんな危険な魔法まであるなんて。
しかし、それがもし、彼が独自に編み出した魔法だとしたら……。
少し恐ろしげな考えが浮かび、頭を強く振ってそれを否定した。
馬鹿な。
いくら数多の魔法が存在しているとしても、そんな途方もない魔法など、あってたまるか。
そもそも彼がそれを望んでいるとは限らないし。
「……主様は本当に変わらないね」
途端に黙ってしまった私に、どうしてか寂し気に彼は呟いた。
その言葉が理解できず思わず立ち止まると、じっと彼を見つめた。
私と同じタイミングで立ち止まり、振り向いた彼は寂しそうではあったがどこか嬉しそうな表情を浮かべていた。
「主様は思ったんでしょ? そんな魔法はあるべきじゃないって。そう思ったんでしょ?」
ハッとして目を見開く。
どうしてそんな事、わかったんだろう。
まるで心の中を読まれていたような感じがした。
彼は明後日の方向へ視線を外すと、懐かしいものでも思い出すような表情を浮かべながら呟いた。
「昔同じようなことを言われたから」
「だから、この話をすればきっと主様は同じ反応をしてくれるんじゃないかって思ったんだ」と、
そう、彼は続けた。
そんな彼の行動に違和感を覚えた。
「どうして、同じような話をしたの?」
彼の言った事から察するに、今の話をして、私がそういった感情を持つことを彼は予想できたはずだ。
私に恐怖を植え付けるような話なんて、わざわざする必要など無いように思える。
そして彼はおそらく、私がそんな感情を抱くことを良しとしていない。
それともやはり、今までの彼はただ取り繕っていただけのだろうか。
ただ、私を油断させるためだけに演技していたのだろうか。
何を馬鹿なことを。
そんなのはおかしいことだと、普通に考えればわかるではないか。
もしそれが狙いなら、こんなところでボロを出すはずがない。
おかしい。
なんだか階段を降りはじめてから思考が纏まらないような気がする。
再度首を振って嫌な思考を追い出す。
私のそんな感情に、彼が気づかないわけがなかった。
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