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第七章 ノベルvsイレイザー
61.手を繋いで
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「それで、イレイザー。ちゃんと傷は癒えたか?」
「……僕は亜人族っス。ゆっくりではあるけど、瘡蓋は剥がれそうっス」
イレイザーは涙を拭き取り、以前のように可愛い顔に戻りやがった。
頬の腫れは引き、男らしく強いところを見せたのだ。
すると、角からキツネの使用人が現れ、俺らの方を見て、
「ルーラー様がお会いしたいとおっしゃっておられます。皆様、よろしいですか?」
「はい、お願いするっス!」
イレイザーは彼女から部屋の鍵を受け取ると、彼は開かない扉を3回ノックする。
もう、イレイザーの目には一切の迷いはない。
愛する者を守るため、愛する者のためにまた1つ強くなった。
「ルーラーさん! イレイザーっス! 入ってもよろしいっスか?」
「……はい、お入りください」
――久しぶりのルーラーの声だ!
イレイザーは鍵を開けると、ゆっくりと開かなかった扉を開いた。
そこは真っ暗で、カーテンを閉めて蝋燭の火もつけてなかった。
日の光もない、そしてベッドの上にはルーラーが腰掛けている。
ウサミミは垂れ、さっきまで泣いていたのだと目の腫れで分かる。
「ルーラーさん!」
「イレイザー様!」
イレイザーは彼女のところまで走っていくと、間髪入れずに彼女に抱きついた!
躊躇は一切なく、今までずっと貯めて来た思いと情熱だけで特攻していきやがった。
「ルーラーさん! こんな暗い部屋でずっといるだなんていけないっス! もっと日の光に当たらないと!」
「えへへ。そうですね。もう随分と太陽は見てませんね。おかげで、少し視界がボヤボヤします」
イレイザーがルーラーを抱きしめると、彼女も手を頭に乗せて、髪を撫でる。
イレイザーの赤い髪の毛はツヤツヤで、それがルーラーのお気に入りなのだとアズリエルはよく聞いてたらしい。
寝る前に、アズリエルとルーラーは2人でよく話をしていたのだ。
俺が筋トレで大変だった時期、ルーラーは毎日のようにイレイザーの素敵なところや可愛いところを熱弁していた。
「イレイザー様の髪の毛はいつもツヤツヤで羨ましいです。それに、今日は少し柔らかいです」
「ルーラーさんが作ってくれたシャンプーを毎日使ってるんス。僕の髪の毛を触るのが好きだからって、僕に作ってくれた大切なものだから」
「それはもう1ヶ月前のものですね。残りはありますか?」
「もうほとんど使い切ったっス。毎回、ドロドロになるまで使ってるっスから。独房にいた時もそれを使ってたんスよ?」
「ど、独房?! 何の話ですかそれ!」
「あ、えーっと、あとでそれは詳しく話すっス!」
愛とは実に素晴らしい感情だ。
好きな人を考えているだけで幸せになれるし、好きな人を守りたいと思うと強くなれる。
「私、ずっと思っていたのです。イレイザー様のおかげで、私は前よりもずっと強くなれた。姉が死んだと分かったら、私は自殺するつもりでした。でも、私には本当に守ってもらいたい存在ができてしまった。そして、もっと強くなりたいと思った。それら全て、イレイザー様のおかげなんです」
「そんな、僕はそんな大層な者じゃないっス。ルーラーさんが幸せでいてくれるなら、なんでもしてあげたかった。1年でも2年でも、これから未来永劫までもお姉さんを探し続ける覚悟が僕にはあったんス。これからもずっと、お姉さんが生きていることを願い、探し続けてあげたい」
俺は、ラノベの愛なんてただの設定だと思っていた。
たかが文の羅列、作者の愛の理想図なのだと。
――これを見せつけられたら、もうそんなことは絶対に言いたくなくなったよ。
これが、本物の愛なんだ。
「好きです、ルーラー。僕は、この身が尽きるまで幸せを探し続けていきたいってス」
「私もイレイザー様が大好きです。これからも、私と手を繋いで探し続けましょう」
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