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30話 莉愛を失いたくない
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「えっ、本当に付き合ったのかよ!!」
「ああ、なんか上手く行って……」
文化祭ライブが終わって、翌日の焼き肉の店で集まった4人のうち。
好きな人に告白しようとしたボーカル担当の藤宮は、照れくさそうに後ろ頭を掻きながら言った。
「おめでとう、藤宮。やったね」
「ああ、ありがとうな森沢。そして、日比谷も」
「うん?俺?」
「ああ、正直あそこでフォロー入れてくれなかったら、100%失敗だったし」
「ええ~~いやいや、お前が最後まで歌い切ったおかげだろ?俺は別になにもしてないや」
蓮は両手を振って、ほのぼのとした空気を醸し出す。
しかし、大久保は納得いかないとばかりに拳を震わせた。
「くっそ……よかったと思うけど!そりゃ、藤宮のためにライブしたようなもんだからよかったとは思うけど、これはあんまりだろ~~ああ、俺も彼女とイチャイチャしてぇ……」
その本音を聞いて、蓮は思わずぷふっと噴き出してしまった。
「お前は下心が丸見えなんだよ、大久保。静かにしていたら割と女子に好かれるんじゃないか?」
「はっ!!イケメンは勝手に言ってろ!お前には一生俺の気持ちなんて分からねーわ!」
「はあ!?なんでだよ!」
「黙っていても女子にモテモテなお前には分からねぇわ!!こちとらよ、一生懸命話しかけて機嫌取って笑わせてあげないと見向きもされないんだぞ!?」
「まあ、俺が言うのもなんだけど、日比谷がそれ言うのは確かにちょっと酷いな」
「藤宮まで!?」
どうしてだ、極めてまともなこと言ったつもりなのに……!
そんな風に蓮が呆けていると、店員さんがタブレットで注文した肉を持ってくる。
肉が焼ける気持ちいい音の中でも、大久保はずっと蓮を睨んでいた。
「大体さ、お前こそ恋愛しないのかよ、日比谷」
「また変な話を……しない。しばらくはするつもりないから」
「えっ、本当に!?日比谷、そこそこモテてるんじゃない……?」
「いや……森沢。モテるのが恋愛と直結するわけでもないし、そもそも俺ってモテてるって実感全くないからな?はあ……」
「そりゃ、七瀬が無言で周りに牽制入れてるからだろ!」
トングで肉を裏返しながら、大久保が言う。
そして、莉愛の話題が出たとたんに、蓮の顔はこわばってしまった。
「け、牽制入れてるって、どういうことだよ……?」
「あのさぁ……隣のクラスの俺らも知ってる事実を、お前が知らないわけねーよな?」
「そういえば、けっこうな噂だよね。日比谷と七瀬さんが付き合ってるって噂」
「っ―――!?そ、そんなんじゃねーから!」
「う、うわっ!どうしたんだよ!」
「俺は別に、あいつとはなんの関係でもないからな!?ああ、もう………なんで毎回毎回こんなこと言わなきゃいけないんだ……」
なんの関係でもない。
その言葉を放つと同時に、蓮の心臓に痛みが走る。今朝に見た莉愛の顔を思い出すと、もっと苦しくなる。
……今朝の莉愛は、昔の莉愛だった。
ちょっと甘い雰囲気になった途端に溶けて、一途に自分を見つめて。
瞳を潤わせて、真っ白な肌を桜色に染めて、顔を近づけてきて。
すべてが昔通りで、すべてが記憶通りで―――だからこそ、蓮も流されそうになったのだ。
莉愛とキスしたらどんなに気持ちよくなるのか。付き合ってどれほど幸せだったのか。
蓮はこの世の誰よりも、それをよく知っているから。
『―――でも、ダメだ』
キスしたところで、もうなにもならない。
恋人として一回失敗したんだから、次も失敗したら取り返しがつかないことになる。
もし感情のままに動いて、莉愛を抱いて最後に失敗したら―――もう二度と、莉愛と話せなくなるかもしれない。
少なくとも、今のように軽く冗談を言えるような関係ではなくなる。蓮はそれが怖かった。
絶対に、何があっても、莉愛を失いたくないから。
「や、やけに熱心に否定するんだな……あっ、焼けた!みんな食べちゃっていいぞ~~ちょっと遅いけど、お疲れ様でした!!」
「おう、お疲れ様!!みんなありがとうな……!おかげて姫宮と付き合えた!」
「ふふっ、お疲れ様、みんな~~楽しかったよ」
「……お疲れ、みんな」
大人になったらジョッキーでもぶつけるのだけど、今の蓮たちに許されるのはせいぜいソフトドリンクまでだ。
でも、十分に美味しい。肉も美味しくて、追加で頼んだおかずもとにかく美味しかった。
でも、蓮の心の中にはずっと雲がかかっているような感覚が続いた。
このあと家に帰ったら、どんな顔をして莉愛と会えばいいのか。
そして、どんな言葉をかけるべきなのか―――全く見当がつかなくて。
結局、蓮はモヤモヤした気持ちを抱えながらも適当に冗談を投げ合いながら、焼き肉を食べたのだった。
「ぷはぁ~~食った、食った。美味しかったわ~~」
「じゃ、これからどうする、大久保?解散か?」
「おのれぇ藤宮、彼女できたらって友達を裏切るつもりか!!」
「あははっ!!いや、聞いてみただけだぞ?デートは来週にしようって言ってたから今日はフリーなんだ!森沢は?」
「僕も今日はフリーかな。日比谷は?」
「…………そうだな。今日はなにもないかも」
早く家に帰るべきだ。
早めに家に帰って、莉愛に会って、ちゃんと話し合うべきだと頭では分かっている。でも、どうしても逃げてしまう。
これ以上、関係が変わるのが怖い。だから、蓮はとりあえず真面目な話を先延ばしにしようとしたのだ。
そして、その時。
「あれ、大久保?」
「おっ!?」
蓮が一回だけ見た、隣のクラス―――大久保のクラスの女の子3人組が。
ちょうど、彼らの前に立っていた。
「ああ、なんか上手く行って……」
文化祭ライブが終わって、翌日の焼き肉の店で集まった4人のうち。
好きな人に告白しようとしたボーカル担当の藤宮は、照れくさそうに後ろ頭を掻きながら言った。
「おめでとう、藤宮。やったね」
「ああ、ありがとうな森沢。そして、日比谷も」
「うん?俺?」
「ああ、正直あそこでフォロー入れてくれなかったら、100%失敗だったし」
「ええ~~いやいや、お前が最後まで歌い切ったおかげだろ?俺は別になにもしてないや」
蓮は両手を振って、ほのぼのとした空気を醸し出す。
しかし、大久保は納得いかないとばかりに拳を震わせた。
「くっそ……よかったと思うけど!そりゃ、藤宮のためにライブしたようなもんだからよかったとは思うけど、これはあんまりだろ~~ああ、俺も彼女とイチャイチャしてぇ……」
その本音を聞いて、蓮は思わずぷふっと噴き出してしまった。
「お前は下心が丸見えなんだよ、大久保。静かにしていたら割と女子に好かれるんじゃないか?」
「はっ!!イケメンは勝手に言ってろ!お前には一生俺の気持ちなんて分からねーわ!」
「はあ!?なんでだよ!」
「黙っていても女子にモテモテなお前には分からねぇわ!!こちとらよ、一生懸命話しかけて機嫌取って笑わせてあげないと見向きもされないんだぞ!?」
「まあ、俺が言うのもなんだけど、日比谷がそれ言うのは確かにちょっと酷いな」
「藤宮まで!?」
どうしてだ、極めてまともなこと言ったつもりなのに……!
そんな風に蓮が呆けていると、店員さんがタブレットで注文した肉を持ってくる。
肉が焼ける気持ちいい音の中でも、大久保はずっと蓮を睨んでいた。
「大体さ、お前こそ恋愛しないのかよ、日比谷」
「また変な話を……しない。しばらくはするつもりないから」
「えっ、本当に!?日比谷、そこそこモテてるんじゃない……?」
「いや……森沢。モテるのが恋愛と直結するわけでもないし、そもそも俺ってモテてるって実感全くないからな?はあ……」
「そりゃ、七瀬が無言で周りに牽制入れてるからだろ!」
トングで肉を裏返しながら、大久保が言う。
そして、莉愛の話題が出たとたんに、蓮の顔はこわばってしまった。
「け、牽制入れてるって、どういうことだよ……?」
「あのさぁ……隣のクラスの俺らも知ってる事実を、お前が知らないわけねーよな?」
「そういえば、けっこうな噂だよね。日比谷と七瀬さんが付き合ってるって噂」
「っ―――!?そ、そんなんじゃねーから!」
「う、うわっ!どうしたんだよ!」
「俺は別に、あいつとはなんの関係でもないからな!?ああ、もう………なんで毎回毎回こんなこと言わなきゃいけないんだ……」
なんの関係でもない。
その言葉を放つと同時に、蓮の心臓に痛みが走る。今朝に見た莉愛の顔を思い出すと、もっと苦しくなる。
……今朝の莉愛は、昔の莉愛だった。
ちょっと甘い雰囲気になった途端に溶けて、一途に自分を見つめて。
瞳を潤わせて、真っ白な肌を桜色に染めて、顔を近づけてきて。
すべてが昔通りで、すべてが記憶通りで―――だからこそ、蓮も流されそうになったのだ。
莉愛とキスしたらどんなに気持ちよくなるのか。付き合ってどれほど幸せだったのか。
蓮はこの世の誰よりも、それをよく知っているから。
『―――でも、ダメだ』
キスしたところで、もうなにもならない。
恋人として一回失敗したんだから、次も失敗したら取り返しがつかないことになる。
もし感情のままに動いて、莉愛を抱いて最後に失敗したら―――もう二度と、莉愛と話せなくなるかもしれない。
少なくとも、今のように軽く冗談を言えるような関係ではなくなる。蓮はそれが怖かった。
絶対に、何があっても、莉愛を失いたくないから。
「や、やけに熱心に否定するんだな……あっ、焼けた!みんな食べちゃっていいぞ~~ちょっと遅いけど、お疲れ様でした!!」
「おう、お疲れ様!!みんなありがとうな……!おかげて姫宮と付き合えた!」
「ふふっ、お疲れ様、みんな~~楽しかったよ」
「……お疲れ、みんな」
大人になったらジョッキーでもぶつけるのだけど、今の蓮たちに許されるのはせいぜいソフトドリンクまでだ。
でも、十分に美味しい。肉も美味しくて、追加で頼んだおかずもとにかく美味しかった。
でも、蓮の心の中にはずっと雲がかかっているような感覚が続いた。
このあと家に帰ったら、どんな顔をして莉愛と会えばいいのか。
そして、どんな言葉をかけるべきなのか―――全く見当がつかなくて。
結局、蓮はモヤモヤした気持ちを抱えながらも適当に冗談を投げ合いながら、焼き肉を食べたのだった。
「ぷはぁ~~食った、食った。美味しかったわ~~」
「じゃ、これからどうする、大久保?解散か?」
「おのれぇ藤宮、彼女できたらって友達を裏切るつもりか!!」
「あははっ!!いや、聞いてみただけだぞ?デートは来週にしようって言ってたから今日はフリーなんだ!森沢は?」
「僕も今日はフリーかな。日比谷は?」
「…………そうだな。今日はなにもないかも」
早く家に帰るべきだ。
早めに家に帰って、莉愛に会って、ちゃんと話し合うべきだと頭では分かっている。でも、どうしても逃げてしまう。
これ以上、関係が変わるのが怖い。だから、蓮はとりあえず真面目な話を先延ばしにしようとしたのだ。
そして、その時。
「あれ、大久保?」
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蓮が一回だけ見た、隣のクラス―――大久保のクラスの女の子3人組が。
ちょうど、彼らの前に立っていた。
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