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しおりを挟む一般的にスパダリって言うんだろうな。
ガキの頃は、〝前ならえ〟の時に両手を腰に手を当てるくらい小さかったくせに、中3くらいからにょきにょき身長が伸びて、今やうらやましいまでの高身長になり。
「大きくなったら、ぼく、イヌになるーっ!」っと、人以外になることを将来の夢に掲げるくらいぼんやりした頭だったはずなのに、偏差値75の高校に合格したのを皮切りに、いつの間にかビックリするくらいの頭脳を携えて、そのままの勢いで航空大学校に入ってしまった。
性格は、穏やかで誰とでも仲良くなれて。
パイロットの制服をモデル並みに着こなして、日本全国を飛び回る。
加えて言うなら、顔だっていい。
非の打ち所がない…………そんなヤツだ、鈴木穂波は。
さらに加えるなら………名前まで………。
インパクト大で…………。
完璧なスパダリだ。
表向きは。
表向きは、スパダリなんだよ、穂波は。
幼なじみの、保育園から大学まで常に一緒にいた僕だけが知ってる、スパダリの本性。
それは…………マイペースなこと。
正直、表向きの顔を剥がして捨てたら、世知がない世の中を生きていけないんじゃないかってくらい、スーパーなマイペースなんだ。
散歩でも、買い物でも。
その道すがら蝶々を見つけたら、「あ、チョウチョ!」と言って追いかけて行くし。
携帯電話も、しょっちゅう行方不明になる。
ほっとけばずっと寝てるし、風呂だって言わないと入らないし、飯は僕が作ったものしか食べない。
裏の顔は、干物かなんかで。
穂波にキャーキャー言ってる女子は、この穂波の実態を知ったら多分幻滅するんだろうな、多分。
さて、今僕は。
まるで、日常生活をスパダリと過ごしているような…………誤解を招くような言い方をしたけど、別に付き合って同棲しているわけじゃない。
僕は穂波のお母さんに頼まれて、仕方なく同居してるんだ。
「穂波があんなんだから心配なの!タケちゃん、一緒に住んで!お願いっ!!」
…………もぅ、さ。
すごい剣幕でさ、「うん」としか言えなかったんだよ、本当。
じゃあ、僕は何をしているかって?
他人の分の家事までして、結局ヒキニートだろ?って思ってるんだろ?
ちげーよ、ちゃんと働いてるよ。
汗水垂らして働いてんだよ、毎日毎日、地方裁判所の速記官としてだな。
僕だって他人の分の家事までなんて、正直そんな余裕ないんだよ。
それでも大学からの続けている習慣から、だいぶ効率的に合理的にできるようになった………なってきたんだよ。
それに最近楽になってきた。
穂波のフライトの関係で、週の半分は家にいない。
だから、最近は悠々自適にプライベートを謳歌していたりする。
まぁ、それはそれでいいんだ。
厄介なのは、穂波が帰ってきてからで。
大きなネコをかぶって過ごして帰ってきた穂波は、自宅30メートル先くらいから穂波の背中からネコが剥がれ落ちて、玄関のドアを開ける頃には、本性丸出しの穂波がいる。
そして機関銃のように喋りだすんだ。
「昼に食べた卵サンドが許せないレベルに潰しタマゴが入ってなかった」とか。
「フライトで泊まる時は、いつも行くおでん屋さんが閉まってて、隣のサビれた中華料理屋さんに入ったら、目が覚めるくらいのマズさだった」とか。
はいはい、今、ご飯準備するから待ってろよ。
「タケちゃーん、今日のご飯なにー?」
「トマトと挽肉のキーマカレー」
途端に、スパダリのかけらもへったくれも無い穂波の顔が輝きだす。
「やっぱタケちゃんは気が利いてるなぁ。連続フライトの後は、やっぱタケちゃんのカレーだよー」
「………穂波、おまえちゃんと外でネコかぶっとけよ?絶対だよ?絶対だからな?」
「わかってるよー」
「………じゃあ、なんで僕がそう言うのか、その理由を言ってみろ」
穂波はそのイケメンな顔をふにゃふにゃ緩めて笑った。
「世間知らず過ぎて生きていけないから!」
…………神様は、わかんないな。
こんな、生まれた時からポヤーッとしている穂波に二物も三物も与えちゃって。
僕は職業柄、色んな人に会ったり見てきたりしたりしたけどさ。
本当、穂波は神様に愛されてるレベルで恵まれてる。
スパダリで、世間知らずで、スーパーマイペースで。
その〝王様の耳はロバの耳〟と言う事実をしった床屋のような僕は、決して切り株で叫んではいけない。
絶対に言ってはいけないんだ。
応援ありがとうございます!
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