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【4】雨の宿 その4
しおりを挟む逆にウーサーといえば、やる気満々でいさささか前のめり気味にきっぱり「大丈夫だ!」といった。
「それも、しっかり調べた! この知識だけは、あなたの千年の頭の中に詰まっている図書館にだって負けない」
「そんなものに血道をあげるぐらいなら、他の学問に励めといいたいところだが……」
アルマティも知識“だけ”ならばある。ウーサーの代だけでなく、始祖王アーサーとともに戦場にあったのだ。男ばかりのなかで、そういううっぷん晴らしや、そこからの友愛なんてものが生まれることもあるのは知っている。
そもそもこの世界の神々は近親相姦の禁忌はともかく同性同士の愛も認めているのだ。子孫を残すことにこだわることのない不老不死のエルフならば、なおさらに同性同士の婚姻もごく普通にあった。
百年の短命の人間となると、そこは子孫繁栄のために、禁忌ではないがあまり世間的に大っぴらにするような関係でもない……というところだ。
「お前に知識があるならば、私が余計な“指導”はしなくてすむということだな。
まあ、私にしても“実地”は初めてだからな」
口にして“しまった! ”と思った。目の前のウーサーの顔がみるみる歓喜に染まる。
「あなたも初めてなのか?」
「いうな馬鹿!」
アルマティは頬どころか、その尖った耳の先まで熱くなるようだった。このような恥辱は、生まれたての百年や二百年の若葉の頃ならともかく、久方ぶりすぎて、どう感情を散らしたらいいのかわからない。
反射的に逃げ出そうと男の腕の中で身をよじれば、逃さないとばかり背中は壁に押しつけられて、囲い込んだ腕と身体が密着する。エルフの力に対抗するとは、この竜人族の先祖返りの馬鹿力め!
「あなたは本当に誰とも?」
「だからいちいち確認するな! こんな風に私に触れたのはお前だけだ!」
「では、始祖王アーサーとも?」
「なぜそこでアーサーの名が出てくる。あんな女好きがエルフの男に手を出すか。だいたいあれとどうこうと考えただけで、背筋に寒気が走る!」
どうしてそんな考えになるのか! とアルマティは本気で怒りかけたが、しかし「うれしい!」とウーサーは苦しいぐらいにぎゅうぎゅうと抱きしめてきて。
「では、本当に本当に俺達は初めて同士なのだな。俺の初めても捧げられて、あなたの初めても何もかももらえるなんて、望外の喜びだ」
「う……」
まったく、あまりにはしゃぐので瞬間たちあがった怒気はすぐに萎えてしまって、襲って来たのはうっかり口を滑らせてしまった恥辱だ。
目元どころか頬も耳も染めるアルマティの顔中に、愛おしいとばかりウーサーの情熱的な唇が押しつけられる。
「あ……ぅ……」
同時に薄い尻の肉を両手でもみしだかれて、その狭間を指でなぞられた。先ほどあったぬるみは少しの時間で多少乾いて、中に潜り込もうとする指先に抵抗があった。かすかな痛みに思わず、アルマティの眉間にしわがよる。
「痛い?」
「多少な」
「濡らすといいらしいんだけど、舐めようか?」
「馬鹿者! 恥辱で私を殺す気か!」
肌など誰とも合わせたことはなかったが、アルマティの無駄に多い知識の中には、たしかにそういう房中術があることは知っている。しかし初めてでそれはないだろう。
「仕方ない。これをつかえ」
前はすっかりはだけてしまったが肩にひっかかっていたガウンの袖から、小瓶を取り出して渡す。ウーサーの傷口に塗ってやっているものだ。まったくエルフの秘薬をこんなことに使うとは。
「傷口にも効くからな。切れても大丈夫だろう」
「アルマティに傷なんて負わせたくないな」
「なら丁寧にしろ! う……ふぅ……」
軟膏をとった太い指がくちゅりとアヌスに入りこんでくる。体温でたちまち軟膏はとけて、浅く出入りしていた動きは、すぐに滑らかになる。
「もう少し奥に進んでも?」
「いちいち……訊くな……と……ひゃあっ!」
奥へと進んだ指が一点をかすめて、今度こそ信じられないような声が、己の口から出てアルマティは両手で押さえた。ウーサーも目を見開いて、こちらを凝視している。
「ここ、いいのか?」
「…………」
ふるふると首を振る。感じたと認めるには、今までとは違いすぎる感覚だった。自分が自分で無くなるような。これ以上はダメだと思うのに。
「いいんだな」と勝手に納得したウーサーはそこを何度もしつこく指で刺激してきた。そのたびに身体は跳ねて手で押さえた口許からはくぐもった声が漏れた。
「声を聞きたい」とねだられて首をふったら、手をあっさりと口許から引き離されたのは、快楽で力が入らないせいだ。それでも声を出すのが嫌で唇を噛みしめていたら、かぷりと口づけられた。
舌をからませられては、男の口にくぐもった嬌声を響かせるしかない。散々啼かせて濡れた唇を離した男は耳元で「あなたは舌だけじゃなく、声まで甘い」とささやく。涙目でにらみつけてやったが、憎たらしいことに不敵に微笑んでいる。
「んんぅ……」
いつのまにか三本に増えていた指がずるりと抜かれて、びたりとおしあてられた熱いモノは、ウーサーのあの太くて長いペニスだろう。「いい?」と聞かれてうなずきかけるが……。
「おい、立ったままするつもりか?」
そう、アルマティは壁に押しつけられたまま、二人とも部屋にはいってすぐの扉近くから、一歩もうごいていない。
「ああ、すまない。座ろう」
「お、おい!」
ベッドに運べという意味だったのに、床にあぐらをかいたウーサーの膝のうえに向かいあわせに落とされる。快楽で力の入らない身体はあっさりと、太い腕の思うがままにほぐれたアヌスに、ペニスが押し当てられて、ずるりと先が入りこむ。
「っ……!」
痛みはなかったが、その圧迫感にアルマティは息を呑む。ぎゅっと締め詰めてしまって「く……」とウーサーも息を呑んだ。
「アルマティ、力を抜いて」
「出来たら……苦労しな……い……」
だいたい初めてでこの体勢はどうなんだ? と思う。それでもいたわるように、頬をなでられて、顔中にまた口づけの雨が降るのに、アルマティはふう……と息をつく。深呼吸をくり返し、なるべく力を抜くように心がける。
「っ……ふぅ……」
じりじりとおのれの中をすすんでくる、若くてたくましいペニスをしっかりと感じる。そのたびに息を詰めそうになりながら、息を吐いて力を抜く。その若駒のように張りのある肌の肩の盛りあがりに思わず爪を立てて、赤い痕を作ってしまったけれど、これぐらい耐えろ……と思う。
実際、アルマティがそれでも手加減して小さく爪を立てるたびに、目の前の精悍な青年の眉間には軽くしわが寄った。そのクセにその痛みさえ、うれしいと口の端はつり上がっていた。
ずん……と奥に突き当たったような感覚に、アルマティは「くぅ……」と声を漏らす。それは圧迫感の苦しさだけではなく、どこか仔犬が鼻を鳴らして甘えるような響きがあった。
「全部……はいった……か?」
「一応かな?」
「なんだ、その一応というのは? あ……っ!」
ずるりと引かれて全部抜き取られるまえに、ずん……とまたいれられた。そうだ、奥まで一度いれただけでは終わらない。何度もくり返すのだったと無駄にある知識で思い出す。
「……あ、あ、あ……は、早く……終われっ!」
「それはっ! あんまり早いのは、男の沽券に関わるのだがっ!」
「なにを……うんっ! よせっ! そこっ、するなぁっ!」
「ああ、やっぱりここ? アルマティ、指でも気持ち良さそうにしてた」
「だから、やめっ! あっ! あっ!」
止めたところであっさり止めてくれるような相手ではないとはわかっている。逆に散々そこを突かれてえぐられて啼かされる。
「アルマティ……もうっ!」
「んっ……ぅんんんっ!」
耳元でささやかれて言葉で答えることも出来ずに、広い背中に回した両手で思いきり爪を立ててやった。それにうながされるように息を呑み、ひときわたくましく突かれたと思ったら、動きが止まる。
気がつけば、いつまに自分も果てたやら、お互いの腹の間にもみくちゃにされたアルマティのペニスもまた、白濁を吐きだしていた。
「ふぅ……んっ!」
ずるりとなかのペニスを引き抜かれる。終わったのかと脱力した身体を横抱きにされて、そのまま寝台に運ばれ横たえられた。
「お……い?」
のしかかってくる熱い身体に、まさか? と反射的に身をよじると、後ろから逃さないとぎゅっと抱きしめられた。
「っ……あっ!」
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