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【22】やきいも会議

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 ぴーひょろろ~とトンビが鳴く。この世界にもトンビがいるのかと、北の地にやってきて知った。
 空で旋回する鳥を見上げていたアルファードだったが、ただよってきた良い匂いに下を見れば、ダンダレイスがたき火を木の棒でつついている。その肩の上で、アルファードは期待にくりくりの瞳を輝かせた。

「焼けた」

 ダンダレイスが枝を持ち上げると、その先にほこほこと焼けた蜜芋があった。
 炎の魔法でも一瞬で芋は焼けるが、たき火を使ったほうが味が違うらしい。しかし直火にかければ芋は黒焦げになるから、そうならないように水の魔法で薄い膜で包みゆっくりと蒸し焼きにするという。
 なかなかに手間暇かかったやきいもだ。ダンダレイスが大きな手で、半分に割ってその断面をふうふう覚まして、アルファードに渡してくれる。

「まだ熱いから気をつけて」
「わかった」

 あつあつふうふう、だが、この火傷しそう熱さがうまいのだ。はふはふとアルファードが食べるのを、ダンダレイスが相変わらずのモップ頭の前髪の向こうから優しく見ている。

「なあ……」

 芋を焼く係、水属性のロッフェが、新たな芋を投入しながらいう。

「なんで俺達、こんなところで芋焼いているんでしょうね」
「それはこのタルテルオの壁に派兵されたからだな」
「勇者と聖女が魔王と戦う前の露払い、いわば“捨て駒”という奴か?」

 ダンダレイスが生真面目に答え、その肩の上で、皮の付近の少し焦げたところも香ばしいと、むしゃむしゃ食べながらアルファードが答える。
 「“捨て駒”ってハッキリいうなあ、アルのおっさん」とツイロ。それにアルファードは「ごまかしたって仕方ないだろう」と答える。

 聖女のお披露目の宴でのダンダレイスの“不名誉”な噂を挽回するため、なんてとってつけたような理由はもちろん建前だ。
 とはいえ、それが宰相が閣議決定したうえでの、国王命令なら逆らえない。だから、ダンダレイスと第三騎兵部隊は、魔王との戦いの最前線である、タルテルオの壁に送り込まれた。
 堅牢な要塞の向こうにそびえるのは、文字通り壁のような岩山だ。

「魔王軍の勢力を捨て駒のお前達をぶつけてそげたなら万々歳。そこでレイスが“名誉の戦死”をしてくれたなら、なお万々歳なんだろうな」

 策士というのは一つだけでなく、二つ、三つの効果を狙うものだ。そういう意味では、あの狸なかなかやりおる。
 「まだあるぞ」とアルファードと半分こした芋を自分も食べながら、ダンダレイスが口を開く。

「私が死ねば、モーレイ公爵領の北方の広大な領土と周辺の獣人の藩国との交易の利権がまるまる浮くことになる」

 ダンダレイスがイモを転がしていた枝で、地面にこの国のおおよその形を描く。モーレイの公爵領は北のかなりの部分を占め、その先に獣人達の藩国が、そして魔界との境界線であるタルテルオの壁の壁と言われる、険峻な山脈がそびえ立つ。
 そう人界と魔界は地続きなのだ。そして、翼ある魔物でも越えられない山脈であるが、この下には巨大な地下洞穴があり、人界へと抜けるヤキニゾゾの門は歴代聖女の聖なる封印によって固く閉ざされている。
 が、その封印は永遠のものではなく、数百年周期で打ち破られて人界へ攻め込んでくる魔王を、異世界から召喚された聖女と選ばれし勇者が倒してきた。その繰り返しの歴史がこの世界だ。

「それで、腹黒宰相夫婦とその取り巻きはモーレイ公爵領を狙っているっていうのか? しかし、お前が死んだら相続はどうなっているんだ?」
「公爵家の直系男子は私一人だ。領地は当然、国に返還されることになる」

 国のものになるなら、いくらあの腹黒狸宰相とて、そう簡単に私物化出来ないだろう……とアルファードは言いかけて「あ~」と声をあげる。

「お前がいなくなれば、あの勇者レジナルド王子が、王様確定か!」
「そうだ。そしてまつりごとは引き続きストルアン宰相が執ることになるだろう」

 自分の息子の国ならば、まして宰相ならば思うがままか……とまで考えて、アルファードはまたひっかかる。

「しかし、そんな私利私欲にはしった“悪政”を“正しい”王子様が野放しにするかな?」

 あの正義の勇者様が、自分の親とはいえストルアンの暴走を許すとは思えない。

「いや、宰相の政はまったく清らかとは言えないが、うまく運営されている。国庫は赤字ではないし、貴族達もブルジョア達も分配される利に満足している。税は重くもなく軽くもなく、貧富の差はあるが餓死者が大量に出るような饑餓も、あの男が宰相になってからは出ていない」

 「陛下もそれがわかっているから、ストルアン宰相に任せている」とダンダレイスは続けた。「レジナルドもだ。だから私への夫妻の“行き過ぎた態度”を牽制してとりなすことはあれ、彼の政への口出しはしない」と。
 たしかに綺麗ごとばかりで政治が動かないもの確かだ。清濁あわせのむ度量が必要なのもわかる。
 意外なのはあの“正しい”ばかりと思っていた、勇者王子がそれを理解しているということだが。

「なるほど、清廉潔白ではないが“有能”ではあるってことか?」

 アルファードはもふもふのあごにちんまりした手を当ててうなる。
 あの狸は意外とやるようだ。





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