【運命】に捨てられ捨てたΩ

諦念

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第ニ章 運命の番

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 あの感じじゃ、時間の問題ね。

 拓海と秀也が出ていった後、ママの気分で変えたジャズが流れる店内で、ママとヨウ君は酒と話を楽しんでいた。その話のネタは、やはり拓海と秀也の事だった。
「アタシは、南君と番になると思ったんだけなあ」
 勘が外れたようでママは溜息をついた。
「どうしてママ?」
 ヨウ君は人のいい笑みを浮かべて、いつもの焼酎八割のウーロンハイを呑んでいる。
「だって、あの二人の空気? 匂い? 絶対【運命の番】よ!」
「ハハハ、そんなのよく分かるね」
「ふふん、ほら私って鼻がきくから」
 そう言ってママは、ウィンクしながら形のいい鼻先を人差し指で指した。
「ママには隠し事もできないな」
 ヨウ君が笑うと、つられたようにママも笑った。しかし、不安そうな影はママの顔から消えなかった。
「ねえ、ヨウ君【運命の番】と、愛し合って番ったαとΩって何が違うのかしら」
 古い付き合いのあるママの性格を知っているヨウ君は、ママを気遣い「……うーん」と眉間を人差し指と親指で挟んで考えている。
「僕はβだから、よく分からないけど、愛し合っているならどちらも、同じ想いなんじゃないのかな」
 その答えに納得出来なかったママは、悩ましい表情を浮かべる。自分の紅茶ハイを一口呑むと、話を続けた。
「でもさ、もし、あのαの秀也君に【運命の番】が現れたら……」
「みい君だって【運命の番】を選んだわけじゃないだろう?」
「そうだけど、あの子鈍いところがあるから気づいていないのかも、それに【運命】を拒否してるし」
 ママは所在なさげに煙草の箱に触れながら、目を伏せる。
「αとΩはややこしいね」
【運命】を拒否しているαとΩは、【運命の番】が現れたとしても、その存在に気付く事はない。しかし、お互いが拒否している状態でなければならない。
 ママは秀也がどんな人間か知らないため、まだ一抹の不安を拭い切れない。
「まあでも、それこそ心配いらないはずだよ。だってあのイケメン君も【運命の番】を拒否すればいいんだから」
 ヨウ君が笑って言うので、ママは少しだけ苛立ってしまい、無意識に煙草の箱を握りしめた。
「もう! 簡単に言わないでよ! たくみが言ってたでしょ?  あの男が告白した時の言葉。一目惚れだって、そんなの【運命】を感じちゃってるじゃない!」
 荒ぶれるママを前に、ヨウ君は真顔になった。
「本当は、これ以上、アタシの目の前でΩが不幸になるのは嫌よ!」

 でも、たくみの彼を見る目はもう、手遅れ。それなら応援するしかないじゃない。

 ママはハッとして客に見せるべきではない醜態を晒してしまった事に気づいた。すぐに「ごめんなさい」とヨウ君に謝った。

 いくら、ヨウ君が優しいからっても、今のはやりすぎたわ。友人以前に客と店長よ。流石に嫌気がさすに、決まってる。

「ママ」と呼ぶヨウ君の声にママは身構えた。
「……ママ、ごめんね。僕はβだから【運命の番】なんて夢のまた夢の話なんだ。ママがΩで苦労して来たのも、知っているはずなのに無神経な事を言ってごめんね」
 ヨウ君は真剣な顔つきでママを見据える。
「でもね、【運命の番】じゃなければ番になってはいけないわけじゃないし、【運命の番】だから番にならなくてはいけないわけでもない。決めるのはみい君自身で、みい君が傷付いたなら僕達が彼を支えればいい」
 今度はママの心を安心させるような笑みを浮かべて、箱を潰しているママの手を上から握る。
「大丈夫、僕はβだから人並みの稼ぎも貯金もあるし、αのΩにも、Ωのαにもなることはなないから、ママの側にずっと居るよ」
「なにそれ、アタシ達を養うって言っているの?」
「アハハ、ママが許してくれるならね」
 ヨウ君は満更にもなさそうに笑う。
「本当、人が良すぎるのよ」
 ママは緊張の糸が切れたように、硬かった表情が崩れた。お世辞にも美しいとは言えない顔をしている。ママは化粧が取れるのが嫌だからと理由をつけて泣くのを我慢した。
 素直に嬉しく思いたかった。けど、拓海の心配をしていながら、もし自分の【運命の番】であるαが現れた時に、これまでずっと優しい言葉をかけてくれたヨウ君を、裏切るかもしれないという罪悪感から、ヨウ君の言葉を素直に受け取る事が出来なかった。
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