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20.力量の差
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「さて、既にご存知だとは思いますが、ここが騎士の修練場です」
「文字通り、ここは騎士が修練を行う場なんですよね?」
「ええ、業務の合間などに多くの騎士達はここで鍛錬を行っています。時々は合同訓練なども開催していますね」
修練場までやって来て、ウェルド様は騎士の業務に関する説明を始めてくれた。
この場所については、フラウバッセンさんから既に話を聞いている、騎士達のかっこいい姿が見られる素敵な場所、確かに彼はそんな風に言っていた。その説明はともかくとして、今日も何人かの騎士達が鍛錬を重ねているようだ。
「騎士団の組織としての体制をラナトゥーリ嬢はご存知ですか?」
「組織としての体制……隊によって分かれているというような話でしょうか?」
「ええ、正しくその通りです。騎士団は隊に分かれており、それぞれ隊長が指揮しています。それらを統括しているのが私ということです」
ウェルド様が説明してくれた騎士団の体制は、流石の私も理解していた。それはこの国において、一般常識として知られていることだ。
ただ、細かいことまで知っているという訳ではない。その辺りについて、今日は色々と聞かせてもらうとしよう。
「魔術師団では、業務によって分かれていますけど、騎士団もそうなんですか?」
「基本的にはそうですね。例えば一番隊ならこの王城の警備を担当しています」
「基本的にはということは、例外的にはそうではないと?」
「ええ、例えば盗賊や山賊のアジトなどが見つかった時や凶暴な魔物が発生した時は、複数の隊でその討伐に行ったりします。まあ、それに関しては一番隊は例外ですがね。王城の警備を疎かにすることはできませんから」
「ああ、それはそうですよね」
私に騎士団の隊のことを説明しているウェルド様は、少し暗い顔をしているような気がする。何かしらの憂いがあるということだろうか。
そこで私は思い出す。騎士団と魔術師団の対立のことを。それは大きな対立であるが、もしかしたら小さな対立などもあるのかもしれない。
「……隊同士にも対立関係などがあるんですか?」
「……ええ、残念ながらそうなのです」
「やはり、大なり小なりそういうものは避けられないものなのでしょうか?」
「いえ、そんなことはありません。魔術師団には、対立関係など作っていないでしょう?」
「それは……確かにそうですね」
ウェルド様の指摘に、私は今まで気付いていなかった魔術師団の気風に気がついた。
実務をしている魔術師と研究を行っている魔術師で対立しているなんてことは、まったく聞いたことがない。いくら私が新人だからといっても、そういうことがあるなら流石に耳に入ってくるだろう。
ということは、魔術師団にはそういう対立がないと考えていいはずだ。
「それはつまり、団長の差です」
「団長の差?」
「ええ、フラウバッセンさんはその辺りを上手くやっているようです。それが私にはできない。情けない限りです」
「そんなことは……単純に二つの組織の性質の違いではありませんか?」
私はウェルド様の言葉に首を振った。きっと対立が起こるのは、団長の差ではなく気風の差だと思ったからだ。
騎士団は規律を重んじている組織である。一方で魔術師団は比較的自由だ。その違いが対立を生むかどうかの違いなのではないだろうか。
「その騎士団の気風も含めて制御できる程の力が私にないというのが問題なのです」
「それは……」
「……すみません。余計な話をしてしまいましたね」
そこでウェルド様は何かに気付いたかのような表情をして、謝罪をしてきた。
彼に何か言葉をかけてあげたい所なのだが、その言葉が私には見つからない。団長という重要な役職に就いている彼に、一魔術師である私に何が言えるというのだろうか。
「ラナトゥーリ嬢、気にしないでください。これは全て、私の不徳の致すところ……重要な役割に就いたというのに、弱音ばかり吐く私が駄目なのです」
「ウェルド様……」
魔法学園を出てすぐに団長になったウェルド様は、本当に色々と苦労しているのだろう。その表情からはそれが伺える。
色々と縁もあるため、そんなウェルド様を助けてあげたいという気持ちはある。しかしやはり、私にできることはなさそうだ。私は魔術師団の一員である訳だし。
だからここは、ある人達に頼ることにしよう。ウェルド様と近しい関係であるあの二人なら、彼の憂いなどを晴らしてくれるかもしれない。
「文字通り、ここは騎士が修練を行う場なんですよね?」
「ええ、業務の合間などに多くの騎士達はここで鍛錬を行っています。時々は合同訓練なども開催していますね」
修練場までやって来て、ウェルド様は騎士の業務に関する説明を始めてくれた。
この場所については、フラウバッセンさんから既に話を聞いている、騎士達のかっこいい姿が見られる素敵な場所、確かに彼はそんな風に言っていた。その説明はともかくとして、今日も何人かの騎士達が鍛錬を重ねているようだ。
「騎士団の組織としての体制をラナトゥーリ嬢はご存知ですか?」
「組織としての体制……隊によって分かれているというような話でしょうか?」
「ええ、正しくその通りです。騎士団は隊に分かれており、それぞれ隊長が指揮しています。それらを統括しているのが私ということです」
ウェルド様が説明してくれた騎士団の体制は、流石の私も理解していた。それはこの国において、一般常識として知られていることだ。
ただ、細かいことまで知っているという訳ではない。その辺りについて、今日は色々と聞かせてもらうとしよう。
「魔術師団では、業務によって分かれていますけど、騎士団もそうなんですか?」
「基本的にはそうですね。例えば一番隊ならこの王城の警備を担当しています」
「基本的にはということは、例外的にはそうではないと?」
「ええ、例えば盗賊や山賊のアジトなどが見つかった時や凶暴な魔物が発生した時は、複数の隊でその討伐に行ったりします。まあ、それに関しては一番隊は例外ですがね。王城の警備を疎かにすることはできませんから」
「ああ、それはそうですよね」
私に騎士団の隊のことを説明しているウェルド様は、少し暗い顔をしているような気がする。何かしらの憂いがあるということだろうか。
そこで私は思い出す。騎士団と魔術師団の対立のことを。それは大きな対立であるが、もしかしたら小さな対立などもあるのかもしれない。
「……隊同士にも対立関係などがあるんですか?」
「……ええ、残念ながらそうなのです」
「やはり、大なり小なりそういうものは避けられないものなのでしょうか?」
「いえ、そんなことはありません。魔術師団には、対立関係など作っていないでしょう?」
「それは……確かにそうですね」
ウェルド様の指摘に、私は今まで気付いていなかった魔術師団の気風に気がついた。
実務をしている魔術師と研究を行っている魔術師で対立しているなんてことは、まったく聞いたことがない。いくら私が新人だからといっても、そういうことがあるなら流石に耳に入ってくるだろう。
ということは、魔術師団にはそういう対立がないと考えていいはずだ。
「それはつまり、団長の差です」
「団長の差?」
「ええ、フラウバッセンさんはその辺りを上手くやっているようです。それが私にはできない。情けない限りです」
「そんなことは……単純に二つの組織の性質の違いではありませんか?」
私はウェルド様の言葉に首を振った。きっと対立が起こるのは、団長の差ではなく気風の差だと思ったからだ。
騎士団は規律を重んじている組織である。一方で魔術師団は比較的自由だ。その違いが対立を生むかどうかの違いなのではないだろうか。
「その騎士団の気風も含めて制御できる程の力が私にないというのが問題なのです」
「それは……」
「……すみません。余計な話をしてしまいましたね」
そこでウェルド様は何かに気付いたかのような表情をして、謝罪をしてきた。
彼に何か言葉をかけてあげたい所なのだが、その言葉が私には見つからない。団長という重要な役職に就いている彼に、一魔術師である私に何が言えるというのだろうか。
「ラナトゥーリ嬢、気にしないでください。これは全て、私の不徳の致すところ……重要な役割に就いたというのに、弱音ばかり吐く私が駄目なのです」
「ウェルド様……」
魔法学園を出てすぐに団長になったウェルド様は、本当に色々と苦労しているのだろう。その表情からはそれが伺える。
色々と縁もあるため、そんなウェルド様を助けてあげたいという気持ちはある。しかしやはり、私にできることはなさそうだ。私は魔術師団の一員である訳だし。
だからここは、ある人達に頼ることにしよう。ウェルド様と近しい関係であるあの二人なら、彼の憂いなどを晴らしてくれるかもしれない。
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