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10.保留すべき状況
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先程までとは打って変わって、客室の中には沈黙が流れていた。
重苦しい空気だが、それは仕方ないことだ。突然の知らせは、むしろそうなるべき事柄のように思える。
「……セリティア嬢、このような形で挨拶することになってしまい、大変申し訳ありませんな」
「あ、いえ、お気になさらないでください」
長い沈黙を破ったのは、ラーゼル公爵だった。
メイドがアルガール侯爵の死を報告した後、すぐに彼がやって来たのだ。
元々、今回の縁談は彼と侯爵の繋がりからもたらされたものである。つまり、二人は旧知の仲だった。故に、その死には色々と思う所があるのだろう。
「……父上、大丈夫ですか?」
「うむ……いや、すまないな」
「いえ……」
落ち込んでいるのがわかる程に、ラーゼル公爵は憔悴していた。
同年代の友人の早すぎる死だ。辛いのは当然である。
だからこそ、彼はここに来たのかもしれない。その悲しみを分かち合える誰かを求めて、または支えてくれる息子を求めて。
「……セリティア嬢、父上に代わって言わせていただきますが、今回の話は一時的に中断するべきでしょう」
「中断、ですか?」
「ええ、アルガール侯爵とあなた引いてはあなたのお父上との関係は私も知っています。こんな時に縁談の話などをするべきではないでしょう。少なくとも、彼の葬儀が終わるまでは、その件については保留するべきです。父上、それで相違ありませんか?」
「う、うむ……」
バルギード様は、ラーゼル公爵を気にかけながらそう提案してくれた。
父親との関係が良くないと先程言っていたが、そうは思えない。二人は、とても良好な関係のように見える。
ということは、昔はもっと仲が良かったということなのだろうか。二人の様子に、私はぼんやりとそんな感想を抱いた。
「セリティア嬢、来たばかりで大変だとは思いますが、あなたはすぐに帰宅するべきでしょう。オンラルト侯爵も心を痛めているはずです。あなたが傍にいてあげた方がいいし、あなたの傍にも彼がいた方がいい」
「……はい、そうですね」
ラーゼル公爵は、バルギード様の肩に手を置きながら私にそう言った。
それはきっと経験則なのだろう。お父様は確実に落ち込んでいる。それを支えられるのも、私自身を支えてくれるのも、きっと家族なのだろう。
「バルギード様、申し訳ありませんが……」
「何も気にすることはありません。今はただ故人の冥福を祈るとしましょう」
「……そうですね」
バルギード様は、何も言わなかった。言葉通り、婚約の話は保留であるようだ。
今はそれがとてもありがたかった。今は縁談のことなんて考えていられない。アルガール侯爵の死で、頭がいっぱいだ。他のことを考えられる余裕がない。
こうして私は、ラーゼル公爵家から帰ることになったのだった。
重苦しい空気だが、それは仕方ないことだ。突然の知らせは、むしろそうなるべき事柄のように思える。
「……セリティア嬢、このような形で挨拶することになってしまい、大変申し訳ありませんな」
「あ、いえ、お気になさらないでください」
長い沈黙を破ったのは、ラーゼル公爵だった。
メイドがアルガール侯爵の死を報告した後、すぐに彼がやって来たのだ。
元々、今回の縁談は彼と侯爵の繋がりからもたらされたものである。つまり、二人は旧知の仲だった。故に、その死には色々と思う所があるのだろう。
「……父上、大丈夫ですか?」
「うむ……いや、すまないな」
「いえ……」
落ち込んでいるのがわかる程に、ラーゼル公爵は憔悴していた。
同年代の友人の早すぎる死だ。辛いのは当然である。
だからこそ、彼はここに来たのかもしれない。その悲しみを分かち合える誰かを求めて、または支えてくれる息子を求めて。
「……セリティア嬢、父上に代わって言わせていただきますが、今回の話は一時的に中断するべきでしょう」
「中断、ですか?」
「ええ、アルガール侯爵とあなた引いてはあなたのお父上との関係は私も知っています。こんな時に縁談の話などをするべきではないでしょう。少なくとも、彼の葬儀が終わるまでは、その件については保留するべきです。父上、それで相違ありませんか?」
「う、うむ……」
バルギード様は、ラーゼル公爵を気にかけながらそう提案してくれた。
父親との関係が良くないと先程言っていたが、そうは思えない。二人は、とても良好な関係のように見える。
ということは、昔はもっと仲が良かったということなのだろうか。二人の様子に、私はぼんやりとそんな感想を抱いた。
「セリティア嬢、来たばかりで大変だとは思いますが、あなたはすぐに帰宅するべきでしょう。オンラルト侯爵も心を痛めているはずです。あなたが傍にいてあげた方がいいし、あなたの傍にも彼がいた方がいい」
「……はい、そうですね」
ラーゼル公爵は、バルギード様の肩に手を置きながら私にそう言った。
それはきっと経験則なのだろう。お父様は確実に落ち込んでいる。それを支えられるのも、私自身を支えてくれるのも、きっと家族なのだろう。
「バルギード様、申し訳ありませんが……」
「何も気にすることはありません。今はただ故人の冥福を祈るとしましょう」
「……そうですね」
バルギード様は、何も言わなかった。言葉通り、婚約の話は保留であるようだ。
今はそれがとてもありがたかった。今は縁談のことなんて考えていられない。アルガール侯爵の死で、頭がいっぱいだ。他のことを考えられる余裕がない。
こうして私は、ラーゼル公爵家から帰ることになったのだった。
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