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68.王都にて⑩

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「……理解したか? これが俺の最強の技だ」

 折れた剣を茫然と見つめている私に、ローディスの声が聞こえてきた。それによって、私は一気に現実に引き戻された。私は、ローディスの攻撃によって、武器を失ったのだ。

「高速で剣を振るうことで、二つの攻撃を重ね合わせたというの……?」
「あの一瞬で理解したか。やはり、大した奴だなお前は……だが、わかっただろう? 理解した所で、どうにかなることではないと」

 ローディスは、剣を構えた。その剣を防ぐ術を、私は持っていない。

「竜よ、動くな……」
「え?」
「がっ……」

 そこで、ローディスはリルフに声をかけた。後ろを見てみると、リルフが口を開けて制止しているのが見える。
 恐らく、ローディスに対して竜巻を放とうとしていたのだろう。それを止めたのは、多分私のせいだ。

「動けば、この娘の首が飛ぶことになる。それは、お前も望んでいないことだろう」
「くっ……!」
「正直な話、俺もこの小娘を殺したいとは思っていない。竜を討伐するのが、俺の目的だ。その目的を邪魔したため攻撃したが、それでも殺すのは本意ではない」
「ボクがその身を差し出せば、お母さんを見逃すということ?」
「そのようなやり方は好かん。この娘を見逃した後、俺とお前で決着をつければいい。その結果お前が勝てば、お前はこの娘の元に戻れる。どうだ、悪い条件ではないだろう?」
「それは……」

 ローディスは、私を人質に取りつつ、リルフと交渉していた。確かに、それは悪い条件という訳ではないのかもしれない。人質を取っているのだから、もっと簡単な方法はあるはずだ。それをしないのは、この男にもある程度誇りというものがあるからなのだろう。
 ただ、私としてはすごく気に入らない。勝手に話を進めてもらっては困るのだ。

「何を言っているんだ……」
「む……?」
「お母さん?」
「まだ私は負けていない。剣の一本を折ったくらいで、調子に乗っているんじゃない!」

 私は、剣を投げ捨て構えを取った。別に、私の体はまだ五体満足である。武器を失っただけで、戦えないという訳ではない。
 私には、徒手空拳の覚えもある。剣に比べれば劣るが、それでも私にはまだ戦う力があるのだ。

「強がりを言うな。剣を失ったお前に、何ができるという?」
「やってみればわかるさ」
「ならば、この剣を受けられるか!」

 私の言葉に、ローディスは剣を振るってきた。その攻撃は、先程までの攻撃と比べるとかなりゆっくりなものだ。
 恐らく、私を脅すために手加減をしているのだろう。それがまた、舐められているみたいで、とても気に入らない。

「はあああっ!」
「何!?」

 私は、ローディスの剣をその手で受け止めた。両手で剣を挟み、その動きを無理やり止めたのである。
 手加減していたから受け止められたのかもしれない。だが、それは手加減したローディスのミスだ。

「うおおおおっ!」
「なっ……があっ!」

 私は、剣から手を離して、大きく大地を蹴った。私の頭突きが、ローディスの顔面に突き刺さった。いくら鍛えている騎士団長でも、この一撃は流石に堪えたらしく、その体が少し後退していく。

「……お母さん! 今の内に!」
「……うん!」

 そこで、リルフが私に声をかけてきた。その意図を理解して、私は竜の背中にまたがった。
 悔しいことだが、このまま戦っても、勝てるかは怪しい。それなら、態勢を立て直した方がいいだろう。

「うぐっ……待て!」

 ローディスの制止も聞かず、リルフは空へと飛び上がった。そのまま私達は、アルバナスの町へと向かうのだった。
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