聖女の代わりなんていないのに見栄を張って私をクビにしたのですか?

木山楽斗

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10.はしゃぐ王子

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 アドラーク王国の城下町は、賑わっていた。
 それはもちろん、国がきちんと繁栄している証拠だといえるだろう。王都が賑わっていないというならば、それはもう国として問題がある。
 ただこの賑わいに関しては、サルウィス王国も同じであった。ここからアドラーク王国の特色のようなものを掴むのは、難しいかもしれない。

「市場は今日も賑わっているようですね……フェルリアさん、何か必要なものなどはありませんか? 良ければプレゼントしましょう」
「いえ、そんな……生活に必要なものは、既にいただいていますし、今は大丈夫です」
「遠慮なさらなくても結構ですよ。今日は俺も、少し買い物しようと思っていますから」

 ウォルファン殿下の言葉は、少し弾んでいるような気がした。
 彼は今回のお忍びというものを、楽しんでいるようだ。やはり王子として色々なものを背負っている故、こういったことは息抜きになるということだろうか。

「……どうか羽目を外しすぎないようにしていただきたい」
「おっと……」

 そこでウォルファン殿下の隣にいる男性が、低い声を出した。彼は護衛として私達について来てくれている騎士だ。
 初老のその男性は、なんでも昔から王家に仕えている人であるそうで、ウォルファン殿下のお目付け役のような役割を担っているらしい。

「もちろん、わかっているとも。しかし、フェルリアさんにはせっかくだから楽しんでもらいたいものだろう。この国の魅力を他国の方にもわかってもらうということは、今後誰かを招く時に役に立つものだ」
「国家として迎えるというならば、このようなお忍びはあり得ることではないと思いますが……」
「それはそうかもしれないが、あまり細かいことを言うのはやめてくれ。それでフェルリアさん、本当に遠慮する必要はないのですよ?」
「いえ、遠慮している訳ではないのです。ただ、今は特に思いつかなくて……」
「まあ、この国でこれから暮らしていくことが決定したばかりですからね……とりあえず、見て回ってみましょう。それで何かあれば言ってください」

 ウォルファン殿下は、本当にアドラーク王国を愛しているのだろう。彼の表情からは、それがよく伝わってきた。
 そんな彼の厚意には、甘えてみたいという気持ちもある。ただ今は、本当に何も思いつかない。今はこれからの生活で頭がいっぱいで、そういったことを考える余裕はないのである。

「フェルリアさん、申し訳ありませんね。我が主は、今日は殊更舞い上がっているようです。なんでもいいから、何か欲しい物の一つでも言ってあげてください」
「あ、はい。そうですね……」

 そこで騎士の男性から、小声でそのようなことを言われてしまった。
 やはり何かプレゼントしてもらった方が、この状況においては良いようだ。
 それなら何か小物の類でも頼むとしようか。部屋に小物の類でも置いてあれば、私の心にも多少の余裕ができるかもしれないし。
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