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5.実家に戻るために

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「……申し訳ありません。このような席しか用意できず」
「いえ、仕方ありませんよ。急なことでしたからね」

 私は、ゼムールさんとともに魔法列車に乗っていた。
 ゼムールさんは、少し申し訳なさそうにしている。今座っているのが、自由席であるということを気にしているのだろう。
 しかしそれは、仕方ないことである。急なことだったのだから、席を用意できる訳もない。

「今から出発すれば、なんとか帰れますかね?」
「遅くなりますから、町に着いたらそこで一夜を明かした方がいいかと思います」
「なるほど、それではそうしましょうか。すみませんね、ゼムールさん」
「いえ、お気になさらず。これが私の役目ですから」

 ゼムールさんには、迷惑をかけっぱなしである。
 彼がいてくれて、本当によかった。お父様には、感謝しなければならない。やはりこういう時には、信頼できる人がいてくれると助かるものだ。

「……すみません」
「え?」
「おや……」

 そんなことを私が考えていると、誰かが声をかけてきた。
 ボロボロの服を着た若い男性は、困ったような顔をしている。何か私に言いたいことがあるのだろうか。

「どうかされましたか?」
「誠に申し訳ありませんが、そちらの紳士の隣によろしいでしょうか? 席が埋まっていましてね」
「え? ああ……」

 男性の言葉に、私は周囲を見渡した。
 確かに、周りの席は埋まっている。開いているのは、私やゼムールさんの隣くらいだ。
 私は、ゼムールさんに目配せをする。別に席を独占しようとは思っていないため、相席は構わない。

「どうぞ、こちらに」
「ええ、それでは遠慮なく」

 ゼムールさんの言葉に、男性は素早く席に座った。
 その動きは、少々乱暴であるような気がする。いや、疲労していると言った方が正しいだろうか。なんというか、具合が悪そうである。

「ふう……」

 よく考えてみれば、周囲の人達が私達の席を避けていたのは、見た目からして私が高貴なものだとわかるからだ。私みたいな身分の者とトラブルは避けたいと思うのは、不思議ではない。
 しかしその上で、この男性は相席を要求した。それはそれだけ、座りたかったということなのかもしれない。

「大丈夫ですか? 具合が悪いようにお見受けしますが」
「ええ、お気遣いなく。所用で少々疲れていましてね」

 ゼムールさんは、そんな彼のことを少し警戒しているようだった。
 それは私のことを心配しているからだろう。万が一何かないように、彼は努めてくれている。それはありがたいことだ。
 ゼムールさんに感謝しながら、私は少し考えていた。この男性のことを、私はどこかで見たことがあるような気がするのだ。
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