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7.彼の正体

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「エルクドさん、どうぞこちらに」
「え? ……いや、ありがとうございます」

 窓際の席に座っていたゼムールさんは、エルクドさんにそちらの席を譲った。
 するとエルクドさんは、そちらに行く。さらに彼は、服のフードを目深に被った。やはり後方にいる大柄の二人組とは顔を合わせたくないらしい。

「……おい」
「あれは……」

 ゆっくりとこちらに歩いて来た二人組は、私のことを見て驚いたような顔をしていた。
 私の身なりで、その身分を察したのだろう。二人組は、そそくさと私達の前から去って行く。
 普通に考えれば、貴族と相席しているのは使用人などだ。ボロボロのエルクドさんでも、彼らにとっては私の一味に見える。とても話しかけられなかったのだろう。

「くそっ、列車には乗っていなかったということか?」
「ああ、念のため見て回るが、次の駅で降りて引き返した方が良さそうだ。まったく、どこに行ったんだか……」

 二人組はそんな捨て台詞を吐いた後、前の車両の方に行った。
 するとエルクドさんが、安心したようにため息をつく。
 そこで私は、少し考えることになった。もしかしたら彼は、こうなることを予想して、私達と相席したのではないかと。

「エルクドさん、一応聞いておきますが、あなたは罪人などではありませんか?」
「……罪人、ですか?」
「あの二人が警察だとかそういう機関だとは思いませんし、あなたが悪人だとも思えませんが、あなたは追われているのでしょう?」
「……」

 私の言葉に、エルクドさんは言葉を詰まらせていた。
 しかし彼は、ゆっくりと首を振る。その表情は、何かを決意したような表情だ。

「……罪人ということなら、俺は生まれたことが罪ということになるのかもしれません」
「生まれたことが罪?」
「こんなことを話して、信じてもらえるかはわかりませんが、とりあえず聞いていただけますか。マルディード伯爵令息夫人アルリナ様」
「……やはり、わかっていたのですね?」

 エルクドさんの目は、真っ直ぐに私の目を見てきた。
 それはどこか私を、推し量っているようにも思える。
 私は、彼の視線には怯まない。ここで目をそらしたら、彼から本当のことは聞けないような気がするからだ。

「あなたは一体、何者なんですか?」
「単刀直入にお話ししましょう。俺は、マルディード伯爵の隠し子です」
「隠し子?」
「ええ、一応、あなたの義理の弟ということになりますか……」

 エルクドさんの説明に、私は固まっていた。
 彼の出自は、それ程に驚くべきものだったのだ。そしてどうやら、私と彼には少なからず因縁があるらしい。
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