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episode1 私、みえるんです
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つばさがレポートを忘れてきた第二実験室は、
古い講堂の地下にある。今年で開校80周年になる
本校舎は、一度建て直されているが、地下道で
繋がっているその講堂は、空襲で焼け残った
戦前の建物だ。講堂は4階建てで、2階、3階には
全校生徒が着席できる大ホールがある。
つばさが白雪姫を演じていたのも、その大ホールの
舞台なのだが……問題は、化学実験室のある
地下通路だった。昼間でもあまり陽のあたらない
その地下通路は、実験室の他に、書道室やら
運動部の部室、大道具の倉庫があって、だから、
時々、運悪くその幽霊に出くわしてしまう生徒もいる。
この噂は、生徒の間では密かに広がっているが、
学校のイメージが悪くなることを恐れてか、
教師の間ではタブーとなっていた。
「あの話、本当だったのか」
噂だけは耳にしたことがあるらしい斗哉が、
感心したように頷いた。
「本当だよ。本当に出るの!」
「まあ、戦時中は野戦病院として、あの講堂が
使われていたみたいだからな。兵隊の1人や
2人出ても、不思議はないか」
信じてはいるみたいだけど、特に恐れてはいない
様子で斗哉が言う。つばさは恨めしそうに、斗哉を
睨んだ。霊感もなく、人生で1度も霊を見たことの
ない人間の感覚とは、こんなものなのか……
「わかった。じゃあ、俺が取って来るから、
お前はそこで待ってろ」
ケロリとそう言って、踵を返した斗哉の腕を
つばさは慌てて掴んだ。
「ダメだよ!私が忘れてきたのに、斗哉に
行かせるなんて」
「いいって、そんなこと」
「ダメ!兵隊さんに会っちゃったらどうすんの!?」
「そんなの、俺は見えないから大丈夫だって」
制止するつばさをよそに、斗哉は腕にぶら下がる
つばさを引きずったまま、廊下を進む。そして、
地下道の階段に差し掛かって、ようやく止まった。
「早くしないと最終下校に間に合わないだろ。
先生だって待ってるんだから」
俺が行かなかったら誰が行くんだよ、と
言いたげに斗哉がため息をつく。つばさは、もう、
覚悟を決めるしかなかった。
「じゃあ、私も行く」
「いいって」
「絶対行く」
斗哉の腕を掴む手に力を込める。ブレザーの袖は、
既にしわくちゃだ。斗哉は一度、天井を仰いでから
つばさを見た。
「じゃあ、腕離して」
「えっ」
それはちょっと、心細い。つばさがそう思いながら
掴んだ手を離すと、その手を斗哉がしっかり握った。
「変なものが見えても、絶対離すなよ」
「う、うん」
つばさは、自分よりも大きくて、骨ばった斗哉の手に
どきりとしながら、階段を下りて行った。
階段を下りてトンネルのような細い通路を抜けると、
講堂の下、地下道についた。やはり、薄暗い照明で
照らされた、石造りの地下道は不気味だ。すでに、
多くの生徒が下校しているのか、人の気配もなかった。
つばさは斗哉に手を引かれながら、第二実験室の
ドアを開けた。パチリと、入り口の横にある電気を
付ける。チカチカと微かな音をさせて、蛍光灯が
白い光を放った。誰もいない実験室の暗い窓に、
二人の姿だけが遠目に映る。
「レポート、どこに忘れたんだよ?」
斗哉は、別段、怯えた様子もなく、つばさの手を
握ったまま、奥へ進んだ。
「たぶん、教壇の……机の中だと思う」
つばさは、おぼろげな記憶の中から、自分の
行動を思い起こして言った。斗哉が教壇の
机の中を手で探る。そして、束ねられたレポートを
取り出した。
「あった!!」
見つかってよかった!!と、ホッとしながら、つばさは
斗哉に笑顔を向けた。その時だった。
それまで、静まり返っていた教室の、通路側の窓ガラスが、
風もないのにガタガタと揺れ始めた。
古い講堂の地下にある。今年で開校80周年になる
本校舎は、一度建て直されているが、地下道で
繋がっているその講堂は、空襲で焼け残った
戦前の建物だ。講堂は4階建てで、2階、3階には
全校生徒が着席できる大ホールがある。
つばさが白雪姫を演じていたのも、その大ホールの
舞台なのだが……問題は、化学実験室のある
地下通路だった。昼間でもあまり陽のあたらない
その地下通路は、実験室の他に、書道室やら
運動部の部室、大道具の倉庫があって、だから、
時々、運悪くその幽霊に出くわしてしまう生徒もいる。
この噂は、生徒の間では密かに広がっているが、
学校のイメージが悪くなることを恐れてか、
教師の間ではタブーとなっていた。
「あの話、本当だったのか」
噂だけは耳にしたことがあるらしい斗哉が、
感心したように頷いた。
「本当だよ。本当に出るの!」
「まあ、戦時中は野戦病院として、あの講堂が
使われていたみたいだからな。兵隊の1人や
2人出ても、不思議はないか」
信じてはいるみたいだけど、特に恐れてはいない
様子で斗哉が言う。つばさは恨めしそうに、斗哉を
睨んだ。霊感もなく、人生で1度も霊を見たことの
ない人間の感覚とは、こんなものなのか……
「わかった。じゃあ、俺が取って来るから、
お前はそこで待ってろ」
ケロリとそう言って、踵を返した斗哉の腕を
つばさは慌てて掴んだ。
「ダメだよ!私が忘れてきたのに、斗哉に
行かせるなんて」
「いいって、そんなこと」
「ダメ!兵隊さんに会っちゃったらどうすんの!?」
「そんなの、俺は見えないから大丈夫だって」
制止するつばさをよそに、斗哉は腕にぶら下がる
つばさを引きずったまま、廊下を進む。そして、
地下道の階段に差し掛かって、ようやく止まった。
「早くしないと最終下校に間に合わないだろ。
先生だって待ってるんだから」
俺が行かなかったら誰が行くんだよ、と
言いたげに斗哉がため息をつく。つばさは、もう、
覚悟を決めるしかなかった。
「じゃあ、私も行く」
「いいって」
「絶対行く」
斗哉の腕を掴む手に力を込める。ブレザーの袖は、
既にしわくちゃだ。斗哉は一度、天井を仰いでから
つばさを見た。
「じゃあ、腕離して」
「えっ」
それはちょっと、心細い。つばさがそう思いながら
掴んだ手を離すと、その手を斗哉がしっかり握った。
「変なものが見えても、絶対離すなよ」
「う、うん」
つばさは、自分よりも大きくて、骨ばった斗哉の手に
どきりとしながら、階段を下りて行った。
階段を下りてトンネルのような細い通路を抜けると、
講堂の下、地下道についた。やはり、薄暗い照明で
照らされた、石造りの地下道は不気味だ。すでに、
多くの生徒が下校しているのか、人の気配もなかった。
つばさは斗哉に手を引かれながら、第二実験室の
ドアを開けた。パチリと、入り口の横にある電気を
付ける。チカチカと微かな音をさせて、蛍光灯が
白い光を放った。誰もいない実験室の暗い窓に、
二人の姿だけが遠目に映る。
「レポート、どこに忘れたんだよ?」
斗哉は、別段、怯えた様子もなく、つばさの手を
握ったまま、奥へ進んだ。
「たぶん、教壇の……机の中だと思う」
つばさは、おぼろげな記憶の中から、自分の
行動を思い起こして言った。斗哉が教壇の
机の中を手で探る。そして、束ねられたレポートを
取り出した。
「あった!!」
見つかってよかった!!と、ホッとしながら、つばさは
斗哉に笑顔を向けた。その時だった。
それまで、静まり返っていた教室の、通路側の窓ガラスが、
風もないのにガタガタと揺れ始めた。
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