彼にはみえない

橘 弥久莉

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episode3 転入生  神崎 嵐

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賑やかな大通りを抜けて、人影が疎らなオフィス街の

広場の地下一階に下りる。吹き抜けになっているそこは、

上を見上げれば、四角い灯りが無数に灯る高層ビルが

空高くそびえていた。

「なんだか、吸い込まれちゃいそうだね」

立ち止まって夜空を見上げたつばさは、道を歩く途中から

無口になってしまった斗哉に言った。

返事をしない斗哉に、不安になって振り返ろうとする。

けれど、振り返るより先に、斗哉の腕が後ろからつばさを

抱きしめた。



「とっ、斗哉!?」

びっくりして、躰を硬くしたつばさの耳に斗哉の息がかかる。

振り向こうにも、力強い腕が躰を固定していて、動けない。

心臓が飛び跳ねて、口から逃げ出してしまいそうなつばさの

耳に、いつもより低く擦れた斗哉の声が聴こえた。

「あのさ、俺たち、今日で幼馴染やめない?」

「えっ?」

つばさは、不安になって斗哉の腕を掴んだ。

幼馴染をやめるということは、もう、つばさは斗哉の隣には

いられない、ということだろうか?つばさは、何も言えずに、

斗哉の言葉を待った。

「付き合おう。俺たち。今日から、俺をつばさの彼氏にして欲しい」

ずくり、と心臓が痛みを訴えて、つばさは息を止めた。

周囲に人はいない。目の前の噴水がパシャパシャと

冷えた音をさせているだけで……

それ以外に聴こえるのは、切なげに吐かれる斗哉の息だけだ。

つばさはどう答えればいいかわからず、ただ掴んだ腕に力を込めた。

「本当は、もっと早くに伝えればよかったんだけど。どうしても怖くて、

できなかった。気持ちを口にしたら、お前が逃げていなくなるような

気がして……いつも隣にいるのに、もどかしくてしょうがなかった」

斗哉の頬がつばさの頭に擦りつけられる。

なにか答えなくては、と、つばさは小さな声で言った。

「逃げたりなんか……」

しない、とは言えなかった。つばさだって、斗哉のことが好きだ。

けれど、があたりまえすぎて、どうすればいいかわからない。

子供のころから、ずっと一緒なのだ。幼馴染として好きなのか、

親友として好きなのか、どういう気持ちが恋人としての好きなのか?

あまりに一緒にいすぎると、わけがわからなくなってしまう。

そしてようやく、その答えがわかりかけたいまは………


恐ろしかった。


変わってしまった2人が、もう、元に戻れないことが。

付き合ったり、別れたりを繰り返す周囲のクラスメイトを見る度に、

自分たちは、お爺ちゃんとお婆ちゃんになるまで、ずっとこのままで

いようと、思ってしまうのだ。

そんなことを思い巡らせていたつばさに、斗哉が言葉を続ける。

「逃げただろ。じっさい。俺が、倉科さんに告白されたって言った時、

お前、俺になんて言ったか覚えてる?」

「えっ、と……なんて、言ったっけ?」

「良かったね、って言ったんだ。笑って」

そうだった。どうして、そんなことを言ってしまったのか?

いまなら、わかる。斗哉から離れてくれれば、それはそれで、

諦めがつくと、思ってしまったのだ。そんなこと、あるわけないのに。

「ごめん……」

はあ、と頭の上でため息が聴こえて、つばさは項垂れた。
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