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episode5 朔風に消える
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「うわ……」
一日の授業を終え、鞄に教科書を詰めていたつばさは、数学のノートを手に
思いきり顔を顰めた。表紙についている染みが気になってノートを開いてみれば、
ぺっちょりと、噛み捨てられたガムが張りついている。ぷーん、と鼻をつく匂いから
察するに、青りんご味だ。数Bの授業は3時間目で、その時は何事もなかった。
ということは、体育の授業で教室を開けていた時か、真理とパンを買いに食堂へ
行っていた時か……。無論、犯人は誰だかわからない。嫌がらせをする人物は
必ずと言っていいほど、正体を明かさないのだ。正体がバレれば、それはその
まま斗哉の耳に入ることになる。だからこうして、こっそりと嫌がらせをしながら、
影でコソコソ笑っている。それでいて、つばさの前では笑顔なのだから質が悪い。
つばさは、うんざりした顔でため息をついた。こういうことに慣れているとはいえ、
人から悪意を向けられて気分が悪くないワケがない。
「ちょっと、なによ?それ」
ノートを手に、ぼんやり立っていたつばさに、真理が怪訝な顔をして訊いた。
「ガムは紙に包んで捨てましょうって言うけどさ。これはダメだよね」
つばさは、はは、と乾いた笑いをしながら、張りついているガムを真理に見せた。
つばさ以上に真理が顔を顰める。そうして、つばさの手からノートを抜き取ると、
表紙と一枚目のノートを綺麗に破った。板書した部分がなくなるが、仕方ない。
「性格悪いわよね、ほんと。あんたが泣いたり騒いだりしないから、
面白くなくて次々に嫌がらせするんだろうけどさ。こんなことしたって、
あんたたちが離れるワケないのにね」
破ったノートを、雑巾を絞るように捻じって、ゴミ箱に放り込む。そして、
ばさ、と髪を掻き上げながら振り返ると、にっこり笑って言った。
「ねえ、気晴らしにカフェ行かない?あそこのパンケーキ食べて帰ろうよ」
あそこ、というのは、真理が前から行きたいと言っていたパンケーキ
とフレンチトーストの専門店だ。つばさは、二つ返事で頷いた。
「行く行く。生クリームたっぷりのやつ食べたい!!」
つばさは目を輝かせてそう言うと、残りの教科書をさっさと鞄に詰めて、
真理の背中に続いた。
「でさ……その後、嵐とはどうなの?」
カスタードクリームとラズベリーソースがたっぷりのった、
ふわっふわのパンケーキをフォークですくいながら、真理がつばさの顔を
覗いた。つばさは、スプーンにこんもりのっかっている生クリームを口に
運びながら、しぱしぱと瞬きをする。斗哉ではなく、なぜ、嵐の名が真理の
口から飛び出したのかが、よくわからない。
「嵐???嵐とは……たまに、一緒に帰るくらいかな」
つばさは追加のメープルシロップをかけながら、首を傾げた。
パンケーキの周囲に、メープルシロップの水たまりができる。それを、
パンケーキとともにすくいながら、また口に運ぶ。しゅわ、と口の中に広がる
甘さが、たまらない。
「じゃあ、避けられるでもなく、距離が縮まるわけでもなく…か」
「うん、まあ。そんな感じ」
頬杖をつきながらそう言った真理に、つばさはスプーンを咥えたまま頷いた。
春樹君の別荘での一件から、すでにひと月が過ぎていた。その間に、期末
試験があったり、全国統一の模擬試験があったりで、バタバタしている間に
時間が過ぎてしまった感じだ。もっとも、つばさはテスト週間だからといって、
目の色を変えて勉強をすることもないのだけれども……。
一日の授業を終え、鞄に教科書を詰めていたつばさは、数学のノートを手に
思いきり顔を顰めた。表紙についている染みが気になってノートを開いてみれば、
ぺっちょりと、噛み捨てられたガムが張りついている。ぷーん、と鼻をつく匂いから
察するに、青りんご味だ。数Bの授業は3時間目で、その時は何事もなかった。
ということは、体育の授業で教室を開けていた時か、真理とパンを買いに食堂へ
行っていた時か……。無論、犯人は誰だかわからない。嫌がらせをする人物は
必ずと言っていいほど、正体を明かさないのだ。正体がバレれば、それはその
まま斗哉の耳に入ることになる。だからこうして、こっそりと嫌がらせをしながら、
影でコソコソ笑っている。それでいて、つばさの前では笑顔なのだから質が悪い。
つばさは、うんざりした顔でため息をついた。こういうことに慣れているとはいえ、
人から悪意を向けられて気分が悪くないワケがない。
「ちょっと、なによ?それ」
ノートを手に、ぼんやり立っていたつばさに、真理が怪訝な顔をして訊いた。
「ガムは紙に包んで捨てましょうって言うけどさ。これはダメだよね」
つばさは、はは、と乾いた笑いをしながら、張りついているガムを真理に見せた。
つばさ以上に真理が顔を顰める。そうして、つばさの手からノートを抜き取ると、
表紙と一枚目のノートを綺麗に破った。板書した部分がなくなるが、仕方ない。
「性格悪いわよね、ほんと。あんたが泣いたり騒いだりしないから、
面白くなくて次々に嫌がらせするんだろうけどさ。こんなことしたって、
あんたたちが離れるワケないのにね」
破ったノートを、雑巾を絞るように捻じって、ゴミ箱に放り込む。そして、
ばさ、と髪を掻き上げながら振り返ると、にっこり笑って言った。
「ねえ、気晴らしにカフェ行かない?あそこのパンケーキ食べて帰ろうよ」
あそこ、というのは、真理が前から行きたいと言っていたパンケーキ
とフレンチトーストの専門店だ。つばさは、二つ返事で頷いた。
「行く行く。生クリームたっぷりのやつ食べたい!!」
つばさは目を輝かせてそう言うと、残りの教科書をさっさと鞄に詰めて、
真理の背中に続いた。
「でさ……その後、嵐とはどうなの?」
カスタードクリームとラズベリーソースがたっぷりのった、
ふわっふわのパンケーキをフォークですくいながら、真理がつばさの顔を
覗いた。つばさは、スプーンにこんもりのっかっている生クリームを口に
運びながら、しぱしぱと瞬きをする。斗哉ではなく、なぜ、嵐の名が真理の
口から飛び出したのかが、よくわからない。
「嵐???嵐とは……たまに、一緒に帰るくらいかな」
つばさは追加のメープルシロップをかけながら、首を傾げた。
パンケーキの周囲に、メープルシロップの水たまりができる。それを、
パンケーキとともにすくいながら、また口に運ぶ。しゅわ、と口の中に広がる
甘さが、たまらない。
「じゃあ、避けられるでもなく、距離が縮まるわけでもなく…か」
「うん、まあ。そんな感じ」
頬杖をつきながらそう言った真理に、つばさはスプーンを咥えたまま頷いた。
春樹君の別荘での一件から、すでにひと月が過ぎていた。その間に、期末
試験があったり、全国統一の模擬試験があったりで、バタバタしている間に
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目の色を変えて勉強をすることもないのだけれども……。
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