カオルとカオリ

廣瀬純七

文字の大きさ
2 / 44

親友の咲良

しおりを挟む

 いつもの通学路。街路樹の葉が風に揺れ、朝の陽射しが歩道にまだら模様をつくっている。

 角を曲がった先で、咲良が手を振っていた。淡いベージュのカーディガンに、制服のスカートが揺れている。中田香織は、それに気づいて小さく笑った。

 「おはよ、咲良」

 「やっぱり、今日は香織だね!」

 そう言って咲良は、ひょいっと一歩前に出て香織の顔をのぞき込む。咲良は、香織と薫の両方を知っている、唯一の親友だ。

 「今日は私の体たけど、さっき薫と交代しようかちょっと迷ったのよ」

 「えー、それダメだよ! 女の子同士だから香織の方が話してて楽しいもん」

 「勝手なこと言うなぁ。でも……ありがと」

 香織は苦笑しながらも、心の奥があたたかくなるのを感じていた。誰にも言えなかった「秘密」を、咲良だけは受け入れてくれた。驚きはしたけれど、否定も拒絶もせず、「そっか、そういうこともあるんだね」と、ごく自然に頷いてくれた。

 「でもさ、正直すごいよね。一つの体で二人分って。しかもどっちも性格ぜんぜん違うし。たまに『双子の演技してるだけ』って思われても仕方ないよ、ふふ」

 「まあね……でもそれだけ、私と薫の違いがちゃんとあるってことかな。私たち、自分の存在がちゃんと分かれてるって、証拠なのかも」

 香織はそう言いながら、どこか遠くを見るように空を見上げた。雲ひとつない青空が広がっていた。

 咲良が、ふっと笑った。

 「じゃあさ、今日は一日“香織”と過ごすってことでいいんだね?」

 「ええ、よろしくお願いします、“親友”さん」

 二人は笑い合いながら歩き出す。中田香織の一日が、静かに、けれど確かに始まっていった。隣に、心から信頼できる存在を感じながら。

---
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

不思議な夏休み

廣瀬純七
青春
夏休みの初日に体が入れ替わった四人の高校生の男女が経験した不思議な話

小学生をもう一度

廣瀬純七
青春
大学生の松岡翔太が小学生の女の子の松岡翔子になって二度目の人生を始める話

秘められたサイズへの渇望

到冠
大衆娯楽
大きな胸であることを隠してる少女たちが、自分の真のサイズを開放して比べあうお話です。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

パパと娘の入れ替わり

廣瀬純七
ファンタジー
父親の健一と中学生の娘の結衣の体が入れ替わる話

秘密のキス

廣瀬純七
青春
キスで体が入れ替わる高校生の男女の話

白露先輩は露出したい

竹間単
青春
真面目な生徒会長である白露(しろつゆ)先輩に露出願望があることを、生徒会書記の僕だけが知っている――。

処理中です...