見せかけだけの優しさよりも。

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幸も不幸も折半で

モブで桜井 那希斗

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『…それでは理事長からのお言葉をいただきます』

マイクを通して穏やかな声が響くと理事長の話が始まる。我が校の理事長は若く見目も良い。カリスマ性に溢れている為、みな視線を教壇に移し真剣に話を聞いた。彼の話が終わるとすぐさま桜井様へ視線が集まる。それに一瞬キョトンとした桜井様は何を勘違いしたのかハッとしてマイクを口元へ持っていくと、進行を進めた。彼に向いた視線は決して集会の進行を促すものでは無かったのだが、気が付いていないようだ。

現生徒会で唯一の1年役員──桜井 那希斗。

彼は生徒会でただ一人、親衛隊に友好的な人物だ。
それも自身の親衛隊だけでなく下手をしたら自分に危害を加える可能性のある、他の親衛隊にも友好的なのだから相当変わっている人間だ。全くもって見た目にそぐわず肝が座っている。

暗い髪色と対照的に淡い桜色の瞳は、パチリと開かれており庇護欲を誘う為タチに人気がある。……かと思えば、手足も長く175とこの学園では中程に位置する背丈の為、人柄も相まってネコからの人気も欲しいままにしている。
眉を下げ常に微笑を浮かべているかのような表情は“まるで民を救う聖人のようだ”なんて、どこのファンタジー小説かと思うような一部の生徒らの表現が良く似合ってしまう現実離れした人だ。彼は見た目通り優しく──どこまでも穏やか。初等部から見ているが今まで目に見えて怒ったことは1度もない。

ただ、体調不良時や負傷時に息を詰めて歪ませる表情は、意外な事に冷たさを持っていたらしい元の顔立ちをグッと手繰り寄せ、雄々しい色気がダダ漏れになる。しかも笑っている時と違い幼さが掻き消えるギャップでまたもやネコからの爆発的人気を誇った。彼は歓声をあげられて嫌な顔をするでもなく穏やかに笑う。どれだけうるさくても文句を言った所を見た事のある生徒はいない。それどころか嬉しそうに笑んで見せる姿は天使と見まごう姿だ。……175cmの男が?と疑っているだろうか、本当なんだ。1度見てほしい。


──縋られれば手を差し伸べて抱きしめ、望まれれば耳を傾けそれらを叶える。

見た目で差別をしない彼はどれだけ顔立ちが悪くても(この学園に来られる時点で悪いと言ってもたかが知れているが)どれだけ挙動不審で危ない香りのする人間でも変わらず穏やかに微笑んでみせる。しかしこれだけ懐きやすい彼が、この学園で懐かない相手が数人いる。

それが同じ生徒会役員の生徒等、そして風紀委員長と副委員長だ。……どこもトップクラスの人気どころ。昼食も専用の席で一緒に食べず、仕事も最低限かつ最短で終わらせている為、本当に事務的な関わりしか無いのが分かる。なぜ最短で終わらせていることを知っているか?

え゙ー、うぉっほん。

あー…それはもちろん僕が桜井様と同じクラスで彼が初めの頃慣れない執務で教室に来れずクラスにいる親衛隊の子らが会えないことを寂しがっているのに気付きそれらを早く終わらせて授業に参加する時間を増やしてくれていることを知っているからだっ。つい、興奮して一息に捲し立ててしまった。モノローグに一息とかあるのかはこの際置いておく。少しメタい?大丈夫。僕、数話しか登場しないモブだから。

もとい。あー……例え同じクラスと言うのを抜きにしても、僕はその桜井様の親衛隊の1人だから自動的に情報が回ってくるんだけどね。




──桜井様は他の役員からどこか一歩引いており、その他の……なんならそこら辺にいる人間に対する接し方より明らかに事務的な対応をしているように見える。それは親衛隊外の一般生徒等や、懐いて貰えない当事者達も気が付いている。何せそんな彼の謎な行動は中等部からなのだから。

抱かれたい(タチ)ランキング3位。
抱きたい(ネコ)ランキング2位。
更に試験の学年順位は基本首席。



タチネコ両刀の人気を誇る彼。
誰の隣にいようと──誰も、彼を咎めないだろう。……逆に相手によってはそちらが咎められそうなものだが彼の親衛隊は穏健派が多く、統率も取れている為そんなことも無い。名家の血筋で、容姿も桁外れ。性格も良く、授業にも出ようとする姿勢を見せるため教師陣からの支持も厚い。
そう……だからこそ謎なのだ。これだけ揃っていながら……それをわかっていながら、何故同じくトップクラスの役員の方々や風紀委員長や副委員長にではなく、普通の生徒等のほうに懐くのか。

『──に生徒会からの連絡です。え……と?久しぶりの集会ですので、連絡の前に役員の挨拶………?です』

手元の紙を見て首を傾げつつも聴き心地のいい声をマイクで届けた桜井様。
彼は中等で生徒会をやっていなかったから知らないのだろう(中等は断れるしね)。彼は集会中もウトウトしている事が多く内容も右から左へだったはずだし………僕は親衛隊古参だからよく知ってる、それにずっと同じSクラスだもの。
多分彼は“久しぶりだから役員の挨拶”って所に首を傾げたんだろう。まぁ、大方『久しぶりに生徒会の人達を少しでも長く見たいから』って何人で言ったのか、誰が言ったのか知らないけど教師陣に直談判に行ったのだろうことが想像に容易い。

で。先生方は今回、誰のブロマイドで堕ちたんだろうか。
どうでもいいが気にはなる。



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