星月の蝶

1章 奇跡の魔法

1話 人間の王国の隠された姫

　ここは人間の王国。その王国はとても栄えていた。

　この栄えた王国の王宮には秘密の扉があった。

　その扉の奥は狭く薄暗い部屋。机と椅子と硬いソファ。それ以外の家具は見当たらない。

　部屋の至る所に本が積み上がり山になっているのが見られる。
　本は全て古代のものだ。

「まだこんなに残ってる」

　椅子に座って本の内容を書き写す少女、ミディリシェル。

　彼女はこの国の国王に拾われて以来にこの部屋でもう読めなくなった本の復元と写本をさせられていた。

「少し休憩」

　ミディリシェルはペンを置いた。

　彼女は何らかの原因で文字が読めなくなってしまった本の内容まで全てを知る事ができる。
　その才能があったからこそ、この王国はここまで栄える事になった。

「今日の分はこれでおしまいかな。もう少しだから頑張ろっと」

　ミディリシェルはペンを持ち、作業を再開した。

　この作業は嫌いではない。住む場所が用意されているだけ、有難いと思いこの国の為にと今日も作業に励む。

「これでおしまい。お手紙きてる」

　机の上に置かれている手紙が目に入った。

　ミディリシェルは手紙を手に取り中身を見た。

「婚約者さんからのお手紙だって。私はお手紙よりケーキが良いよ」

　独り言のように言っているが、姿を見せない誰かに話をしている。

　会った事もない婚約者からの手紙よりも、大好きな甘いものの方が送られてきて嬉しい。

　ミディリシェルが勝手に話していると、上から紙が降ってきた。

「ふにゅ？無理しないで？うん。今日はもう休むよ。おやすみ、ヴィー様」
「済まぬのぅ。主の身体の為にも姿は見せられんのじゃ」
「良いよ。お話聞いてくれるだけで嬉しい。いつもありがと」

　記憶にある頃から姿は見せないが、ミディリシェルの側にいる誰か。
　知っているのはヴィーという名だけ。

　姿は見えないがミディリシェルの大切な友人だ。

　本日のノルマを終えて、ソファの上で寝転んだ。

　寝転んで目を閉じる。

　思っていた以上に疲れていたのか、目を閉じたら直ぐに眠れた。

　　　　　　＊＊＊＊＊＊＊

「ふにゅ？朝？」

　部屋には窓がなく時間が分からない。

「写本しないと。その前にお薬」

　魔力疾患の薬。この薬を定期的に飲まなければならない。

　ミディリシェルは薬を飲み、作業を開始した。

「一区切り着いたしお散歩行ってくる」

　ミディリシェルは作業を止め、立ち上がった。ペンを置き、部屋の扉の前まで移動した。

　トントンと扉を叩く。

「どうされましたか？」
「お散歩の時間」
「分かりました。今、鍵を開けます」

　部屋の外にいる護衛兼監視の騎士に声をかけた。

　扉が開くと鎧を着た騎士が立っている。

　監視といっても彼はミディリシェルができる範囲で自由に過ごせるようにしてくれている。

　ヴィーに話しかけている事も深く追求はされず、この国で唯一気楽に話せる人物だ。

「いつもありがと。他の人だとすっごくめんどくさそうで声かけづらいの」
「お貴族様は難しいですから」
「そういうものなのかな？お散歩いつもの道、一時間くらい」
「ここでお待ちしております。時間にお戻りになられなかった場合はいつものようにこっそりで宜しいですね？」
「うん。宜しく」

　ミディリシェルは専用の道を使い外へ出た。

　　　　　＊＊＊＊＊＊＊

　散歩道もミディリシェル専用となっている。人は誰もいない、彼女の為だけに用意されている道を景色を楽しみながら歩いた。

「けほっ、けほっ」

　魔力疾患による発作。ミディリシェルは急いでポケットの中の薬瓶を取り出した。

　非常時に飲む薬はすぐに出せる場所にしまっている。

　発作が出ていてもすぐに取り出せた。

「けほっ」

　薬瓶の中身を出そうとするが出てこない。薬が入っていないようだ。

「けほっ、けほっ」

　口を抑えた手に血がついている。意識が朦朧として、その場にしゃがみ込んだ。

「けほっ、けほっ」

　ミディリシェルが時間内に戻らなかった場合、騎士がミディリシェルを探しにくる。

　見つけ次第、部屋へ運ばれて薬を貰える。

　散歩中に発作で倒れる事はミディリシェルにとってはよくある事で、騎士が来るだろうと楽観的に考えていた。