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最終章
最終章へのプロローグ
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かつての英雄であったリチャード・マクナム将軍の後を継ぎ、王国初めての女性で伯爵位をもつジュリア・フォルティス・マクナム伯爵領の女性当主誕生の話題は社交界、いや、王国中で話題で持ちきりになった。
マクナム将軍ゆずりの碧い瞳、亜麻色の髪の毛、そして、女性でありながらも鍛え抜かれたしなやかな体躯を持つ彼女の剣技は見事で、王宮に使える騎士たちはもちろん、社交界のどこでも人気になり、彼女が現れれば、群がる人が出来るほど人気で今や一番の時の人となった。
そして、彼女がさらに陰の王家とも呼ばれているジョルジュ・ガルバーニ公爵の後見を得ていることや、一番の王太子妃候補である、と言うだけでも十分なのに、それ以上に、王国を揺るがす事態へと発展したのである。
── ジュリア・フォルティス・マクナム伯爵が、騎士団の任務中に負傷し、行方不明と言うニュースは一瞬で王国内全てに広まった。王太子エリゼル殿下と主に遠征先から戻る途中、予期せぬ襲撃をうけ、王太子をかばい、敵に射られた矢で負傷し、そのまま川へと転落。それ以降、彼女が全くの詳細が不明に。エリゼル殿下も負傷し、なんとか一命をとりとめたものの傷は深く、王宮内で療養中とか。
口さがない噂や推測が広がり、以前として行方がわからないジュリア・フォルティス・マクナム伯爵当主の話題はあちこちで話題にされ、留まる所を知らなかった。
「まだ、彼女の行方が分からないのか!」
王太子エリゼルが、怒りを露わにし、部下達を厳しく叱咤する。敵に切りつけられた傷は肩から胸へとかけて大きな傷がつけられていた。やっと乾いたばかりの傷の縫合の後が痛々しいものの、エリゼルは、全く意に介せず、寝台の上から控えている部下に向って怒号を飛ばしていた。
まだ、ジュリアの行方が分からない。ああ、ジュリア、君は生きているのか、それとも・・・・彼の焦燥は意識が戻ってからと言うもの、日一日と強くなってきている。一人の従者は彼の様子に見かねて苦言を呈そうと口を開いた。
「殿下、そんなに激高されてはお体に触りま─」
「うるさい。お前達ももっと力をいれて、彼女の探索に力を尽くせ」
「今、約2000名が各方面に向って、草の根を分けてでも探しておりますが」
「足りん!第四第五師団も投入せよ」
「国境の警備が手薄になります。この隙をつかれて王都に攻め込まれたらどうするのです!」
「ああ、くそっ。私の体さえ動かせれば!ああ、ジュリア、君は今、どうしているんだ」
イライラが頂点に達するエリゼルに、カトリーヌ王女がたしなめるように言う。
「お兄様、今更、心配しても始まらないわ。フォルティスだって、騎士の端くれ。自分の身に何かあることくらい、覚悟は出来ているはずですわ」
王女カトリーヌが兄を気遣うような顔で話しかけたが、内心ではほくそ笑んでいた。これで邪魔者が消えたと思いながら。私のガルバーニ公爵様に手を出すから。
兄が襲われたのは想定外だったが、そのおかげで、フォルティスが消えた。カトリーヌは偶然の成り行きに感謝していた。なんて幸運なのだろうと思いながら。
「それで、どうして、我々の秘密裏の行動が敵にわかったのだ」
負傷しているせいかエリゼルの短気さは、ますます増大していた。そして、どうしても消せない疑問にもエリゼルは焦点を定めようとしていた。それが引いては、ジュリアの足取りを掴むことにもつながるのだ。秘密裏の行動がどうして敵に筒抜けになっていたのか。
「殿下、恐れながらご報告させていただきます」
将軍が恭しく膝をついた。
「殿下が襲われてから、城の内部で行方不明になったものがいないか、しらみつぶしに調査したのですが、約一名、該当するものがおりまして・・・」
「それは誰だ?」
「アナベリア・ダーマット子爵令嬢にございます。カトリーヌ様の侍女の一人にございます」
「カトリーヌ、なぜ、お前の侍女が?」
「まさか、あの者が!」
「王女様、まさか、侍女に遠征の話はなされませんでしたか?」
カトリーヌには大きな心当たりがあった。それは、あの舞踏会の翌日のことだ。
「まさか・・・まさか、そんな!」
エリゼルの目が冷たくカトリーヌを捕らえた。カトリーヌは、自分が何かしらしてはいけない間違いを犯してしまったことを知った。
「カトリーヌ、何を知っているんだ・・・」
「何でもありません!」
「その顔で知らないということはないだろう」
エリゼルが強い口調でカトリーヌを糾弾した。
「アナが、まさか・・・そんな」
王女のほっそりとした手首を掴んだものがいた。将軍だった。彼の鳶色の瞳は厳しい光を宿しながら、じっと王女を見据えていた。
「・・・そのお話、よくお聞かせいただきましょうか? エリゼル殿下だけでなく、マクナムの唯一跡取りをも奸計にかけたのであれば、騎士団全員が貴女を許さないでしょう」
彼の脅しとも本気ともつかない暗い音色にこもった感情に、カトリーヌは生まれて初めて恐ろしさを感じた。今まで臣下だったものが、こんな風に豹変できるものだろうか・・・
「エリゼル様、よろしいでしょうか?」
将軍が王太子に聞けば、エリゼルもまた同意するよに頷いた。
「ああ。カトリーヌの処遇はお前に任せる。必要な情報は全て聞き出してくれ」
将軍は鋭く部下に命じた。
「王女を別室にお連れしろ」
「私を誰だと思っているの。この無礼な手を離しなさい!お母様がこのようなことは絶対にお許しにならないわ」
取り乱しヒステリックに叫ぶ王女にエリゼルは冷たい視線を向けた。
「母上には私のほうからよく言っておく。知っていることは何でも彼に話せ。ジュリアの足取りがつかめるかもしれない」
女王陛下には自分から報告をいれておけばいいだろう。そういえば、この男は、マクナム伯爵の親友だったなと思い出しながら。
将軍の手にかかれば、温室育ちのカトリーヌなど赤子の手をひねるのも同然。一刻のうちに、簡単に全てを口にするだろう。
一つ手がかりが掴めそうだったが、エリゼルは心配そうに窓の外を眺めた。ジュリアが、彼女がまだ生きていることを願いながら。
マクナム将軍ゆずりの碧い瞳、亜麻色の髪の毛、そして、女性でありながらも鍛え抜かれたしなやかな体躯を持つ彼女の剣技は見事で、王宮に使える騎士たちはもちろん、社交界のどこでも人気になり、彼女が現れれば、群がる人が出来るほど人気で今や一番の時の人となった。
そして、彼女がさらに陰の王家とも呼ばれているジョルジュ・ガルバーニ公爵の後見を得ていることや、一番の王太子妃候補である、と言うだけでも十分なのに、それ以上に、王国を揺るがす事態へと発展したのである。
── ジュリア・フォルティス・マクナム伯爵が、騎士団の任務中に負傷し、行方不明と言うニュースは一瞬で王国内全てに広まった。王太子エリゼル殿下と主に遠征先から戻る途中、予期せぬ襲撃をうけ、王太子をかばい、敵に射られた矢で負傷し、そのまま川へと転落。それ以降、彼女が全くの詳細が不明に。エリゼル殿下も負傷し、なんとか一命をとりとめたものの傷は深く、王宮内で療養中とか。
口さがない噂や推測が広がり、以前として行方がわからないジュリア・フォルティス・マクナム伯爵当主の話題はあちこちで話題にされ、留まる所を知らなかった。
「まだ、彼女の行方が分からないのか!」
王太子エリゼルが、怒りを露わにし、部下達を厳しく叱咤する。敵に切りつけられた傷は肩から胸へとかけて大きな傷がつけられていた。やっと乾いたばかりの傷の縫合の後が痛々しいものの、エリゼルは、全く意に介せず、寝台の上から控えている部下に向って怒号を飛ばしていた。
まだ、ジュリアの行方が分からない。ああ、ジュリア、君は生きているのか、それとも・・・・彼の焦燥は意識が戻ってからと言うもの、日一日と強くなってきている。一人の従者は彼の様子に見かねて苦言を呈そうと口を開いた。
「殿下、そんなに激高されてはお体に触りま─」
「うるさい。お前達ももっと力をいれて、彼女の探索に力を尽くせ」
「今、約2000名が各方面に向って、草の根を分けてでも探しておりますが」
「足りん!第四第五師団も投入せよ」
「国境の警備が手薄になります。この隙をつかれて王都に攻め込まれたらどうするのです!」
「ああ、くそっ。私の体さえ動かせれば!ああ、ジュリア、君は今、どうしているんだ」
イライラが頂点に達するエリゼルに、カトリーヌ王女がたしなめるように言う。
「お兄様、今更、心配しても始まらないわ。フォルティスだって、騎士の端くれ。自分の身に何かあることくらい、覚悟は出来ているはずですわ」
王女カトリーヌが兄を気遣うような顔で話しかけたが、内心ではほくそ笑んでいた。これで邪魔者が消えたと思いながら。私のガルバーニ公爵様に手を出すから。
兄が襲われたのは想定外だったが、そのおかげで、フォルティスが消えた。カトリーヌは偶然の成り行きに感謝していた。なんて幸運なのだろうと思いながら。
「それで、どうして、我々の秘密裏の行動が敵にわかったのだ」
負傷しているせいかエリゼルの短気さは、ますます増大していた。そして、どうしても消せない疑問にもエリゼルは焦点を定めようとしていた。それが引いては、ジュリアの足取りを掴むことにもつながるのだ。秘密裏の行動がどうして敵に筒抜けになっていたのか。
「殿下、恐れながらご報告させていただきます」
将軍が恭しく膝をついた。
「殿下が襲われてから、城の内部で行方不明になったものがいないか、しらみつぶしに調査したのですが、約一名、該当するものがおりまして・・・」
「それは誰だ?」
「アナベリア・ダーマット子爵令嬢にございます。カトリーヌ様の侍女の一人にございます」
「カトリーヌ、なぜ、お前の侍女が?」
「まさか、あの者が!」
「王女様、まさか、侍女に遠征の話はなされませんでしたか?」
カトリーヌには大きな心当たりがあった。それは、あの舞踏会の翌日のことだ。
「まさか・・・まさか、そんな!」
エリゼルの目が冷たくカトリーヌを捕らえた。カトリーヌは、自分が何かしらしてはいけない間違いを犯してしまったことを知った。
「カトリーヌ、何を知っているんだ・・・」
「何でもありません!」
「その顔で知らないということはないだろう」
エリゼルが強い口調でカトリーヌを糾弾した。
「アナが、まさか・・・そんな」
王女のほっそりとした手首を掴んだものがいた。将軍だった。彼の鳶色の瞳は厳しい光を宿しながら、じっと王女を見据えていた。
「・・・そのお話、よくお聞かせいただきましょうか? エリゼル殿下だけでなく、マクナムの唯一跡取りをも奸計にかけたのであれば、騎士団全員が貴女を許さないでしょう」
彼の脅しとも本気ともつかない暗い音色にこもった感情に、カトリーヌは生まれて初めて恐ろしさを感じた。今まで臣下だったものが、こんな風に豹変できるものだろうか・・・
「エリゼル様、よろしいでしょうか?」
将軍が王太子に聞けば、エリゼルもまた同意するよに頷いた。
「ああ。カトリーヌの処遇はお前に任せる。必要な情報は全て聞き出してくれ」
将軍は鋭く部下に命じた。
「王女を別室にお連れしろ」
「私を誰だと思っているの。この無礼な手を離しなさい!お母様がこのようなことは絶対にお許しにならないわ」
取り乱しヒステリックに叫ぶ王女にエリゼルは冷たい視線を向けた。
「母上には私のほうからよく言っておく。知っていることは何でも彼に話せ。ジュリアの足取りがつかめるかもしれない」
女王陛下には自分から報告をいれておけばいいだろう。そういえば、この男は、マクナム伯爵の親友だったなと思い出しながら。
将軍の手にかかれば、温室育ちのカトリーヌなど赤子の手をひねるのも同然。一刻のうちに、簡単に全てを口にするだろう。
一つ手がかりが掴めそうだったが、エリゼルは心配そうに窓の外を眺めた。ジュリアが、彼女がまだ生きていることを願いながら。
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