野良竜を拾ったら、女神として覚醒しそうになりました(涙

中村まり

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第四章 白魔導師の日々

収穫祭への序章~9

「へ? ギル様のお嫁さん?」

フロルは思いがけない言葉を聞いたようで、驚いたように目をまん丸にしていた。

「そうさ。兄上とつきあってるんだろう?」

「ええ、えええっ」

フロルは真っ赤になって、しどろもどろになり、目があちこちに泳いでいる。

「・・・そんな、ギル様とつきあってるだなんて。そんな滅相もない。恐れ多い」

フロルが頬に手を当てながら、ふるふると震えている様子を見て、マルコムは唖然とした。

マルコムは、フロルがふてぶてしい微笑みを浮かべて、「ええ、私たちはお互いを想い合っているのよ」と言うかと思ったのだ。

全くの想定外のフロルの様子にマルコムは慌てる。魔物を滅するほど(とマルコムは思っている)度胸があるのに、恋バナになるとからっきしだめだ。この差は一体なんなのか。

気づけば、フロルは真っ赤になってしゃがんで、顔を手で覆っていたが、耳まで赤くなっているのが見える。フロルは思った以上に動揺している様子。

「お、おい、フロル、大丈夫か?」

「やだ。ギル様のお嫁さんだなんて恥ずかしい・・・」

「おい、なんでそこで赤くなるんだよ。もともと、そのつもりでここに来たんじゃないのか?」

「そ、そんな訳あるわけないじゃないですか!」

真っ赤になって全身で否定するフロルにマルコムは言う。

「ギル兄様の恋人じゃなきゃなんなんだよ? お前が結婚しないなら、兄様だって、いつか誰かと結婚するんだからな」

フロルの動きがぴたりと止る。大きく目を見開いて、唖然とした表情でマルコムを見た。

「ギル様が・・・結婚?」

今度は、フロルの顔から血の気が引き、真っ青な色になった。

赤くなったり、青くなったり、とてもややこしいのだが、マルコムは、こんなことなら言わなきゃよかったと後悔する。

「そうさ。兄様だって、いつか誰かと結婚するだろ?貴族なんだからさ」

フロルの頭の中では、自分がギルと結婚するどころか、ギルに恋人の一人くらい出来ることすら考えてなかったらしい。

お前、一体幾つなんだよ!と、マルコムは思う。

「そりゃ、恋人の一人だって、いつか出来るだろ? いい大人なんだから」

「ギル様に、好きな人がいる?」

フロルの顔がますます絶望的なものに変わる。

「そ、それは例えばの話だろ。ギル兄様のことが好きじゃないなら、なんでそんな顔すんだよ」

「私がギル様のことが好き・・・?」

「そうなんだろ。はっきり言っちゃえよ」

つーと、フロルの目から大粒の涙が零れる。

「な、なんで、そこで泣くんだ?」

「いつかギル様に好きな人が出来て、結婚しちゃう・・・・」

フロルは、途方に暮れた様子で、緑色の瞳に涙をいっぱい溜めている。そんな姿に、マルコムは慌てた。

「ほら、今は、まだ兄様には誰もいないから心配すんなって!がんばれば、お前にだってチャンスはある!」

そう言って、マルコムは一瞬、はて?と思う。

なんでだ。俺、なんで、二人の交際を応援してるんだ?

なんだか、思った方向と全然違う方へ言っているが、ここに来て軌道修正が不可能なことを悟る。そんなマルコムの傍らで、フロルがイジイジといじけていた。

「だって、だって・・・私平民だし、身分が違うし・・・ギル様は、あんなに素敵で、優しくて、勇敢で魂が抜けるほど素敵で・・・・(あんまり長いので以下略)」

傍目から見たら、いくらなんでも買いかぶりすぎだろ!とマルコムはツッコミたくなったが、それでも一つだけわかったことがある。いや、二つか。

フロルはギル兄様のことが大好きなのだと。そして、その気持ちに全然無自覚だったのだと。

あまりのギル様ラブに、マルコムがひいた。むしろ、禁断の扉をあけてしまったような気がする。

やっちゃったな、とマルコムは額に手をあて、天を仰ぎ見る。絶対にこれ、藪蛇ってやつだ。

「ギル様が結婚・・・うう・・・ギル様に他に好きな女の人がいる・・・」

「おい、ギル兄に恋人がいるなんて、俺、そんなこと一言も言ってないからな!」

慌てて否定するマルコムの言葉が、フロルの耳には一言も入っていないようだ。

「大丈夫だよ。お前以外に誰がいる?」

あれ? 俺、なんで二人の恋を応援しているんだと、マルコムは一瞬、自問する。なんだか、変な方向へ話が進んでないか? 

「だって・・・私、宿屋の娘だし・・・ギル様みたいに格好良くて、優しくて素敵で頭がよくて・・・(以下略)そんな人と私なんて釣り合わないよ」

なんて、自信がないんだとマルコムは呆れる。こんなに可愛くて(マルコム比)、白魔道師で、竜使いなら、男なんか引く手あまただろうに。

「お、女だったら、男の一人や二人、落として見せるわ!くらいの心構えで向えよ」

今のフロルは、途方に暮れた様子で膝を抱えて地面にぺたりと座り込んでいた。その様子があまりにも悲惨だったので、マルコムはおたおたと狼狽する。こんな風に泣いている娘を慰める言葉を知らなかった。

「ふぇ・・わ、わたし・・・」

もう涙を堪えるのが限界になって、フロルはすっと立ち上がった。ギル様に恋人とか考えるだけで、もうダメだった。

「あ、おい。フロル!」

すっと立ち上がって、涙を拭いながら、フロルが馬屋から出て行ってしまった。その後ろ姿をマルコムは呆然と眺めることしか出来なかった。

「きゅう・・・?」

何してんの?と、リルがじと目でマルコムを見る。マルコムを責めるような竜の視線に、マルコムは罪悪感を感じた。

自分の言葉で、フロルを傷つけてしまった。ふと馬屋の中を見渡せば、リルがご飯を食べ終えた後の汚れたブール草の桶が床の上に転がっていた。

「しょうがないな」

マルコムは一つため息をついてから、桶を拾って井戸場に向う。フロルが洗うはずだった桶をごしごしと洗いながら、なんでこんなことになるのかと後悔した。

「・・・フロルがあんなにギル兄様のこと好きだったなんて、知らなかったなあ」

ぽつりと零れた言葉は、マルコムの胸に苦く響く。考えてみれば、フロルは何一つ悪くないのだ。召使いの噂話を自分がなんの根拠もなく信じ込んだせいで、フロルを泣かせてしまった。

・・・フロル、許してくれるかな。

明日は、収穫祭だ。お祭りが終わったら、フロルにきちんと謝ろうと、マルコムは思った。

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