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第四章 白魔導師の日々
閑話~アンヌの復活~
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「もう、カーテンを閉めますよ。お嬢様」
メイドの少しぞんざいな口調が癇に障る。
マリアンヌ・レルマ子爵令嬢。
王宮では、みんなにアンヌと呼ばれていた令嬢は今は故郷のレルマ領に戻されていた。
女神と崇め奉られていたのは、つい最近のこと。
女神としての奇跡が起こせないだけでなく、レベナントに奇襲された神殿を守れなかったことから、本当にアンヌが女神の生まれ変わりなのかという疑いの声が出てしまったのは仕方がないこと。
結局、女神を偽った女として、王宮を追放されて仕方なく、故郷に戻らざるを得なかったのだ。
故郷に戻ったアンヌを誰もが暖かく迎えてくれる訳はない。勝手に女神の生まれ変わりと押し付けられた挙句、なぜか自分からそうなるように仕向けたと誤解され、挙句の果てに追放された。
当然、アンヌが心から恋していたリード騎馬隊長も自分には目もくれず、あの平民風情の白魔道師の女に奪われた。
(くやしい)
それを思い出して、悔しさのあまり、義理っと唇をかむ。
きっと今頃、あのフロルとかいう娘はリード様と幸せに過ごしているのだろう。彼の眼差しを思い出して、アンヌはさらに臍を噛む。
「ちょっと散歩してくるわ」
沢山の使用人に取り囲まれているはずなのに、アンヌがそう言っても、誰も返事を返してくれるものがいない。
実家の両親は貴族の名前に泥を塗ったといって、アンヌをごくつぶし扱いする。一日でも早く出てってくれと言いたげな両親に対して、アンヌはがっかりした。
それが本当の肉親の言うことだろうか。
腹だたしい気持ちを押し隠すように、アンヌは外套をまとい、庭へと出た。
ほっとした気持ちを隠そうともせず、アンヌは庭から続いている森へと足を向ける。できることならば、このまま姿を消してしまいたい。
森をしばらく歩いていても、やはり気が晴れることはなかった。
今までの自分、これからの将来。
そんなものを考えれば考えるほど、アンヌは自分の将来に暗雲が立ち込めているとしか思えない。
せめて王宮にまた戻れれば。
そんな風に考えながら歩いていると、見知らぬ場所にまで来てしまったようで、ふと立ち止まる。
目の前に現れたのは朽ち果てた礼拝堂。
こんな場所があったなんて知らなかったわ。
アンヌは好奇心に駆られて、おそるおそる礼拝堂の扉を開けた。
みんなから見捨てられて、どのくらい経つのだろう。まるで私みたいに。
きっと昔はきちんと管理されていたであろうその場所は雨風にさらされ、壁が所々朽ち果てていた。
ぎしり、と踏みしめた床板がなる。
アンヌがおそるおそる足を進めると、祭壇と思しき場所に何か怪しい何かが置いてあるのが目にはいった。
(触っちゃいけない)
彼女の良心は、さかんに警告を発するが、アンヌはその言葉に耳を貸さずに、その何かを手に取った。
真鍮でできているそれはどうも魔道具のようだった。
(これを使えば、お前さんが望むものが手に入るぞえ)
歯が欠けた流浪の民のような怪しい老婆。占いを生業にし、人々に禍をもたらすもの。
(あ、あれは一体なんだったかしら……)
一瞬、何かを思い起こそうとしたが、霞がかかったようで、肝心なことは何一つ思い出せない。
(これは触っちゃだめ、ダメなやつよ、アンヌ、それを早く手放しなさい)
誰かが頭の中で何かが叫んでいるような気がする。
ああ、ぐるぐると目が回る。私は何が欲しかったのだろう。
アンヌは頭の中に何かが侵入してきている。早く早く、ここから出ないと。
そう思うアンヌの自我の中には、黒い何かがアンヌに囁き続けていた。
(お前はあの男が欲しいのじゃろう? 凛々しく男らしいあの男が)
黒い囁きは一層アンヌの頭の中で声を強くする。
あの男?
次の瞬間、彼女ははっきりと思い出していた。
銀の髪を持つ、青い瞳の聖剣の騎士。すらっとした長身にたくましい体。男らしさの全てを凝縮したようなあの人。
「リード様……」
アンヌが魔道具を握る手に、ぐっと力がこもる。
(このまま行けば、あの男はあの小娘のものとなるぞ)
くくくっと、闇の声がアンヌをあざ笑う。
(さあ、我の手をとれ。この魔道具を開放するのだ)
もうアンヌの理性はどこかへと消え去ってしまった。
あの娘さえ、フロルさえいなければ、リード様はわたしのもの……。
アンヌの目は人間とは思えない赤い光を放ち、口元には残忍な笑みが浮かぶ。
(そうだ。さあ、その魔道具を開けて我を解き放て)
暗い囁きに押され、アンヌは魔道具の蓋に力を籠め、その蓋を解き放つ。
次の瞬間、古く朽ち果てた礼拝堂から、赤黒い靄がすごい勢いで立ち上っていく。
鳥たちは突然の異変に驚き、ばたばたと羽音を縦ながら、森から逃げ去っていった。
メイドの少しぞんざいな口調が癇に障る。
マリアンヌ・レルマ子爵令嬢。
王宮では、みんなにアンヌと呼ばれていた令嬢は今は故郷のレルマ領に戻されていた。
女神と崇め奉られていたのは、つい最近のこと。
女神としての奇跡が起こせないだけでなく、レベナントに奇襲された神殿を守れなかったことから、本当にアンヌが女神の生まれ変わりなのかという疑いの声が出てしまったのは仕方がないこと。
結局、女神を偽った女として、王宮を追放されて仕方なく、故郷に戻らざるを得なかったのだ。
故郷に戻ったアンヌを誰もが暖かく迎えてくれる訳はない。勝手に女神の生まれ変わりと押し付けられた挙句、なぜか自分からそうなるように仕向けたと誤解され、挙句の果てに追放された。
当然、アンヌが心から恋していたリード騎馬隊長も自分には目もくれず、あの平民風情の白魔道師の女に奪われた。
(くやしい)
それを思い出して、悔しさのあまり、義理っと唇をかむ。
きっと今頃、あのフロルとかいう娘はリード様と幸せに過ごしているのだろう。彼の眼差しを思い出して、アンヌはさらに臍を噛む。
「ちょっと散歩してくるわ」
沢山の使用人に取り囲まれているはずなのに、アンヌがそう言っても、誰も返事を返してくれるものがいない。
実家の両親は貴族の名前に泥を塗ったといって、アンヌをごくつぶし扱いする。一日でも早く出てってくれと言いたげな両親に対して、アンヌはがっかりした。
それが本当の肉親の言うことだろうか。
腹だたしい気持ちを押し隠すように、アンヌは外套をまとい、庭へと出た。
ほっとした気持ちを隠そうともせず、アンヌは庭から続いている森へと足を向ける。できることならば、このまま姿を消してしまいたい。
森をしばらく歩いていても、やはり気が晴れることはなかった。
今までの自分、これからの将来。
そんなものを考えれば考えるほど、アンヌは自分の将来に暗雲が立ち込めているとしか思えない。
せめて王宮にまた戻れれば。
そんな風に考えながら歩いていると、見知らぬ場所にまで来てしまったようで、ふと立ち止まる。
目の前に現れたのは朽ち果てた礼拝堂。
こんな場所があったなんて知らなかったわ。
アンヌは好奇心に駆られて、おそるおそる礼拝堂の扉を開けた。
みんなから見捨てられて、どのくらい経つのだろう。まるで私みたいに。
きっと昔はきちんと管理されていたであろうその場所は雨風にさらされ、壁が所々朽ち果てていた。
ぎしり、と踏みしめた床板がなる。
アンヌがおそるおそる足を進めると、祭壇と思しき場所に何か怪しい何かが置いてあるのが目にはいった。
(触っちゃいけない)
彼女の良心は、さかんに警告を発するが、アンヌはその言葉に耳を貸さずに、その何かを手に取った。
真鍮でできているそれはどうも魔道具のようだった。
(これを使えば、お前さんが望むものが手に入るぞえ)
歯が欠けた流浪の民のような怪しい老婆。占いを生業にし、人々に禍をもたらすもの。
(あ、あれは一体なんだったかしら……)
一瞬、何かを思い起こそうとしたが、霞がかかったようで、肝心なことは何一つ思い出せない。
(これは触っちゃだめ、ダメなやつよ、アンヌ、それを早く手放しなさい)
誰かが頭の中で何かが叫んでいるような気がする。
ああ、ぐるぐると目が回る。私は何が欲しかったのだろう。
アンヌは頭の中に何かが侵入してきている。早く早く、ここから出ないと。
そう思うアンヌの自我の中には、黒い何かがアンヌに囁き続けていた。
(お前はあの男が欲しいのじゃろう? 凛々しく男らしいあの男が)
黒い囁きは一層アンヌの頭の中で声を強くする。
あの男?
次の瞬間、彼女ははっきりと思い出していた。
銀の髪を持つ、青い瞳の聖剣の騎士。すらっとした長身にたくましい体。男らしさの全てを凝縮したようなあの人。
「リード様……」
アンヌが魔道具を握る手に、ぐっと力がこもる。
(このまま行けば、あの男はあの小娘のものとなるぞ)
くくくっと、闇の声がアンヌをあざ笑う。
(さあ、我の手をとれ。この魔道具を開放するのだ)
もうアンヌの理性はどこかへと消え去ってしまった。
あの娘さえ、フロルさえいなければ、リード様はわたしのもの……。
アンヌの目は人間とは思えない赤い光を放ち、口元には残忍な笑みが浮かぶ。
(そうだ。さあ、その魔道具を開けて我を解き放て)
暗い囁きに押され、アンヌは魔道具の蓋に力を籠め、その蓋を解き放つ。
次の瞬間、古く朽ち果てた礼拝堂から、赤黒い靄がすごい勢いで立ち上っていく。
鳥たちは突然の異変に驚き、ばたばたと羽音を縦ながら、森から逃げ去っていった。
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