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第四章 白魔導師の日々
収穫祭~1
大きな鏡の前には、青い妖精のドレスを着た娘がいる。青いシフォン生地の裾が、娘が動く度に、ふんわりと柔らかに広がる。
少し大きめのデコルテが露わになるデザインがとても気に入っている。
淡い金髪の髪の毛は後で三つ編みにして一つにまとめて、髪には、ドレスと同じ青い小花の飾りを沢山あしらった。編み上げのサンダルもかわいい。
「よし! まあまあの出来だな」
鏡の前で銀の杖を片手に、フロルは一人満足そうに呟く。鏡の中の娘は、初めてのドレスを着て、嬉しそうに頬を染めている。
── これから、ギル様と一緒に収穫祭へ出かけるのだ。
初めてのドレス、初めての収穫祭。収穫祭は地元でも毎年あるけど、フロルがそこに行ったことはない。
いつまでたっても成長しない子供姿のフロルが人前に出ると、小さな村では、これ見よがしに何か囁かれたり、後からそっと小突かれたりと、意地悪をされるのが常だった。収穫祭なんて、人が沢山いる場所には行けばどうなるのか、簡単に想像がついたので、これ幸いとばかりに引きこもっていた。
それに収穫祭は宿屋にとっては掻き入れ時だ。沢山のお客さんが収穫祭を見るために、宿屋に泊まっていたから、忙しく働く両親を放って、一人で勝手に遊びほうける訳にもいかなかった。
つまり、今日は、フロルにとって初めての収穫祭デビューな訳で、しかも、ギル様と一緒にお祭りに行けるのだ!
格好良くて、凜々しくて、男らしくて・・・(長いので以下略)のギル様と一緒のお祭り。
昨日、マルコムに言われた言葉をふと思い出す。
── いつかはギル兄様だって、誰かを好きになって結婚するんだからな。
鏡の中の娘は、シュンとして少し悲しげな顔をした。
「ほら、元気だせ。フロル」
気合いをいれるために、フロルは自分のほっぺをぴしゃりと叩く。
そう、今だけは、今日は、ギル様と一緒なのだ。
明日の不幸を嘆くより、今日の幸せを精一杯楽しもう!
フロルはそう決心して、鏡の前で、にっこりと笑顔を作った。それは、努力して作った笑顔だったけれども、しょんぼりして、ギル様の前に出るよりはましだ。何しろ、今日はお祭りなのだから。
「そう、フロル。その調子!ふぁいとぉ!」
自分で自分を叱咤激励してから、大きな螺旋階段を降りる。螺旋階段の下には、ギル様も仮装をして、自分を待っていてくれた。
ギル様は、どこかの古の剣士の衣装を着ていた。女神様を守る聖剣の騎士の出で立ちだ。長いマント。腰には長剣。普段の騎士服よりもっと優雅で古式ゆかしいデザインだ。
(うああ。ギル様、かっこいいー)
カッコ過ぎて鼻血がでやしないかフロルは一瞬、ひやりとして、鼻の下に手を当てみたが、ラッキーなことに、まだ鼻血は出ていないようだ。
お祭りの間、ギル様が格好良すぎて、卒倒しないか鼻血を出さないかとフロルが本気で心配していると、ギル様がそっとフロルに手を差し伸べる。
「では、参りましょうか?私の女神様」
「ギル様、これは妖精ですよ! 女神様じゃないです」
まるで王子様がお姫様にするような仕草で差し出された手の上に、フロルは自分の手をそっと重ねる。
「そうか? でも、俺には女神みたいに見えるぞ」
ギル様の仮面越しの青い瞳が、自分をまっすぐに捕らえる。
もう幸せすぎて、今すぐ死ねる!
このまま人生が終わらないかと願う反面、いや、せめてお祭りを堪能してから、三途の川を渡りたい!と半ば本気で悩むフロルに、ギルは形のよい口元を綻ばせて言う。
「フロル、本当に綺麗だ」
いつにもまして、ギル様の声色が柔らかく妙に甘い。フロルは、胸が変にドキドキして、恥ずかしいような嬉しいような、落ち着かない気持ちになる。
「本当?」
少し疑うような眼差しで上目遣いにギルを見つめれば、ギルがさらに視線に熱を込める。
「俺が一度でもウソを言ったことがあるか?」
「・・・いいえ」
フロルが首を横に振れば、ギルはいつもの優しい笑みを浮かべる。ふと、他の人が全然見当たらないことに気がついて、フロルは無邪気に訊ねる。
「他の人は?」
ギルは、みんなもう出発したと言う。要するに、二人で楽しんでこい、と言う寛大かつ配慮のある思いやりなのだそうだ。
「さあ、遅れると見所を逃すからな。行くとするか」
ギルがホールの扉を開けると、馬車が用意されていた。
「エスペランサで行くんじゃないんですか?」
「ばかだな。ドレス姿の令嬢を馬に乗せる訳にはいかないだろ」
馬車にはきちんと御者がいて、二人を待っていた。
「祭りの会場の外に馬車を止めて、そこから先は徒歩だな。夜店が沢山出ているから、ゆっくり美味いものも食おうな?」
「はい、ギル様、楽しみです」
そうして、二人は馬車に乗り込むと、馬車はゆっくりと進み始めた。空には、一番星が輝きはじめ、オレンジ色と紫色の空が広がりはじめている。
時は折しも、美しい夕暮れ時。馬車の車輪がカラカラと音をたてて進み、それが耳に心地よく響く。
お祭りはもう始まっているのだろうか。道行く先には、沢山のランタンの光で照らされたお祭り会場がぼんやりと見え始めていた。
── なんだか、とても素敵なことが起きるかもしれない。
フロルは、そんな期待を胸に、ギルと共にお祭りに向うのであった。
少し大きめのデコルテが露わになるデザインがとても気に入っている。
淡い金髪の髪の毛は後で三つ編みにして一つにまとめて、髪には、ドレスと同じ青い小花の飾りを沢山あしらった。編み上げのサンダルもかわいい。
「よし! まあまあの出来だな」
鏡の前で銀の杖を片手に、フロルは一人満足そうに呟く。鏡の中の娘は、初めてのドレスを着て、嬉しそうに頬を染めている。
── これから、ギル様と一緒に収穫祭へ出かけるのだ。
初めてのドレス、初めての収穫祭。収穫祭は地元でも毎年あるけど、フロルがそこに行ったことはない。
いつまでたっても成長しない子供姿のフロルが人前に出ると、小さな村では、これ見よがしに何か囁かれたり、後からそっと小突かれたりと、意地悪をされるのが常だった。収穫祭なんて、人が沢山いる場所には行けばどうなるのか、簡単に想像がついたので、これ幸いとばかりに引きこもっていた。
それに収穫祭は宿屋にとっては掻き入れ時だ。沢山のお客さんが収穫祭を見るために、宿屋に泊まっていたから、忙しく働く両親を放って、一人で勝手に遊びほうける訳にもいかなかった。
つまり、今日は、フロルにとって初めての収穫祭デビューな訳で、しかも、ギル様と一緒にお祭りに行けるのだ!
格好良くて、凜々しくて、男らしくて・・・(長いので以下略)のギル様と一緒のお祭り。
昨日、マルコムに言われた言葉をふと思い出す。
── いつかはギル兄様だって、誰かを好きになって結婚するんだからな。
鏡の中の娘は、シュンとして少し悲しげな顔をした。
「ほら、元気だせ。フロル」
気合いをいれるために、フロルは自分のほっぺをぴしゃりと叩く。
そう、今だけは、今日は、ギル様と一緒なのだ。
明日の不幸を嘆くより、今日の幸せを精一杯楽しもう!
フロルはそう決心して、鏡の前で、にっこりと笑顔を作った。それは、努力して作った笑顔だったけれども、しょんぼりして、ギル様の前に出るよりはましだ。何しろ、今日はお祭りなのだから。
「そう、フロル。その調子!ふぁいとぉ!」
自分で自分を叱咤激励してから、大きな螺旋階段を降りる。螺旋階段の下には、ギル様も仮装をして、自分を待っていてくれた。
ギル様は、どこかの古の剣士の衣装を着ていた。女神様を守る聖剣の騎士の出で立ちだ。長いマント。腰には長剣。普段の騎士服よりもっと優雅で古式ゆかしいデザインだ。
(うああ。ギル様、かっこいいー)
カッコ過ぎて鼻血がでやしないかフロルは一瞬、ひやりとして、鼻の下に手を当てみたが、ラッキーなことに、まだ鼻血は出ていないようだ。
お祭りの間、ギル様が格好良すぎて、卒倒しないか鼻血を出さないかとフロルが本気で心配していると、ギル様がそっとフロルに手を差し伸べる。
「では、参りましょうか?私の女神様」
「ギル様、これは妖精ですよ! 女神様じゃないです」
まるで王子様がお姫様にするような仕草で差し出された手の上に、フロルは自分の手をそっと重ねる。
「そうか? でも、俺には女神みたいに見えるぞ」
ギル様の仮面越しの青い瞳が、自分をまっすぐに捕らえる。
もう幸せすぎて、今すぐ死ねる!
このまま人生が終わらないかと願う反面、いや、せめてお祭りを堪能してから、三途の川を渡りたい!と半ば本気で悩むフロルに、ギルは形のよい口元を綻ばせて言う。
「フロル、本当に綺麗だ」
いつにもまして、ギル様の声色が柔らかく妙に甘い。フロルは、胸が変にドキドキして、恥ずかしいような嬉しいような、落ち着かない気持ちになる。
「本当?」
少し疑うような眼差しで上目遣いにギルを見つめれば、ギルがさらに視線に熱を込める。
「俺が一度でもウソを言ったことがあるか?」
「・・・いいえ」
フロルが首を横に振れば、ギルはいつもの優しい笑みを浮かべる。ふと、他の人が全然見当たらないことに気がついて、フロルは無邪気に訊ねる。
「他の人は?」
ギルは、みんなもう出発したと言う。要するに、二人で楽しんでこい、と言う寛大かつ配慮のある思いやりなのだそうだ。
「さあ、遅れると見所を逃すからな。行くとするか」
ギルがホールの扉を開けると、馬車が用意されていた。
「エスペランサで行くんじゃないんですか?」
「ばかだな。ドレス姿の令嬢を馬に乗せる訳にはいかないだろ」
馬車にはきちんと御者がいて、二人を待っていた。
「祭りの会場の外に馬車を止めて、そこから先は徒歩だな。夜店が沢山出ているから、ゆっくり美味いものも食おうな?」
「はい、ギル様、楽しみです」
そうして、二人は馬車に乗り込むと、馬車はゆっくりと進み始めた。空には、一番星が輝きはじめ、オレンジ色と紫色の空が広がりはじめている。
時は折しも、美しい夕暮れ時。馬車の車輪がカラカラと音をたてて進み、それが耳に心地よく響く。
お祭りはもう始まっているのだろうか。道行く先には、沢山のランタンの光で照らされたお祭り会場がぼんやりと見え始めていた。
── なんだか、とても素敵なことが起きるかもしれない。
フロルは、そんな期待を胸に、ギルと共にお祭りに向うのであった。
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