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第四章 白魔導師の日々
森の白ウサギ精霊~2
もふもふ・・・もふもふ・・・
フロルの周りには、あっという間に、真っ白なウサギたちが集まってきた。それは、フロルの膝にのり、肩にのり、と、気づけば、フロルは、もふもふのウサギに覆われ尽くしていた。
「ふふ・・柔らかい。うふふ、暖か~い」
ふわっふわの手触りを堪能しながら、フロルは大きく笑っていた。
そんなフロルを、つぶらな瞳でウサギたちはじっと見つめる。
(よかった。めがみさま、わらってる)
(わたしたちのもふもふは、さいきょうなのー)
そんな言葉をウサギたちが言っているとは知らずに、フロルの心の傷は少し癒されていた。
そんな状態にドレイクが気がつかないはずはない。
「・・・なんだ。この光景は?」
グレイにもたれかかったまま、浅い眠りから覚めたドレイクが目を薄く開けると、真っ白なもふもふの大群が目に入る。
「はあ?」
ドレイクの形のよい口元から、発せられたことがない声が飛び出す。鉄の男、アルフォンソ・ドレイク侯爵、竜騎士団 団長の彼は常に頭脳明晰、冷静沈着な性格であるが、こんな予期しないことは初めてだった。
フロルの周りに群がるのは、ウサギ型の白い魔獣たち。地元の人間は、それを女神フローリアを取り巻く精霊として、特に大切にしていたのは知っている。
しかし、ドレイクがこの森で休息している時は、一匹、二匹程度しか来たことがなく、グレイのほんの5メートル程度にまで近寄るのが関の山だった。
それなのに、なんだこれは・・・
50匹はくだらない白ウサギの大群がフロルを取り囲み、何匹もフロルの膝、肩、ひいては頭の上にまえ乗っている。そして、ドレイクが驚きで目を見開いた理由は・・・
真っ白な花の中で座ったフロルが、沢山のウサギに囲まれながら笑っている。薄暗い森の中で、木々の隙間から差し込んだ夕日がまるでスポットライトのように照らし出している。
・・・しかし、さすがに、これは行き過ぎではないのか。
ウサギたちは、小さな声で何かを囁きあいながら、フロルをじっと見守り続けているが、何しろ数が多すぎる。
なんでも程度と言うものがある。それを著しく超えた場合、それはあまり良いことではない。ドレイクは、ゆっくりと立ち上がると、ウサギたちは、ぴんっと耳を立てて、動きを止める。
ドレイクを警戒しているのだ。
じっと、ウサギたちが見つめるなか、ドレイクは、ゆっくりとフロルに近寄っていった。
「フロル」
声をかければ、ウサギを抱きしめたままフロルがドレイクに視線を移す。
「ドレイク様、可愛いですよね。見て下さい。このモフモフ」
そう言って、フロルは抱きかかえていたウサギを反転させ、腹を見せたウサギをドレイクに差し出す。抱いてみろ、ということだろうか。
ドレイクは、手の平でそれをやんわりと辞退すると、フロルは再びウサギをぎゅっと胸の中に抱きしめた。
「かわいいのに・・・」
フロルは、ちょっと拗ねたように呟く。
「散れ」
視線をウサギにうつし、ドレイクがそう言うと、ウサギたちはその意図を察したように、さっとドレイクから距離をとった。
(このこわいひと、だれ?)
(りゅうのおやぶんだって)
(おやぶんなの?)
(ほら、あそこにいるりゅう、りゅうのいちばんなんだよ)
(このひと、りゅうのおやぶんの、おやぶんなの!)
グレイが来る度に様子を見に来ていた一番小さなウサギが胸をはって、みんなに自慢する。
(おおきいね)
(このこわいひと、めがみさま、つれてきたの!)
ウサギたちがそんな会話をしているとは、ドレイクも思いもよらないだろう。しかも、ウサギたちには、ドレイクは、「こわい人」とか「親分」と呼ばれていると知ったら、誇り高い竜騎士団長は、どんな顔をするのだろうか。
「・・・フロル、そろそろ時間だ。戻るぞ」
ドレイクがぶっきらぼうに言えば、フロルもそうですね、と頷く。
「じゃあ、またね?ウサギちゃんたち」
フロルは、胸に抱いていた小さい子を地面に降ろしてから、遠巻きにドレイクを眺めていたウサギたちも別れを告げる。
「機嫌がすっかり直ったようで、よかったな」
グレイにフロルを乗せながら、ドレイクがうっすらと口元を緩めた。ギル様のように明るい笑顔ではなかったが、それがドレイクの微笑みなのだと気づく。
そして、二人はグレイにのり、大きく空へと羽ばたく。帰り道まではあっという間だった。地平線に沈む夕日、青と紫の間に、流れるように広がる白い雲とオレンジの光。
大地に太陽が沈む瞬間の光景もまた素晴らしく美しい。
「こういう景色を見ると、もしかしたら、女神様って本当にいるんじゃないかと思うんですよね」
「・・・そうだな」
今、フロルを囲んでいる偽女神騒動を考えると、ドレイクは気の利いた言葉が何一つ浮かばない。そうしている内に、町の上空を横切り、そびえ立つような王城の高い城壁を越えて、高い建物の中にぽっかりと開けた場所にある駐竜場が目にはいる。
グレイが大きく羽を広げ、降り立とうとすると、地面から砂埃が巻き上がる。それを見ていた竜騎士団の竜係が、急いでドレイクの竜に駆け寄ってきた。
ドレイクが先におり、竜の上から降りようとするフロルに、まるでお姫様をエスコートする騎士のように、手を差し伸べる姿をみて、竜係は目を丸くしていたが、ドレイクは一向に構わなかった。
「何をしている。はやくグレイを連れていけ」
「は、はい、わかりました。ドレイク様」
フロルとドレイクの様子に、目を丸くしたまま、ぽかんと口を開けている竜係にドレイクが鋭く言えば、焦りながら、ドレイクからグレイの手綱を受け取り、あせあせと慌てた様子で竜舎へと連れていった。
「ドレイク様・・・私を元気づけようと、連れてきてくれたんですね。ありがとうございます」
フロルが礼を口にすると、ドレイクは軽く頷く。
「色々あるかもしれんが、あまり気に病むな」
彼はそう言うと、フロルの肩をぽんぽんと叩き、そのまま真っ直ぐに歩き去ってしまった。
フロルはその背中を眺め、ドレイクが竜舎の影に消えるのを見届けて、頬をぴしゃりと叩く。
「・・・そうだ。フロル。めそめそすんな!」
宿屋の子らしくないぞ、と自分にはっぱをかけた。
ふうっと大きく息を吐き、自分がすべきことはなんなのかと考える。
「・・・そうだ。リルに餌をやらなくっちゃ」
もうすぐリルのご飯の時間だ。ドレイク様のおかげで、少し元気が出たような気がした。そうして、フロルが竜舎の外でリルの餌の準備をしている頃。
同じく竜舎にはいったグレイに括りつけられたいた荷物入れの鞄の蓋が開き、そこからひょいっと顔を覗かせた動物がいた。
先ほどの白ウサギである。一番、小さなウサギは、咄嗟にドレイクの荷物入れに入り込み、ここまでついて来たのだった。白ウサギはきょろきょろと周囲を見渡し、警戒すべき物がないか確認してから、ぴょんと竜舎の藁が散乱している床へと飛び降りた。
(ぼく、だいひょうなの。よろしくね!)
ぴこん、と、後ろ足で立ち上がった小さなウサギは、くんくんと鼻を鳴らしながら竜達に挨拶をすると、グレイが、長い首を動かして、自分の鼻先をウサギの頭にちょんとつけた。竜式の挨拶である。
竜の長であるグレイが受け入れたのなら、後は何も問題がない。竜たちは新参者を受け入れ、それぞれが丁寧に挨拶をしていた。
フロルの周りには、あっという間に、真っ白なウサギたちが集まってきた。それは、フロルの膝にのり、肩にのり、と、気づけば、フロルは、もふもふのウサギに覆われ尽くしていた。
「ふふ・・柔らかい。うふふ、暖か~い」
ふわっふわの手触りを堪能しながら、フロルは大きく笑っていた。
そんなフロルを、つぶらな瞳でウサギたちはじっと見つめる。
(よかった。めがみさま、わらってる)
(わたしたちのもふもふは、さいきょうなのー)
そんな言葉をウサギたちが言っているとは知らずに、フロルの心の傷は少し癒されていた。
そんな状態にドレイクが気がつかないはずはない。
「・・・なんだ。この光景は?」
グレイにもたれかかったまま、浅い眠りから覚めたドレイクが目を薄く開けると、真っ白なもふもふの大群が目に入る。
「はあ?」
ドレイクの形のよい口元から、発せられたことがない声が飛び出す。鉄の男、アルフォンソ・ドレイク侯爵、竜騎士団 団長の彼は常に頭脳明晰、冷静沈着な性格であるが、こんな予期しないことは初めてだった。
フロルの周りに群がるのは、ウサギ型の白い魔獣たち。地元の人間は、それを女神フローリアを取り巻く精霊として、特に大切にしていたのは知っている。
しかし、ドレイクがこの森で休息している時は、一匹、二匹程度しか来たことがなく、グレイのほんの5メートル程度にまで近寄るのが関の山だった。
それなのに、なんだこれは・・・
50匹はくだらない白ウサギの大群がフロルを取り囲み、何匹もフロルの膝、肩、ひいては頭の上にまえ乗っている。そして、ドレイクが驚きで目を見開いた理由は・・・
真っ白な花の中で座ったフロルが、沢山のウサギに囲まれながら笑っている。薄暗い森の中で、木々の隙間から差し込んだ夕日がまるでスポットライトのように照らし出している。
・・・しかし、さすがに、これは行き過ぎではないのか。
ウサギたちは、小さな声で何かを囁きあいながら、フロルをじっと見守り続けているが、何しろ数が多すぎる。
なんでも程度と言うものがある。それを著しく超えた場合、それはあまり良いことではない。ドレイクは、ゆっくりと立ち上がると、ウサギたちは、ぴんっと耳を立てて、動きを止める。
ドレイクを警戒しているのだ。
じっと、ウサギたちが見つめるなか、ドレイクは、ゆっくりとフロルに近寄っていった。
「フロル」
声をかければ、ウサギを抱きしめたままフロルがドレイクに視線を移す。
「ドレイク様、可愛いですよね。見て下さい。このモフモフ」
そう言って、フロルは抱きかかえていたウサギを反転させ、腹を見せたウサギをドレイクに差し出す。抱いてみろ、ということだろうか。
ドレイクは、手の平でそれをやんわりと辞退すると、フロルは再びウサギをぎゅっと胸の中に抱きしめた。
「かわいいのに・・・」
フロルは、ちょっと拗ねたように呟く。
「散れ」
視線をウサギにうつし、ドレイクがそう言うと、ウサギたちはその意図を察したように、さっとドレイクから距離をとった。
(このこわいひと、だれ?)
(りゅうのおやぶんだって)
(おやぶんなの?)
(ほら、あそこにいるりゅう、りゅうのいちばんなんだよ)
(このひと、りゅうのおやぶんの、おやぶんなの!)
グレイが来る度に様子を見に来ていた一番小さなウサギが胸をはって、みんなに自慢する。
(おおきいね)
(このこわいひと、めがみさま、つれてきたの!)
ウサギたちがそんな会話をしているとは、ドレイクも思いもよらないだろう。しかも、ウサギたちには、ドレイクは、「こわい人」とか「親分」と呼ばれていると知ったら、誇り高い竜騎士団長は、どんな顔をするのだろうか。
「・・・フロル、そろそろ時間だ。戻るぞ」
ドレイクがぶっきらぼうに言えば、フロルもそうですね、と頷く。
「じゃあ、またね?ウサギちゃんたち」
フロルは、胸に抱いていた小さい子を地面に降ろしてから、遠巻きにドレイクを眺めていたウサギたちも別れを告げる。
「機嫌がすっかり直ったようで、よかったな」
グレイにフロルを乗せながら、ドレイクがうっすらと口元を緩めた。ギル様のように明るい笑顔ではなかったが、それがドレイクの微笑みなのだと気づく。
そして、二人はグレイにのり、大きく空へと羽ばたく。帰り道まではあっという間だった。地平線に沈む夕日、青と紫の間に、流れるように広がる白い雲とオレンジの光。
大地に太陽が沈む瞬間の光景もまた素晴らしく美しい。
「こういう景色を見ると、もしかしたら、女神様って本当にいるんじゃないかと思うんですよね」
「・・・そうだな」
今、フロルを囲んでいる偽女神騒動を考えると、ドレイクは気の利いた言葉が何一つ浮かばない。そうしている内に、町の上空を横切り、そびえ立つような王城の高い城壁を越えて、高い建物の中にぽっかりと開けた場所にある駐竜場が目にはいる。
グレイが大きく羽を広げ、降り立とうとすると、地面から砂埃が巻き上がる。それを見ていた竜騎士団の竜係が、急いでドレイクの竜に駆け寄ってきた。
ドレイクが先におり、竜の上から降りようとするフロルに、まるでお姫様をエスコートする騎士のように、手を差し伸べる姿をみて、竜係は目を丸くしていたが、ドレイクは一向に構わなかった。
「何をしている。はやくグレイを連れていけ」
「は、はい、わかりました。ドレイク様」
フロルとドレイクの様子に、目を丸くしたまま、ぽかんと口を開けている竜係にドレイクが鋭く言えば、焦りながら、ドレイクからグレイの手綱を受け取り、あせあせと慌てた様子で竜舎へと連れていった。
「ドレイク様・・・私を元気づけようと、連れてきてくれたんですね。ありがとうございます」
フロルが礼を口にすると、ドレイクは軽く頷く。
「色々あるかもしれんが、あまり気に病むな」
彼はそう言うと、フロルの肩をぽんぽんと叩き、そのまま真っ直ぐに歩き去ってしまった。
フロルはその背中を眺め、ドレイクが竜舎の影に消えるのを見届けて、頬をぴしゃりと叩く。
「・・・そうだ。フロル。めそめそすんな!」
宿屋の子らしくないぞ、と自分にはっぱをかけた。
ふうっと大きく息を吐き、自分がすべきことはなんなのかと考える。
「・・・そうだ。リルに餌をやらなくっちゃ」
もうすぐリルのご飯の時間だ。ドレイク様のおかげで、少し元気が出たような気がした。そうして、フロルが竜舎の外でリルの餌の準備をしている頃。
同じく竜舎にはいったグレイに括りつけられたいた荷物入れの鞄の蓋が開き、そこからひょいっと顔を覗かせた動物がいた。
先ほどの白ウサギである。一番、小さなウサギは、咄嗟にドレイクの荷物入れに入り込み、ここまでついて来たのだった。白ウサギはきょろきょろと周囲を見渡し、警戒すべき物がないか確認してから、ぴょんと竜舎の藁が散乱している床へと飛び降りた。
(ぼく、だいひょうなの。よろしくね!)
ぴこん、と、後ろ足で立ち上がった小さなウサギは、くんくんと鼻を鳴らしながら竜達に挨拶をすると、グレイが、長い首を動かして、自分の鼻先をウサギの頭にちょんとつけた。竜式の挨拶である。
竜の長であるグレイが受け入れたのなら、後は何も問題がない。竜たちは新参者を受け入れ、それぞれが丁寧に挨拶をしていた。
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※アルファポリスのみの公開です。