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四章 水着ライブ!

43話 プラナリア

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 門を通ると僕達は見慣れない白い部屋に放り出される。転ばないように踏ん張りすぐにサタンが襲ってきてもいいように体勢を立て直す。
 しかしこの鏡の前に椅子が何個も置いてある部屋にはサタンはいなかった。
 
「あれ? ここってもしかして楽屋?」

 アイはこの場所を知っているようだった。僕もその単語を聞きここが楽屋だと納得する。
 化粧のために置かれた鏡と椅子。それ以外は特にない無機質な空間。その特徴は僕の知る楽屋と一致していた。

「これはどうやら海ではなくライブ会場の方が元になって形成されたな。とはいえやることは変わらん。さっさとボスを倒しに行くぞ」

 風斗さんが率先して先陣を切り唯一ある扉から出ようとする。

「お前ら下がれ!」

 しかし扉の前まで来たところで僕達に突然下がれと命令してくる。反応する暇もなく扉が勢いよく吹き飛ばされ風斗さんの横を通り過ぎて壁に突き刺さる。

 扉の向こうからその乱暴なことをした張本人が姿を現す。
 茶色のうねうねした見たことのない生物で、大きさは人と同じくらいで見た目に反して可愛らしい間の抜けた瞳を持っていた。
 体から生えた数本の触手で自重を支えており、恐らくこれを鞭のように扱って扉を壊したのだろう。だとしたら扉のひしゃげ具合から見てその威力は絶大。
 まともにくらったらひとたまりもない。

「悪いな。お前が攻撃することはない」

 奴が中の様子を確認して状況を把握しようとする一秒にも満たない時間で、風斗さんが閃光の如き振りを放ち、奴の胴体は真っ二つに切り裂かれる。
 そこに追加で斬撃を浴びせ奴を五等分にする。サタンなら真っ二つにしても即死せずに少しはしぶとく生きるのもいるが、これくらい切っておけば流石に即死だろう。

「こんな不意打ちもあるからお前らすぐに反応できるように気をつけ……」

 最後の一振りの終わりにこちらの方に向き直り注意してこようとしたが、その言葉は彼の背後から放たれた触手の鞭によって遮られることとなる。
 彼は大きく転がりこちらの足元まで吹き飛ばされるが、僕達の元に来る頃には既に立ち上がり体勢を立て直していた。

「ぐっ。注意した途端自分が不意打ちを食らうとはな。これじゃ先輩として面目が立たないな」
「いやあれは仕方ありませんよ。だってあいつ……」

 風斗さんは転がっていて見えなかっただろうが、僕とアイは奴のありえない動きを見ていた。
 五等分に斬り裂かれた奴の体は、それぞれが意思を持っているかのように蠢き出し一瞬で再生したのだった。その中の一匹が先程斬られた腹いせのように彼に触手で攻撃したのだ。

「分かったわ。あいつきっとプラナリアのサタンよ。特徴が一致してるわ」
「プラ……え? 何それ?」

 僕は彼女が言った単語に聞き覚えがなかった。状況から推測するに地球上の生き物なのだろうとは思うのだが、生憎僕は生き物にはそこまで詳しくないのでそれは知らなかった。

「大学時代に友人から聞いたことがあるな。斬られたらその分だけ増殖するヒルの親戚みたいな奴だったか?」
「そうね。本来なら再生と増殖に時間を要するはずだけど、サタンになったことでそこら辺が強化されているのか、一瞬でやっていたわね」

 そう説明している間に奴ら五体はぞろぞろとこちらに触手の歩を進める。

「つまり殴ったり打撃系で倒せばいいの?」
「プラナリアなら弱点は熱よ! スキルでも何でもいいから熱で攻撃して!」

 アイはスキップのような足取りで後ろに下がり、カードを一枚セットする。

[アーマーカード マジシャン レベル6  start up……]

 何もない場所にマジシャンのマントやハットが出現し、彼女はそれを纏いピンク色を隙間からチラつかせる可愛さとかっこよさを同居させたマジシャンとなる。

「さぁ! アイドルのショータイムの始まりだよ!」

 彼女はマントで体を隠すようにし、直後バサッとマントを大きく捲る。いつのまにか手にはステッキが握られていた。このアーマー特有の武器なのだろう。

「三対五か。それに奴らは長い触手を持っていて、こちらは袋小路で逃げ道はない……」
  
 風斗さんが無意識にか状況をぶつぶつと解説するように呟く。それは的確で実際僕達はちょっときつい状況だった。
 数の不利と場所の不利が重なってあまり好ましい状況ではない。せめてどちらかがなくなってくれればと叶うはずもない願いを考える。

「五対五だよ。アタシが三人になるからね」

 アイはデッキケースから一枚スキルカードを取り出し挿入する。

[スキルカード マジック]

 彼女が七色に光ったかと思えば、それは多重の残像を発生させ三つに分裂する。

「これで五人。一気に決めにいくわよ!」

 三人が全く同じタイミングで喋ることで声が倍響き、その声を合図にするようにして僕達と奴らとの戦闘が始まる。
 各々一体を担当してともかく熱を発生させる方法を模索する。

[スキルカード ヒート]

 僕の場合は簡単だった。都合が良いことに鎧の表面温度を飛躍的に上昇させるスキルカードを持っていたので、それを使用して奴の触手を躱して抱きつき、熱に弱くなくても大ダメージとなる程の灼熱を奴に与える。
 数秒悶えた後に奴は動きを止め消滅しカードを落とす。

「二人は……」

 スキルカードのおかげで自分はすぐに倒せたのはいいが、他の二人のことが心配になりカードを拾うより先にまず二人の援護をしようとする。だがどうやらそれは必要ないようだ。
 
「くらいなさい! アイドルの火吹き芸よ!」

 アイの内の一人は口から大きく火を吹き、その多量の火が奴の内の一匹を包み込む。
 もう二人はまた違った手法で炎を出しており、一人は指先からまるで魔法のように炎を噴射して奴の顔面に当てる。もう片方はステッキに炎を纏わせ、それで攻撃を弾きつつ奴を殴りつけていた。

「少し借りるぞ」

 風斗さんが大きくバク転をしながら火吹き芸をやったいるアイの上まで行く。そこでアイテムカードから取り出したのか蔦を取り出し素早く剣に巻き付け、剣に炎を燃え移させる。

 彼は床に着地する前に壁に着き、強く蹴り彼自身が担当していたサタンの方へとかっ飛んでいく。
 炎を纏った剣で、更に速さを上乗せした一突きを奴に命中させる。炎は奴の体をめぐり、抵抗する時間もなく奴はカードとなる。
 アイが戦っていた三体もちょうど倒されたらしく、またそれから数秒も経たないうちにアイの分身が解除される。

「ね? アタシがいた方が良かったでしょ真太郎さん?」

 僕の三倍働いてくれたアイが得意げにして風斗さんに話しかけにいく。

「分かったから少し離れろ近い……それに奴を倒したからって制圧は終わりじゃないから油断するな」

 彼は恥ずかしがりながらもしっかりDOのベテランとして彼女に対して注意する。彼のあまり見れない一面を見れたのはいいが、僕には一つ今の発言で引っ掛かる部分があった。

 あれ? 風斗さんってアイの前で一度でも名前言ったっけ?
 
 しかしその引っ掛かりは些細なもので、何より今はダンジョンを制圧している最中なのでそれに関係ないことは頭から弾き出してしまい、その疑問は口から出ることはなかった。
 
「んもう。分かってるって。今みたいにお互いに助け合って怪我なく制圧すればいいんでしょ?」

 アイは兄の説教に反発する妹のようにふてくされる。
 そんなことがありながらも僕達はこの部屋から出てボス部屋を探して進むのだった。

「ここ見覚えあるわね。ボス部屋の検討ついたかもしれないわ」

 廊下に出てきて辺りを見渡し、アイが自信ありげにする。ここは恐らくライブ会場が元となったダンジョンだ。彼女ならボス部屋の場所を予想できてもおかしくない。

「本当に分かるのか?」
「他のダンジョンの傾向から考えて、多分ライブステージじゃないかしら?」
「まぁ確かにそこくらいだな……よし。じゃあそこに向かおう」

 彼女の意見に風斗さんは特に何も言わず、僕も異論はなかった。餅は餅屋というようにこういう場合は詳しい人に従った方がいいと分かっていた。
 
「ここの構造が普通と同じだったらこっちにライブ会場があるはずよ」

 彼女に案内されるようにして進んでいき、大きい扉を開いた先にあった広い空間に入る。
 その黒い部屋にはパイプ椅子が規則正しく列になって置かれており、その先にある無駄に広いステージには一体の巨大なサタンがギターを弾いていた。
 その巨体と威圧感からそいつがここのボスなのだろうとすぐに分かった。
 先程のプラナリアとは違い、今度は僕でも奴が何のサタンなのかが分かった。
 透明な帽子を被り長い触手を持っている。海の生物でその特徴に合致する生物で真っ先に思い浮かんだのはクラゲだ。

「クラゲは触手に毒がある。お前らくれぐれも直接は触るなよ。そうだな……生人は後ろでサタンが来ないか見張りつつ奴の様子見を頼めるか?」

 風斗さんは目の前のサタンの元となった生物を元に作戦を立てる。
 触れるだけで危険というのなら僕は相性がすこぶる悪い。ここは武器を持っている二人に任せた方が良さそうだ。
 二人が警戒しながら奴のいるステージにゆっくり近づいていく。僕はそれを見ながらこっちも任された仕事をやろうと思い、邪魔が来ないか見張るため入ってきた扉の方に振り向く。

「なっ!?」

 振り向いた先の光景に僕は声を漏らしてしまう。数体のサタンが扉の向こうから顔を覗かせこちらの様子を伺っていたのだ。
 まるでタイミングを狙う肉食獣のように何かを待っているようだった。

「二人とも待っ……!!」

 僕が危機感に駆られ二人に呼びかけるも既に遅く、奴らが待っていたことが起こってしまう。

 突然二人と僕の間の床に横一文字の亀裂が入りそこから水が水圧カッターの如く飛び出す。
 二人はそれになんとか反応でき、咄嗟にステージの方に転がり対処する。しかしそれによって僕と二人は水によって隔たれてしまった。

「大丈夫か生人!」
「はい大丈夫です! でもちょっとまずい状況かもしれません!」

 水によって僕達が分断された途端扉の向こうからサタン達が何体も雪崩れ込んでくる。その数は中々で、僕一人で対処するのだとしたら骨が折れるだろう。
 僕達を隔てる水は勢いを衰えさせる気配は一切ない。このまま無理矢理突破しようとしたら体は真っ二つになってしまうだろう。つまり僕と二人は完全に分断されてしまったのだった。
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