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休暇一日目⑦宿屋の空いている部屋は
しおりを挟むミリアとも別れ、途中少しスピードを上げてブルーノを走らせた。西の辺境まであと街を二つの所で陽も傾き始めた為、二人は宿を探していた。
「空いてるかしらね?」
「空いてはいるだろうが、この街は商人や人の行き来の中継地点だからな。貴族が泊まるような宿屋ではない。だから、あまり期待はするなよ?」
「寝て起きたらまた出発よ?そんなにいい部屋は望んでないわ」
貴族らしくもあり、貴族らしくもない部分も持ち合わせている妻に、ウィルフレッドは心地の良さを感じていた。貴族らしい令嬢であれば、こういう状況を良しとしなかっただろう。しかし時には貴族らしい部分もあり、王族と渡り合うほどの度胸を持ち合わせている。礼節を弁えながらもしっかりと立ち回る。自分には出来すぎた妻で、理想の妻である。
「あんたたち夫婦か?悪いね。うちは商人達が泊まるのが主だから、二人部屋となると狭い寝台が二台ある部屋になってしまうんだ。若い夫婦には向かないんじゃないのかい?」
「・・・そうか」
「ご主人、それで構わないわ。明日の朝には出発するから寝泊まりできればいいの」
「でも・・・」
「なんだい、旦那の方が嫁さんにベッタリなんだな。部屋は空いてるよ。二階の一番奥だ」
宿屋の主人は恰幅がよく、ガハハと笑う気前のよい男だった。部屋の鍵を受け取る。
「主人、馬を一頭預けたい」
「馬かい?裏に厩舎があるから預かる事はできるぞ。それでどの馬・・・まさかあの白馬じゃないよな?」
「ん?あぁ、あの白馬で間違いないが?」
「って事は、あんたは騎士団長様かい!?す、すまねぇ、まさか騎士団長様とは知らず・・・だったとすれば公爵家の方じゃないか!」
「あぁ、気負わないでくれ。今は公爵家の人間としてではなく、妻を愛するただの一人の男としてここにいる。さっきと変わらずで構わない」
「・・・いやぁ・・・しかしなぁ・・・」
「ご主人、ウィルがそう言うのだから構わないわ。いつも通りでいてちょうだい?」
「は、はぁ・・・わかりやした!文句言いっこなしですぜ?」
「ふふっ、えぇ」
宿屋の裏にまわり、ブルーノを厩舎に預けると、二人は二階の一番奥の客室に向かった。客室は華美ではないが、よく手入れをされている部屋だった。
「疲れてないか?」
「意外と平気」
「先に湯あみしてくるか?」
「そうね。さすがに二人で入れそうにはないものね」
「全く残念だ」
その残念と言う気持ちは分かりやすく顔に出ていた。一緒に湯あみできないのも残念ではあるのだが、もっと残念な事が待っている。寝台が狭いのだ。二台ある。別々に寝なくてはいけないという事が、ウィルフレッドにとってはそれが一番残念だった。
「ウィル、そんな顔しないのよ?」
ウィルフレッドは、唇を尖らせて拗ねたような表情を見せていた。
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次回
重くないの?
全然
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