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休暇八日目⑦何の音?

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街はどこも賑わいを見せていた。馬車から降りてあちこち巡っていた二人。次第に陽が落ちて夕暮れ時を迎えた。


「シア、そろそろ屋敷に戻るか?」

「皆さんが心配するといけないわね」

「公爵領は王都から半日もあれば着くからな。いつでも来れる」

「そうね。またの楽しみに取っておくのもいいわ」

「あぁ」


二人は微笑み合うと馬車へと乗り込む。しばらく走らせると屋敷の前に着いたようだった。先に降りたウィルフレッドがレティシアの手をとってエスコートし、屋敷の中へと入っていく。だがその表情は険しい。レティシアの膝を取り合ったあの猫がまた纏わりつくのではないかと警戒しているのである。


「ウィル、どうしたの?」

「・・・アイツがまた来るんじゃないかと思ってな」

「アイツ?」

「猫だ」


レティシアはまだ気にしていたのかと苦笑する。ふと足元にするりと触れた感覚がし、見下ろすと、今話題にしていたばかりのアイツがいた。


「うん、いないようだな。一安心だ」

「そうでもなさそうだけど?」

「なんだって!?」


ウィルフレッドはキョロキョロして確認するが、見当たらない。ふと下を見るとレティシアの足元に擦り寄っている白いものが見えた。


「こ、こら!シアに触れるんじゃない!」


ウィルフレッドはそのままレティシアを横抱きにする。


「ウィル!?」

「部屋に戻ろう」


ウィルフレッドレティシアを抱えたことで流石に擦り寄ることも無くなったが、代わりにニャアニャアと鳴き始めてしまった。


「ウィル、大人げないわよ?」

「構わない」


ウィルフレッドは急いで部屋に戻る。すぐにメイドが食事の準備ができたと呼びにきた。


「全く、アイツは隙あらばという感じだな」


猫を警戒していたウィルフレッドだったが、食事中は意外と静かだった。しばらく警戒していたものの、鳴き声もせず次第にその存在を忘れていた。互いに湯あみを済ませ、部屋で寛ごうとした時だった。


カリカリカリカリ


「なんだ?」

「なにかしら?」


顔を見合わせる二人。音は外から聞こえるようだった。


「外からみたいだわ」

「俺が見てくる」


ウィルフレッドはレティシアをソファに残し、窓へと近づくと外を覗き込む。


「まだ諦めてなかったのか!?」

「どうしたの?」

「アイツだ」


外から猫が窓を爪でカリカリと引っ掻いていた音だった。ウィルフレッドは勢いよくカーテンを閉めると、ズンズンとレティシアの近くまで大股で歩いてきた。レティシアを抱きかかえると、寝台へと運ぶ。そのまま寝かせられ自身も横になった。ウィルフレッドはしっかりと抱きしめたまま何も言わない。外からはニャアニャアと鳴き声が聞こえてきていた。


「ウィル、さすがに可哀想じゃないかしら?」

「全然可哀想じゃない」


しばらく聞こえていた猫の鳴き声もしなくなった頃、ウィルフレッドの鼓動の音が子守唄になってしまったようで、レティシアは寝息を立て始めた。





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