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休暇八日目⑥譲れない場所
しおりを挟む「おい、猫、いい加減そこから降りろ」
至極当然のように、レティシアの膝を占拠し続ける白猫に睨みを効かすが、猫はどこ吹く風。ウィルフレッドはどうにかして愛しい妻を取り戻そうと必死だった。しばらくすると猫はストンと床に降りると、ぐっと身体を伸ばし欠伸をしてからスタスタと歩き出した。
「あら?行っちゃうの?」
膝の上の温もりがなくなった事に、少し物悲しさを感じていたレティシアだったが、間を空けずにすぐにまた膝に重みを感じる。
「次の猫さんは随分と甘えん坊さんね?」
レティシアの膝には紺色のサラサラとした毛並み、もとい髪が見える。猫がいなくなった事で今だとばかりにレティシアの前に跪くと、腰に手を回し、膝に頭を乗せて額を押し付けていた。
「やっと取り戻した・・・」
「別にとられてたわけじゃないでしょう?」
「いや、リードの子ども達はともかく、猫の方は絶対わかってた。あれは絶対わざとだ」
そして、途中、サロンに訪れた執事やメイド達がギョッとしたのは言うまでもない。
「シアの事だけは譲れない。膝に甘えるのも、抱き締めるのも、唇だって・・・誰にも譲れない」
ひとしきり甘えて、やっと落ち着いたウィルフレッドは、このまま屋敷にいてはまた邪魔が入ると、街に繰り出す事を思い立つ。
「シア、公爵領の街に行ってみないか?」
「そうね、通っては来たけど、ゆっくり見てみたいわね」
「そうと決まればすぐ行こう!」
ウィルフレッドは勢いよく立ち上がり、レティシアの手を引き歩き出した。
「タルク、馬車の用意を」
「かしこまりました、お出掛けですか?」
「あぁ、シアに街を見せたくてな」
「良い考えですね、若奥様も楽しまれてきてくださいね」
「えぇ、ありがとう」
二人で乗り込むと、馬車はゆっくりと進み出した。公爵領は王都と北の辺境の間にあり、王都にほど近い場所に位置している。王都並みに賑わいもあるが、自然も残す綺麗な街が見どころだ。馬車からの景色に見入っていたレティシア。
「そんなに珍しいものがあったか?」
「珍しいとは言わないけれど、とてもいい街だわ。自然と街並みが調和してる。とっても素敵ね」
「あぁ、俺もこの街は好きだ。いつかここにシアと来たいと思ってたんだ。叶ったな」
窓の外を眺めるウィルフレッドの瞳は穏やかに細められていた。
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